FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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勝利の余韻

ハルジオンの空が赤く染まる。まるで、勝ったものに見せる勝利の夕焼けと言わんばかりに、立派な緋色の空を見せつける。

第一に、ハルジオンには3人のスプリガン12(トゥエルブ)がいた。時を止める魔法を使い、時の神であるクロノスを接収(テイクオーバー)した戦乙女、ディマリア。

機械の体を持ち、相手の弱点に合わせて多種多様な攻撃方法を持つ錬金術を扱う一族、マキアスのエリートであるワール。

そして、対象の記憶の中から強き者の記憶を出してきて、それを復活させる魔法を持つナインハルト。

ハルジオンには、この3人のスプリガン12が存在していたが、それぞれが皆敗れていった。

ディマリアは、時の狭間に存在するウルティアの力を借りて、第三魔法源(サードオリジン)を解放したシェリアと、ウェンディとマルクによって敗北。

ワールは、機転によりエラーを起こし、そしてラクサスが起こした特殊な雷撃によって、バラバラに粉砕されてラクサスによって敗北。

ナインハルトは、カグラ、エルザ、ジェラールの3人と戦っていたが、エルザの記憶から、闇ギルド髑髏会の遊撃隊所属『三羽鴉』の1人である斑鳩と、悪魔の心臓(グリモアハート)の1人であるアズマ、そして冥府の門(タルタロス)の1人であるキョウカの3人を復活させていた。その3人は、エルザの気迫によって消されたが、3人との戦いで傷ついたジェラールが激昂、天体魔法である七星剣(グランシャリオ)を使用することで一撃でナインハルトを倒したのだった。

そして、この戦いでスプリガン12を3人倒したことで残るスプリガンは5人となっている。完全に破壊されたワールを除けば、未だ捕虜になっていたりするがそれでも倒したことに変わりはないのだ。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)メンバーである一同は、一旦ハルジオン攻略の本部に赴いて、休みを取っていた。傷だらけの体も、ウェンディが魔法で塞いでくれるので、どうにかこうにか治療が出来ている。

 

「う……」

 

「目が覚めたか。」

 

目が覚めたエルザの顔をのぞき込む様にカグラが顔を向けている。エルザは最も傷が深かったが、ウェンディのとおかげで傷は残らない迄には回復するとの事だ。

 

「傷が深かったので、完全に回復するまで時間がかかります。」

 

「大丈夫、キズは残らないから。」

 

「そういうお前らもボロボロじゃねーか。」

 

グレイが、ウェンディたちに向かって茶化すように言う。激戦を繰り広げたのはどこも同じであり、誰もが一緒なのだ。こうして安心して生きていることを、確かめあえるのはいい事である。

グレイが服を着ていれば、もっと良かったのだろうが。

 

「グレイ様、服は…!?」

 

「そういうジュビアさんも服着てください!マルクが居るんですから!!」

 

「移ってきてますよね、脱ぎ癖。グレイさんのそれって空気感染でもするんですか…?」

 

両手で目を完全に塞ぎながら、マルクはジュビアに注意を促す。グレイもジュビアも下着一丁の姿でいるのだ。マルクの目には、まだ移すのは早い代物である。

 

「みんな……た、戦いはどうなったのだ!!」

 

エルザが、戦いの行方を一同に尋ねる。それを聞かれたグレイは、ニッといい笑みを浮かべて、結果を報告していく。

 

「ハルジオン奪還は成功だ。港を取り戻したんだ。ジェラール達はまだ残存兵を追っているが、もう全滅まで時間の問題だろうな。」

 

「そうか……」

 

「俺達は一旦ギルドに戻る。」

 

「ギルドのみんなが心配ですし………」

 

「ここはマーメイドとラミアに任せな。」

 

人魚の踵(マーメイドヒール)の1人であるリズリーに言われて、動けるメンバーは1度ギルドに戻ることにした。余程のことがない限りは、大丈夫だろう。

 

「ならば私も……」

 

「お、お前はまだ休んでなきゃダメだ!!」

 

「そうは言ってられん……ラクサスはどうした?」

 

「あいつはバケモノ、2連戦でさすがにダウンしてる。」

 

「確か…スプリガン12の独りを倒したあとに、悪魔の心臓のマスターと戦ってたんですよね……しかも1人で。」

 

マルクはラクサスの戦いは全て1人で行われていたことに、ただただ驚いていた。

スプリガン12の後に、ギルドマスタークラスなのだ。当然、その疲労度も半端なものでは無いだろう。オマケに、ラクサスの体は魔障粒子で犯されている。それも踏まえると、凄まじいものだったに違いない。

 

「……そうだよな、考えたらとんでもねぇ無茶してたんだなこいつ。」

 

グレイがラクサスの顔を見ながら考え込む。どれだけ無茶を犯したのかは知らないが、今くらいはゆっくり寝かせてやろうという気遣いをしているのだ。

 

「……エルザ。その、なんというか……済まない…」

 

「何の話だ?」

 

カグラが顔を真っ赤にしながら、エルザに謝っていた。しかし、その顔が真っ赤になっているのが、恥ずかしさのそれであることは何となくエルザも察しがついていた。

他の者も、ただの謝罪のようなものだと思ってそのまま思い思いに話していた。

 

「っ!?……っ!!?!?」

 

突然、カグラはエルザの頬を両手で軽く挟み込んだ。その時点でエルザは軽く驚いていたが、そこから更に驚くべきことに……なんと、カグラはエルザに口付けをした。要するに、キスである。唇同士の、キスである。

 

「「「……!!」」」

 

「……これで許せ…」

 

「…………………………………………え?」

 

当の本人であるエルザは言わずもがなだが、その光景を見た一同もまとめて驚いていた。

未だにウェンディに目を抑えられているマルク以外は。

 

「カカカカカカカグラ!?」

 

「え!?カグラちゃんそっち!?」

 

「い、いや違うぞ!?今のはそういうあれでなくてだな!!その、なんというか……」

 

「え、何…?ウェンディ見えない、今何が起こったのか全くわからない……」

 

「マルクにはまだ早いよ!!」

 

1歳差とはいえ、一応はマルクの方が歳上なのだが、ウェンディは目の前の出来事に関して錯乱していた。

 

「か、カグラ…?い、今のは……」

 

真っ赤に赤面して、何故か泣きそうな顔になっているカグラだったが、エルザがさらにその上に行くほどの真っ赤な顔で、カグラに今の行動の意味を問いただしていた。

 

「そ、その……か、関節キスというか…同性だから、ノーカンだけど……間接キスならありかと……」

 

「待て待て待て待て……ちょ、ちょっと落ち着いてくれ。な、なんでこうなった?」

 

グレイが困惑しながらカグラに問う。一体何がどうなってそうなったのか。何もかもが理解不能である。

 

「……その、相手の攻撃でジェラールと一緒に海に落ちて…」

 

「……あの時?あの時に一体何が……」

 

「そ、その━━━」

 

つまりは、要約すればこうなる。ナインハルトの魔法により、蘇った死人達の攻撃を浴びて、1度カグラとジェラールは海底に沈められた時があったという。

その時、カグラはジェラールに庇われて無事だったのだが、当の本人であるジェラールは瓦礫の下敷きとなって意識を失っていた。カグラは1度見捨ててエルザの援護に向かおうと考えたが、その時に守ってくれたジェラールを助けて、一度陸に上げてから人口呼吸を行ったらしい。

今思えば、それがジェラールとのキスでは無いか?と意識し始めたカグラ。だが、エルザがジェラールを好いているのは分かっていたので、今のような行動に出たのだという。

 

「そ、そうか……そうだったのか……」

 

「カ、カグラちゃんって…すごくカッコイイけど…」

 

「うん、偶に抜けてるところあるわよね……」

 

「カグラの天然さ……舐めちゃあいけないねぇ……」

 

エルザが納得しながらも、何故そうなったのかはイマイチ理解できないままひとまず返事を返す。

同じ人魚の踵のメンバーは、カグラの意外な一面というかその天然さを目の当たりにしてどうしていいかわからないと言った感じだった。

 

「な、何かおかしかったか?」

 

「……多分、人口呼吸はキスのうちに入らないと思います……」

 

ウェンディが、惚けながら答えていた。因みにサラッと、目だけでなく耳までマルクは覆われていたので、本当に何の話だか全くわからないでいた。

一応塞がれていても聞こえることは聞こえるのだが、それでもやはりなんの話しか全くわからない。

 

「……あの、ウェンディ?なんでみんな慌てて……」

 

「……」

 

「ウェンディ?ウェンディ…?」

 

惚けているため、マルクの声はウェンディに届いていなかった。故に、目と耳の拘束が解けるのは、完全にこの話しが終わったあとのことであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一同はギルドに着くまでの帰路を辿っていた。だが、エルザがどうしても帰りたいと言うので、仕方なくグレイが背負って帰ることになった。立って歩くことすらままならないので、最前の処置である。

 

「まぁ大丈夫だとは思いますけど……今ここで敵に襲われたら厄介ですね。」

 

「真っ先に俺が狙われるだろうからなぁ……」

 

「グレイ様は私がお守りします!」

 

他愛もない話を警戒しながら進んでいく。街は静かなもので、破壊された後がこの街の痛みを訴えているような気がしていた。

 

「……ん?なんか眩しくなってきてません?」

 

ふと、マルクが呟いた。最初は気のせいかと思っていたが、それは間違いだと直後に思い知らされる。

 

「確かに……」

 

「おい、空が……!」

 

「光……!?」

 

段々と光は強くなっていく。まるで、影すらも残さないかと言わんばかりの光が、フィオーレ全体を包み込むかのように。

 

「おい、なんかヤバいぞ!!」

 

「くそっ!!皆さん早く俺の近くに!!」

 

マルクが念の為自分の魔力を使ってバリアを形成する。ないよりはマシ程度の代物なので、仮にこの明るさの正体がフィオーレ全体を吹き飛ばす爆発魔法ならば、全く無意味な行動になってしまうだろう。

それでも、やるしかないのだ。

 

「くそ、眩し━━━」

 

そして、その台詞の後にあまりの眩しさに全員目を瞑ってしまうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん…?ど、どこだここ……」

 

マルクは見覚えのない砂漠に来ていた。だが、今の魔法により飛ばされたのだとしたら、どうにもおかしな点だけが残ってしまう。

 

「マルク!大丈夫!?」

 

「ウェンディ……シャルル……グレイさん達は?」

 

「わかんない……匂いも近くにないからはぐれちゃったのかも。」

 

「俺の魔法で防げなかった……?という事は、ワープ系の魔法じゃないってことか…?」

 

砂漠に飛ばされているのに、転移が関与しない魔法となると本当に変な話になってしまう。

マルクはこの魔法がどんな魔法なのか検討も付かなかった。

 

「ただ、おかしな点ならもうひとつあるわよ。」

 

「なんだよシャルル。」

 

「あんたの足元、見て見なさい。」

 

「足元…?」

 

マルクはシャルルに促されて、足元を見る。よく見れば、足元はハルジオンの通路と同じ石レンガで作られていた。それも、綺麗に円形になっており、まるでこの部分だけがくり抜かれたかのような状態になっていて、マルクはこの地面が自分達と一緒に飛ばされてきたと考えていた。

 

「……の割には、グレイさん達がいない。」

 

「多分、魔法自体の効果はちゃんと防げてたのね。けど、適当なところに飛ばされるのは……」

 

「魔法の直接的な効果じゃなくて、間接的に起こることって話か……」

 

グレイ達ともはぐれて途方に暮れるマルク達。だが、ここで立ち止まっていても何も進まないので、ひとまず歩くことにしたのであった。


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