「うっ……」
「マルク!?目が覚めた!?」
「ウェンディ…シャルル……シェリア………」
目が覚めたマルク。目の前には、泣きそうになっているウェンディ達の姿があった。
そして、自分が泣かせたのだということに気がついた。そのことで申し訳ない気持ちになるが、自分の体が上手く動かないことに直後に気がついた。
「……なんか、体動かない…」
「当たり前よ…あんたさっきまで血が凄い出てたんだから……少なくとも、アンタの体は今まともに動ける状態じゃないわ……」
「でも、まさかいきなり開いた傷があんな一気に塞がるなんて……」
シェリアは驚きと嬉しさで苦笑を浮かべていた。ウェンディもシャルルも涙を流しながら喜んでいたが、ただ1人マルクだけが真剣な顔になっていた。
自分の体が異常なことになっているというのが、理解出来たからだ。
「……あくまでも、効きづらいだけだからな。きっとウェンディの力で治ったんだろうな。」
だが、マルクはその異常を語ることは無い。自分の体が、完全に人間を止めてしまう…前のような中途半端ではなく、完全な異形として成り立つということを、今は語らない。
「そう、なのかな…」
「いいじゃない、治ったんだから。」
「……そうだ!ハルジオンは!?」
「…ラクサスさんが、もう1人のスプリガン12《トゥエルブ》を倒したみたい。」
シェリアが戦況を説明する。その言葉でラクサスが無事でいることに、マルクは少しほっとしていた。
ディマリアを倒した一同、そのことを踏まえて考えると残りのスプリガン12は8人ということになる。
「……まだ、頑張らないと……」
「マルクはもう少し休憩していないとダメだよ。まだ体も十分に動かないでしょ?」
「…いや、もうそろそろ動ける。頭がまだぼやっとするけど……大丈夫、動ける。」
マルクはゆっくりと起き上がる。立つことはまだ難しいのか、上半身だけ起こしていた。
未だぼーっとしているマルクだったが、しかしいつまでも休んでいられないのも事実である。
「……?なんか、変な感じが…」
「へ…?」
マルクは妙な魔力を感じていた。この辺りに、新しいかつ強大な魔力を感じていたのだが……それらの中にいくつか感じたことのある魔力があった。
そして、その魔力は自分達にも━━━
「っ!!魔龍の咆哮!!」
マルクは咄嗟にブレスを放つ。そのブレスをかわす、1つの影があった。その姿をマルクはうろ覚えでしか覚えていなかったが、ウェンディの方は見覚えがあった。
「え……!?」
「何これ…!?」
「また会ったなぁ…チビィ……!」
「ウェンディ!シェリアとシャルル連れてここから離れろ!!今すぐにだ!!」
マルクはそう叫んで、ふらつきながらウェンディ達の前に出る。今のウェンディは魔力の消耗が激しい。同時に、体も傷を負っているので今はシェリア達を守らせるようにするのがいいと感じたのだ。
「で、でも……」
「いいから早く!!今、この辺には死者が甦ってんだ!!下手したらシェリア達が巻き込まれる!
お前が守ってやってくれ!!」
「う、うん!!避難させたら直ぐに向かうよ!!」
ウェンディはマルクの意思を読み取ったのか、そのままシェリア達を連れて離れていく。マルクは、可能な限り魔力を放出させながら目の前の敵に立ち向かう。
「思い出した…お前、
「よく覚えてんじゃねぇか……俺ァてめぇに食われて死んだんだよ!!」
マルクは舌打ちをする。先程言った『死者が甦っている』というのは、真実である。
今マルクは知った魔力の気配を3つほど感知していた。
1つは、目の前の悪魔……エゼル。2つ目は、
それぞれ離れた場所にいるが、突然死者達が甦ってきていたのだ。確定でわかったのはその3人だけで、他も知った魔力をいくつか感知していた。
「アルバレスの仕業か……だが、死者を甦えらせる魔法だろうがなんだろうが……俺には、魔法は通じない!!」
「はん!そんなフラフラで何ができんだ!!」
「お前を、倒す事だ…!」
死者を甦らせる魔法ならば、場合によっては体内の魔力を取り除けば活動は簡単に停止する。
忽然と現れたようなものなので、恐らく魔力の塊の存在なのでは?とマルクは予想していたが……
「はぁ、はぁ……シェリア、ごめん私……」
ウェンディは、シェリアとシャルルと一緒に逃げていた。正確に言えば、マルクに頼まれてシェリアを安全な場所に避難させていた。
しかし、ウェンディは今直ぐにでもマルクのところに向かいたかったのだ。
「いいよ、ウェンディは私よりも守らなきゃ行けない人がいるんだから。
それに、シャルルが揃ってようやく3人でしょ?」
「シェリア……」
「気にしないで……私が魔法を使えなくなったのは、貴方のせいじゃない。
ウェンディ、私を守ることよりも…もっと大事なことがある、でしょ?」
ウェンディは申し訳なさそうに顔を俯かせていた。それは、今からでもマルクの無事を確認しに行きたいこと、そして手助けをしに行きたいことの二つがあるからだ。
「行って?私は、大丈夫だから。」
シェリアは、抱き抱えていたシャルルをウェンディの頭の上に乗せる。そして、優しい瞳でウェンディの顔を覗き込んでいた。
「友達なら、信用して?」
「……うん!」
ウェンディはシェリアに抱きついて、涙を流す。シェリアは苦笑しながら、ウェンディを送り出す。
ふと、少しだけあれだけ思われているマルクが羨ましく思えてきてしまうのであった。
「ちっ……どうなってやがる…」
「ハハハッ!てめぇ弱くなってんじゃねぇのか!?」
その頃、マルクは傷だらけで膝をついていた。まず第1に、魔力を吸収すれば活動が停止するかと思われていたが、そのようなことは無く、どれだけマルクの魔力をぶつけても一切活動を停止する素振りはなかった。
そして、先程まで倒れていたせいで体が上手く動かないのも理由だった。相手の攻撃自体はある程度は防げているので、深い傷自体はそこまでなかった。
「まぁいい……てめぇを殺せればそれだけで満足だァ!!」
「殺されて、たまるか…!」
振り下ろしてきた両腕に対して、マルクは蹴りを無理矢理入れて弾く。だが、相手の方が強かったのかマルクが吹き飛ばされるような形で距離をとっている結果になってしまった。
「はぁ、はぁ……」
マルクの心臓が、一際大きく鳴る。恐怖か、それとも高揚か。今マルクの頭には相手を倒すこと以外が思いつけないでいた。
どす黒い感情がマルクを支配していく。相手を殺し、その血肉を喰らい、糧とする。
悪魔としての性が、マルクをつき動かし始めていく。
「━━━」
「その目だ…その目が気に食わねぇ…!俺を倒す気で嫌がるその目がァ!!」
エゼルは、そんなマルクに激昂していた。食われたことを記憶しているのが、マルクにはよく分からないが……少なくとも、倒すべき相手だということには変わりはない。
ただ、殺していく……そこまでの発想になった瞬間、マルクの後ろから声が聞こえてくる。
「マルク!!」
「っ!!う、ウェンディ…?」
「てめぇもだチビィ!!てめぇも気に食わねぇ!殺す殺す殺す!!」
「マルク!私達はいつでも一緒だよ!」
その言葉に、マルクの心が冷静になっていく。冷たく、ドス黒かった感情が晴れていくかのような……そんな感覚をマルクは覚えていた。
シャルルに飛ぶのを手伝ってもらい、ウェンディは飛びながら近づいていた。
「私達は、私達はいつまでも一緒にいるんだ!私にも、マルクにもその力があるんだ!」
「ウェンディ……」
「だから……!
「っ!!」
その言葉に、マルクは泣きそうになっていた。だが、泣いてはいられない。ウェンディに笑みを向けて、そしてマルクはウェンディとシャルルと共に目の前の敵を倒すことに決めたのだ。
「よし……行くぞウェンディ!」
「うん!!」
ウェンディはドラゴンフォースを発動させる。そして、同じようにマルクも魔力を放ち出す。
背中に、守りたい人がいるのであれば……誰もが強くなれる。悪魔の力を使わずとも強くなれる……そう信じて、彼らはエゼルに向かってそれぞれ魔法を放つ。
「天竜の砕牙!!」
「魔龍の鉄拳!!」
「があああぁ!?この、クソチビ共がァ!!」
ダメージを負ったのか、エゼルは更にブチ切れてマルク達に襲いかかろうとするが、突っ込んでくるエゼルをかわして、追撃を入れるかのようにマルクとウェンディはそれぞれエゼルの両脇に即座に陣取る。
「お前は、既に負けてんだ…ウェンディに……!だから、もう眠れ…!」
「「滅竜奥義!!」」
マルクは飛び上がって、エゼルの真上に飛ぶ。エゼルはそれに視線を誘導されて、ウェンディの滅竜奥義に一瞬気が遅れてしまった。
しかし、一瞬とはいえ既に時既に遅しというもので、エゼルの周りは既に風で囲まれていた。
「照破・天空穿!!」
「ぐがっ……!?」
ウェンディの風の力により、エゼルは空高く打ち上げられる。そして、そこにはマルクがいた。
「
マルクはウェンディの風の力でさらに回転を加えられて、いつもよりも激しい回転蹴りをエゼルに浴びせる。それは、ある意味で2人の合体技に近しいものと言えるだろう。
「終わりだ……!」
「が、は……!」
エゼルは断末魔を残すことも無く、そのまま体を消していった。着地したマルクは、着地後すぐにウェンディに抱きしめられていた。
「よかった…無事でよかった……!」
「……ごめんな、心配かけて。ちょっと傷があるだけだから、あんまり気にすんな。」
「うん、うん……!」
死者を復活させる魔法、とはまた別の魔法。肉体に魔力を付与させて操っている訳でもない、かと言って魔力で構成された訳でもない。
あれは、どう足掻いても生きている頃の本人なのだ。だが、何故そんなものが出てきたのかがよくわからない。
「……まだ、警戒しておかないとな。」
ウェンディを抱きしめて、マルクは海の方向を睨みつける。恐らくやったのはアルバレス。だが、どういう魔法かわからない以上……ただただ戦っていくしかないというのが現状である。
「……マルク、一旦戻ろう?みんなボロボロだし……」
「そうだな……ウェンディも俺も…みんなボロボロだ。傷を直して、ゆっくり体力を回復させないとな。」
敵は、恐らく瓦解して行くだろう。幹部級であるスプリガン12を2人も倒しているのだ。上がいる組織は、基本上がやられてしまえば砂の城のような脆さも同然となる。
「そうだね……戻ろう。」
2人は手を繋いで戻り始める。シャルルは疲れたのか、ウェンディの頭の上でぐっすりと眠っているが、2人はそんなシャルルを見ながら残党に気を使いつつ一旦戻っていくのであった。