「ぐっ……!押しきれない……!」
「悪魔の力を持ってしても…神に勝てるわけがない。勝てるとすれば、それは……」
「ハッ!ENDってか……!そんな強い悪魔なら、アクノロギアを倒して欲しいもんだ!!」
ディマリアとマルクの戦いは続いていた。だが、マルクの体もそろそろ時間が近づいてきていた。
元々、ほぼ無理矢理に魂と呪力を肉体から乖離させたのだ。持てばいい方だったが、しかし今はまだ切れていいときではない。
「無理矢理にでも、持たせる……!」
マルクの呪力の揺らぎが、大きくなる。この時の狭間から押し出されようとしているのを、必死に耐えている。
「無駄だ、神には勝てない。」
「だから、どうしたってんだ……!?勝てないのは神だ、けどお前は人間じゃねぇか…!」
「ふん、神と同化したこの私に━━━」
「同化した?けど、それでもお前は人間だ…神のフリをした人間如きが…神の真似事をしてる人間如きが……本物の悪魔に勝てると思うなよ。」
マルクは、ディマリアを見た。睨むのではなく、大きく目を開けて…ただただ『見た』。
「っ!?」
だが、その行為にディマリアは怯えた。たった一瞬、カエルが蛇に見られた時のように、一瞬たじろいで動けなくなってしまった。
「わ、私が…恐怖した…?」
「さてと……無理矢理持たせても勝てる気はしねぇよ。俺一人じゃ、悔しいけど勝てるとは思えない。
「はああああ!!」
マルクの後ろから、ウェンディが割り込んでくる。そして、ディマリアの顔面に蹴りを叩き込もうとするが、腕で防がれてしまう。
「そうか、ウェンディが…」
飛び込んできたのがウェンディだった為、マルクはウェンディが第三魔法源を解放したと思っていた。
だが、魔力の感じ方がどうにもおかしかった。解放したら絶対に勝てる…とまではウルティアは言ってなかったが、しかし今のウェンディから感じられる魔力は、先ほどと大して大差ないのだ。
「━━━時が、その体に刻まれた痛みを思い出す。『アージュ・スクラッチ』」
「ああああああ!?」
「ウェンディ!?」
マルクは駆け寄る。蹴りを入れたウェンディが、突如として叫び声を上げ始めたのだ。
だが、ウェンディはそのままディマリアに殴り掛かる……だが。
「まだ分からぬか、人が神に触れるという愚行の行く先が。」
「あああああ!!」
「くそっ!!」
マルクは、ウェンディを突き飛ばして無理やり離させる。その直後に、ディマリアがレーザーを放つ。
「ぐっ!!」
しかし魔力の体のおかげか、マルクに大したダメージは入っていなかった。
だが、上の方がダメージが大きかったのか、全く動けなくなっていた。
「……終わりだ。」
ディマリアは、ウェンディに指を向ける。レーザーを放つ動作だったが、そこにマルクが入り込む。
「ならば、その魔力の体諸共……」
「……二人とも、ありがとう。」
「……シェリア?」
レーザーの照準を向けながら、ディマリアは突如マルクの後に割り込んできた人物に目を向ける。
ウェンディとマルクも、視線を向ける。そこに居たのは……シェリアだった。
「後は任せて。絶対に勝つから。」
「間に、合った…!」
「え…?」
「ごめんね、あたしに秘術をかけるまでの時間稼ぎにしちゃって。」
「ウルティアさん!?」
ボロボロと体が崩れていっているウルティア。彼女自身も、時間が無いようだったが、ウェンディはそれでも聞いた。その答えを確かめるために。
「シェリアの覚悟も本物だった…」
「まさか……そんな…!」
「あたしのラストステージ、最高の気分だよ。親友たちのために戦えるなんて!!」
そう叫びながら、シェリアはディマリアを殴る。すると、ダメージが通っているのか、ディマリアは仰け反っていた。
「…ウェンディを守るために、シェリアが第三魔法源を……!」
「シェリア、シェリアぁ……!」
ウェンディは泣いていた。マルクは悔しそうに下唇を噛んでいたが、すぐさま立ち上がってシェリアに加勢をする。
体は存分に動く、ならばその体を使ってシェリアの援護をするだけだ。
「……シェリア!どこでもいい、魔力込めてぶん殴り続けろ!!」
「……わかった!!」
マルクが叫んだ通り、シェリアは殴り続けた。一瞬、たった一瞬だが……シェリアには、ディマリアの体に黒い竜の様な紋章が浮かんでいるように見えた。
「人間が神に抗うなど!!」
「貴方はきっと悪い神様!!いい神様ならもっと人を愛せると思う!
あたしの魔法はね!悪い神様を倒す魔法なの!!」
「滅神魔法!?ハッタリじゃなかったの!?」
その驚きと共に、今まで変化していたディマリアの顔が元に戻る。ゴッドソウルが解けかかっている証拠である。
「ゴッドソウルが解けかかってる!」
「な、なんで……」
「神を殺す魔法と、魔を食らう悪魔の力を受けてんだ……!ちょっとずつだったけど……削れてきてるな!!」
「がはっ……!?神のこの私に、ダメージ…!?」
マルクの拳が、ディマリアの腹にクリティカルで入る。今まで受けてなかったダメージが急に入るようになったのが、ディマリアには理解不能だった。
「そのまま神殺しの力で、倒されろ!!」
「おのれええええ!!」
ディマリアは最後の足掻きで、シェリアに攻撃を仕掛ける。だが、それが届く前にマルクが攻撃を完全に弾き飛ばした。
「何っ……!?」
「攻撃力…最大強化…!」
そして、ウェンディがシェリアのサポートをする。
「まだだ!まだ私は止まら、なっ……!?」
「いいや、お前は止まる。そして、止められなくなる。」
ディマリアのゴッドソウルが直前で完全に解ける。そして、時が動き出すと同時にマルクは自分の肉体へと戻る。
「なっ!?と、時が動き出した……!?」
「俺の呪力は元々、色んなものを食う悪食な悪魔のものだ……そんなものを体に受け続けたら、魔法なんて解けるに決まってんだろうが。
ま、あんたの魔力がデカすぎるせいで……時間がかかりすぎたけどな。」
「ありがとう…マルク…!」
ディマリアの体から、竜が飛び立つ。黒い竜はディマリアの魔力を根こそぎ持っていき、シェリアに取り付いてその全ての魔力を与える。
「シェリア…私はずっと、ずっと友達だから…!」
「……わかってる。」
シェリアは、懇親の魔力を体に溜め込んで……それを一気に放つ。正真正銘、神を滅する最後の奥義。
「天ノ叢雲!!」
「あああああ!!」
ディマリアは、シェリアの魔法によって一気に吹き飛ぶ。そして、そのまま意識を失って倒れてしまう。
「シェリアー!!」
シェリアは、少しふらついたあとに地面にへたり込む。完全に魔力を失って、ただの少女に戻ったのだ。
「あれ…?何で倒れてるの?えっと、何があったの……?」
そして、時が動き出したと同時にシャルルも動き始める。しかし、当たり前だがまったく何が起こったのか理解していなかった。
「ウェンディ…?どうして泣いてるの……?」
「だって…シェリアが…!私達が助けに来たはずなのになんで……!」
「ウェンディ、泣かないで…魔法がなくても生きていけるんだよ。愛は魔法より強いんだよ。」
「…うん……!」
ウェンディはボロボロと泣いているが、シェリアはそんなウェンディに微笑みかけていた。
魔法を失ったことを、彼女は後悔していなかった。
「…ウェンディ……」
マルクは、そんなウェンディに声をかけられなかった。だが、手を肩において、慰めようとはしていた。
「大丈夫…ありがとう、マルク…」
涙を拭いて、ウェンディは立ち上がる……が少しふらついていた。戦況は、ディマリアが倒されたことで恐らくこちらが有利になっていくだろう。
その前に、ここから一時的に避難をしなければならない。
「ひとまず…一旦街に行こう。どこかもの陰に隠れて…やり、過ごして……」
言葉を言い終える前に、マルクの体は吸い寄せられるように地面に倒れた。
「……マルク?」
マルクはピクリとも動かない。代わりに、体から数々の傷が浮き出るように現れていき、そしてその傷から大量の血が流れ出始める。
「なっ!?」
「なんで、なんで!?」
「……まさか、受けたダメージが体にフィードバックされてる……?!」
シェリアの言ったことに、ウェンディは心臓が止まる思いだった。確かに、全くと言っていいほどダメージを受けていなかったが、そういうことなのだろうか。
「マルク、マルク……!」
治癒魔法をかけるが、彼の肉体は一向に治る気配を見せずただ血を流し続けるだけだった。
あまりの出来事に、ウェンディの頭はパンク寸前になっていた。このままいけばものの数分でマルクは失血死してしまうだろう。
シャルルが担いで、後ろからウェンディが回復魔法をかけながら一同は街に戻っていくのであった。
「駄目だな、あの戦い方は。」
ひたすら真っ暗な闇の中、しかし自分の体と喋りかけてくる相手の体だけはハッキリとこの目で見ることが出来る不思議な空間。
マルクの心の中で、再び対話が行われようとしていた。
「……何がダメなんだ。」
「お前が、魂と肉体を離別したことだ。いかなる魔法にも適応できるあの鎧にも、本来の使い方とは別の使い方をされれば今のような不具合が起こる。」
「は?だったらどうしたら良かったんだよ。」
「止まった時の中を、動かないでおくことだ。お前が無理を行ったせいで、肉体に負荷がかかっている。」
目の前のグラトニーもどきが言った言葉に、マルクは頭を抱えながらも理解を示した。
本来、あの鎧は予め纏っておくことで力を発揮できる。しかし、マルクがやったのは魂を呪力で囲っておくことだった。
「ダメージのフィードバックか……」
「無論、それもあるが……それだけじゃない。魂を悪魔の力で囲ってしまったせいで、お前はもどきとはいえ一時的に完璧な悪魔になっていた。」
「……それに、肉体がついてきていない?」
「Exactly…正解だ。これからお前は、悪魔との境界線が曖昧になる速度が段々早まっていくだろう。
この戦争がいつ終わるのかはわからないが…終わる頃を覚悟しておくことだな。」
「…それまでは持つのか?」
「それは、人間としての肉体が、という意味か?それともマルク・スーリアという名前の『何か』の肉体が、という意味か?」
「それは……」
「どちらにしても、お前の体はいつまでも持つさ。それ以前に、寿命が伸びてしまうかもしれないな。」
そう言ってグラトニーは姿を消す。今のマルクは、ディマリアとの戦いと無理矢理悪魔化した事へのデメリットのふたつが一気に体にフィードバックされている状態だという。
確かに、段々と体が冷たくなっていくような感覚になっているが、これが悪魔化なのだろうか。それとも、単に死ぬ直前なのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えながら、マルクは目を閉じる。体は冷たくなっていくが、思考は逆にクリアになっていく。死ぬ直前なのだったら、恐らく眠たくなる感覚があるはずだ…とせいぜい読んだ子供用の本の知識を思い出しながら、マルクはその空間を後にするのだった。