「見えたぞ!ハルジオンだ!!」
エルザ、グレイ、ジュビア、ラクサス、ウェンディ、シャルル、マルクの7人は、アルバレス帝国に奪われたハルジオン港を取り戻すために向かっていた。
そして、1日ほどの時間をかけてようやくハルジオンに到着していた。
「俺ァ行かせてもらうぜ…!」
「ラクサスさん!?」
「ジュビア、俺達も行くぞ!!」
「はい!!」
ラクサスは雷となって、高速でどこかへと向かっていく。恐らく、早速フリード達を倒した敵を見つけたのだろう。
それが火付け役にでもなったのか、グレイとジュビアも前線に加わるために向かい始める。
「まったく……だが、ゆっくりしている暇がないのも事実だ。ウェンディ、マルク、シャルル……必ず勝つぞ。」
「「はい!」」
「分かってるわよ!!」
エルザはマルク達と別れて別々の場所へと向かう。エルザはカグラの元に、マルク達はシェリアの元に。
「シェリアの匂いはこっち!!」
「向こうにバカでかい魔力がある……シェリアと戦ってんのはそいつ、多分スプリガン
「急がないと!!」
3人はシェリアの元に急ぎ走っていく。途中で現れる兵士達をなぎ倒していきながら。
しばらく走っていくと、シェリアの姿が見える……が、どうにも様子がおかしい。
今、マルクの目にはシェリアが上半身に何も着ていないように見えているのだ。
「ま、マルク!目を瞑って!!」
「お、あう!!」
「ちょっと!?見なければいいだけじゃないの!?」
変な声を出しながら、マルクはぎゅっと目を瞑る。魔力探知だけで、どうにか動くこと自体は可能なので、ひとまずこれでどうにかする。
「シェリア!!」
ウェンディは一気にドラゴンフォースを使い、シェリアと対峙している敵に向けて飛び込んでいく。
そして、その敵の頬を蹴っていた。
「ウェンディ!」
「俺もいるぞ!!」
「ま、マルク!?」
マルクは一気に近づいて、追撃でウェンディが蹴った頬とは反対の頬を殴っていた。
特に魔力を込めた一撃だったので、並の魔導士なら魔力の大半が持っていかれていることだろう。
「お待たせシェリア!天空シスターズ再結成だよ!」
「というか……なんて格好してんのよ、あんた。ハイ…これウェンディのだけど。」
「ありがとうシャルル……あれ、きっつ…」
ウェンディの上着を裸のシェリアに着せるシャルル。きつい、という単語で少しウェンディがムクれていたが、その空気はすぐさま破られる。
「おチビちゃん達、ここがどこか知ってる?ここは戦場…子供の遊び場じゃないの。」
「気をつけて…あいつ、どんな魔法を使ってるかわからない。」
「うん……平和な街、ハルジオンをそう変えたのは貴方達です。私達は絶対に街を取り戻してみせる。」
「私、子供にも容赦しないから。本当なら一瞬で殺せる……そう、本当に一瞬よ。」
「来るわよ!!」
「━━━貴方達にとってはね。」
歯をカチカチと鳴らす女性…否、女剣士ディマリアと呼ばれるその敵。その歯を鳴らす行為に気づいているのは、彼女一人しかいない。
その瞬間、全てが止まる。敵も、味方も…ただ一人の例外を除いて全て止まる。ディマリアという例外を除いて、全てが止まる。
「今…世界には私一人。私だけの世界。誰もが1度は願ったことはあるでしょ?もしも時間をとめられたら…って。
時を封じる魔法、アージュ・シール。わかる?絶対に負けない最強の魔法……」
そう独り言を呟きながら、ディマリアはウェンディに近づいて、その頬を掴む。遊んでいるのだ、文字通り。
「だってこの世界じゃあなた達何も出来ないのよ?」
そう言いながら、ディマリアはウェンディの服を掴んで引っ張る。これが、シェリアの服が破れていた理由だった。
「この子の服もビリビリにしてやろうかしら?いや…それはもういい━━━」
服から手を離すディマリアだったが、その直後にディマリアの腕が誰かによって掴まれる。
その事が、彼女にとってはありえない事態なのですぐさま掴んだ方に視線を向ける。
「……なるほど、時を止める魔法か。そりゃあ確かに強いな。本当なら……誰にも勝てないだろうな。」
「……なんだ、お前…!」
「………」
目の前には、異形が1人立っていた。パッと見ただけでは、ただの黒い甲冑をまとった騎士だが、その体がモヤのように歪んでいる以上、まともな人間ではないとディマリアは確信していた。
「このちびっこ達は、全員揃っている!!だから、お前はなんだと聞いている!!」
「全員揃っている…か。まぁ、こんなことが怒るのはありえないし…困惑するのも無理はないかもな。」
黒騎士の言動が、ディマリアには理解不能だった。だが、敵であることには変わりはない。
「まぁ、いい…!それならこのままその子達と一緒に殺すだけ━━━」
「……モード悪魔龍、『
「何をごちゃごちゃと!!」
モード悪魔龍。その言葉をディマリアが理解することは無いが、それだけでこの黒騎士の正体がわかる。
マルクである。この力、傲慢の力によってマルクの魂が呪力と共に体から抜け出たのだ。時を止められる、ということを味わうのは2度目……
「時を止める魔法は、俺には通用しない。いや……今のこの姿の俺には、どんな魔法であっても、この呪力で作られた鎧が適応する。」
「つまり、ただの攻撃で斬り裂けばいいということ!!」
「そういうこった!!」
ディマリアが剣を振るい、マルクが拳を振るう。二人の攻防は続いていく。だが、ある程度殴りあったところで…ディマリアが不敵に笑みを浮かべる。
「はぁ、はぁ……まさかこんなに強いなんてね……」
「……仮にも悪魔だからな。一応だけど……降伏してくれるなら、これ以上あんたは傷つけない。」
「降伏…?この私が……?あはははっ!そんなことするわけないじゃない…見せてあげるわ、時を操れる…この私の12としての力を。」
「何…?」
マルクがその言葉に疑問を持ったと同時に、ディマリアが今までに見せたことの無いような魔力を見せる。その片鱗とも言える魔力の塊を、ディマリアはマルクに向けて放つ。
「くっ!?」
だが、その魔力の塊をマルクは避けなかった。何故ならば、後ろに未だに時が止まったウェンディ達がいたからだ。
「ガァっ!!」
「━━━
「神をその身に宿してる、か…!こんな予想当てたくなかったぞほんと…!!」
「畏み申せ、我が名はクロノス…時の神なり。」
マルクは傷こそ負っていないが、舌打ちをしていた。仮に本当に神を接収したとするならば、ドラゴン以上の強敵である。
ドラゴンを倒せる力を持つのが
果たして、自分の力で倒すことは出来るのか……と考え始めていた。
「シェリアがいてくれたなら……!」
マルクが今悪魔の力を行使できているのは、ディマリアが時を止めてくれているおかげで、肉体と魂が乖離しているからである。
唯一倒せる手段があるとするならば、この悪魔の力だが…いざ肉体に魂を戻せば、魔力がある状態になってしまうので、悪魔の力を上手く行使出来ない可能性がある。
「ひれ伏せ…!」
「……いや、やるしかねぇ!!」
マルクが無理矢理魔力と呪力を行使しようとしたその瞬間、ありえないことが起こった。
「
「
「ウェンディ!?シェリア!?」
「何っ!?」
突然、マルクの後ろからシェリアとウェンディが、ディマリアに蹴りを入れる。その蹴りは不意打ちだったのか、ディマリアの顔面にクリーンヒットしていた。
「どうやら間に合ったようね……時に歪みが生じている。ここは時空の狭間の世界…この世界に居るのはあなた一人?いいえ、ここは私の世界でもあるわ……」
マルクたちの横入りをするように、1人の人物が現れる。その人物は、誰もが知っている━━━
「ここは時の牢獄、
「ウルティアさん……!?」
「…お前が、私の時を動かしたのか?」
「いいえ、時は封じられたままよ。」
接収により、表情が少し見づらいものとなっているが、ディマリアは拳を握っており、どこか悔しそうな感情を表しているように思えた。
「私は時の狭間の住人…つまりこの封じられた時の中にしか存在しない。
あなたが時を止めたことによって、本来……自然な時の中でしか存在しない私が、ここにいるの。」
ゆっくりと歩きながらウルティアは3人に近づいていく。その行動に、ディマリアは拳を握りしめていた。
「私の世界を、汚すというの……!」
「…時を止めて、服を破く。悪趣味極まりないな。」
「時が止まってる間…頑張ってくれてたんだよね、マルク。」
「……頑張れてないさ、倒せてないんだから。」
マルクは顔を背ける。結局、ウェンディ達の力を借りないと倒せないと思ったからだ。
「倒せてないのは当たり前よ…あれは神そのもの、本来の実力なら貴方達は到底勝てないような強さと魔力を持ってる。」
「『本来の実力』……って言いましたね。じゃあ、何かあるんですか。実力以上の力が出せて、かつあいつを倒す手段が。」
「…あるわ、けどマルクには使えない。ウェンディかシェリア…どちらか一方よ。」
「そうです、か!!」
マルクはその言葉を聞いて、ディマリアに飛び込んでいた。自分にはかけられないと知って、諦めた訳では無い。
今からでも遅くないと、ディマリアを倒すために動き始める。
「……ウルティアさん、その方法って何ですか。」
「……未来の力よ。」
「未来?」
「そう、あなた達が今後手にする可能性の力…その全てを今使うの。そこまでしなきゃあいつには勝てない。」
ウルティアは手に持っている水晶を掲げて、そこから見通すようにウェンディとシェリアを見る。
「ただし、この秘術を使えば…貴方達は二度と魔法が使えなくなる。体内からエーテルナノが完全に消えて、二度と生成されない。
それが
「そんなの!しなくていいです!!ウェンディもシェリアも、まだ可能性を残しとかないとダメなんだ!!
ここで、力を使い切るなんてそんな……!」
「余所見とは余裕だな。」
「余裕だからな!!」
マルクとディマリアは殴り合いを続けていた。ウルティアの力で、マルクの体は動かせない。
彼の体に魔法が効きづらいからだ。そして、秘術に関しても例外はない。
いくら魔法に適応して、無効化する呪法だとしても…ダメージが通らなければ意味が無い。
「ぐっ……!この気迫…!」
「てめぇのゴッドソウルとやらも、このまま使い切らせてやる!ウェンディとシェリアには、無理をさせる訳にはいかないんだ!!」
「……って、彼は言ってるけど…貴方達はどうする?」
ウルティアは、ウェンディとシェリアに再度視線を向けてこう尋ねる。それは、自分の全ての魔導士としての可能性を捨てて、普通の子供に戻るということ。
その選択に、彼女達は━━━