FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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イシュガルVSアタラキシア

「一陣はなんとか守りきった…しかし、四方から責められている状況は、何一つ変わらん。」

 

アタラキシア…アルバレス帝国が行っているイシュガルへの侵攻の第1陣を凌いだ妖精の尻尾(フェアリーテイル)。しかし、それはまだ第1陣に過ぎず東西南北の四方から攻められている状況は何一つ変わってはいない。

 

「まさか……フリードさん達がやられていたなんて。」

 

「ギリギリ聞けた一夜の話から考えるに、人形があいつらと戦っていたらしいな。

つまり、本体は未だ出ていないってことになる。」

 

「昨日の砲撃……」

 

「……だとしたら、俺ァそいつを狙うだけだ。」

 

静かに、しかし確実にラクサスは怒りの炎を燃やしていた。フリード達を倒した敵、ワールと呼ばれていたその人物を倒す為に。

 

「……1人は倒し、もう1人は牢の中。残り10人…」

 

「っ!東の情報が入ってきた!ボスコ国のギルドはほぼ全滅…ただ、目的はボスコ制圧なのかこちらへの進軍は止まっている。」

 

ウォーレンが、東西南北の戦況を知らせ始める。だが、一国のギルドがほぼ全滅という言葉に、全員が驚くほかなかった。

しかし、一々これで一喜一憂していられないのが現実である。ウォーレンは冷静に、情報を伝えていく。

 

「朗報もあるぞ。北から攻めてきている軍に対して、剣咬の虎(セイバートゥース)青い天馬(ブルーペガサス)が向かってる!

南の軍は、ハルジオン港を制圧。人魚の踵(マーメイドヒール)蛇姫の鱗(ラミアスケイル)が解放に向かった。」

 

「初代…加勢に行かせてくれよ!」

 

「そうだ!他のギルドに守ってもらってばっかりじゃ格好が付かねぇ!!」

 

「今こそ攻撃に転じるときだ!!」

 

「勿論です!」

 

ロメオが言った言葉に、ジェットとドロイが便乗する。しかし、初めからメイビスはそのつもりだったのかすぐさま作戦を展開し始める。

 

「北へ向かうのはミラジェーン、エルフマン、リサーナ、ガジル、レビィ、リリー。

南へ向かうのはナツ、グレイ、ジュビア、ウェンディ、シャルル、ラクサス、マルク。」

 

と、北と南への加勢メンバーを伝えたところで一同はとあることに気づく。ナツがいないのだ。

 

「あれ?ナツはどうした?」

 

「そういえばどこに行ったのでしょう……」

 

「つーかこんな時にナツはまた勝手なことをしているのか!?」

 

「探せーっ!!」

 

「ナツー!どこだー!!」

 

ギルド内が一気に騒がしくなってくる。しかし、どうやらギルド内にナツがいないことだけは判明していた。

 

「ナツならきっと大丈夫だ、代わりに私が南に行こう……カグラにも会いたいし。」

 

「そんな怪我で……」

 

「…ルーシィとカナは捕虜の見張りを継続。」

 

「は、はい。」

 

「オヤジ共には任せておけねーからな。」

 

「他の者はギルドの防衛です!また敵が奇襲してくる可能性があります。」

 

メイビスは伝令を伝え終える。しかし、残った東西のふたつはどうするのかを今と聞かされていなかった。

 

「初代…西と東の対処はどうしますかな?」

 

「西は進軍速度が最も遅く、恐らくゼレフ本体だと思われます。三方の決着がついたあと、残存勢力で迎え撃つ形になるでしょう。」

 

「本体を、残存勢力で……」

 

「じゃあ東は!?俺に行かせてくれうぉ!?」

 

焦るロメオの頭に、マルクが手を置く。落ち着かせるためのものだったが、そのままついつい撫でてしまっていた。

 

「や、止めてくれよマルク兄……」

 

「焦んな、初代の説明が終わってからだ。」

 

「現時点では東が1番の脅威です。ですから、こちらも1番の兵力を投入せねばなりません。」

 

「どういうことですか!?」

 

「ウォーレン、連絡はいってますね?」

 

「勿論!こりゃフィオーレ最強の戦力だぜ!!」

 

ウォーレンの持つモニターに、4人の姿が映し出される。その4人とは……イシュガルの四天王と呼ばれた3人と、ジュラの聖十大魔道の4人だった。

 

「イシュガルの四天王!?」

 

「すげぇ!!」

 

「けどなんで…!?」

 

「ずっと水面下で戦争回避のために動いていたんだけど、今回の件があって責任を感じて……彼らのせいじゃないのに。」

 

「あの3人が突破されるような事があれば……東を抑えられる魔導士は一人もいない。」

 

ウォーレンの出しているモニターに、突如大きな反応が出てきていた。それな、ナツ本人の魔力を検知したものだったが、超スピードでどこかに向かっていた。

 

「あいつ、どこへ……」

 

「まさか……!」

 

向かっている方向は西、そして西の方にはゼレフがいる。このたった2つの情報が、一同にナツが向かっている場所と今から行うことの答えを示してくれていた。

 

「ゼレフのいる所!?」

 

「ナツの奴1人でゼレフの所に突っ込んでいったのか?!」

 

「無謀すぎるだろ!!」

 

ギルド内は騒然としていた。当たり前である、1人でゼレフと戦うというのは、あまりにも無謀な作戦だからだ。

 

「あの野郎……!」

 

「作戦変更だ!追うぞ!!」

 

「待て。」

 

追いかけそうなラクサスとグレイを、エルザが手で静止する。その行動にグレイは少し納得がいっていないようだった。

 

「私達は初代の作戦通りに動くんだ。ゼレフはナツに任せよう。」

 

「本気で言ってんのか!?相手は、あのゼレフだぞ!!ENDの書も持ってんだ!!」

 

「ナツはゼレフを倒すための秘策があると言っていた。きっとやってくれるさ。」

 

「っ……お前は、いつもナツを信じすぎなんだよ……エルザ。」

 

グレイがエルザを睨みつける。嫌な空気がギルドに流れていく。険悪な、そんな空気が流れてくる。

 

「……お前はナツを信じてないのか?」

 

「ちょっと2人ともやめてよ!!」

 

ルーシィがグレイとエルザの間に入って、2人をなだめていた。だが、あまり空気は変わらない。

 

「初代…どうしましょう。」

 

「……ナツに掛けましょう。一見無謀な策のように見えますが、理にかなった策でもあります。

四方から包囲されているこの状況…打開するには大将を討ち、戦いを早期決着させるのは上策と言えます。

グレイ……ナツを信じましょう。」

 

「俺は別に信じてねぇわけじゃねぇ……1人じゃ心配だって言ってんだよ。」

 

「グレイ様がナツさんの心配をするなんて……」

 

「サラッと酷いこと言いますね、ジュビアさん。」

 

グレイが少し照れながら言ったが、事実心配なのは皆も同じだろう。初代のおかげか、嫌な空気は少しだけ解消されていた。

 

「一人じゃないわ……ハッピーがいる、でしょ?」

 

人型になっているシャルルが、グレイを安心させるためにその言葉を紡ぐ。

そして、一同はナツのことを信頼してそれぞれが指定された場所に行くのであった。

 

「では行くか、ハルジオンに。」

 

「個別の馬は……使えませんね、全員の分までありませんし。」

 

「当然だ、それに馬は目立つからな……ある程度、目立たない動きが必要だろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一同が出発して、ある程度時間が経った事である。ハルジオンまでまっすぐ向かうために、魔力を温存しながらも何とか順調に目的地まで進めていた。

 

「……」

 

「マルク?どうしたの?」

 

「いや、ハルジオンが封鎖された話……カグラさんがいて、まだ解放できてないとは思えないけど……」

 

「敵は大量だ、いくらカグラと言えども物量は骨が折れるものがあるのだろう。」

 

ふと呟いたマルクの言葉がきっかけで、ハルジオンの話が始まる。街の話…ではあるが、どのような敵がいるかどのように街を解放するか……といった話だが。

 

「……スプリガン12(トゥエルブ)、どうやって戦って勝つか考えておかないと。」

 

マルクは自分の手を動かして、戦える状態を整える。悪魔龍の力を使えば、それなりに渡り合えるだろう。

 

「……ねぇ、マルク。大丈夫なんだよね?」

 

「どうしたウェンディ?俺は別に怪我とかはしてないし……大丈夫、って話しならエルザさんの方が━━━」

 

「そうじゃないの。マルクは、大丈夫じゃないのに大丈夫って……言っちゃうから、心配なの。」

 

「……それ言われると、大丈夫って言いづらい。」

 

「ごめんなさい……」

 

ウェンディが、少し落ち込む。怒っている訳では無いのだが、どうにも凹ませてしまったようで、マルクはどうしたものかと頭をかいて悩んでいた。

 

「……大丈夫だ、本当にな。怪我したら…まぁウェンディの治癒は俺に届きづらいから、包帯とか巻くだけになっちゃうかもだけど。」

 

「……私が心配してるのは、マルクの力だよ。本当に使いこなせてるの?本当に……体に不調はないの?」

 

「……『大丈夫』、不調なんて何もないよ。」

 

「……なら、いいんだけど……完全に操作できたから、大丈夫って…体が痛くなくなったって言ってたから……」

 

マルクは本当にどうしたものかと頭を悩ませる。戦争という異常な状況で、心のどこかにあった小さな不安が噴出してしまったのだろう。

勿論、大丈夫だと強く言えるわけじゃない。デメリットのない力というのは、この世のどこにも存在しない。無論、使いこなせているからと言ってそのデメリットがなくなることも無い。

だが、嘘も方便というように嘘をつかなければならない時もある。

 

「体が痛くないのは本当だ。一時は、体が悪魔みたいになってたろ?あんなんも今起こってないし……うん、大丈夫大丈夫。」

 

痛みも、目に見える体の変化も完全に収まった。恐らく本当に体は大丈夫なのだろう。

自身の魔力を使い切ったとき限定で使えば、ほぼデメリットはないだろう。少なくとも、今のところは。

 

「……分かった、信用する。」

 

「ん、ありがとう。」

 

マルクはウェンディの頭を撫でて、笑顔を向ける。ウェンディはそれで少し不安が晴れたのか、苦笑は向けてくれていた。

 

「二人とも、少し足を早めるぞ。夜までにはハルジオン近くの森に着いておきたいからな。」

 

「「はい!!」」

 

エルザが2人にそう伝えて、2人は元気よく返事を返す。そうして、一同は足を早めていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日にはハルジオンに着く、今日はゆっくり休んでおくんだ。」

 

「はい。」

 

「エルザさん、1番休まないといけないのはあなたですよ。」

 

「看病するのウェンディなんだから。」

 

夜、森に到着した一同は疲れを癒すために休憩を取る。1度休んで、朝になってから再びハルジオンに向けて歩き出すためだ。

 

「そう言えばラクサスさんは?」

 

「なんか腹減ったーって飛び出して行ったわよ。」

 

「熊でも捕まえて食ってそうだな。」

 

「美味いのか。」

 

「エルザさん、ヨダレ出てますよヨダレ。」

 

ラクサスの話題。本人がどこかに行ったために起きていたが、マルクはラクサスが何しに一同の元から一旦離れたのかは、おおよそ見当がついていた。

その為に、一同が寝てから向かおうとしていたが……

 

「グレイさん?」

 

「……んだよ、マルクか。お前もラクサスのところ行くのか?」

 

「……はい。多分、魔障粒子の影響で…」

 

グレイとマルクはラクサスを探しながら、会話を続けていく。1年前、冥府の門(タルタロス)との戦いが起こったきっかけとも言える事件。

その事件で、ラクサスは魔導士の体には猛毒でしかない魔障粒子を大量に吸い込んでいた。

マルクも一応吸い込んではいたが……悪魔の力を得たことで体への影響は少なくなっていた。

そして、2人は岩場で滝のような汗を流しているラクサスを見つけた。

 

「……いつからだ、ラクサス。」

 

「っ!なんだ、グレイとマルクか……お前らには関係ねえ。」

 

「関係ねえ事あるかよ。同じギルドの仲間だろ。」

 

「それに、あの事件には俺も関与してますよ。」

 

ラクサスは反論できずに口を閉ざす。それは、2人の言い分を認めたということにほかならない。

 

「1年前の魔障粒子を大量に吸い込んだ時の影響ですよね。」

 

「……言うんじゃねぇぞ。」

 

「そんなコエー顔で睨むなよ。」

 

「……問題ねぇ、たまに発作が出るだけだ。なんの心配もいらねぇ……戦いが終わるまでは、死んだって守ってみせるぜ。ギルドをな。」

 

ラクサスは、発作を押しこめる。体の中はおそらくズタズタになっているだろう。魔障粒子とは、そういうものなのだ。

 

「……そして、服を着ろ。」

 

「うぉ!?いつの間に!?」

 

「ほんと脱ぎ癖凄いですね……」

 

一同は、こうしてそのまま夜を越していく。明日の決戦に備えるために、戦いに、勝つために。


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