襲来アルバレス
ほとんどのギルドメンバーがそれぞれの時間を過ごしている中、1部のメンバーはギルドに残って敵に対して警戒を続けていた。
「ウォーレン、索敵状況は。」
「未だフィオーレに敵影なし。」
「それ……本当に信用出来んのか?」
「俺が作った超高性能レーダーだぞ!!」
ウォーレンの作った索敵機を使って、敵が今やってきてもわかるようにしているのだ。予定を進めることも、十分に有り得るのだから。
「そう言えば、マルクお前……ウェンディと一緒に居なくてよかったのかよ。」
「ウェンディは、エルザさんと一緒にいることにしたそうです。多分、誰もが誰かと一緒にいると思うんですけど……エルザさんには、ウェンディが着いていたいと思ったんじゃないですかね……」
「へ、ガキの癖に達観してるな。」
「それほどでも。」
マルクとマカオが談話している中、マカロフは真剣な顔でいた。やはり、緊張するものは緊張するようだった。
「北部、南部…あるいは西部。どこから上陸してくるのか分かれば、策を練りやすい。」
「北部を陽動に使い、南部に主力を置くのが一般的ですね。」
「初代…!」
「決戦前の皆さんを見てきました。みんな、この状況に不安を感じてません、とてもたくましい仲間達です。」
メイビスが、マカロフの後ろから現れる。霊体の体の利点を使って、全員の様子を見てきていたらしい。
「初代にはそう映りましたかな……わしには皆不安を押し殺しているように見える。
友と寄り添うことで、不安を和らげ自分を鼓舞しているように見える。」
マカロフの考えに、メイビスは少し驚いていた。そしてそれは、ギルドに残ったほかのメンバー達も同様だった。
「だが…それが悪いわけじゃない。親がビビれば、子もビビるのは当然…親なら自らガキどもの前に立ち、震える足を地につけてやるのもまた務め。」
「…はい!」
マカロフのその言葉に、メイビスは心がどこか励まされたような気持ちになる。
だが、その励まされた気持ちも……一瞬で変わった。何かが吹き抜けたのだ。自然に起こるような風ではない、何か異質な風がフィオーレに吹き荒れていた。
「この感じ……!」
「そんな……」
「ウォーレン!魔導レーダーはどうなっておる!!」
「俺のせいかよ!知らねぇよこんなの!!」
突如、ウォーレンのレーダーに大量の敵影を確認する。それを知らせるかのように、アラームがひっきりなしに鳴り止まなくなってくる。
「なんで接近に気が付かなかったんだクソ!!」
「総員戦闘準備!!敵は上空!空駆ける大型巡洋艦約50隻!!」
マルク達は、ギルドの窓から船を確認する。それはとてつもなく大きく、アルバレスが帝国と言われるのが、わかりやすいくらいものだった。
「なんだよあの数!!」
「1隻だけでギルドと戦える大きさだぞ!!」
「あれはまだ、帝国の1部でしかない……!」
「鐘を鳴らしてください!敵襲!西方上空に巡洋艦約50!!」
メイビスが即座に指令を出す。ほぼその直後に、アルバレスの軍隊から一斉射撃が行われて、フィオーレの街が狙われる……が、それはバリアによって守られる。
「早速攻撃してくるなんて……フリードさんの術式、あらかじめ仕込んでおいて正解でしたね。」
「初代!いくらフリードでもあの物量で押されたら持ちませんぞ!!」
マカロフは焦った声を出すが、メイビスは落ち着いている様子だった。マルクはその様子を見て、まだ彼女にとっては予想外ではない事態であることを、理解した。
「西の空から来るなんて予想外だ!」
「どうすんだよ!!」
「いえ…ここまでは想定の範囲内です。それよりも、先行部隊だと思われますが、予想より小規模の攻撃なのは嬉しい誤算。」
「え?」
「は?」
マカオとワカバが素っ頓狂な声を上げるが、メイビスはそのままウォーレンの念話を使って指令を出す。
「ウォーレン!全員に念話!作戦をDに!!飛竜隊、ミサゴ隊攻撃開始!!
マルク、貴方も出てください!!」
「「了解!!」」
ウォーレンは念話を使い指令を出し、マルクはアルバレスの船まで馬を使って走っていく。
「……くそっ!さっさと魔力を使い切れば悪魔龍モードで空飛べんのに!」
『我慢してくれよ!流石に魔力使い切ってまでやりきれる相手でもねぇぞ!!』
ウォーレンから釘を刺されている事を思い出したマルク。飛竜隊……ナツ、ウェンディ、ガジルの3人組だが、彼らには相棒のエクシードがいる為簡単に空を飛べるのだ。
「まぁ、そこはしょうがないか……行くしか!!」
「オラァ!!」
マルクは馬から飛び出して、敵に1人突っ込んでいた。だが、大軍の中に1人突っ込んだおかげか、敵の大半がマルクに攻撃を当てられずに結果的に同士討ちを招き始める結果になっていた。
「クソっ!このガキすばしっこいぞ!!」
「あぁクソ!味方に魔法が当たる!近接戦闘でふぅ!!」
「その前に殴り飛ばす!こっちは魔法を遠慮なく使いたいんだ!!」
ブレスや拳でひたすら敵を吹き飛ばしていくマルク。その最中に、3つの影が大群に迫っていた。
「オラァ!!」
「あれ?!ナツさん!?というかガジルさんにウェンディまでなんでこんな所に!?上空の船を相手してませんでしたっけ!?」
「船の上じゃあ戦えねぇ!!」
「乗らなければいいのでは!?」
地上に降りてきた飛竜隊が、アルバレスの降りてきた大群を1人で相手していた。
3人とも、どうやら相手の船の上に直接乗ったらしく、船酔いのせいで降りてきたようだ。
「あれ、なら上は誰が相手を!?」
「エルザだ!!」
「なるほど!!」
それだけの相槌を打った後に、マルク達は敵をひたすらに倒していく。どうやら、これでもまだ1部隊の1つらしく、それでもゆうに1000人は越えそうなこの数に、一同は魔力を温存して戦わざるを得なかった。
「我らアジィール隊にたった数人で挑むとはな!!舐められたものだ!!」
「アジィール……あぁ、あの時の砂野郎か!!」
名前を言われて思い出したマルク。どうやら、エルザが相手しているのはスプリガン
「雑魚はひれふせぇ!!」
「なら同じ言葉を返してやるよ!!」
マルクは雑魚を吹き飛ばしながら、上空を見る。敵は、今までの強さも数自体もデタラメな程に違う。
勝てない、とは口には絶対に出す気は無いが……それでもこの多さには不安を感じざるを得なかった。
「……どうするべきかな全く…」
「ナツ達にしては結構手間取ったね。」
「仕方ねぇだろ!本気じゃ無かったんだ!!」
「俺なんか百分の一の力で戦ってたしな!!」
「だったら俺は十分の一だ!」
「俺より必死じゃねーか!!」
何とか、その場にいた敵を全員倒すことが出来た一同。しかし、力をセーブしていた都合上、やはり手間取ってしまうものだった。
しかも、敵は未だ9割以上も残っているおまけ付きである。
「まだ降りてくるぞ。」
「キリがないわね…」
「敵の強さも物量も…今までとは全て桁違い。」
「ほんと、嫌になってくる。」
空に浮かぶ船を見上げて、一同は少し憂鬱な気持ちになってくる。文字通りの戦争に、嫌な気持ちがしないわけないのだ。
「その通ーり!!がはははははは!!お前らはアルバレス帝国どころか、アジィール隊にすら勝てんぞぉ!!」
ナツの後ろから、巨躯の男が襲いかかる。その拳は、ナツの頭に直撃してしまっていた。
「ナツさん!!」
「━━━そうか?」
「あ?」
しかし、その一撃はナツには全く通じておらず、逆にそのままナツの反撃を受ける羽目になってしまっていた。
「ごぼぉ!?」
肘で鳩尾を殴られ、そのまま間髪入れずにナツの本気の拳で男は天高く打ち上げられる。
それはもう高く高く……
「あ、船まで飛んでったみたいですよ。」
「いや狙った。」
「あそこがエルザさんのいる船ですか?」
「多分。」
飛んでいった男を眺めながら、マルクとナツは短い会話を終える。その後に、マルクは倒れている男達に視線を移す。
その視線に気づいたのか、肩を一瞬だけ震わせていた者達が何人かいたが、別にやられたフリであっても既に戦う気が失せている相手に対してどうこうする気はなかった。
「さて、エルザは後どれくれーで敵を倒すかな。」
「どうせすぐに倒してくれるでしょう。なんせエルザさんですし。」
「だな。」
「……あれ?なんか風が……」
エルザのことを信頼しきっていた一同だったが、ふとウェンディが何かを感じ取る。空気や風のことに関しては、ウェンディの方が気づきやすいので、すぐに一同は周りを警戒し始める。
だが、直後に起こったことは一同の予想をはるかに上回るものだった。突如として、砂嵐が起き始めたのだ。
「なんだ!?急に砂嵐が……!」
「あの魔導士の砂でしょうか?!」
「前が見えない!!」
「まずいぞ!!敵はまだ来る!!」
「ネコ共は下がってろ!!竜の鼻を頼りに敵を探して潰す!!」
範囲は、ナツたちの周り……ではなく、もっと広い範囲で行われていた。だが、敵の方は慣れているのかほぼ問題なく進むことが出来ていた。
「この広さ……街一帯が囲まれています!!」
「んな広い範囲だと!?」
「急がないと……!」
砂の中から迫り来る敵をなぎ倒していきながら、一同は敵を倒していく。マルクは、適当に魔法を使って砂嵐を消そうかとも考えたが、焼け石に水なのはわかりきっている話である。
「クソが!!おい
「こんな所で魔力消費してられっか!!」
「チィっ!!」
ガジルは、ダメもとでナツに頼んでみるが、やはり駄目なようで舌打ちをしていた。
「ウェンディ!シャルル!俺から離れんなよ!!」
「大丈夫!私も戦える!!」
「そうじゃなくてだな!!」
「ウェンディ!ここではぐれたら
ウェンディ、シャルル、マルクは互いに背中合わせになりながら敵を警戒している。
マルクは、それに加えて上にも警戒を広げていた。エルザのことは信用しているが、おそらくこの視界の悪さはエルザも同じだろう。
幾らエルザと言えども、この視界の悪さでは戦えない……とマルクは心配をしていたのだ。
「……あれ?マルク?」
「ハッピー!?なんで俺の頭の上乗ってんの!?」
「いや…エルザみたいに、直感を頼りに来たらナツのところにたどり着けるかなぁって。」
「いや、幾らエルザさんでも直感だけで戦えるとは……」
マルクは確かにエルザの事を並外れているレベルで強いと感じているが、直感…第六感だけで戦える人はいないとも考えているのだ。当然である、ナツやガジルですら鼻や耳を頼りにして戦っているのだから。
「ううん、エルザならできるんだよ。
「ん?冥府の門がどうしたのか?」
一年ほど前に戦った悪魔のギルド、冥府の門。なぜ急にその単語が出てきたのかマルクには分からなかった。
「あ、そうか。マルクは知らなかったよね。」
「……何が?」
「1回、エルザ悪魔と戦った時に視界も聴覚も味覚も…痛覚以外全部消されたけど勝てたんだよ。」
「……」
マルクは、内心で考えていたことを全撤回した。この視界の悪さだけで、どうやらエルザは倒せないということに。
そして、同時にその強さはアルバレスのスプリガン12よりも遥かに強いということに確信を持たせたのであった。