FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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ギルダーツの帰還

妖精の尻尾(フェアリーテイル)に3年ぶりに帰ってくる男ギルダーツ。彼は上級も上級、100年クエストという100年間誰もクリアしたことが無いクエストを受けていたのだ。

そして、今この時にギルダーツが帰ってくる……それを知らせたのはマグノリアの鐘の音。つまり、ギルドのメンバーだけでなくマグノリアに住む者達もまたそれを知った、ということである。

 

『マグノリアをギルダーツシフトへ変えます。町民の皆さん!速やかに所定の位置へ!繰り返します━━━』

 

「100年クエスト……100年間、誰も達成出来なかったクエスト、ですか……」

 

「それにしても騒ぎすぎじゃないかしら。」

 

「マグノリアのギルダーツシフトって何〜?」

 

「外に出て見ればわかるわよ。」

 

ギルドだけでなく、街全体が騒がしくなり始める。明らかに人一人に対する態度ではないのは、見て明らかである。

しかし何故そこまでの反応を示すのか気になったルーシィとウェンディとマルク。

ミラジェーンに言われるがままに妖精の尻尾の扉を開けて、マグノリアの様子を観察し始める。

 

「う、うそ!?」

 

「こ、ここまでしますか……」

 

街は様変わりしていく。周りの家は全て地面ごと隆起し、そしてマグノリアから妖精の尻尾の1本道が凹んだかのようになる。ギルダーツ一人の為に、マグノリアにある建造物全てが妖精の尻尾までの道を避け、結果として小さな渓谷のようになっていた。

 

「街が、割れたー!!」

 

「ギルダーツは触れたものを粉々にする魔法を持ってるんだけど……ボーッとしてると民家を突き破って歩いてきちゃうの。」

 

「どんだけ馬鹿なの!?その為に街を改造したってこと……?」

 

「凄いねシャルル!」

 

「えぇ……凄いバカ。」

 

「シャルルと同意見だ……流石に今回は。」

 

そして、鉄が擦れるような音を鳴らしながら、妖精の尻尾の扉を開けて一人の男が入ってくる。

その男こそまさにギルダーツ・クライヴ本人である。

 

「ギルダーツ!オレと勝負しろォォォ!!」

 

「いきなりそれかよ。」

 

「おかえりなさい。」

 

「この人が、ギルダーツ……」

 

「む……お嬢さん、たしかこの辺に妖精の尻尾ってギルドがあったはずなんだが……」

 

この言葉で、マルクは先程シャルルが言った『凄いバカ』というのを実感してしまっていた。外観に思いっきりマークが描いてあるにも関わらず、まったく気づいていなかったからだ。

そして、先程ミラジェーンが言ったボーッとしてると民家を突き破って歩いてくる、という情報のこともあり、ギルダーツはマルクの中では『最強だけどどこか抜けている人』という結論に至ったのであった。

 

「ここよ、それに私ミラジェーン。」

 

「ミラ?…………変わったなぁお前!つーかギルド新しくなったのかよー!!」

 

「外観じゃ気づかないんだ……」

 

ミラジェーンに言われようやく気がついたのか、ミラジェーンの肩に手を置いて変わった事やらなんやらを色々喜んでいた。

 

「ギルダーツ!!」

 

「おおっ!ナツか!久しぶりだなぁ……」

 

「俺と勝負しろって言ってんだろぉー!!」

 

と言いながらギルダーツに殴りかかるナツ。しかし、そのままナツはギルダーツにいなされ、そして投げ飛ばされて天井にそのままの勢いで突っ込んで、めり込んでいた。

 

「また今度な。」

 

「や、やっぱ……超強ぇや……」

 

「いやぁ、見ねぇ顔もいるし……ほんとに変わったなぁ……」

 

ギルドが新しくなったのはギルダーツが留守の間である。そして新メンバーも、殆どがギルダーツがいない間に入ったものだ。

昔の姿と今現在の姿を見比べて、ギルダーツは感慨に耽っていた。

 

「ギルダーツ。」

 

「おぉマスター!久しぶりーっ!!」

 

「仕事の方は?」

 

「がっはっはっはっ!!」

 

ギルダーツが帰ってきたこと、つまりそれは100年クエストが何らかの形で終わったことを示す。

当然、ギルドのメンバー達はギルダーツがクエストクリアしてきたことを信じていた。だが━━━

 

「だめだ。俺じゃ無理だわ。」

 

「何っ!?」

 

「嘘だろ!?」

 

「あのギルダーツが、クエスト失敗!?」

 

「妖精の尻尾最強の魔導士でも……クリア出来ない、クエストがあるんですね……」

 

全員が驚いていた。ギルダーツにクリア出来ないクエストがあった事に。いや、それが100年クエストの難易度の高さを改めて思い知ることになる。

 

「そうか……主でも無理か。」

 

「すまねぇ、名を汚しちまったな。」

 

「いや……無事に帰ってきただけでも良いわ。わしが知る限りこのクエストから帰ってきたのは主が初めてじゃ。」

 

「俺は休みてぇから帰るわ。ひー、疲れた疲れた……ナツゥ、後で俺ん家来い。土産だぞーっ!がははっ!

んじゃ失礼。」

 

そう言ってギルダーツは入ってきた扉とは別の場所……壁にぶつかり、壁を破壊しながら外へと出ていったのであった。

 

「ギルダーツ!扉から出ていけよ!!」

 

その様子を見ていたマルク達は唖然としていた。彼らにとっては、色々とギルダーツという男に関しての情報量が多すぎたのだ。

 

「……あんた、アレ吸収出来るの?魔龍の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)さん。」

 

「……いやぁ、魔法の魔力を食うからな俺は……魔法を食うのはその名残ってだけで……そもそも触れただけで粉々にする魔法なんて、吸収しようと思った直後にバラバラにされてる気がする……」

 

「同感ね、恐ろしく強いじゃないあの男。伊達に最強を名乗ってるわけじゃないのね。」

 

「……そういやぁよぅ……ずっと気になってたことがあるんだがいいか?」

 

話していた二人にかけられる声。その声の方向を見ると、グレイが何か言いたそうにマルク達に近寄ってきていた。

 

「グレイさん……とりあえず服を着てください。

で、気になってた事ってなんですか。」

 

マルクに注意されてグレイは服を着てから、再度マルクに質問をする。

 

「お前は自分のことを魔法を食べる竜つったな。どーにもいまいちピンとこねぇんだが……どういう事だ?」

 

「そのままの意味ですよ。魔法をぶつけられたら、俺はその魔法の魔力を食って自分の魔力に出来る……って事です。」

 

「うーん……けどさっき、ギルダーツ見て食える食えないの話してなかったか?ありゃあいったいどういう事だ。」

 

「あー……説明長くなりますけど、聞きます?」

 

マルクの言葉に対してグレイは無言で頷く。グレイがどうしても話を聞きたいということを理解したマルクは、そのまま説明を始める。

 

「俺が魔法を食うためには、色々と制限があるんですよ。

単純に、種類によって食えない魔法とかありますし。例えば、空間に関係する魔法だったり……エルザさんの騎士(ザ・ナイト)とかルーシィさんの星霊魔法とか……後はエルフマンさん達の吸収(テイクオーバー)とかその典型です。ていうか食えって言われてもどこ食えばいいんですかあれ。」

 

「まぁエルザは兎も角ルーシィとかだと酷くグロテスクな絵面になっちまいそうだな……んで?まだ制限とやらはあるのか?」

 

「後は……魔法使用者との距離がとても近いものとか、そういうのは食えませんね。」

 

「ん?どういう事だ?」

 

「えーっと……例えば、ナツさんの火竜の鉄拳とか……まぁ要するに魔法使った時に本人の近くにあるものは食べられない、ですね。」

 

「……ってーと━━━」

 

グレイは腕に軽く氷を纏わせてマルクにそれを見せつけるようにする。確認をするために、である。

 

「こういう感じに手足に纏うやつは無理ってことか。」

 

「そういう事ですね。

あと俺は魔力を食ってるだけなので……魔法を使うことで発生、もしくは副次的に起きた事までは食えませんよ。」

 

「……えらく複雑だなほんと。で、それはどういう事だ?」

 

「簡単な話です。炎は熱いし氷は冷たい、鉄は硬いし毒は……そもそも体内に取り込むことすら危険、ってだけです。

ナツさんとかは炎や鉄っていう属性の、熱いとか硬いとかの特性をガン無視してそれを食って魔力を回復させます。俺はその特性を無視できません。」

 

「……てことはあれか。例えば、ナツの魔法をお前が取り込もうとしたら無茶苦茶熱い思いするって訳か。」

 

「まぁ大まかにいうとそんな感じです。あとはせいぜい食いすぎると吐きそうになります。正直滅茶苦茶キツいです、ガッツリ吐き気に襲われますし。」

 

「お、おう……で、だ。お前ある程度の魔法無効化できるんだっけか?ニルヴァーナの時もさらっと言ってたしよ。」

 

吐き気の話題を出されて少し引いたグレイだったが、話を変えるように今度はマルクの体質についての話にしようとする。

 

「あぁ、はいそうですよ。て言っても……本当に弱い相手じゃないと防げませんけどね。しかも、炎を飛ばすとか……そういう形のないものを飛ばす魔法とかじゃないと無効化できませんよ。

氷とか岩とか……とりあえず質量のある奴を飛ばされたら、魔力は吸収出来ても勢いは収まらずにそのまま直撃しますけどね。」

 

「あー、つまりあれか。今俺が氷の塊作ってお前の方に投げても、氷だけは残ってお前にダメージを与えられると。」

 

「そういう事です。炎だったら熱い……みたいなのもありますけどね。一番楽なのは水ですよ水。濡れるだけですから。」

 

「……ん?でもよォ、ウェンディが言うにはお前魔水晶(ラクリマ)食えるらしいじゃねぇか。口の中血だらけになるだろ、水晶だぞ水晶。」

 

「いやぁ……ラクリマの場合、純粋な魔力の塊が入っているせいなのかがっつりいけるんですよね。鉄を食べれるガジルさん程じゃないにせよ、俺も口の中は常人よりも丈夫って事なんじゃないですかね。 」

 

グレイに指摘されて苦笑いをするマルク。グレイも溜息をつきながら頭を掻いた。

 

「ま、大体どういうモンなのかは分かったぜ。要するに滅竜魔導士は大体化け物なんだな、口の中が。」

 

「ウェンディは分からないですけどね。食べるの空気ですし。」

 

「それもそうだな。んじゃまた後でな。」

 

そう言ってグレイはマルクから離れていく。それを見計らったかのようにウェンディとシャルルが後ろから近づいてきた。

 

「ねぇねぇ、何の話をしてたの?」

 

「俺という滅竜魔導士の話。言うほど化け物じゃないですよ、って話してたところだよ。」

 

「魔力を食べるって相当なものだと思うけどね……あ、ルーシィさんとクエスト行くことになったんだけど来る?」

 

「あの人家賃のためだからなのかクエスト積極的に行こうとするよな……まぁウェンディが行くってんなら行くよ。

どんなクエスト?」

 

「あのね、新作ケーキの試食!」

 

「え゛っ……」

 

そんな話をしつつマルクはふとギルダーツの事を思い出していた。彼はナツだけを呼んだ。

それはただの直感だったが、ギルダーツがナツを呼んだ理由の一つに……自分が関係している気がしたからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ナツ、仕事先で……ドラゴンにあった。」

 

ギルダーツの家、ナツは彼に呼ばれてその場所に来ていた。そして、ギルダーツはふと口にしたのだ。ドラゴンのことを。

 

「お前の探してる赤いヤツじゃねぇと思うがな……黒いドラゴンだ。」

 

「ど、どこで……」

 

「霊峰ゾニア、おかげで仕事は失敗しちまったよチクショウ。」

 

ナツは一目散に走っていこうとするが、ギルダーツはそれを許さない。失敗した理由……彼が敗北した相手に、今のナツだけでは勝てるとは思っていなかったからだ。

 

「行ってどうする。」

 

「決まってんだろ!イグニールの居場所を聞くんだ!!」

 

「もう居ねぇよ、あの黒竜は大陸……あるいは世界中を飛び回ってる。」

 

「それでもなんか手がかりがあるかもしれねぇ!!」

 

「ナツ、これを見ろ。」

 

そう言ってギルダーツは大きなマントで隠された自分の体を、ナツに見せる。その体は、明らかに完治することのない大怪我のそれだった。

 

「ほとんど一瞬の事だった。左腕と左足、内蔵もやられた。イグニールって奴はどうだか知らねぇが、あの黒いのは間違いなく人類の敵だ。

そして……人間には勝てない。」

 

「そ、それを倒すのが……滅竜魔導士だろ!!俺の魔法があれば……黒いドラゴンなんて……」

 

「本気でそう思ってるなら、止めはしねぇよ。」

 

「っ……くそー!!」

 

叫びながらナツは出ていった。そのあとをハッピーは追おうとしたが、その前にギルダーツに呼び止められる。

 

「ハッピー、お前がナツを支えてやれ。あれは人間じゃあ勝てないが……竜なら勝てるかもしれねぇ。ナツなら……いつかきっと。」

 

そして、ギルダーツの家から走り出したナツは勢い余って躓き、そのまま川にダイブしていた。

 

「……元気かな……イグニール(父ちゃん)。」

 

ドラゴンの事で、自身の親を思い出していたナツ。そしてそのすぐ後に、彼はまた別のことを思い出していた。

 

「黒いドラゴン……って、確か……マルクが言ってたな……自分の親が、絶対に潰せ……とか言ってたとかなんとか……」

 

黒いドラゴンは人類の敵、そして仲間であるマルクの親のドラゴンもそれに敵対している。

つまり、ドラゴンの敵でありまた人間の敵でもある……という事なのだろうか、とナツはボーッとしながら思っていたのだった。




マルクのできる事の説明回でした

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