初代
ルーメン・イストワール…
それは、絶対に枯渇することの無い魔力……無限の魔力を持つ名前の魔法だったのだ。
「なんだそりゃ!?」
「一生使える魔法源って事!?」
ナツとハッピーが、同時に驚く。いや、声に出していないだけでこの番にいる全員が……正確に言うならば、マカロフ以外は驚いていた。
「例えるなら…エーテリオンという兵器がありました。一撃で国をも消滅させる旧評議院の超魔法。
妖精の心臓は、そのエーテリオンを無限に放つ魔力を持っているのです。いいえ…魔力を持っている、という表現自体が体をなしません。無限、なのですから。」
エーテリオン、一撃で国をも滅ぼせる超魔法だが…それを何度でも放てるのが妖精の心臓である。
その真実は、マカロフ以外の妖精の尻尾メンバーを絶句させていた。
「そんな魔法が公表されたら……」
「確かに魔法界は根底から覆る……」
「そんな魔法があれば…欲しくなるやつだってそりゃあいるか。」
「かつてイワンもこれを欲した……どこで漏れたのか、アルバレスにも情報が渡った。」
ある程度絶句した後に、段々と妖精の尻尾はざわつき始める。『そんなのがあれば、確かに狙う』『誰だって欲しい 』というものばかりである。
「アルバレスは妖精の心臓を奪うために攻めてくるってのか!!」
「でもなんのために?」
「力は十分に持ってるはずなのに。」
「恐らくはアクノロギアを倒す為だと推測されます。あれは、ゼレフに取っても邪魔な存在。」
アクノロギア、確かに無限の魔力さえあればあとは力がとてつもない魔法を使えばいいだけなのだから、かのドラゴンを倒すのは不可能では無いだろう。
「逆にそうでもしなきゃ、倒せないってのかいアクノロギアは……」
「そんな……」
「…あのさー、単純な質問なんだけど……そんなに強い魔法なら、アルバレスもアクノロギアもバーンてやっつけられないの?」
ハッピーが質問をなげかける。ある意味、当然の疑問である。目には目を歯には歯を、力には力を……
「確かに一理ある。ワシも大量のフェイスを前に、1度はそれを考えた。
しかし、一時的な勝利はできてもそのあとどうなってしまうのか。もし、無限に降り注ぐエーテリオンが制御不能だったら……」
マカロフが言ったことに、ハッピーが絶句する。あくまでも妖精の心臓は無限の魔力を持っているだけであり、制御に関しては全くの無関係なのだ。
「ごめんなさい……」
「毒を以て毒を制すわけには行かんからな。」
「毒って……初代の体よ一応。」
「妖精の心臓はいかなる理由があろうと、世に放ってはならん。」
「おう!そんなの当たり前だ!」
「そもそも初代の体だ!他の奴らに渡せるかってんだ!!」
妖精の尻尾全員のテンションが上がっていく。初代の体を守る、アルバレスに妖精の心臓を渡したくない。それぞれの思いが、全員の気持ちを支えていく。
「っ……私の罪から生まれた魔法が、まさかみなさんを巻き込んでこんな事態になってしまうなんて……」
「人を好きになるってのが、なんの罪になるんだよ。そんな罪じゃ、逮捕は出来ねぇな。」
俯いたメイビスだったが、まさかのガジルからのフォローが入る。そして、ガジルのセリフも相まって全員が驚いた顔でガジルを見ていた。
「え?」
「いや、その通りですけど……ガジルさんが言うんですか。」
「なんでよてめぇら!はっ倒すぞ!!」
ガジル達をそのままに、他のメンバーがメイビスを慰めていく。誰も、今の話を聞いて、メイビスが悪い人物だとは思っていない。それどころか、全員が彼女は被害者の側だと理解しているだろう。
「初代…どうか自分を責めないでください。」
「うん、不幸な出来事が重なってしまっただけ……」
「貴方がいなければ、妖精の尻尾はなかったんです。」
「つー事は、私達が出会うこともなかったんだね。」
「初代はここにいるみんなを繋げてくれた人なんだ。」
「私たちは、初代の作ったギルドを守りたい……だから戦うんです。」
涙を流しながらも微笑むメイビス。彼女が妖精の尻尾の創始者というのもあるが、それ以上にこれ以上彼女に酷い目に合わせないようにする為に、皆が動こうとしてくれていた。
何故なら、妖精の尻尾メンバーは皆家族なのだから。
「良いギルドになりましたな……初代。」
「しくしく……」
「なっ!?」
気づけば、何故かジュビアが泣いていた。しかし、グレイに恋する彼女としては、今の話は辛いところがあるのだろう。
「メイビス様は、かつて愛した人と戦わなくてはならないんですね。」
「それは遠い過去の話……今のゼレフは、人類に対する脅威です。必ず倒さねばなりません。」
涙を拭くメイビス。そして今度は、ゼレフを倒すための話に移り始める。
「でもよォ……アルバレスの方はなんとかなるにしても…」
「ゼレフという者は不老不死なのだろう?」
「不死身ってことじゃない!!」
「どうやって倒せばいいんだ……」
「…それに関しては俺が━━━」
「そこは任せてくれよ。」
マルクが何かを言い切る前に、ナツテーブルに飛び乗って包帯を巻いた右腕を皆に見えるように見せつける。
「ゼレフは俺が倒す。そのための秘策がこの右腕なんだ。」
「で?」
「その秘策とやらは……」
「秘密だ、だからこそ秘策なんだ。」
自慢げに笑みを浮かべるナツ。しかし、あそこまで大胆にアピールをされて、いざ秘密ですと言われて引き下がるほど妖精の尻尾のメンバーは大人しくない。
「勿体ぶってんじゃねぇ!!」
「その右腕にどんな秘密があるんだー!!」
「……」
その光景を眺めるマルクを、メイビスはじっと見つめていた。何かを言いかけたのを、気づいていたからだ。
「とにかく、この技は1回しか使えねぇ。けど、ゼレフを倒すために編み出した技だ。絶対倒す自信がある。」
「1回……本当に奥の手というわけか。」
全員が、ナツの言葉で士気をあげる。しかし、それがナツなのだ。それを理解してしまえば、よりナツのことを信頼できる要因となる。
「私にもいくつか策がありますが、今はナツを信用しましょう。」
「…マスター。」
「「「はい。」」」
「……えーっと、おじいちゃんの方で。」
ルーシィがマスターと呼ぶと、マカロフ、メイビス、エルザとそして何故かマカオが反応していた。
改めてマカロフを指名し直してから、本題に入る。
「これから私達が戦う敵のことを教えてください。」
「うむ……そうじゃな。ワシが知る限りのことを伝えておこう。」
そう前置きを置いてから、アルバレスの主な人物達をマカロフは紹介し始めていく。
「まずは皇帝スプリガン。イシュガルでは最強の黒魔導士として知られるあのゼレフじゃ。
そして、その配下にスプリガン
冬将軍インベル、奴はゼレフの参謀であり執政官でもある。その異名の通り氷系の魔法を使うと思われるが、詳細は分からん。」
「氷……」
氷という言葉に、グレイが反応する。氷を使う魔導士ならば、氷の
「砂漠王アジィールは、脱出時に交戦した砂の魔法の使い手。12の中でもかなり好戦的な奴じゃ。」
「あいつかぁ〜…」
ナツは、アタラキシアを脱出する時のことを思い出していた。確かに、触れただけで乾かすあの砂は、かなり厄介だろう。
「国崩しのブランディッシュ、好戦的ではないが国をも崩すという魔力の持ち主。」
「奴とはカラコール島で1度だけ接触した。奴は恐らくものの質量を変える魔法を使う。」
皆にわかるように、エルザが注釈を入れる。カラコール島で接触したメンバーだけは、ブランディッシュの強さがよくわかっていた。
「戦乙女ディマリア。やつの魔法は知らんが、戦場を駆け巡った女神を通り名に持つ女騎士。」
「女神…神…?」
マルクがふとミラ、エルフマン、リサーナを順に見る。後者二人はともかくとしても、戦うまであまり悪魔を
無論、
「聖十最強の男、ゴッドセレナ。やつは所謂残念な感じの男なのだが…やつの強さはワシがいちばんよく知っておる。」
「聖十大魔道の序列1位の人が敵だなんて未だに信じられない。」
「何故イシュガルを去ったのでしょう…」
「戦いたかったから、イシュガルでは出来ないことがあったから…色々と理由が浮かびますけど……」
「そればかりは本人に直接聞いて見なきゃわかんないよね。」
「裏切り者めぇ!」
ゴッドセレナ。聖十大魔道最強の男だった人物だが、今は敵の内の一人となってしまう。
強さはともかく、その魔法についてはマカロフもよく知らないようだった。
「魔道王オーガスト…こやつ、だけは……ワシの知る限り別格…!他の12とは比べられんほどの大魔力の持ち主…聞いた話では古今東西のあらゆる種の魔法を使えるとか……使える魔法の種類だけで言えば、ゼレフより上かもしれん。」
「なっ……」
マカロフが言った言葉に、全員が絶句する。ありとあらゆる魔法が使えるとなれば、対処法なんてたかが知れているのだ。
相対するべき相手で無いことだけは、確実だろう。
「ワシが知っているのはこの6人…あとは名前だけ知っているのが3人。ブラッドマン、ナインハルト、そしてワール。」
「つまりあとの3人は……名前も分からない相手、ということか…」
マルクがそう呟く。最初の6人は、ある程度の予想がつけられる。あとの6人は対処法がないばかりか、その中の3人は名前もわからない状態である。
「これから作戦を立てます。皆さん…よく聞いてください。ゼレフは全軍を率いて攻めてきます。
私達の置かれている状況は圧倒的に不利と言えるでしょう。敵は今まで戦ってきた敵とは桁違いに強い。
ですが、勇気と絆を持って戦い抜くのです。ギルドの力を見せてあげましょう!!」
メイビスの言葉に、全員が大声を出す。士気は上がりに上がった。これ以上は、もう出来ることもないだろう。
決戦まで、じっと待つのみである。
「…マルク、少しいいですか?」
あの後、1度家に帰れるものは家に帰ることにしてある程度は解散が進んでいた。
その中で、帰ろうとしているマルクにメイビスが話しかける。
「なんですか?」
「貴方はゼレフと戦わないでください。」
「……何故?」
「貴方は、ゼレフを倒す手段を持っている。その手段を使って、ゼレフを倒すつもりだったのでしょう?」
マルクは微笑みを崩さない。しかし、考えていることがメイビスに全てバレているとだけ、直感で感じとっていた。
「恐らく、貴方がゼレフを倒そうとするならばその手段は…貴方の力を持ってゼレフを『喰らう』こと。
貴方の力は、物理的に相手を捕食しますが……喰らったものを魔力に変換する力を持って、ゼレフを倒そうとしてますね?」
「……それでも、ゼレフは死なないと言うんですか?」
「いえ、恐らくあなたの力ならば確かにゼレフは倒せるでしょう。しかし、貴方はその後のことを考えていますか?」
「その、後?」
マルクが笑みを崩さないままメイビスに質問を返す。メイビスは真剣な表情のまま会話を続けていく。
「えぇ、貴方がゼレフを食らったとして…ゼレフにかかっている呪いは、どう処理されるかわかっていますか?」
「…そりゃあ、呪いごと魔力に変換して━━━」
「貴方自身、そんな事にならないと分かっていますよね?アンクセラム神の呪いは、命を自分の価値観で裁量した者に降りかかる呪い。
その呪いが……直接貴方に移ったらどうするんですか?食らった瞬間に、命を削られたらどうするんですか?」
「それは……」
メイビスの言葉に、マルクは押される。だが、そのまま笑みを浮かべたまま、マルクはメイビスに言葉を返す。
「……その時、その運命なら俺は受け入れる。ゼレフがウェンディに牙を向くかもしれない、アクノロギアがやって来てウェンディを殺しにくるかもしれない。」
「貴方は……自分が死んでもよろしいと?」
「不老不死になったら、その時はその時…ゼレフの呪いの足掻きが俺の命を奪いにくるなら、それも受け止める。
けど、俺はそれで死ぬ気はありませんよ。後のことを考えてない、って言われたら終わりですけどね。」
「……」
「俺が死ぬ時は、ウェンディにこれ以上危害が及ばないとわかったときです。
それまでは……意地でも死にませんよ。」
マルクの言葉に、メイビスは目を伏せる。自分ではああ言ったが、ナツがダメだった時の保険としてマルクを用意している案も、あったのだ。
いや、彼の力を持ってして死にに行かせるような案がいくつも浮かんでいっている。
だが、今は彼も誰も殺される気は無い……誰も死なないような案を、決行しなくてはならないのだ。
全員が恐怖と戦う中、夜が更けていくのであった