ギルドの完全復活と、マスターであるマカロフの帰還のパーティが騒がしくしている
皆がどんちゃん騒ぎしている所に、マカロフが杖を地面に叩きつけることで大きな音を鳴らす。
皆、その音に意識を向けて一瞬で静かになる。
「皆…済まなかった。言い訳はせん、皆の帰る家をなくしてしまったのはワシじゃ。本当に済まない。」
「メストから聞いたぜー」
「俺らを守るための判断だったんだろ?」
「気にしてねーよ。」
「辛気臭い顔すんなョ。酒が不味くなる。」
謝るマカロフに対して、皆が慰めの言葉を入れる。そのことを受けながら、マカロフは持っている杖を地図に向けて説明をし始める。
「更にワシの策さえ無意味じゃった。アルバレスは攻めてくる。巨大な大国が、このギルドに向かい進軍してくるのじゃ。」
「それがどうしたァ!!」
深刻そうな顔をするマカロフに向かって、ナツは大声を張り上げる。心配する必要性も、深刻そうな顔をすることもないと言わんばかりに。
「俺たちは今まで何度も何度もギルドの為に戦ってきた。敵がどれだけ強かろうが、大切なものを守りたいって意思が俺たちを強くしてきたんだ。」
マカロフに近づき、地図を置いたテーブル1枚挟んでナツはそのテーブルに手をたたきつける。
「恐怖が無いわけじゃねぇ。どうやって下ろしていいかわからねぇ重荷見てーだよ。
けど、みんなかきっと手伝ってくれる。」
手から炎を出して、ナツはアルバレスを模した地図の上に置いてある駒に火をつける。それは覚悟、それは勇気。
アルバレスが来たところで、仲間がいれば恐怖は薄れて戦う勇気となる。
「本当の恐怖はこの…楽しい日の続きがなくなる事だ。もう一度みんなと笑って過ごせる日のために、俺たちは戦わなきゃならない。
勝つ為じゃねぇ!!生きるために立ち上がる!それが俺達の戦いだ!!」
全員が、ナツの言葉に押し上げられる。恐怖は、勇気になる。明日を失うことの恐怖を、アルバレスと戦う勇気に帰る。
「全員覚悟は出来てるみてーだぜ。」
「━━━ワシもじゃ。我が家族に噛み付いたことを後悔させてやるぞ!!返り討ちにしてやるわい!!」
杖を大きく掲げて、マカロフは勝鬨をあげる。それに合わせて、妖精の尻尾全体も一気に湧き上がる。
「燃えてきたァー!!」
「必ず勝利しましょう。」
「当たり前だ。」
「負ける訳にはいかない戦いですしね。」
全員が湧き上がり、勇気を振り絞っていく中で、マカロフは更に杖を叩きつけて皆を静かにさせる。どうやら、未だ話しておくべきことがあるようだった。
「戦いの前に皆に話しておかねばならぬことがある。」
「ルーメン・イストワール…正式名称
マカロフが話そうとしたその時、マカロフの後ろから1人の人物が現れる。
「それについては私から話しましょう、6代目……いえ、8代目。」
「初代!?」
現れたのは、初代妖精の尻尾マスターであるメイビスだった。一部の者達は知っている。ルーメン・イストワールに彼女の肉体が入っていることに。
「皆さん…妖精の心臓は、我がギルドの最高機密として扱ってきました。それは、世界に知られては行けない秘密が隠されているからです。
ですが、ゼレフがこれを狙う理由もみなさんは知っておかねばなりません。
そして、私の罪も……」
「…罪?」
「初代……」
「良いのです。全てを語る時が来たということです……これは、呪われた少年と呪われた少女の物語、2人が求めた1なる魔法の物語。」
そうして、メイビスは語り始める。事の発端を、妖精の心臓のことを、自身のことを、呪われた少年とのことを。
過去を話すことで、それらを話していく。
「あれは100年以上も昔、妖精の尻尾創設の少し前ほどでした。マグノリアの東の森で、私たちは偶然出会ったのです。
彼はアンクセラムの呪いに苦しんでいました。それは意図せず、人の命を奪ってしまう呪い。」
その言葉で、知っている者はそれがぜレフだということにすぐに気がついた。そして、奪いたくないと思えば思うほど制御が効かなくなるあの呪いは、メイビスには発動していなかったようだった。
「しかし私は彼に惹かれた。彼から沢山の魔法を教えて貰った……当時、マグノリアは闇ギルドに支配されていました。私達はマグノリアを解放すべく、魔法を覚えたのです。
そしてその戦いの中、私は未完成の黒魔法を使い、勝利しました。その代償に、私の体は成長ができない体になってしまったのです。ですが、この時の私はそれをなんとも思って無かったのです。」
淡々とメイビスは語る。自分のことであるはずなのに、まるで他人のことを語っているかのような真顔で……しかし、マルクはこう思ったのだ。『自分の話だからこそ』なんとも思っていないような顔になっているのではないだろうか、と。
「X684年4月、妖精の尻尾が創設されました。当時は領主同士の通商権争いが激しく、第2次通商戦争が始まった年でした。やがて魔導士ギルドも、傭兵として領主達の戦いに巻き込まれていきました。」
「……その時からですな、貴方が妖精軍師と呼ばれるようになったのは。」
「えぇ……」
マカロフがそう注釈を入れるが、メイビスはそれに対して少しだけ目を伏せるのみだった。あまりその呼び名は好きではないのか、それともこの話自体が好きではないのか……とは言っても、戦争の話を好むのも、簡易的に自分が大量に人殺しをした話をするのも、よほどの悪党でない限り好き好んで話はしないだろう。
「X690年、第2次通商戦争が終わりました。第1次戦争に較べて各地の死傷者の数は数十倍に登ったのです。
それは、戦争に魔導士ギルドが介入したのが原因だと言われました。魔法界もこれを受けて、ギルド間抗争禁止条約を締結しました。」
理由としては、妥当な話である。力を持った者達を介入させれば、そのような凄惨な結果が待っていることも、そのような条約が締結させられることも目に見えている。
「この条約により、魔法界はしばしの平和が訪れました。そして、6年後のX696年。私は偶然にも、黒魔道士である彼と再開しました。
その時です……彼が黒魔道士ゼレフだと知ったのは。その時の私は、純粋すぎました。彼のことを知っても、悪い人だとは思っていなかったのです。」
「貴方にとって、その時の彼は恩人だった……『その時殺しておけばよかった』なんて言うのは……」
「分かっています。全ては結果論…私が後悔したところで、意味がありません。
……その時、知ってしまったのですけれどね。彼の本性と、私が不老不死になっているというのを。」
目を伏せるメイビスだったが、ふと諦めがついたかのようにメイビスは
、再び妖精の尻尾全域を見渡すかのように顔を上げて、話し始める。
「その時の私は、当然信用できませんでした。不老不死の体になり、アンクセラムの呪いにかかっていることに。
そして、そのことを信用しないまま……私はギルドに戻りました。戻った私を待っていたのは、ギルドメンバーの1人が子を産んだところでした。」
当時を思い出すかのように、しかしそれを第3の傍観者であるかのようにメイビスは語っていく。
「……その時の、その子の母親の命を私は奪いました。人を愛すれば愛するほど、命を奪っていき愛さなければ命を奪わない矛盾の呪い……子を産んだことにより、その子を見た時に、私は命の尊さを知って、アンクセラムの呪いを発動させてしまったのです。」
一瞬、誰も気づけないようなほんの一瞬。その時にメイビスはマカロフに視線を移す。それを認識できたのは誰もいないし、それを見たとしてもその意味を理解するものはメイビス以外にいなかっただろう。
「その時のせいで、当時の私はギルドに顔を出さなくなりました。愛する家族である、ギルドメンバーたちの命を奪いたくなかったのです。
そして、そのまま1年が経過しました。その時に……私はまたゼレフと再開しました。と言っても、彼は私のことを探していたようですが。」
まるで、『下らない理由だろう』と思えるような言い方だったが、その表情にはそのようなことを考えてるような素振りは見受けられない。本当に、ただそう言っているだけなのである。
「半年食事をしていなくても、首を絞めても……死ぬことはありません。彼が言うには、首を切り落としても死なないようです。
そして、命を奪うアンクセラムの呪いでも殺せない……ゼレフは当時そう考えていたようです。当たり前です、自分以外の者が自分と同じになっているのなんて見ないのですから。
ですが、問題は死なない事じゃなかった。」
メイビスは目を細めて話し始める。永遠の命というのは、時には誰しもが求めることである。
誰だって死ぬことは怖い、死なないというのはそれだけで魅力的なのだ。
「その時に出会った彼は、エーテリアス…彼を殺すためだけの悪魔を作りだした後でした。
そして、その当時は、国を作っていると彼は言っていました。」
「それが、アルバレス……」
「彼は、領土を広げていくことを楽しいと言いました。しかし、その直後に……国づくりは醜い領土の拡大と言って、楽しくないと言いました。」
「思考も、おかしくなるということですか…?」
ウェンディが呟いた疑問に、メイビスは頷いて肯定する。長い年月の中で、永遠に死ねない攻め苦を味わっていたゼレフは100年前の時点で既に壊れていたのだ。
「……私は、彼と一緒に呪いをとく方法を探そうと言いました。先程も言った通り…私は彼に惹かれていた。彼も、長い年月の中で人に優しくされたことがなくて……私達はそこで……」
メイビスが、言葉をそこから続けることは無かった。しかし、言わなくても皆には伝わっていた。
メイビスとゼレフは、その時点で繋がっていたのだ……心が、愛という形で。
「……魔道の深淵、全ての始まり。それは1なる魔法、愛。愛は奇跡を引き起こし、時に悲しみを引き起こす。
矛盾の呪いをかけられた二人の愛は、ここで最後の矛盾を突きつけたのです。
愛すれば愛するほどに命を奪っていってしまうその呪いは、不老不死であるはずの私の命を奪っていきました。」
「不老不死である人物の、命を……」
一同は絶句する。それもそうだ、アンクセラムの呪いというのはどこまでも非常で冷徹で、悲しいものだと理解したのだから。
「その後、私の体は妖精の尻尾のギルドに届けられました。プレヒトは、私の心臓が少しだけ動いていることを確認して、私の体を
いくつもの蘇生魔法をプレヒトは試していくうちに、後に天才と呼ばれるプレヒトは私にかけられたアンクセラムの呪いに気づきました。
その後……プレヒトはギルドメンバー達に私は死んだと告げて、天狼島に墓を建てました。」
「だから、天狼島にお墓が……」
「同年に、プレヒトは2代目マスターとなって仕事の傍ら私の蘇生に心血を注ぎました。30年……それを続けているうちに、プレヒトの類まれなる才能と知識、そして私の不老不死がもたらす半永久的な生命の維持が融合して……説明のつかない魔法が生まれました。
それが、永久魔法妖精の心臓。」
「永久、魔法…?」
「それは一体……」
「その名の通り無限…絶対に枯渇することの無い魔力。」
メイビスの言葉により、さらに言葉を失う一同。当たり前である。無限に枯渇することの無い魔力、その言葉がもたらす意味が簡単かつ恐ろしいものだと認識しているからだ。
妖精の心臓に対しての、経緯やメイビスの経緯はこれにて幕引き。しかし、アルバレスに対しての話し合いは……未だ終わることがないだろう。何せ、相手はゼレフなのだから……