「皆さん大丈夫ですか!?」
マルクは大急ぎでナツ達の所にやってきた。そして、跳んできた際に見知らぬ2人を見つけた。先程感じる強力な魔力はその2人から感じるものだった。
「マルク!」
「おや、もう一人増えたっすね……」
「知らない、関係ない………帰る。」
男女二人組のペアだったが、ちらりと目線を移すとメストが傷だらけで倒れていた。
どうやら、この2人のどちらかと見て間違いがなさそうだったが、ナツとグレイ……それにルーシィとエルザの4人を相手にしてよく生きていたものだ、とマルクは思っていた。
つまり、どちらにせよこの2人はナツ達よりも強いということになる。
「ブランディッシュ様、あっし等の任務はスパイの捕縛とその合流者を見つけることっス。手ぶらで帰国したんじゃワール様辺りになんて言われるか……」
「放っておいてもイシュガルがアルバレスに手を出してくることはないでしょ。」
「そりゃそうっスけど見つけられませんでした、じゃ格好がつかないっスよ?不合格ですよぉ。」
「私はそーゆーの興味ないから。」
そのままブランディッシュと呼ばれた女性と残った男性1人が帰ろうとする。しかし、ナツは逃がす気はサラサラないようで皆よりも1歩前に出る。
「待てよ、こっちは仲間1人やられてんだ。このまま黙ってるわけにはいかねーぞ。」
「ナツ!」
「よせナツ!」
ブランディッシュと呼ばれた女性は、振り返ってナツを見る。そして、何を思ったのか片手を男性の方に上げる。
「え?」
男性は、その一瞬の挙動で消える。まるで何もいなくなったかのように、初めから何もいなかったかのように、一瞬で呆気なく消えた。
「これでこっちも仲間を1人失ったわ。おあいこね。悪いけど私……めんどくさいの大嫌いなの。」
「自分の仲間を……!」
「めんどくさいのは大嫌いだからね。スパイも合流してた奴も始末したってことにしておいてあげる。
だから
ナツ達はそれで一瞬驚愕した。自分達のやろうとしていることが、完全に敵側にバレてしまっているのだ。
「……マカロフは生きているわ。けど貴方達が余計なことをしたら…どうなっちゃうのかしら。
これは忠告、私達に近づくな。特に━━━」
一瞬、たった一瞬。その一瞬でナツたちの足元にあった地面は消えて、ナツ達は海面に落ちる。
しかし、ブランディッシュだけが地面の上に立っていた。まるで、
「今さっき来た君は、特に来ない方がいい。私がたった今危険と判断した……けれど、
「なっ!?」
マルクは自身に対して魔法が効かないということを、すぐさまバレていることが一番の驚きだった。
何故、そんなことがバレてしまっているのか。
「アルバレスにはこの程度の魔導士が12人いる。それら全員が、君の力を『危険なもの』として処理をする。
けれど君もその12人に勝つことは無い。適わぬ戦はしない事ね……
マルクに対して、妖精の尻尾に対しての宣言。こちらに手を出すな、出せばマカロフの命はないという宣言。
それだけを行い、ブランディッシュはすぐさま姿を消す。
「…ウェンディ!!」
自分だけが、特別視されているのが少し恐怖に感じたマルク。それは、自分が殺されるかもしれない、という恐怖とはまた違った恐怖を感じているのだ。
ウェンディ、シャルル……他にも妖精の尻尾の仲間達が、今回の件とは別件のとこで巻き込まれる可能性が高いのだ。ブランディッシュという女の魔法ならば、一瞬でウェンディ達は死に至るだろう。
もしそんなことになった場合、自分で自分を抑えられるのかどうか……仲間達が、自分のことで巻き込まれる恐怖、その際に誰かが死んでしまうかもしれない恐怖……それらが、マルクを不安にさせていた。
「っ……!」
「……うっぷ。」
ウェンディ達を見つけたあと、マルクはナツやウェンディ達とともに寝転がっていた。理由としては、島が無くなったので船に乗るしかなかったためである。要するに、
「め、メストさん……だ、大丈夫ですか……」
「あんたもね。」
「ごめんなさ…うぷっ……私、上手く回復の魔法が……」
「……そう言えば、あの子供の親は見つかったのか?」
グレイが、ふと気になったのでウェンディ達が連れて行っていた子供のことを問いただす。ウェンディはダウンしているので、代わりにハッピーが答えていた。
「あい、もう大丈夫。」
「ねぇ、これからどうするの?」
待ち合わせ場所であるカラコール島は、姿を消した。待ち合わせするにしても、今のこんな状況では待ち合わせもへったくれもないので、どうしようか悩んでいた。
「そうだな……まずは例の諜報員を━━━」
そして、1度船に乗っているかの確認を取ろう……という話をしようとしたエルザが、一瞬で姿を消した。
「っ!?」
「なっ……」
「なにこれ!?」
「うわっ!?」
そして、ルーシィやナツ、グレイ……全員が船から姿を消した。ただ1人、マルクを除いて。
「うぷっ……え、ちょ……みんなどこに……」
「ま、マルク……」
「……ま、マホーグ……?」
酔っている上に困惑しているマルクの目の前に、何故か水着を着ているマホーグがいた。
そう言えば、いつからか姿を見なくなっていたがどこに行っていたのか……という疑問を抑えながら、マルクらマホーグを見つめる。
「ちょ、ちょっと……落とす、よ。」
「……へっ!?」
マホーグは、マルクの体を持ち上げてそのまま
「ぷはぁっ!?お、おい!なんでこんなこと……!」
「ま、魔力……抑えて?酔ってた、から…マルクの魔力、安定してなくて……め、メストの魔法が…効かなかっ、た。」
「……みんな消えたのメストの魔法か。そうか、1回お前のショートワープは受けてたことあったな。
あん時、悪魔の力を無理やり押さえつけてたからワープ自体は受けれてたんだな。」
「ま、マルクの力は……押さえつけてれば、あ、ある程度魔法の効果を受けれるように、なるから……」
「うしっ、なら魔力抑えるから……頼むわ。」
「う、うん……」
マルクは、一旦自身の魔力を極限まで押さえ込んだ。一時期は、ウェンディの回復も、ウォーレンの念話も効かないと嘆いていたこともあった。どうやらそれは、あの時は自分の力を予想以上にコントロール出来ていなかった、ということらしい。
そして、悪魔の力が暴走していた時は、無意識にそのコントロールに成功していたため、魔法の影響を受けることができるようになっていた、ということらしい。
「じゃ、じゃあ行くよ……」
「……おお!?これ乗り物じゃないのか!?というかどこだ!?」
「こ、ここは……カラコール島近海の……か、海中。」
「……諜報員とは接触できていたんだ。この座標へ飛べという指示だった。」
メストが、代わりに説明を続けた。マルクは辺りを見回して全員いることをちゃんと確認する。
が、直後に海中神殿が揺れ始める。
「今度はなんだ!?」
「メスト!」
「わ、わからん……」
「ちょっとこれ……動いてない?」
内部にいる一同は分からないが、なんと海中神殿は変形し始めていたのだ。
外観である神殿っぽいものは軒並みパージされ、1番上には何故か大砲が着いている。
そして、側面から何故か羽が一対生えて、底部からは細く小さな足が現れて、まるで生き物であるかのように走り始める。
「「「乗り物ォ……!!?」」」
そして、動き出したのとほぼ同時に滅竜魔導士組は一瞬でグロッキーになる。体が、乗り物と判断したらしい。
「ようこそ……移動神殿オリンピアへ。」
「誰かいたー!?」
突如、壁だと思われていた場所がひっくり返るように動き、中から1人の人物が現れる。
「艦長のソラノだゾ。」
なんと、中から現れたのは元
「な、なんでお前が……だ、脱獄してたんじゃあ……」
「ヒントはジェラールだゾ。因みに、エルザやそこの氷男は大体のことは知っていると思うゾ。」
「諜報員ってまさか……」
「正解だゾ。」
少し声を高くして、可愛い仕草をとるエンジェル……否、ソラノ。その彼女の登場に、一同は困惑しかしていなかった。
「アンタが敵にバレて…」
「島まで逃げてきたせいで…」
「島が消えた…」
「私だって命からがら逃げてきたのよ!ま……メストには仮があるからね。
今回だけは手を貸すけど、仲間になったわけじゃないゾ。 」
「ありがとうエンジェル……ソ、ソラノ?」
ルーシィが礼を言うが、エンジェルは彼女を見たまま少し間を置いて、その後でルーシィに近づく。
そして、今彼女が着ているビキニの胸の谷間に位置する紐を指で引っ張って持ち上げながら、笑顔で話しかける。
「カレンを殺したのは、私。忘れちゃダメだゾ。」
「っ……」
「よせソラノ。」
「はいはい。」
エルザがソラノを制して、おちゃらけた様子でソラノはルーシィから離れる。
何を考えているか分からない本心は、彼女にしか分からないことだろう。
「こ、これ……どこに向かっているんですか…?」
「地獄か……?」
「今とあんまり変わらないですね……」
グロッキーになっている滅竜魔導士3人組が、ソラノに行き先を尋ねる。動いている、という事は今どこかに向かっているということである。
ただ逃げているだけ、というのも考えられるべき話ではあるが。
「……や、やるの…?」
「当たり前だゾ。」
「つ、次の行き先はー……ま、マカロフ・ドレアーの現在地、マカロフ・ドレアーの現在地……!」
ひっそりと立っていたマホーグが、ソラノに少し脅されるような感じで、まるで電車のアナウンスのような喋り方で次の行き先を伝える。しかし、その必死さもまるで無視されて彼女が言ったことに皆が驚いていたのだ。
「まさか……突き止めたのか?マスターの居場所を……」
「ふふん、見直した?」
「よくわかったな……」
「これでも命からがら逃げてきたかいはあった、という事だゾ。」
自信満々に、ソラノは椅子に座り直してふんぞりかえる。しかし、その功績は1人のものでは無い。
「……わ、私も…頑張ったんだよ……」
「メストとは細かいところは違うとはいえ、やっぱりジャンパーは便利だゾ。」
「ち、因みに……いつから俺と別れて、たんだ…?」
オロチの1件の時には、まだ居たのは覚えている。しかし、それ以降が全くわからない。
「マルクをストーカーしていたのを、俺が見つけてスカウトしたのさ。俺とは飛べる距離が違うが、膨大な魔力とその魔眼のおかげでかなり助けられた。」
「え、えへへ……」
「戦闘もできて、未来視やワープもできる……攻防兼ね備えているな。」
褒められたのが嬉しいのか、頬を赤く染めるマホーグ。それを褒めながらも、エルザは覚悟を決める。
「よし……なら素早くマスターを確保して帰るとしよう。島の潜入前にも言ったが、できる限りの戦闘を行わないでいこう。」
その言葉に全員が頷き、今まさにアルバレスへと一同は侵入していくのであった。