「まさかギルドの地下にこんなものが隠されていたなんて……」
地下に通じる階段を降りながら、ルーシィは呟く。ルーシィはここにいるウェンディやマルクよりも早く
「いや……こいつァ、俺達も知らない場所だ。」
「あぁ……しかもこの匂い…なんというか、いろんな匂いがする。」
「いつからあるものなんでしょうか……」
「少なくとも、私達が天狼島に行くよりももっと前……下手をしたら皆が妖精の尻尾に入る前からあった可能性も…… 」
ルーシィが壁を触りながらそうつぶやく。あまりにも古すぎると言っていいほど昔なのだ。
そして、ふと思い出したかのようにマルクが語り始める。
「そう言えば……天狼島から帰ってきてすぐに、ギルダーツさんと6代目がここに来たことありましたよね。」
「そういやそうだな……あん時は特に何も思わなかったが、ここに来ていたってこともありうるんだよな。」
マルクの呟いた言葉に同意するグレイ。そんなこんなで話し合っていると、階段の終わりが見えてくる。
「あんなところに扉があるな……」
「エルザ達も向こうにいるっぽいな……聞きみ見立ててみっか。」
ニヤニヤと笑いながら、ナツは扉に耳を当てる。それに続いてルーシィやグレイも扉に耳を当てる。
それを苦笑しながらマルク達が止めようとするが……それだけの重さに、扉が耐えられるわけもなく、扉は勢いよく開いてしまう。
「うわっ!」
「きゃあ!!」
「バカ押すな!!」
「どこ触ってんのよー!」
「うわわわわわ!?」
そして、突然扉方向に体重をかけていたのでそのまま全員放り出されるように倒れてしまう。だが、扉の先には確かにエルザとメストがいた。
「お前達……」
「代々マスターにしか入ることが許されない……と説明するつもりだったんだがな。」
呆れていたメストだったが、マルクはとんでもなく鳥肌が立っていた。扉の先にあった空間、いや正確には
「ま、マルク?」
「……そうか、ほかの
そこにいた……いや、あったのは初代であるメイビスの姿だった。しかし、その体は宝石のような何かに包まれており、幽霊の時のような服は一切纏っていなかったのだ。
「ずりーぞ!俺達にも教えろ!!」
「なんなんだこれは……」
「初代……ですよね…ご、ごめんねマルク……見ないで……」
そう言いながら、マルクの目をウェンディが塞ぐ。それで少し落ち着いたのか、マルクは緊張の意図を少し弛めていた。
「素っ裸!」
「ハイ、あまりガン見しないの。」
「これって初代の肉体?生きてるの?」
「なんでギルドの地下に水晶に入った初代が……」
全員が困惑の声を上げる……それもそうである。ギルドの地下に、代々マスターしか入れないところ、それも直前まで知る事の無い場所があり、そこには水晶に入った初代マスターであるメイビスの体が、腐敗することなく綺麗な形で入っているのだから。
「……どういうことなんだメスト。」
「………俺にもこいつの正体はわかんねえ。だが、これがとてつもなく重要な何かであるのは間違いない。」
メストは真剣な顔で話しているが、しかしナツはそれはあまり重要視することではないのか、全く別の話題でメストに食ってかかろうとしていた。
「それよりじっちゃんはどこだ!!知ってんだろ!!」
「それよりって━━━」
その時、マルク以外のここにいる全員の頭の中に、何かが送り込まれる。その何か、というのは記憶である。
「なに、これ……頭の中に……」
「…映像?」
「俺の記憶だ。マルクには送れらいから、丁度いい……口頭で話させてもらう。」
そう言って、メストは語り始める。その過去がマスターに繋がるのだから……
「今から十年前…天狼組にとっては3年前か。オレはマカロフからある任務を任された。」
「ある任務?」
「あぁ、評議院に潜入して西の大陸に関する全ての情報を流して欲しい、っていう任務だった。
詳しい理由はわからんかったが、俺はその任務を引き受けた。無論、自分が妖精の尻尾のメンバーだという記憶も一時的にして、潜入した。」
「おまっ……随分と念入りにするんだな。」
「評議院になりきらねばマズかったからな。マカロフに解いて貰えば記憶は引き継げる仕組みだったんで問題はなかったさ。」
「器用だなぁ……」
念入りさに少し呆れながらも、マルクはメストの話を聞いていく。ほかのメンバーは、メストから渡された記憶と共に辿りながら話を聞いていた。
「そして、定期的にマカロフは俺に会いに来てくれたが、記憶をなくしている時の弊害が起きてしまってな。」
「弊害?」
「あぁ、記憶をなくしている時の俺は自分の魔法を使って妖精の尻尾に潜入しようと考えた。
そして、妖精の尻尾の悪事をばらまいてやる……と意気込んでいたのさ。評議院潜入と同じ……名前を変えて、な。」
「「おい。」」
「本当に済まなかった。」
記憶を消しているとはいえ、潜入している側が別の場所に潜入する、と言うことをしてしまっているのだ。徹底したやり方ではあったが、その事にナツもグレイも突っ込んでいた。
「……それで、だ。大魔闘演武の時に俺はマカロフと再開した。だが、俺はその時はまだ帰る気はなかった。」
「なんで?」
「もう少しでマカロフの求める情報が手に入る状況だったからだ。そして、情報を集めに集めて……
その時、マカロフは解散を決意した。」
「……待てよ、何でそうなる?」
「そうよ、意味がわかんないわよ?」
グレイとルーシィがメストに物申すが、メストは『すぐに分かる』とだけ言ってそのまま話を続けていく。記憶を渡されていても、自分から引き出すのは難しいようだ。
「マカロフはこう言った『家族を守るため』だと。」
「西の大陸……そこに何かあるのか?」
「あぁ、その通りだ。西の大陸にある大国……アルバレス。それが、再び侵攻してこようとしていたんだ。」
「アルバレスって……?」
「確か……今からだと暦的に11年前にこっちに侵略してこようとしてきた国だったはず。
けど、あの時は失敗してたような……」
ウェンディの疑問に答えたルーシィだったが、彼女自身が言ったことにメストは首を横に振る。事は、そのように簡単ではないと言わんばかりに。
「失敗なんてしていない……あの時は『中止』になったんだ。評議院の力があったからな。」
「あっ……エーテリオンとフェイス!!」
「そうだ、街一つ簡単に吹き飛ばせるエーテリオンに、魔法を完全に封殺するフェイス。
そのふたつをチラつかせることで、侵攻を阻止していたんだ。」
「でも、なんで侵攻してこようとしていたんですか?」
「……こいつさ、ルーメンイストワール……これを手に入れるために向こうは侵攻しようとしてきていたのさ。」
メストが軽く視線を促して、ルーメンイストワールを指し示す。だが、マルクは気づいた。
冥府の門との戦いの後に……評議院ごとエーテリオンとフェイスは失われてしまっていることに。
「……冥府の門との戦いで評議院が、その戦いの後にフェイスが…潰れてしまってる。」
「気づいたかマルク。そうさ、アルバレスに対しての抑止力をこの大陸は失っているんだ。
つまり……あの時から侵攻作戦は再開されていた。」
「だが、実際にはいまだ攻め込まれていない……これはどういうことなんだメスト。」
「……」
「メスト?」
メストは少し黙ったが、口を開く。今黙っておくべきことは、一切何も無いのだから。
「……マカロフは、アルバレスに向かった。」
「「「っ!!」」」
その時言葉に全員が驚いていた。つまり、行方不明だと認識されている時には既にマカロフは誰にも言わず敵地に乗り込んでいるのだ。
「……ギルドの歴史よりも、体裁よりも……家族の命を守るために。もし侵攻してくれば、ルーメンイストワールを発動させるというのをチラつかせるために、マカロフはアルバレスに交渉に向かったんだ。」
「……そこまでする必要があったってことなのか?そんなにもアルバレスは強力なのか?」
「……この大陸には、約500のギルドがある。」
突然語り始めるメストに一同は疑問符を浮かべたが、そのままメストは話を続けていく。
「そして、アルバレスには正規も闇も含めた約730のギルドがある……いや、『ある』って言い方はおかしいか。」
「どういう事だ?」
「アルバレス……その実態は、730のギルドが全て統一されてできている国なんだ。
正式名称は『超軍事魔法帝国アルバレス』」
「なっ……」
「じゃ、じゃあじっちゃんはそのなんとか、って国に行ったきり帰ってきてねぇのか!?」
「ギルドの解散も全ては私達の為に……」
全てを理解し、そしてその上で確認を取るナツ達。理解したからこそ、再確認を取らなければならないのだ。余りにも、信じられないような話が多すぎた。
「1年間連絡が無いのか?」
「あぁ…」
「メストは止めなかったの?」
「止めて『はい分かりました』っていう思う?あのマスターが。」
「無事なのかしら……」
「心配ですね……」
「交渉を続けているのか……幽閉されているのか…あるいは…」
「その先は言うな。」
交渉を続けているのか、幽閉されているのか。前者ならばまだ希望はあり、後者ならば希望はあれど危ない状況だろう。
だが交渉を既に終えており、そしてそれが和解ではなく失敗に終わっていたのだとしたら……その先を考えられないほど、ナツ達は現実が見えてはいない訳では無いのだ。
「俺はマカロフの計画通り評議院を復活させるために動いた。
ウォーロッド様を頼り、聖十大魔道を中心とした新評議会を立ち上げた。」
「そう言えば評議会でもマスターの行方については問題になってるって。」
「ウォーロッド様は事情を知っているが、他の方はおそらく知らないはずだ。
だが、アルバレス帝国の脅威については皆、共通認識だ。すぐに防衛戦を敷いたため、西の大陸への抑止力となりつつある。」
「じいさんの時間稼ぎは成功したってことか!だったらもう帰って来れるじゃねぇか!!」
「……本来ならば、な。」
グレイが熱くなるが、メストがそれを制すように言葉を発する。帰って来れる状況だからこそ、考えなければならない。
「この情報がマカロフの耳に届いていないのか、帰って来れない状況なのか。」
「だから助けに行く……だろ?」
「あぁ、マスターに言われた通り評議院は復活させた。ここから俺は妖精の尻尾の魔導士として動く。」
「ギルドのメンバーが揃えば、どんな敵だって怖くないよ!」
「みんなで行きましょ!!」
「待て。」
熱くなっているところに、エルザが静止させる。それに対して、皆は驚いていた。
「そうですよ、みんな落ち着いてください。」
「おい、マルク……」
「いいですか、いくら俺達が1年間で強くなっていたとしても……アルバレスは強敵だ、無策で突撃するわけには行かないんですよ。」
「この1年間で強くなったんだ!俺どんな敵だろうが負けたりしねぇ!!」
ナツは熱くなるが、それをマルクやエルザは制す。落ち着いて考えてみろ、と言いたげに。
「幾らナツさん達が強くなっていたとしても……無理です。俺達が『戦闘』を行ってしまえば、6代目が殺される可能性があります。」
「そうだ……それに、マスターが身を挺して作った時間、私達への思いを無駄にするつもりか。」
「うぐっ……」
「ギルドを立て直し、仕事を再開し……妖精の尻尾を復活させる。
再び集まった皆がみんながいつも通りに笑っていてほしい。これが私の、7代目マスターとしての考えだ。」
「エルザさん……」
「おい、そりゃあ!!」
この言葉で、ナツ達は考えてしまった。『エルザはマカロフを助けに行かない方がいい』と言っているのではないか、と。
「だが……1人のギルドメンバーとしての考えは違う。必ずマスターを救出しなければならない。
だからここにいるメンバーのみで行動する。」
「戦闘ではなく潜入……少人数がいいですね。アルバレスに潜入して6代目を救出、そして脱出。」
「あぁそうだ。これは戦いではない……潜入、救出作戦。無駄な戦いも騒ぎも一切起こさない。
いいか、ナツ。」
念入りに押すように、エルザがナツを睨む。エルザもマルクも、マカロフを助けに行かない方がいいとは全く思っていない。
しかし、さすがに一ギルドで730のギルドを相手するのは難しいと考えたのだ。故に、潜入である。
「お、おう……必ずじっちゃんを助け出す!!」
気持ちを新たに考え直して、ナツ達はアルバレスへと乗り込む決意を固めたのであった。