「うぉー、懐かしいなー」
「見て見て!カルディア大聖堂が直ってるよー!」
ルーシィ、ナツ、ハッピー、ウェンディ、シャルル、マルクの6人は、マグノリアに帰ってきていた。
それぞれ、一年前のことがあったためまったくここに戻ってきていなかったのだ。一年前の
「一年前は酷い有様だったのに……」
「この街は逞しいわね……」
グレイ、エルザ、ガジル、リリー、ジュビア、レビィの6人は後で合流することになっている。
というのも、ガジルとレビィとリリーは、評議院に報告後退職届けを出してマグノリアに戻り、グレイは今回の件の後始末、ジュビアはグレイについていき、エルザはジェラールに報告しに行くためである。
何故、マグノリアなのか。それはナツが提案した
そのために、今は一旦離れている……というわけである。
「………」
「…ルーシィさん、大丈夫ですか?」
「え?」
「なんか元気ないですよ?」
「ううん、なんでもない。久しぶりでちょっと思い出に浸ってた。」
そう言って、気遣ってくれたウェンディにほほ笑みかけるルーシィ。だが、その言葉が嘘だとすぐにほかのメンバーは気がついた。思い出にひたっているかの真偽はともかくとしても、明らかに『なんでもない』表情ではなかったからだ。
「……」
「どうしたのルーシィ?」
「ギルドはこの先だぞ?」
「ルーシィさん?」
「……あたし、この先に行くのが怖い。」
立ち止まるルーシィ。その不安は、明確な形としてないものの皆少しは持っているものだった。
「ギルドが残ってないからか?」
「……」
「建物なんかどーにでもなる。ここから始めるんだ。」
「残ってるか不安なのは皆の心……突然ナツが現れて妖精の尻尾復活だーって話になって……あたしちょっと舞い上がっちゃって。」
ルーシィが、ぽつりぽつりと自身の不安を述べていく。妖精の尻尾のギルドの有無ではない。妖精の尻尾という家族に対しての気持ちが、みんな既に無くなっているのではないか?彼女は、そう思っているのだ。
「1年間1回も連絡をとってなかった仲間達に、手紙を送ったの……所在がわかる人だけだけど。
妖精の尻尾を復活させるために、マグノリアに集まろうって。」
「……」
「冷静に考えれば、みんな自分の道をそれぞれ進んでる。あたし達の思いが、みんな一緒かは分からない。
みんな……もうギルドのことなんか忘れてるかもしれないし…あたし━━━」
「━━━1年くれーで忘れるかよってんだ。」
「っ!!」
ルーシィの後ろから、彼女の肩に突然腕を回した人物。それは、カナだった。また昼間から酒を飲んでいるのか、片手には酒瓶が握られていた。
「カナ!」
「カナさん!!」
「よぉーっ!ナツ、ハッピー、シャルル〜!あ、ウェンディとマルクちょっと大きくなった?」
「い、いえ……」
「いいえ、特には…」
「そうかそうか……相変わらずチチでけーな。」
テンションを上げながら、再会を喜ぶカナ。ルーシィの胸を触りながら、楽しそうに一同を見回す。
「カナ……」
「いやー、この1年は私にとっても充実してたねー…とりあえず、ギルダーツでも探そうと思って旅してたんだ。手紙を受け取れたのは運が良かったよ。」
「ギルダーツさんを………」
「……ルーシィ、あんたが思ってることはみんな似たようなもんだったと思うよ。」
「え……?」
ルーシィに微笑みかけながら、カナは優しい言葉をかけていく。その言葉に、ルーシィは戸惑っていた。
「特に私は、ガキの頃からギルドにいたからね。突然解散なんて言われても意味わかんねーっつーか……どうやって食っていくのかさえ、よく分からなかった。
まぁ、いい人生経験にはなったよ。」
酒瓶を煽り、一飲みしながらカナは語っていく。ルーシィだけではない、みんな持っていたのだと。
「みんな違和感みたいなのは持ってたんだ。だから連絡する勇気もなかった……それを、お前が撃ち破ってくれたんだ。ルーシィ。」
「ぁ……」
ルーシィは、カナに言われたことで心が少しだけ軽くなっていた。先程まで、皆妖精の尻尾を忘れて新しい生活を楽しんでいるかもしれない……と思っていたが、その皆の1人であるカナは手紙を出してくれたこと、妖精の尻尾を復活させようってことに感謝してくれていたからだ。
「来いよ!みんな待ってる!!」
「みんな……?」
カナが、ルーシィを引っ張って連れていく。それを見て、ナツ達も顔を見合わせて歩いてついていく。少しは、ルーシィに花を持たせようと思ったからだ。
「へへ、やっぱりみんないるんだな。」
「さっきから匂いがしてましたもんね。」
「こういう時、
「ルーシィ、びっくりしてるよね。」
「そうね、多分手紙を出した人全員来てるんじゃないかしら。」
顔を見合わせながら、悠々と歩いていく5人。そして、その先には……ルーシィの待ち望んでいたであろう光景が広がっていた。
「えーっと……ウォーレンにナブ、リーダスとマックスと……」
「アルザックさん、ビスカさん、それにアスカちゃんもいますね。」
「ジェットさんとドロイさんもいますし、マカオさんにワカバさんにロメオもいますよ。」
「ラキとビジターとキナナもいるよー!」
「エルザ、グレイ、ジュビアとガジル、リリーとレビィもいるようね。」
ルーシィを中心として、ぐるっと取り囲んでいる者達を、一人一人誰がいるかを把握していくナツ達。合流予定だったグレイ達も既に居たようだった。
「漢の再会だーっ!!」
「ナツー、ルーシィ、ハッピー、久しぶりー!」
「リサーナ……エルフマン……」
ルーシィが、2人の名を上げて……そして、目の前に現れた者でついに我慢が効かなくなったのか、涙を零し始める。
「ミラ、さん……」
「━━━おかえりなさい、ルーシィ。」
「ただ、いま……!」
ミラが、ルーシィにほほ笑みかける。『おかえり』という言葉を聞いて、ルーシィは安心して完全に我慢が効かなくなってしまった。どれだけその言葉が聞きたかったのだろう、どれほど待ち望んだ言葉だったのだろう。
ルーシィは、声を上げてひたすらに泣き始める。みんなに会えた事、皆が妖精の尻尾を忘れていなかったこと、まだ妖精の尻尾はただいまとおかえりを言い合える家族の関係なのだと……それら全てが、ルーシィにとって嬉しいことだったのだ。
嬉しさと、喜びのあまり感極まってしまった、というわけだったのだ。
「……ん?ナツさん、どこ行くんです?」
「ちょっと、一年越しの忘れ物探しだよ……お!あったあった。」
ルーシィ達から少し離れた位置にある瓦礫の中から、ナツがとあるものを発掘する。
マルクは、その発掘したのを見て随分と驚いていた。
「これって……」
「まぁ、後で縫い直したりするだろうし、ボロボロだけどまぁいっか。」
「……ですね。」
マルクが、ナツが跡地から発掘したのを見て苦笑する。それは、彼にとっても……いや、この場にいる全員にとっても、大切なものだったのだから。ボロボロであっても、その気持ちは絶対に崩れることは無い、彼らの象徴。
「ギルドここに復活!!俺達が妖精の尻尾だ!!」
大きく、ナツが旗を掲げる。それは、ギルドの紋章であり彼ら全員の象徴である。
今ここに、妖精の尻尾は完全に復活したのであった。
妖精の尻尾復活から、2日程経過したある日。マルクは妖精の尻尾跡地のクレーターに設置された簡易テントで話していた。
「家がない。」
「……前に住んでいた家は…?」
「……」
「ごめん、私が悪かった。」
ナツ、ルーシィ、ハッピー、ウェンディ、シャルル、グレイ、エルザ、ジュビアを呼んでマルクが真剣な表情で相談していた。
「……なら、どうする?蓄えはあるのか?」
「……銀行の講座、ミラさんが天狼島から帰ってきたあとの以来くらいの時に作ってくれたんで、お金はあると思います。ほとんど使ってなかったはずですし。」
「それで家を買うなり借家を借りるなりすればいいんじゃないのか……?」
「そう、思ったんですけどね……」
マルクはポツポツと話し始めていく。まず、ルーシィが現在住んでいる借家は人がいっぱいだった。
それは、ほかの借家も同じだったのだ。唯一空いている借家は……なんと女性ばかりが多いにもかかわらず、風呂は共通の物件だったのだ。
借家が無理なら、当然一軒家というのはあるわけがなかった。
「……むりです。」
「……すまなかった。」
「……誰かの家に泊めてもらうとかか?」
「それは、考えたんですけどね……」
誰かの家に泊めてもらうにしても、まず女性陣はアウトである。それ以前に、誰かの家に泊めてもらうのは流石に遠慮したくなることである。
「えっと、ヒルズは……」
「無理です、俺が緊張だけで死にます。」
「……ですよね。」
「しかし、家がないというのは中々厳しいものがあるぞ?」
エルザがそう呟くが、しかしまさかここまで埋まっているとは夢にも思っていなかった。
何故ここまで家の空きがないのか、少しばかり不思議な話でもある。
「……一年前の戦いで、マグノリアは全壊。それになんとか復興した今であっても、人は少なくなっている方が普通のはずなんだが。」
「なんでも、殆どが新築状態でピカピカだからガンガンほかの街から人が住み始めたみたいで。」
「……復興した影響で、確かに新築には困らないところばかりだったものな。」
何か覚えがあるのか、エルザは遠い目をしていた。だが、しかしそれで問題が解決する訳でもない。
「うーん……今新しく作られてる家ってあったかしら?」
「あったと思いますよ。街の復興がほとんど出来ている今、その勢いで新築もバンバン作られているでしょうし。」
「……ねぇ、1ついいかしら?」
「なんだよシャルル。」
今の今まで沈黙を保っていたシャルルだったが、ふとマルクを見上げてジト目で話しかける。
「最悪、家を作るって言うのはダメなのかしら。」
「あー……その技術がないからな…さすがに素人が作るわけにも行かないだろうし。」
「いえだから……そういう道に進んでた人に頼んで、よ。」
「……あぁ、確かに金が足りそうなら頼んでもいいかもしれない。」
「世の中にはローンというものもある。それで払ってもいいだろう。」
マルクは、真剣に考え始める。頼んで作らせてもらえばいいだろう。その際には誰か大人の人についてきてもらうのが1番かもしれないが。
だが、いい考えである。頼んで、自分の家を作ってもらうという発想がまずなかったのだ。
「……よし、頼んでみよう。」
「ふむ、暫くはどこかに泊まらないといけないだろうが、些細な問題だろう。」
「ですね……私たち女性陣はヒルズがあって良かったです。」
「確かに、そうですね。」
方向性が決まったところで、一同は解散してそのままそれぞれのやるべきことを行い始める。
後日、マルクは預金通帳を見せて建築家と話し合った結果、それから約一週間後に新しい家が出来たのであった。