FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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代償召喚魔法

「っ!」

 

「なんだ!?」

 

エルザとマルクは、突如現れた巨大な魔力を感じる方向に顔を向ける。しかし、その方向は通常の人間ならばありえない方向だった。

空である。見れば、雲は渦のように回りながら何かを形成しているかのようにも思える。

 

「アーロック様の代償召喚魔法だ!」

 

「うおーすげー!!」

 

黒魔術教団(アヴァタール)のメンバー達が騒ぎ始める。そして、直後に地面が振動し始めて更にひび割れ始めていく。

 

「避けろマルク!」

 

「危ねぇ!?」

 

「何事だ!?」

 

「うわっ!?ちょ、アーロック様これじゃあ俺たちまで……!」

 

雲がうずまき、地響きが鳴り始め、雷が鳴り響き始める。そして渦の中心から、渦よりもはるかにでかい『足』が現れる。

 

「でかい足!?」

 

「代償召喚魔法……まさか……!」

 

「うわああああ!?」

 

現れた足は、黒魔術教団のいる所へと一気に踏み抜かれる。代償召喚魔法、何かを代償とすることで強力な者を呼び出す魔法。

何を代償にしたのかは分からないが、しかしこれを召喚した者は黒魔術教団までもを生贄に捧げようとしていることはわかっていた。

 

「な、仲間ごと…やったってのか…」

 

「外道め……!」

 

「エルザさん、アーロックって一体……」

 

「簡単に言えば、黒魔術教団のトップだ。ゼレフを信仰しているというから、余りまともさには期待していなかったが……これ程とはな……!」

 

エルザは手に持つ剣を握り締めながら、アーロックに対して怒りを燃やす。そしてそれは一理あるマルクも同じだった。

自分の部下や、仲間すらも簡単に生贄に捧げるような男にかける情けは既に消えていた。

 

「ふははははは!闘神イクサツナギは誰にも止められん!!この場全ての命を奪い尽くす迄なぁ!!」

 

遠くから聞こえてくる声。その声を、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の聴覚で聞き取ったマルクは、出てきた名前に疑問を抱く。

 

「…エルザさん、闘神イクサツナギってなんですか。」

 

「闘神イクサツナギだと……!?まさか━━━━」

 

その名を聞いて、エルザは驚きながらも上を見上げる。既に、現れた足から上を覆うように竜巻が発生しており、それにも巻き込まれて黒魔術教団の何人かが吹き飛ばされていた。

だが、徐々にその竜巻が薄れていき……呼ばれた神が、その姿を現す。

 

「いやいや……足すらあんなにでかかったのに……本体は予想以上にでかいな……!?」

 

「っ……ヤクマ十八闘神の一人を召喚したというのか……!」

 

黒い体、巨大な角、最低限の装備はより呼び出された者が神であるかの証拠のように軽装であった。そして、手にはとても長い剣を携えていた。

 

「あれが、闘神イクサツナギ……」

 

「っ!攻撃してくるぞ!!」

 

闘神イクサツナギは現れた直後は、獲物を見定めるかのようにじっとしていたが、ゆっくりと手に持つその剣を振り上げる。それが、降伏や和解の合図であろうはずがない。

 

「げっ!?」

 

振り下ろされた剣は、一直線に地面を裂いていく。遥か向こうの台地まで、一直線に削り取っていく。

例え、直撃しなかったとしても致命傷は免れないだろう。

 

「くっ……む?」

 

「あれは……剣の上に、誰か……」

 

闘神イクサツナギが振り下ろした剣の上を、がむしゃらに走る人物が1人、そこにはいた。

桜色の髪を持ち、白いマフラーをたなびかせている人物。

 

「ああああぁぁぁあぁぁあ!!」

 

「ナツさん!?あれ避けた上で速攻で乗ったんですか!?」

 

「ふ…ナツ……」

 

マルクは驚くが、エルザはまるでわかっていたかのような反応をする。だが、マルクもすぐに理解し直した。『そうだ、これがナツ・ドラグニルなんだ』と。

 

「ふざけるなよ!仲間の命をなんだと思っていやがる!!」

 

素早く走りながら、ナツは闘神イクサツナギの体を跳ねて移動していく。まるで自分の身にまとわりつく虫を叩き落とすかのように、闘神イクサツナギは手でナツを払おうとするが、今のナツの前には遅すぎる速度だった。

 

「仲間とは目的の為の手段だと悟る時が来るよ、お前にもな。」

 

「違う!仲間ってのは同じ目的に一緒に進んでいく同士だ!いや、目的なんか違くてもいい、一緒に笑って時には支えあって、互いが互いを信じ合えるようになる!」

 

「それはただの依存だ。」

 

「どんな言葉でもいいさ…とにかく、そういう絆がいつも俺を救ってくれた!!仲間の絆を舐めるなぁ!!」

 

アーロックの言葉に、ナツは言い返す。ひたすらに言い返す。バカや仲間を無下にするアーロック。仲間との絆を信じ、仲間と共に歩んでいくナツ。どちらが勝つか、というのは……実に簡単な話である。

 

「……勝ちましたね。」

 

「同じ事を考えていたな……しかし、何故そう思った?」

 

「そりゃあ……まぁ、感情的な部分が大きいですけどね。そもそもあの闘神イクサツナギっての……図体とパワーがとんでもないくらいあるだけで、圧倒的にスピードが足りてない。」

 

マルクが、エルザにそう呟きながらナツを見ていた。エルザも同じことを考えていたのか、その表情に微塵もナツが負けるという心配はしていなかった。

 

「ああああぁぁぁ!!」

 

ナツの一撃が、闘神イクサツナギの頭に入る。しかし、少し怯んだ程度で未だ倒せてはいない。

 

「その大切な仲間達を守る為に……もう目の前で誰かを失わないために、俺は強くなる!!」

 

だが、ナツは諦めなかった。拳に宿る炎がひたすらに、ただひたすらに大きくなっていく。

その炎の大きさは、簡単にイクサツナギの頭の大きさを超えていた。

 

「これが炎竜王(イグニール)の炎だァ!!炎竜王の崩拳!!」

 

その巨大な炎はイクサツナギの頭を砕き、爆煙と共にその体をも爆散させていった。

完全に砕かれたイクサツナギは、それで完全に終わったのか復活することなく、壊された建物のように崩れていく。

 

「……やっぱり、本気出してなかったんですねナツさん。」

 

その一撃を目撃して、マルクはそう呟く。しかし、あの技を受けたとしても例え暴食の力を使っていたとしても……マルクは自分が立っている自信がなかった。

 

「闘神が!アーロック様の闘神が破壊されたァ!!」

 

頭から破壊したので、当然ナツは落ちてくる。だが着地して立ち上がる。先程見た恐ろしいまでの強さ、そしてそのナツの威圧に押されて、黒魔術教団の者達は完全に戦意を喪失してしまっていた。

 

「化け物だーっ!!」

 

「逃げろー!!」

 

「ひぃぃぃぃぃ!!」

 

「あ、待てお前らも全員評議院に突き出して……!」

 

逃げ出した者達を捕まえようと、マルクが魔力を噴出しようとした時、突然第3勢力が現れる。

 

「全員逮捕だーっ!!逃がすなよコラァ!!」

 

「……っ!?!?!!?!???!?」

 

現れた人物はガジルとリリー、そしてレビィの3人とその他大勢の評議院だった。

そう、評議院にガジルが命令を下していたのだ。その様子を見て、マルクは混乱していた。何故ガジルが、評議院をやっているのかと。

 

「お!レビィとリリーか!」

 

「ナツ!」

 

「久しいな。」

 

「ギヒ。」

 

そして、ナツも評議院の服を着ているガジルを見て、心底困惑したのかとても複雑な表情になっていた。

 

「……と、ガジルによく似た人?」

 

「喧嘩売ってんのかコノヤロウ!!」

 

「いやー、あのガジルさんが評議院なわけないし。」

 

「なんでさん付けしてるんですかナツさん……」

 

混乱こそしていたが、とりあえずその場に合流するマルク。エルザも共に来ていた。

 

「あー、えーっと……ず、随分とワイルドになりましたね……ドランバルト……」

 

「おうおめえも喧嘩売ってんのか?」

 

苦笑いをしながら、マルクはガジルから目をそらす。それが、マルクにできる精一杯の現実逃避だった。

 

「食い扶持を探してる時『木』のじーさんに誘われてな。」

 

「ウォーロッドさんだ。」

 

「多分今頃冗談だったのに、とか言ってめっちゃ後悔してそうですね。」

 

「おうホントに逮捕すんぞおめぇ……とりあえず、こうしてギルドの上に立つことになった。」

 

そう言いながら、自慢げな顔でガジルはナツに指を指す。確かに、評議院ともなればギルドの上に立ったも同然であろう。

 

「ちなみにお前も逮捕だ火竜(サラマンダー)。『目付きが悪い罪』でなぁ?」

 

そう言いながら、ガジルは次々に妖精の尻尾のメンバーに指を向けていく。ルーシィ、ジュビア、ハッピー、ウェンディ、シャルルにマルク。

 

「お前は『格好がエロイ罪』で逮捕。」

 

「なっ…」

 

「ジュビアは『じとじと罪』で逮捕。」

 

「じとじと?」

 

「お前は『魚食いすぎ罪』」

 

「美味しさは罪だったのか……」

 

「お前はなんか…その存在が何となく逮捕だ。」

 

「え?何ですかそれ……」

 

「誤認逮捕で絞られて下さい。」

 

ガジルが、ウェンディに対して言ったことにマルクが噛み付く。それをガジルはスルーしてそのままシャルルの方に視線を向ける。

 

「えーっと……『紅茶飲みすぎ罪』」

 

「今適当に考えたわね。」

 

「『魔力食いすぎ罪』」

 

「……あれ、なんか俺だけ本当にありそうな気が……」

 

そして、ガジルは最後にグレイに目を向ける。その目は、先程までとは違い本気の目だった。

 

「お前は……言わなくてもわかるよな?グレイ。オレァ甘くはねぇぞ。ぐほっ! 」

 

だが、後ろからエルザがガジルの頭を篭手を付けた手で軽く拳骨を入れる。先程から居たのだが、ようやく今エルザの存在に一同が気づいたようだった。

 

「エルザ!」

 

「エルザがいたーっ!!」

 

「機嫌悪そうだよー!!」

 

「貴様……ガジルに似てる癖に随分と調子に乗っているな。」

 

「俺はガジルだ本物のなッ!!」

 

「いや、あのガジルさんが評議院なわけなかろう……」

 

そして、エルザもガジルに対しての勘違いをしていた。それに対して見かねたのか、リリーが助け舟を出す。

 

「実は本物のガジルだ。」

 

「「何っ!?」」

 

「本気で偽物だと思ってたの……?」

 

エルザとナツは驚いたが、しかしエルザはすぐさま真面目な顔に戻って状況説明に戻る。

 

「ならば話は早い、黒魔術教団の浄化作戦を止めたのは我々だ。いや、もっと言えば……」

 

「分かってるよ。」

 

「グレイのおかげで俺達もここまで来れた、感謝している。」

 

「しかし迷惑かけたことに変わりねぇ。済まなかった。」

 

グレイは申し訳なさそうに謝るが、それを咎めるものは誰一人としていない。結果的に黒魔術教団を止められたのだから。

 

「ジュビアは…グレイ様が無事ならそれでいいです。」

 

「私もまんまと騙されたよ。」

 

「お前はもう少し変装に気を遣わねぇとバレバレだぞ。」

 

「えー、バレてたの〜?」

 

話が進んでいく中、ウェンディ、マルク、シャルルの3人は少しだけ疎外感を受けていた。

ジュビアのように長い間グレイを待っていた訳ではなく、ナツ達のように黒魔術教団に忍び込んだわけでもなく、そして密かに侵入作戦を決行していたエルザ達というわけでもなく。

本当に、黒魔術教団以外の情報がほとんど抜け落ちているのだ。それに加えて、シャルルとウェンディはエルザのことも知らないので余計である。

 

「とにかく、街は守られた。」

 

「まさかみんなに助けられるとはね。」

 

「ケッ」

 

リリーとレビィが嬉しそうにする中、ガジルは少々つまらなさそうな顔をしていた。

だが、その表情は満更でもなさそうなものだった。

 

「俺達が揃えば無敵!」

 

「またみんなで一緒に戦えるなんて……」

 

「少し大きくなったか?二人とも。」

 

「いいえ、全然変わってません。」

 

「俺達、強くはなりましたけどね。」

 

「なんかギルドにいるみたいだね。」

 

「このメンツが揃うと、ね。」

 

「こーゆーの久しぶりだなぁ……」

 

その場の一同で和気藹々と話し合いながら、かつてのことを思い出す。そして、そのままの勢いでエルザが指揮を執る。

 

「さあ私達の勝利だ!勝鬨を上げろ!」

 

その一言で、全員が大きな声を出して勝鬨を上げる。それを見て、連行されていく黒魔術教団達はこう思ったらしい。

『これが妖精の尻尾なのだ』と。


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