FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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妖精の尻尾へ

静かな波の音、それにアクセントをつけるかのように鳴くカモメ達。そして、その海を渡っている船1隻。

その船には妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバー達が乗船していた。

 

「あぁ……船って潮風が気持ちいいんだな……乗り物っていいもんだなー!おいーー!!」

 

そして、その船を堪能し尽くしているナツ・ドラグニル。本来彼は乗り物全般は乗っただけでとてつもなく酔う体質であり、こうやって乗り物を楽しむことは本来できないのだ。

しかし、天空魔法を使えるウェンディ・マーベルのトロイアという平衡感覚を養う魔法のおかげで、今こうして乗り物を満喫することが出来ていた。

 

「あ……そろそろトロイアが切れますよ。」

 

「おぷぅ……も、もう一回かけて……」

 

「連続すると効果が薄れちゃうんですよ。」

 

少なくとも、魔法が効いている間だけ、なのだが。

今妖精の尻尾のメンバーはギルドに帰路についている。新メンバーとして迎え入れる新たな3人を乗せて。

 

「本当にウェンディもシャルルもマルクも妖精の尻尾に来るんだね。」

 

「私はウェンディがついていくっていうから付いていくだけよ。」

 

「楽しみです!妖精の尻尾!!」

 

マルクはずっと黙って上を向いていた。それに気づいたグレイが、マルクの隣に座る。

 

「やっぱりまだ悲しいか?化猫の宿(ケットシェルター)が無くなったことが。」

 

「悲しくないといえば嘘になりますけど……でも、マスターがあんな笑顔で逝ってしまったら、俺達もあんまり泣いていられないかな……って思ってたんですよ。

実際、俺も楽しみですよ妖精の尻尾。」

 

「そう言ってもらえると、存外嬉しいもんだな……てかこれで滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)が四人になるのか……」

 

「一応珍しい魔法の使い手のはずなんですけどね……ところでグレイさん、一ついいですか?」

 

ずっと上を向いていたマルク。ここだけ視線をグレイに戻して話しかける。

 

「何だ?」

 

「ウェンディの為にも服を着てください。」

 

とまぁこんなこともあり、一向を乗せた船は妖精の尻尾に向けて進んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で……ウェンディ・マーベル、マルク・スーリア、シャルルの3人を妖精の尻尾へと招待した。」

 

「よろしくお願いします。」

 

新たなメンバーの加入により、妖精の尻尾は沸き立った。シャルルを見てハッピーのメスだの、ウェンディに年齢を聞くだの、ウェンディに年齢を聞いた者をマルクが睨みつけただのと一悶着あったが、ウェンディとマルクにとって、皆楽しそうにしている事が印象的だった。

 

「シャルルは多分ハッピーと同じだろうけど、ウェンディとマルクはどんな魔法を使うの?」

 

「ちょっと!?オスネコと同じ扱い!?」

 

「私……天空魔法を使います。天空の滅竜魔導士です。」

 

「俺は……魔龍の滅竜魔導士……えっと、ナツさんが炎を食うみたいに、大体の魔法や魔力を食べることができます。」

 

ウェンディとマルクの紹介で、妖精の尻尾が驚いて静まり返る。流石に滅竜魔導士というのは信じてもらえないのだろうか……とマルク達は思っていたが……

 

「おぉ!?すげぇ!!」

 

「滅竜魔導士だー!!」

 

「ナツと同じか!!」

 

「ガジルもいるし一気に四人だぞ四人!!」

 

驚きこそしたものの、まるで自分のことのように嬉しさと珍しさによる興味が妖精の尻尾全体に沸き起こる。

本来珍しい魔法である滅竜魔法を覚えている、ということを信じてもらえたことにウェンディは笑顔になっていた。

 

「……おい、お前にもネコいねぇのか。」

 

「へ?あ……元幽鬼の支配者(ファントムロード)のガジルさんですか?グレイさんから聞いた話だと滅竜魔法使うとか。

……ってネコって何ですかネコって。ハッピーやシャルルの事ですか?まぁ相棒みたいな猫は……俺にはいませんね。」

 

「……そうか。いねぇのか。」

 

唐突にマルクに話しかけたガジルだったが、何かに安心感を覚えたのか、そのままマルクから離れてガジルは席につく。

マルクは、何の事だか全く分からなかったが気にしてはいけないのだろうと思ってガジルに追求することは無かった。

 

「今日は宴じゃあー!!」

 

そして、マスター・マカロフの一言により急遽宴が始まるのだった。ウェンディ達は、飲めや食えやのどんちゃん騒ぎを目にして自然と自分達も楽しい気持ちになっていた。

 

「楽しいところだね、二人共。」

 

「私は別に……」

 

「俺は楽しいしいいところだと思うけどな。」

 

こうして、ウェンディ、マルク、シャルルの3人は無事妖精の尻尾のメンバーへとなったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、妖精の尻尾って女子寮あるみたいだぞ二人共。」

 

その宴の最中、マルクは歓談しつつも妖精の尻尾についての情報をまとめていた。

ただそれはメンバーの情報などではなく、メンバーがどこに住んでいるかの情報だった。化猫の宿は村全体がギルドとなっていたため住み込みでやっていけたが、妖精の尻尾はそうもいかないのだ。

 

「家賃は……じゅ、10万J(ジュエル)……」

 

「高いわね。何とかおまけしてもらえないかしら。」

 

「流石にしてくれるとは思うけど……他の適当な宿に泊まり込んだり、二人でルーシィさんみたいに借家借りるのも危ないだろ、色んな意味で。」

 

「私達、魔導士だから大丈夫だよ!」

 

「いや、家の中で魔法使ったら全部吹っ飛ぶと思うんだけど?」

 

「あっ……」

 

マルクの言葉で、その考えに思い至るウェンディ。どうやら早くも、妖精の尻尾の空気に馴染んできたようだった。

 

「そうね、ウェンディならやりかねないわ。それ以前に襲ってきたり侵入してきた相手に対して、まず説得を試みようとするわね。それで痛い目を見てしまいそうよ。」

 

「うっ……」

 

「ほら、だからいろんな意味で危ない。女子寮とはいえ妖精の尻尾そのものを相手するなんて馬鹿な真似をする泥棒もそうそういないだろうしね。

確かに家賃は高い、けどその分の安全性がある方がいいと思うよ。女子寮にはエルザさんいるし。」

 

「……最強の矛であると同時に圧倒的な盾ね、それは。」

 

貰ってきた女子寮の資料を2人分渡してから、マルクはウェンディ達の対面に座る。

しかし、家賃10万は流石にそうそう払える金額ではないのもまた事実である。

 

「一ヶ月だから……今からいっぱい仕事すれば間に合う……?」

 

「となると……明日から仕事漬けって事になるな。手伝うよ。」

 

「……そう言えば、あんたはどこに住むのよ。男子寮もあるの?」

 

「い、いや……その辺の情報は無いけど……家はどうにかするよ……借家、借りないといけないかな……」

 

シャルルに言われて、マルクはウェンディ達から目線を逸らす。13歳という身の上で借家を借りるのも、少し大人になったというより、何故か老けた感じがして少しだけ抵抗感を覚えるマルクなのであった。

 

「女子寮に男の子も住めればいいのにね。」

 

「「流石にそれはまずい。」わよ。」

 

シャルルとマルクの声がハモる。一瞬顔を合わせたが、すぐにウェンディに向き直る。

 

「……まぁしばらくはここで寝泊まりするのが一番かな。マスターに頼み込んで、そうさせてもらうよ……」

 

「そうしなさい。このままだとウェンディが女子寮にあんたを入れようとしてくるわよ。」

 

「えっ!?」

 

「……ぷっ、それは嫌な勧誘だ。ウェンディと一緒に住んで守りたいってのはあるけど、周り全員女の人だと肩身が狭そうだし。」

 

「マルクまで〜……」

 

楽しく談義する三人。それを少し遠目から見つめる影一つ。それは元幽鬼の支配者、現妖精の尻尾という経歴をもつもう一人のメンバー、ジュビア・ロクサーである。

 

「……早速イチャイチャしてる……」

 

「いや子供なんだしそのくらいは大目に見てやれよ。あれイチャイチャっていうか保護者と子供の会話だろ。」

 

「グレイ様〜」

 

グレイのツッコミもなんのその、完全無視してジュビアはグレイに抱きつこうとしていた。

そんな短りやりとりがあったことは、宴の途中だったこともあって、ウェンディ達は気づくこともなかったのだが。

 

「でも、そうなったら私達の部屋にはマルクは入れないから遊ぶ時はマルクの家に私たちが行くことになるね!」

 

「ま、まぁそうなる……のか?」

 

「あんた、ウェンディにとことん甘い性格どうにかなさい。さっきあんた自分で『いろんな意味で危ない』って話したじゃない。自分の部屋ならウェンディに潰されてもいいって訳?魔法で家具の強化がされてない部屋なんて、ウェンディがブレス使えば一瞬で塵になるわよ。」

 

「うぐっ……」

 

「全くもう……子供なのねほんと。」

 

シャルルは文句を言いながら紅茶を啜る。ウェンディもマルクもシャルルの指摘で少しだけ沈んでいた。実際、滅竜魔導士と言ってもウェンディはついこの間までサポート系の魔法しか使ってこなかったのだ、攻撃系のブレスの加減はお世辞にも上手いとは言えないだろう。

 

「ま……でもあんたが新居を見つけたら、その時は私達でお茶会を開くのも悪くないかもしれないわね。」

 

「っ!そうだね!!」

 

「……だな。」

 

しかし、どれだけ文句を言われたり言ったりしても、余程のことがない限り、3人が仲を違えることはないだろう。

そんなこともありながら、妖精の尻尾の宴は終わりに近づいていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どお?このギルドにも慣れてきた?」

 

「はい。」

 

「女子寮があるのは気に入ったわ。」

 

「クエストもそこそこ……ってところですかね。」

 

ウェンディが女子寮に入って数日。ギルドで毎日を過ごしていた、そんなある日のことである。

 

「そう言えば、ルーシィさんはなんで寮じゃないんですか?」

 

「寮の存在最近知ったのよ……てか、寮の家賃って10万Jよね……もし入ってたら払えなかったわ今頃……」

 

「大変だー!!」

 

飛び込んで来る妖精の尻尾のメンバーの1人。そして、その直後に鳴り響くマグノリアの鐘の音。

 

「何!?」

 

「鐘の音……?」

 

「……なんか、みんな騒がしいような……?」

 

マルクが感じた通り、妖精の尻尾は鐘の音を聞いた面々がソワソワしていた。

主にルーシィが入る以前にいたメンバー……古参組、である。

 

「ギルダーツが帰ってきたァ!!」

 

「あいさー!!」

 

そして、騒ぎだすナツとハッピー。『ギルダーツ』という名前にウェンディは首をかしげていた。

 

「ギルダーツ?」

 

「私もあったことないんだけど……妖精の尻尾最強の魔導士何だって。」

 

「うわぁ……!」

 

最強と会える、その姿を拝めるらしいという情報は、ウェンディとマルクの子供心をワクワクさせていた。

しかし、その楽しそうなのを除いたとしても有り余るほどの騒ぎようが今妖精の尻尾で起きていた。

 

「どうでもいいけどこの騒ぎよう何!?」

 

「お祭りみたいだねシャルル、マルク。」

 

「ほんと騒がしいギルドね……」

 

「最強の魔導士が帰ってくるって言っても……確かに騒がしさが異常というか、なんと言うか……」

 

「無理も無いわよ。」

 

「ミラさん。」

 

ギルダーツの存在を知らないウェンディ達の様子に気づいたのか、ミラジェーンが四人に近づく。

 

「だって三年ぶりだもん、帰ってくるの。」

 

「3年も!?何してたんですか!?」

 

「勿論仕事よ……丁度いいからクエストの序列をウェンディ達に教えるついでに、ギルダーツの言っていた仕事のことを話しましょうか。」

 

そう言ってミラは魔法のペンを取り出す。空中にも描ける、便利なアイテムである。

 

「まずウェンディやルーシィたちが普段受けているクエストは、誰にでも受けられる普通のクエスト。

その一つ上にあるのがS級クエスト、妖精の尻尾のS級魔導士だけが受けられるクエストね。」

 

「エルザさん、ミラさん……あと見たことないけどラクサスさんにミストガンさんでしたっけ。」

 

「えぇ、そうよ。マスターに選ばれたものしか受けられないクエスト。

それで、さらにそのもう一つ上……これがSS級クエストよ。S級魔導士でもちょっと厳しいわね。」

 

「じゃあ今回、そのギルダーツって魔導士はそのSS級クエストに行っていたのかしら?」

 

シャルルの言葉に、首を横に振って否定するミラジェーン。更に魔法のペンを走らせながら説明を続ける。

 

「まだ上があるのよ。SS級クエストよりも上……10年クエスト。10年間誰も達成した事がないから10年クエストなのよ。

それで……ギルダーツのクエストはさらに上……100年クエストに行ってたの。」

 

ミラジェーンの言葉に、マルク達は驚き、困惑した。しかし同時にそれだけのすごいクエストを受けられるほどの実力者であるギルダーツに、興味が尽きないマルクなのであった。


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