プロローグ
一人の少年がいた。紫の髪を持った未だ年若い少年は3本の杖を持ってとある森を歩いていた。
歩き続けていると森の奥から巨大な何かが段々とこっちに迫ってくる音が聞こえてくる。響く地鳴り、パニックで鳴きながら飛んでいく鳥達。そして木々の薙ぎ倒されていく音。少年はその音のする方向に視線を向ける、耳を向ける、感覚をそれ一つに集中させる。
「GRAAAAAAAAAAA!!」
中から現れたは巨大な手足に、それに人一人分はありそうなほどの長さを持った爪を持ったモンスターだった。
本来の人間ならば、こんなものに出会った瞬間に死を悟るだろう。はたまた無謀にも戦おうとするか、懸命に逃げようとするか。
しかし、少年にはそれを倒すだけの力があった。ただの人間でないからだ。
「……大人しく戻ってくれれば、俺は怪我をさせたりしない……だから、効いてくれよ……!」
少年は1本の杖を背中から取り出してモンスターに向ける。瞬間、幾つもの魔法陣がモンスターに展開していく。
モンスターはそれに驚きつつも、それでもなお走っていこうとする。だが一瞬でも意識を向けた瞬間に既に敗北は決まっていた。
「
瞬間、モンスターは何かにつまづいたかのようにバランスを崩して、倒れる。しかし、スピードが思ったよりもあったのかそのままの勢いで地面を滑って少年の方に向かってくる。
少年は間髪入れずに次の杖を取り出してモンスターに向ける。
「
少年の目の前に二重の魔方陣が展開され、モンスターの巨体を受け止め切る。
完全に眠り、動かなくなったのを確認してから、少年はモンスターの巨体と地面の間に手を突っ込んで
「マスターの言われたことはこれで完了だな……
少年は持ち上げたまま近くの平野にモンスターを起き、そのまま帰っていく。彼の唱えた魔法の一つ、睡下三重ノ型はモンスターを眠らせる魔法。しかし、眠らせるだけでなく闘争本能が激しい個体は人間以外ならその闘争心を解消させる力もあるのだ。
「……『近くの森で暴れてるモンスターの処理』か。ウェンディじゃ確かに出来ないとはいえ他に誰かいなかったのかな。下手したら傷つけるところだったんだけど。」
ギルドに帰りながら少年はベルトにつけてあるホルダーから水晶……
そしてそれを、
「……んぐ、ふぅ……魔力を注ぐだけで発動できる簡単な魔法杖……やっぱりマスターにどうにかしておかないとな……受注するくらい良いんじゃないかなって思うけど……」
そして、こうやって時折森の平穏を保ちながらも彼はこれからも平和に暮らして行けると思っていた。
「……最近、森のあちこちの様子が変だ……前まで暴れるやつなんていなかったのに……一体どうしたのやら……マスターに聞いても『そのうちわかる』って言うだけだしな……」
そうして歩いていると、少年の家が……ギルドが見えてくる。少年の唯一の心の拠り所、『
そして、入るなり一人の少女と猫らしき生物の1匹が現れる。
「おかえりなさい!今日のクエストはどうだったの?」
「ばっちりさ。けどやっぱり異変がわからないことには根本的解決にはならないんだよな……」
少年の顔が少し曇る。少女もそれに釣られて顔を少し曇らせるが、猫らしき生物が溜息をつく。
「あんた達ねぇ……その辛気臭い顔をどうにかなさい。マスターが言わないってことはそういうことなんでしょ、私達じゃあ解決出来ないのよ。」
「そうはいうがシャルル━━━」
「反論しない!とりあえずあんたはマスターに報告しに行きなさい!!ウェンディも!とりあえず褒めておけばいいのにつられて辛気臭い顔しない!!」
シャルルと呼ばれた猫らしき生物は、少年の言う事を遮って怒鳴る。そしてウェンディと呼ばれた少女はシャルルに怒鳴られて顔を俯かせていた。
「お?帰ってたのか。マスターが呼んでたぜ。あとウェンディも呼ばれてたな。
多分、例の話じゃないか?」
帰ってきたことに気づいたのか、ギルドメンバーの一人が少年に話しかける。
例の話、と言われてすぐには思いつかなかったが思い当たりがあったのを一つだけ思い出していた。
「例の話…
「さぁな、俺にはなんともわからないよ。とりあえず、行ってきたらどうだ?『マルク』」
少年……マルクはまだ知らなかった。これから起こる出来事が彼らを取り巻く環境全てを激変させる物語であることを。
彼はまだ一切の知る由もないのであった。
ネタバレ回避、というのもありあまり詳しくは言えませんが
魔龍と魔竜は別物として考えてください