サッカーバカとガールズバンド(仮題)   作:コロ助なり~

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第5話

寝っ転がっていたら突然お腹に衝撃が走った。驚きで目を開けるとあこが俺のお腹に乗っかっていた。

 

「どうかした? あこ」

 

「ハル(にい)、あこを家まで送って!」

 

時間を見れば時計は七時前を指していた。

Roseliaの中で唯一中学生のあこをこの時間以降に家の外にいさせるのは危険だ。

 

「わかった」

 

この家に来たときやライブ後はあこを送るのは毎度のことなので断る理由もない。

起き上がって着替え始めると、―――

 

「ちょっ! ハル兄!? 着替えるなら言ってよ!」

 

あこは真っ赤になった顔を両手で塞いで文句を言ってきた。

 

……文句言いながらも指の間からチラチラ見てるよね?

 

「別に上だけだから問題ないんじゃない?」

 

「ハル兄はデリカシーなさ過ぎ!」

 

汗が気になったのでシャツだけ変えるつもりだったのだが、それでもダメらしい。

 

「小さい頃に一緒にお風呂に入ったこともあるのに?」

 

俺が高校に入ってからはないが、中学生のときまでは何度かお互いの家に泊まったこともある。

 

「だーかーらー! そういうことじゃないの!」

 

なぜそこまで怒るのかは不明だが、要するにあこの前で着替えなければいいだけの話だろう。

 

「次は気を付けるから」

 

とか言いつつちゃっかり着替えを終えて、あこ共に玄関で靴を履く。

 

「ハル兄はホントにデリカシーなさ過ぎだよね! 周りに女の子が多いこと自覚してよ!」

 

玄関を出てからもあこからの説教は続いた。

デリカシーがないだの、鈍感だの、サッカーバカだのと最早俺に対する愚痴だった。

途中から説教に飽きたようで、巴の話やRoseliaが次に練習する曲の話をしていたらしい。

他には巴がすごいドラマーだの、巴がカッコイイだの、巴が優しいだのを教えてきた。

 

説教の次は巴の話ばっかだな……。

 

あこの話を一方的に聞いている内にあこの住む宇田川家に着いた。

 

「送ってくれてありがと、ハル兄! またねー!」

 

玄関の前で振り返ると手を振ってきた。

 

「ああ、また」

 

手を振り返しながらあこが家の中に入るのを見届けると、踵を返して元来た道を―――

 

「あれ……? ハル先輩?」

 

声のした方に振り返えればあこの姉である宇田川巴がいた。

 

 

 

 

 

「しばらくぶりですね」

 

巴と遭遇して、宇田川家の壁に二人並んで寄りかかりながら会話をしていた。

 

「そうだっけ?」

 

「……そうですよ。先輩が中学に入ってから、特に高校から会った回数は両手で数えられるくらいですから」

 

そう言われると、中学時代はサッカーで忙しくて巴達と遊んだ記憶はそんなにないことに気が付いた。逆に、近所に住む友希那やリサは毎日と言っても過言じゃないくらいの頻度で俺の家に上がっていたが。

 

「それと、いつもあこを送ってもらってすいません。お礼を言おうとしてもタイミング悪いみたいで……」

 

宇田川家にいる事情を説明すると巴が頭を下げてきた。

 

「ううん、気にしないでよ。中学生が一人で夜に出歩くのは危ないから。それじゃあ、俺はこれで―――」

 

「あ、あのっ!」

 

帰ろうとしたら巴に呼び止められた。

 

「ん? なに?」

 

「たまには……その……昔みたいに家に泊まりに行ってもいいですか?」

 

巴らしからぬモジモジした態度に少し笑いそうになる。

 

「うん、いつでも……は無理だけど、お互いの都合が良かったらおいで。もちろん蘭達も誘っていいから」

 

「はい! あいつらも誘っていきます!」

 

「あ、巴」

 

家に入ろうとした巴を今度は俺が呼び止めた。

 

「? なんですか?」

 

「高校入学おめでとう」

 

巴の学校は中高一貫だから進学の方が正しいのかもしれないが、今の言い方でも問題ないだろう。

 

「ありがとうございます! おやすみなさい!」

 

おやすみの挨拶をした巴は嬉しそうに家の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新学期が始まり数日が経った。

入学式が過ぎれば、次は部活勧誘で忙しい時期だ。

それは俺の所属するサッカー部も例外ではない。そのはずなのだが、なぜかサッカー部はポスターを張らず、勧誘の声かけもせずに通常の部活をしている。部活動紹介でもキャプテンがサッカー部の成績を説明したくらいだ。

 

「キャプテン、どうしてサッカー部は積極的に勧誘しないんですか?」

 

部活の休憩時間に三年生でサッカー部のキャプテンである烏丸大進(からすまたいしん)に尋ねた。

 

「理由は単純。桜木、お前がいるからだ」

 

黒い短髪でがたいの良い男が、何を馬鹿なことを問うているのだという顔つきで答えた。

 

「え、あー……なるほど」

 

「……お前はもう少し自分がどれだけすごいか理解しろ」

 

この間、リサにも似たようなことを言われた。

 

「念のために言っておくが、桜木遥という新聞やテレビに出た()()()()()()がいると勧誘をしなくても人は来る。無駄に勧誘してギャラリーが増えても練習に集中できないだけだからな」

 

キャプテンが言った通り俺は元U-15日本代表。中学時代に三年間選抜され続けた。

去年はU-18の選考会にも呼ばれたのだが、事情があって行ってない。

 

「入部希望者がいてもお前は相手にするな。それからサインや握手もなしだ。特に女子だ! いいな?」

 

流石にサインや握手は求めてこないと思うんだけどな……。

 

「了解しました」

 

休憩時間が丁度いいタイミングで終わり、チームに分かれてゲーム形式で試合をした。

 

 

 

 

 

「帰らせるって酷くない?」

 

あの後、新入生の見学者がキャプテンの懸念通りに騒がしくなったため、キャプテンに強制的に帰らされた。まさかの監督も部員達とも合意済みだとは思いにもよらなかった。

 

「こういう時は帰ってサッカー―――ん?」

 

道端に光り輝く何かを見つけた。

気になって近くによって確認してみたら、それは金色の星だった。

 

何かについてたもの? 誰かが意図的に? ……この謎が解けた時、俺は名探偵に…………なれるわけがないな。

 

自分の頭の中の下らない考えに苦笑いをして、家に帰ることにした。

 

「―――あなたも星を見つけたんですかっ?」

 

「はい?」

 

星? あ、今のやつか。

 

俺に話しかけてきたのは猫のような髪型をした少女だった。

制服が紗夜の通う学校のものと同じだから、彼女は花咲川女子学園の生徒だろう。

 

「一応そうだけど……」

 

「じゃあ、一緒に探しましょう!」

 

「なにがどうなって“じゃあ”なのか俺にはさっぱりなんだけど!」

 

彼女の頭の中ではどういった超理論が出来ているんだろうか?

 

「この星を辿っていけばドキドキすること間違いなしです!」

 

「すでに俺は君の将来に心配でドキドキしてるんですけどね!」

 

「えへへ、そんなに褒めないでくださいよ~!」

 

「今ので褒められたと思う君が素直に凄いと感心するよ!」

 

結局、この子が心配になり星探しを手伝うことにした。

 

「あ、星見っけ!」

 

電柱、看板、郵便ポスト等々。町の至る所に金色の星は見つかった。そして、星を見つけて辿り着いた先は質屋―――『流星堂』。

両脇の壁に大量の星が貼られていた道を奥に進むと蔵があった。

先に走って辿り着いた彼女が興味深々に蔵を覗き込んでいる間、俺は周囲を見回した。すると、盆栽を手入れしていた金色の髪の少女と目が合った。

 

女の子が盆栽……?

 

「…………」

 

少女はツカツカと無言で近寄ってくる。ハサミという凶器に成り得るものを手に持っているので若干怖い。

 

「……不法侵入」

 

ですよねー。

 

「そこの蔵覗いてる奴も出てこい!」

 

「うひゃああああああッ!?」

 

金髪少女の怒鳴り声に蔵を覗いていた方の少女がかなりビックリしていた。

 

「二人共手を上げて!」

 

「は、はい!」「はーい」

 

少女の言うことを素直に聞いた方が身のためだろう。経験上女性に逆らうと碌な目に合わないことは小さい頃から主に友希那とリサから学んでいる。

 

「名前は?」

 

「戸山香澄です!」

 

今更ながらに少女の名前を知った。

 

「そっちは?」

 

「桜木遥」

 

「ん? 桜木……? あの人と同じ名前……それにかなり似てる……―――――ッ!?」

 

俺の名前を聞いた少女は驚きで目を見開いていた。

 

「どうかした?」

 

「あの、つかぬ事をお聞きしますが、サッカー得意だったりします?」

 

「得意っていうよりそれくらいしか取り柄がないかな」

 

「に、日本代表だった経験とかあります?」

 

「あるよ」

 

「…………」

 

質問が終わったかと思えば、今度は俯いて肩を震わせていた。

彼女は紗夜の時のように俺を嫌う人で、俺が目の前にいることに怒っているのかもしれない。

 

「…………さい」

 

『?』

 

 

 

 

 

「―――桜木遥さん! あなたのファンです! サイン下さい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 











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