サッカーバカとガールズバンド(仮題)   作:コロ助なり~

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第3話

リサと買い物が終わり帰宅したのだが、リサが俺の家までついてきた。

 

「買い物終わったのになんでついてくるの?」

 

「今日はこれからRoseliaが集まるんだよ。もうハルの家に皆集まってるって」

 

ほら、と言ってリサがスマホのグループチャットを見せてきた。場所は桜木家。どうせ拒否権なんて存在しないのはわかってるけど、一応一言言って欲しかった。

 

「その話一切聞いてないんだけど! しかも集まるってことは……アイツも来んだよね?」

 

ここだけの話だがRoseliaには苦手な人が一人だけいる。

 

「そりゃメンバーだから当然でしょ」

 

内心でマジか……と呟きながらも来てしまったのだから今更どうしようもない。それならできるだけ穏便に過ごそうと心に決めて家に入る。

 

「遅かったですね、今井さん。あら、桜木さんも一緒でしたか」

 

早速、俺の苦手な人物―――氷川紗夜(ひかわさよ)がリビングで出迎えてくれた。

 

こういうのってフラグ回収って言うんだっけ? 

 

「……こんばんわ。ごゆっくりどうぞ」

 

紗夜から逃げるように自分の部屋に入った。

着替えてから脱いだ制服をハンガーにかけ、ベッドに寝っ転がった。

目を瞑ると紗夜との出会いを思い出した。

 

 

 

 

 

―――俺こと桜木遥と氷川紗夜の出会いはあまり良いものではなかった。

 

紗夜と出会ったのは俺が高校に入ってから五月になった頃だ。

その日は部活が無く、家に帰ってサッカーでもしようかと思っていたら、友希那から連絡があった。

 

『放課後、私の通う学校に来て』

 

友希那は言い終えるなり、俺の返事も待たずに通話を切ってしまった。

詳しい内容も説明されてないし、何よりサッカーがしたい。だが、これで行かなかったら翌日会ったときの友希那が怖い。

 

あれ? 俺って尻に敷かれてない? 

 

なんだか無性に悲しくなってきたが、幼馴染がそんなことするはずがないだろう。

とりあえず羽丘女子学園に向かった。

 

「来たわね。行くわよ」

 

「どこに?」

 

「ライブハウスに決まっているでしょう?」

 

友希那の中では当たり前かもしれないけど、俺の中ではそうじゃないんですけど……。

 

かといって、友希那がコンビニとかショッピングモールに誘うというのも想像し難い。俺も友希那の立場だったらサッカーが出来る場所に行くことが当たり前になってるだろう。

 

「友希那ーっ! 待って……ハル? なんでここにいんの?」

 

校舎の方からリサが駆け足でやって来た。

大方、友希那とどこかに行こうと誘ったが、断られたところだろう。

俺が人に言えたことじゃないが、音楽以外にも目を向けるべきだと思う。

 

音楽以外に目を向けない理由を知ってるからなおさらに。

 

「ライブハウスに行くんだとさ」

 

「へぇー、そっかそっか! ……友希那、ずるい」

 

一瞬だけリサが拗ねた顔になった。

 

ずるいって何に対してだ?

 

「……なんのことかしら。時間が無いからもう行くわ」

 

友希那はリサを置き去りにしてスタスタと歩き出した。俺も友希那に付いて行こうとするのだが、なぜかリサまで付いて来だした。

 

「どういうつもり?」

 

「アタシ、最近できたアクセショップに行くんだ。場所がライブハウス近くだから、途中まで一緒に行くくらい良いでしょ?」

 

「……わかったわ」

 

今度は友希那が拗ねた顔をした。あまり表情が豊かではないからわかりにくいが、こちとら十年以上幼馴染をやっているからそれくらいは気付く。

 

昔はもっと笑う女の子だったんだけどな……。

 

友希那とリサの間に挟まれながら三人で目的地へと歩き出した。

 

 

 

 

 

「このバンド……」

 

「ギター以外は話にならないわね」

 

一組のバンドの演奏を聴いて、友希那が厳しい評価を下した。

 

「私やお父さんの歌を聴いてきたあなたならわかるわよね?」

 

「まあね」

 

サッカー一筋でやってきたが、それと同時に友希那や友希那のお父さんのバンドの演奏をたくさん聴いてきた。そのおかげか、多少()()()()

ちなみに俺が使うことのできる楽器はリコーダーと鍵盤ハーモニカが精一杯。

 

『紗夜ーーーっ! 最高ーーーッ!』

 

ギターを上手く弾いていたのは『紗夜』と呼ばれる少女だった。

 

「ねえ、あそこにいるのって友希那じゃない? ……迫力あるね」

 

「しっ。聞こえるよ。……友希那は気難しいって有名なんだから」

 

はい、お二人さんばっちり聞こえてますよ。それにしても―――

 

「友希那が迫力ある……気難しい…………プフッ」

 

「笑わないで……!」

 

恥ずかしくて俺の肩をバシバシ叩いてくるが全く痛くない。

 

「あ! 友希那さん、この前は―――」

 

「あれ? 友希那の隣にいるのって……桜木遥じゃね?」

 

「え!? マジ!?」

 

友希那に話しかけてこようとした人は俺の方に注目が集まったことによって遮られてしまった。

 

「よし、退散しよう!」

 

囲まれる前に友希那の手を引いてスタジオロビーに逃げた。

 

 

 

 

 

「ふぅ……危なかったぁ」

 

ロビーの椅子に座り一息つく。

 

「流石はサッカー日本代表ね。幼馴染として誇らしいわ」

 

「“U-15”と“元”が付くけどね」

 

「それでも凄いこと―――」

 

「もう無理! あなたとはやっていけない!」

 

『!』

 

いきなり怒声がロビーに響き渡り、近くに居た俺と友希那は驚いてしまった。

 

「……私は事実を言っているだけよ。今の練習では先が無いの。バンド全体の意識を変えないと……」

 

声がした方を見れば、先程演奏をしていた『紗夜』とバンドのメンバーが揉めているようだ。

盗み聞きはよくないのだが、俺達がいる席にはっきりと聞こえてしまっている。紗夜と他のメンバーの会話は平行線状態だ。

 

「紗夜にはバンドの技術以外に大切なものはないの?」

 

「ないわ。そうでなければ、わざわざ時間と労力をかけて集まって、バンドなんてやらない」

 

「私達……仲間じゃないの……?」

 

メンバーの一人は今にも泣きそうな声を出していた。そこに紗夜が止めを刺した。

 

「……仲間? 馴れ合いがしたいだけなら、楽器もスタジオハウスも要らない。高校生らしく、カラオケかファミレスにでも集まって、騒いでいれば十分でしょう」

 

「ハル……」

 

友希那が心配そうに俺の名前を呟く。

 

「大丈夫。もう、あのときのことは大丈夫だから」

 

もちろん嘘だ。“仲間”というワードがほんの少し前の出来事を思い出させる。友希那やリサにバレバレだとしても誤魔化す。

結局、そのバンドは紗夜が抜けることで話がまとまった。

紗夜以外の人達はライブハウスを出ていき、紗夜だけが取り残された。

 

「! ……ごめんなさい。他の人がいたのに気づきませんでした」

 

俺達がいたことに気が付くと、紗夜は気まずそうに目線を逸らした。

 

「さっきの演奏、聴いたわ」

 

「……最後の曲で私にはミスがありました。拙いものを聴かせてしまって申し訳ありません」

 

ほんの一瞬遅れただけのはずだが、それがミスと言うのなら相当な理想の高さだろう。

 

「友希那、この人と組んだら?」

 

『!』

 

俺からの突然の提案に二人の目が大きく見開かれた。

演奏と今のやり取りだけでの判断だが、彼女なら友希那となら波長が合うと思う。

 

俺とは絶対に合わないだろうけどね……。

 

「すみませんが、そちらの方の実力がわからないでの、今はお答えできません」

 

どこの誰とも知らない相手の提案にすぐには答えを出せないのは当然のことだ。むしろ、今すぐに返答を求めているわけではないので、考えてくれるだけでもありがたい。

 

「私はこのライブハウスは初めてなんですが、あなた達は常連の方なんですか?」

 

「そうよ」

 

俺は聴く方でなら友希那に強制連行され続けてきたので、ある意味常連だ。

 

……俺ってやっぱり尻に敷かれてる?

 

「私は湊友希那。ボーカルをしてる。FUTURE WORLD FES.に出るためのメンバーを探してるの」

 

FUTURE WORLD FES.―――簡単に言うと、サッカーでいうワールドカップみたいなものだ。フェスに出るためのコンテストですらプロでも落ちるのが普通のイベントらしい。

小さい頃に友希那に嫌というほど熱弁されて頭に残ってしまっている。

 

「私もフェスには以前から出たいと思っていました。でも、どれだけバンドを組んでも実力が足りず、諦めてきた……。ですから、それなりに実力の覚悟のある方とでなければ組むつもりはありません」

 

「そう。なら、私の歌を聴いてもらえばわかるわ」

 

「待ってください。例え実力があってもあなた達が音楽に対してどこまで本気なのかは、一度聴いたくらいではわかりません」

 

「私はフェスに出るためなら、何を……いえ、一つのことを除いて捨ててもいいと思ってる」

 

「なんで俺を見んの?」

 

「……あなたの覚悟や理想に自分が少しも負けているとは感じていないわ」

 

無視か。

 

「わかりました。あなた達の演奏聴かせてもらいます」

 

「あのさ、さっきから俺も演奏するみたいになってるけど、俺は出ないからね?」

 

「……は?」

 

紗夜が固まった。話の流れからすれば俺も出るみたいに思われても仕方のない事ではあった。

 

「―――って、あなた、もしかしてあの桜木さん……ですか?」

 

「君の言う桜木さんがどの桜木さんかは知らないけど、人違いじゃない?」

 

「U-15のサッカー世界大会で三連覇を成し遂げたメンバーの一人の桜木遥のことかしら? それだったら今あなたの目の前にいる人物がそうよ」

 

「!」

 

紗夜の目が大きく見開かれた。しかし、数秒もすれば目付きが鋭いものに変わっていた。まるで親の仇でも見るかのような。

そして、紗夜は徐に口を開いた。

 

 

 

「―――私、あなたのことが嫌いです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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