「―――で、申し開きはあるのかしら?」
友希那の下着を見たことによって俺は殴られ、現在正座中。
対するは私服に着替えた友希那とお風呂を使っていたらしい湯上りのリサが般若の如き面構えで仁王立ちだ。
正直言って怖い。目も合わせられない。
「友希那に似合ってて可愛かった―――イタッ!」
可笑しい。女子の機嫌が悪いときはとにかく褒めまくるのがいい、とカズに言われたのを実践したのに頭をはたかれた。
女子って難しい……。
「そこは友希那に謝るべきじゃない?」
「え、アレって俺が悪いの?」
「……どういう意味かしら?」
友希那の声音がさらに低くなった。
ヤバいよ、友希那さんマジ切れだよ!
「だってここ俺の部屋だよ。むしろ友希那がここで着替えてる方が可笑しいと思うんだけど」
「それは……」
よくよく考えるとこの家を我が家同然に使っている二人に問題が在るような気もする。使わせてる俺にも問題はあるのだが、両親が二人を認めた上で合鍵を渡している。今更のことだから追い払うことはないが、年頃の娘がそんなのでいいのだろうか。
「ま、そもそも
小さい頃から一緒にいたおかげで下着どころか裸だって見たことある。だから見ても見られても全く気にならない。
……あら? なんか空気がさらに冷えたような……?
「ねぇ、リサ」
「オッケー♪ ちょーっとばかし、ハルにはお仕置きが必要みたいだね」
友希那の顔は変わらないが、リサの顔が般若から笑顔になった。なんだかさっきよりも別の意味で怖く感じる。
「さ、明日も学校だから早く―――」
俺の直感がこの場は逃げるべきだと警鐘をガンガン鳴らす。それに抗うことなく部屋から出ようとしたのだが、両肩を押さえつけられ立ち上がることが出来ない。
『まだ時間に余裕はあるから安心して』
新学期早々に幼馴染二人に理不尽な目にあわされた。
ついでにその日は二人は元々泊まる気だったらしく、強制的に一緒のベッドで寝かされた。
「どうりでそんなに顔が腫れてるわけだ」
翌日、学校の休み時間中に昨晩のことをカズに話したら苦笑いを返された。しかし、一瞬で表情が変わった。
「だがな、その後のことは許せん! 美少女二人と一緒に寝るだと!? なんて羨まけしからんことを!」
『そーだそーだ!』
いつの間にかクラス中の男子がカズに便乗していた。それを見ていた女子は憐みの視線を向けていたことは俺以外気が付いていないだろう。
「昔から良く一緒に寝てたから今更だと思うけどな。それに、なんだかいつもよりぐっすり眠れたかも」
理不尽な目にあったが二人のおかげで今日はすこぶる体調がいい。これからは試合前にリサと友希那と一緒に寝てみるのもありかもしれない。
「だまらっしゃい! 感想なんぞ聞きたくもないわ! お前は俺達非リア充の敵! いや、怨敵と言っても過言じゃないね! このラノベ主人公が!」
「ええー……?」
言い訳は無用と言わんばかりに俺の意見は取り消され、勝手に敵にされてしまった。
この面倒な状況をどうしようかと考えていたら、普段全くと言っていいほどに使わないスマホに着信があった。
「えっと、確か……このボタンを……。カズ、電話に出るにはこの赤いボタンだっけ?」
「それは通話を切るボタンだ! 緑色の方が電話に出るボタン!」
扱いに不安になってカズに聞いてみたら、案の定間違えていた。流石カズ、頼りになる親友だ。
緑色のボタンに触れ、相手との通話を始める。
『もしもし? アタシだけど、今大丈夫?』
「詐欺の電話?」
『詐欺ちゃうわ! アタシだよアタシ! 今井リサだっての!』
「なんだリサか。こういうのは名前をきちんと名乗るのが大事だよ」
『ご、ごめん……って、連絡先登録してんだからアタシの名前出てるでしょ!?』
「そうだっけ?」
言われてみればリサの名前があったような無かったような。通話ボタンに夢中で気が付かなった。
「で、何か用?」
『今日さ、ハルは部活休みって言ってたよね? 私も丁度休みでさ……だ、だから、その……放課後で、デート―――じゃなくて買い物でもどうかな!?』
「え、やだ。サッカーしたい」
『(女子からの誘いを断るとかこいつ
『そこをなんとか!』
リサとの通話中にクラスの人からの視線が痛くなった気がする。なんだか無性に居た堪れない気持ちになり、リサの買い物に付き合うことにした。
「……わかったよ。放課後、羽丘女子学園に行くから校門の前で待ってて」
むぅ……今日は調子がいいから思いっ切りサッカーをしたかったなぁ……。
『ありがと、ハル!』
お礼を言い終えたリサは通話を切った。
「お前、いい加減にスマホの使い方くらい覚えろ。この時代だと致命的だろ」
カズの言う通り、スマホの使い方くらいマスターしたいのだが、俺は所謂機械音痴というやつで、どうしようもなく機械が苦手だ。
本当は使いやすかったガラケーの方が良かったのだが、友希那やリサに強く勧められてスマホに変えた。
「そうなのか?」
「そうだよ! ってお前、よくよく考えると普段からLINE使わないし、携帯ゲームもしないし、連絡先少ないし……この先、生きていけるか心配になって来たぞ」
普段から連絡とる相手なんて友希那、リサ、カズの三人だ。部活の連絡もあるが、それは既読をつけておけば問題ないと監督に言われてる。
「大丈夫、サッカーさえあれば問題ない」
「問題大アリだわ! それだけで生きていけると思うなよ!? 炊事洗濯はどうすんだよ!?」
「リサが「ハルがプロのサッカー選手になって私を養ってくれるなら、毎日ご飯作って掃除も洗濯もしてあげるよ♪」って言ってた」
「それ暗にプロポーズしてねッ!?」
「リサは家政婦なりたいんじゃないのか?」
「違わない、違わないけどッ! それは絶対に違うって断言できる!」
「そっか。……さっきから叫んでて疲れない?」
「労ってくれてありがとうございます! 殺意を込めてお礼がしたいくらいです!」
「誰にお礼すんの?」
「女子の好意に全く気が付かないラノベ主人公サッカーバカにだよッ!」
カズが俺の肩を激しく揺らし始めたところでチャイムが鳴り、カズから解放されると次の授業に備えて席に着いた。
「待ち合わせ場所、間違えたかなぁ……」
放課後、リサと友希那の通う羽丘女子学園を待ち合わせにしたのだが、如何せん好奇の視線が多い。
多分、女子校だから関りの少ない男子高校生が余程珍しいのだろう。
「ねぇ、あそこにいる人……サッカーの……」
「あ、そう言えばさっきからどこかで見たことあるなぁって思ってたんだけど、やっぱり……!」
現に、今もすれ違う女子生徒が俺をチラ見しながら小声で話していた。
「ハル、おっまたせー!」
校門の壁に寄り掛かっていたら、リサが小走りに駆け寄って来た。
「助かったよ、リサ」
「? 私何かしたっけ?」
「女子校を集合場所にするべきじゃなかったってこと」
「あー、なるほどねー……」
詳しく伝えなくても通じてしまうところは、伊達に十年以上俺の幼馴染をやってきてない証だ。
「それにハルってそこそこ有名じゃん? それこそ業界の人であればなおさらだと思うな」
思い当たることは一つだけある。
「アレってそんなに注目浴びてた?」
「十分浴びてるよ! 全国放送だってされたんだから!」
リサと肩を並べて歩き出し、会話を続ける。
「今年も目指すの?」
「聞かずともわかってるでしょ? 俺の答えなんて」
「……まあね。これでもアタシは友希那とハルと十年以上一緒にいたんだから大抵のことはわかってるつもりだから」
「俺もリサや友希那のことは大抵わかってると思うな」
「そりゃそうでしょ。……肝心なことには気が付かない鈍感だけど」
後半部分が小声だったがばっちり聞こえた。
「肝心なことって?」
「何でもないよ、サッカーバカ」
「あ、待てよっ」
子供っぽくあっかんべーをして駆け出したリサを慌てて追いかけた。
サッカー部に入っている俺からすれば追いつくことは容易く、数秒もすればリサを捕まえることが出来た。
「んで? どこに行く?」
「もう着いてるよ」
俺達の目の前にあったのはショッピングモールだ。
「うわっ……ここで買い物……」
今日は絶対に帰るの遅くなるな。
「そんな露骨に嫌そうな顔しないでよ。ほら、行くよ」
「はいはい、今日は付き合うって言ったの俺だし、どこまでもお付き合いしますよ」
リサに腕を組まされながらショッピングモール内を歩き始めた。