サッカーバカとガールズバンド(仮題)   作:コロ助なり~

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if 五等分のサッカーバカ

 

 

 

俺―――桜木遥は、現在進行形で困った状況に陥っていた。

17年間生きてきた中で一番困ったことと言い切れる。下手をするとこれから先、このこと以上に困るようなことが起こらないような気さえするくらいだ。

その原因は目の前の視線で火花を散らし合う少女達。

 

……わけがわからないよ。

 

片や個性豊かな五つのバンドの少女達。片や同じ顔の五人の少女達。

スタンド使い同士が惹かれ合うが如く、選ばれし勇者が魔王を倒す運命にあるが如く、彼女達の出会いは必然的だったのかもしれない。

だが、ここまで不仲になることを誰が予測できたであろうか。

この状況になるまでの出来事を現実逃避気味に振り返った。

 

 

 

 

 

全ての始まりは、ガールズバンドの一人、戸山香澄の一言だった。

 

「皆で旅行行きたい!」

 

ライブハウス『CIRCLE』に呼び出されたイベント関係者が集まる一室で何の前置きもなく彼女はそう叫んだ。

五つのバンドによる合同ライブが無事終わり、その後も交流が続く中、まだまだ交流を深めたいと思ったのだろう。

 

「そう。日程は?」

 

「決まってません!」

 

「……予算は?」

 

「決まってません!」

 

「…………行きたい場所は?」

 

「決まってません!」

 

「なんも決まってないのか!?」

 

「はい! 昨日思いついたので!」

 

そんな自信満々に返事すんなよ……。

香澄のこれは今に始まったことじゃないからただ呆れるだけで済むからいいものの、もう少し考えて欲しい。

有咲の苦労がほんの少しだけ分かった気がする。

 

「……まあいいよ。とりあえず、皆の中でどこか行きたい場所はある? いきなりで申し訳ないけど提案してくれると嬉しい」

 

「キラキラドキドキできる場所がいいです!」

 

「はい、参考にならない意見ありがと。あとで有咲にお説教されなさい」

 

「任されました」

 

「二人共酷いっ!」

 

「アタシはハルと楽しめればどこでもいいよ」

 

「私も同じね」

 

リサと友希那はどこでもいいらしいが、それは結構困る意見だ。まあ、俺自身二人と一緒なら大抵の場所は楽しいと思えるから気にはならない。

 

「森とか海があるといいわ!」

 

こころは楽しい場所がいいと。それは割とどこでもありそうだ。

 

「出来ればあまり有名な観光地は遠慮したいわ」

 

千聖の意見は芸能人としての周りへの配慮だろう。

名の知れた彼女達によって人だかりができると他の子達の迷惑になると考えてのことだ。

他にも色んな意見を貰ったが、結論から言って場所選びが何とも難しい。

スマホでいくつか調べてもらったが、候補になりそうな場所は予約が埋まっていたり、お金の少ない高校生では少々手の届かない値段の場所がほとんどだ。

 

「ねぇ、ハル。ハルのおじいちゃんのところはどうかな?」

 

「……じいちゃんのところ?」

 

リサから言われたことに最初はピンとこなかったが、徐々にその意味を理解した。

俺の母方のじいちゃんは旅館を経営してる。

こころの提案通り、山と海はそこそこ近いところにある。

しかもこういうのはアレだが、千聖の配慮にも適している人気の少ない場所にある旅館だ。

 

「早速じいちゃんに電話して―――どうやって電話すればいいの?」

 

いつもの機械音痴を遺憾なく発揮して皆を呆れさせたものの、色々条件付きでちょっとお安く泊めてもらえることになった。

その後は紗夜先導の元、日程や予算をサクサクと決めて解散。

夏は仕事で忙しいはずのパスパレは、千聖がマネージャーに交渉に交渉を重ねた結果、夏休みをもぎ取ったそうだ。

 

 

 

 

 

そして、旅行当日。

待ち合わせの駅前からこころのところの黒服さんにマイクロバスで近くまで港まで送ってもらい、船に乗って島へ行き、山の中を歩いてお昼前にじいちゃんの旅館に到着。

俺の隣の席を誰が座るかで揉めることもあったが、割愛させていただく。

 

「じいちゃん、今回はありがと。いきなりこんなに大勢で押しかけちゃってごめんね」

 

「なに、可愛い孫が来てくれるだけで嬉しいもんだよ。友達もこんなに連れ……女の子ばっかなのはどういうことだ?」

 

やっぱりそこに目が行くよね。

 

「あ、あはは……同性の友達あんまいなくってさ」

 

本当ならカズも来る予定だったのだが、前日になってどうしても外せない用事が入ってしまったらしく、今回は不参加。よって男女比1:25という状態である。まあ、カズがいたところで大した変化でもないのだけど。

 

「まあいい。山の中歩いて疲れただろう? 部屋で休んできなさい。あとで手伝いをしてもらうからな」

 

「うん、わか―――」

 

「あれ? もしかして、遥……ですか?」

 

じいちゃんから鍵を受け取って部屋に上がろうとしたとき、誰かに名前を呼ばれた。

振り向いた先にいたのは―――

 

「五月?」

 

俺の従姉妹に当る少女、中野五月とその姉妹。そして、彼女達の両親だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遥兄、知り合い……?」

 

25人の誰もが気になっていたであろうことを最年少のあこが尋ねてきた。

 

「俺の従姉妹」

 

『い、従姉妹!?』

 

皆の驚きはさておき、ここで俺の従姉妹について話そう。

従姉妹がいるというのなら、どこにでもあるありふれたことだ。だが、俺の従姉妹は違う。なんと世にも奇妙で不思議で珍しいことに五つ子の姉妹なのだ。

 

長女、一花。

 

次女、二乃。

 

三女、三玖。

 

四女、四葉。

 

五女、五月。

 

顔、声、服装。ありとあらゆる要素が全く見わけの付かないくらいに似すぎている少女達。

中学生になる前あたりからは各々髪型や言葉遣いを変えて特徴が出始めたのだが、赤の他人からすれば顔が同じなので見分けるヒントにはなり得ない。

身内である俺も見分けが付くまでは何度も彼女達を間違え、怒らせたり、泣かせたり、おまけに五つ子ゲームなるもので負けて、罰ゲームとして人には言えない黒歴史も生まれたりしたものだ。

 

と、まあ彼女達の紹介はそこまでにしておいてだ。

 

「ハルカ君じゃん!」

「ハル君、元気してた?」

「……久しぶり」

「サッカー、頑張ってるみたいですね!」

「おじいちゃんの旅館で会うなんて、すごい偶然です!」

 

「お、おう……」

 

ガールズバンドの少女達を押しのけるようにして五人同時に話しかけてくるものだから、適当に返すだけで精一杯。

俺は聖徳太子ではないので聞き分けるなんて無理だ。

 

「五人共、落ち着いてください」

 

『はーい』

 

俺が明らかに困っているのを見かねた五つ子の母親―――零奈さんが助けてくれた。

流石母親。娘の暴走を止めるのは随分手慣れている。

そして五つ子と入れ変わるように零奈さんが近づいてきた。

 

「久しぶりですね、遥。体は大丈夫ですか?」

 

「おば―――零奈さんにだけは言われたくないな」

 

おばと言いかけた瞬間、普段無表情の零奈さんのそれ以上言ったら殺すと言わんばかりの目付きとなって、慌てて訂正した。

……零奈さん、そういうの気にする人だっけ?

 

「叔父さんはそこまで久しぶりじゃないかな」

 

叔父さんは大きな病院で医者をやっている。それ故に、俺がケガをしたときに面倒を見てもらったこともあり、その後も定期健診で月に何度かは顔を合わせる機会がある。

 

「そうだね。……一応聞いておくが、以前のような無茶な練習はしてないだろうね?」

 

「言いつけは守ってるよ」

 

流石に両親や皆に迷惑掛けたくないし、何より俺自身がサッカーできなくなるのは嫌だから。

たまにオーバーワークもあるけど、休む時は休んでるからダイジョーブダイジョーブ。

 

「……どうやら君のサッカーバカは私でも手に負えないようだね……」

 

俺の考えていることをなんとなく察したのか、そんなことを呟いた。

名医も匙を投げる程のサッカーバカか。そりゃ凄い。

 

「それほどでも」

 

「一切褒めてない」

 

はい、知ってます。

 

もう少し久々に再会した親戚と話をしたいところだが、いつまでも玄関付近にいてはいい迷惑だ。

早く部屋に荷物を運んでしまおう―――と、声を掛けようとしたところで、ガールズバンドの少女達と五つ子が無言で睨み合っているという状況(冒頭部分)になっていた。

 

「遥、どういうことですか?」

 

何故か半目で尋ねてきた五月。

他の姉妹達も何か言いたそうにしているが、それよりも今は五月の質問だ。

 

「どういうことって、なんのこと?」

 

「惚けないでください。彼女達のことです」

 

「俺の友達だけど」

 

「その割には女の子しかいませんが?」

 

「いや、本当なら男も来るはず―――」

 

「言い訳は結構です! このスケコマシ! ラノベ主人公! サッカーバカ!」

 

聞いてきたのはそっちなのに酷い言われようである。

零奈さんの真似を始めて頭が固いことで。まるで紗夜が二人に増えたようだ。

 

「まあまあ、五月ちゃん。落ち着いて。ハルカ君も困ってるからさ、ね?」

 

「一花……ですが」

 

「とりあえず、ハルカ君はあの子達のこと紹介してよ」

 

五月を宥めて一花が紹介を促す。

“助けてやったんだからあとでなんか奢れよ?”みたいな目をしていたが気のせいに違いない。

 

「彼女達は最近話題のガールズバンドってやつ。Poppin' Party、Aftergrow、pastel*palettes、Roselia、ハロー、ハッピーワールド!。……以上」

 

『…………え? それだけ?』

 

やや間を開けて全員の声が重なった。

全員分の紹介しろと?

 

「Poppin' Partyのメンバーはキラキラドキドキ戸山香澄、テンプレツンデレ市ヶ谷有咲、主食はチョココロネ牛込りみ、天然兎花園たえ、パン屋で鍛えた握力が自慢の山吹沙綾」

 

「はい! キラキラドキドキしたいです!」

 

「誰がテンプレツンデレだ!」

 

「チョココロネが主食の時はたまにです!」

 

「私って兎だったんだ!」

 

「へぇ……なら、そのバカの頭で握力測ってあげようか?」

 

「Aftergrowのメンバーは世界への反骨赤メッシュ美竹蘭、パンは飲み物青葉モカ、不憫なリーダー上原ひまり、ソイヤッ宇田川巴、皆のためにつぐってる羽沢つぐみ」

 

「別にそういう意味でメッシュを入れたわけじゃないから!」

 

「モカちゃん的にはカレーもだねー」

 

「不憫!? 私って不憫なの!?」

 

「ソイヤッって……まあ、合ってんだけど、なんかなぁ」

 

「それが私の取り柄だからね!」

 

「pastel*palettesのメンバーは決めポーズがイマイチな丸山彩、天災の氷川日菜、腹黒女優の白鷺千聖、ブシドー若宮イヴ、機材オタクの大和麻弥」

 

「遥君にも言われた!?」

 

「えー? アタシの紹介地味じゃない?」

 

「誰が腹黒ですって?」

 

「皆さんもレッツ・ブシドーです!」

 

「ふへへ。機械いじりは楽しいですからね」

 

「Roseliaのメンバーは音楽バカの湊友希那、堅物の氷川紗夜、女子力の塊ギャルの今井リサ、聖堕天使あこ、コミュ障の白金燐子」

 

「音楽バカ……。ふふ、ハルとそっくりね」

 

「堅物とは失礼じゃないですか!」

 

「女子力の塊かぁ、嬉しい事言ってくれるねー♪」

 

「闇に飲まれよ!」

 

「た、確かにコミュ障ですけど……最近は……」

 

「ハロー、ハッピーワールド!のメンバーは三バカその1弦巻こころ、三バカその2瀬田薫、三バカその3北沢はぐみ、方向音痴の松原花音、苦労人の奥沢美咲。あとここにはいないけど中の人なんていないミッシェルもメンバーの一人」

 

『ハッピー! ラッキー! スマイル! イェーイ!』

 

「つまり、そういうことさ」

 

「うぅ……いつもご迷惑をお掛けしてます」

 

「ちょ、ちょっと先輩!? ややこしい紹介しないでくれませんかね!?」

 

俺なりに面白おかしく紹介したつもりだが何人かには不評で睨まれる。あとが怖いがその時はその時だ。

 

「で、見分け付かないだろうけど従姉妹も紹介しとく。一番髪が短くて千聖みたいに作り笑顔してる女優の卵が長女の一花」

 

「ハルカ君?」

 

「反対に一番髪が長くてギャルっぽい見た目のわりに、異性に求める理想が高い夢見がちな乙女が次女の二乃」

 

「余計なことは言わなくていいのよ! あとで覚えてときなさい!」

 

「ヘッドホン付けてて無表情で何考えてるかわからないのが三女の三玖」

 

「……ハル、切腹」

 

「デカリボンが四女の四葉」

 

「私だけ紹介短くないですか!?」

 

「星のヘアピンを付けてて食うことが仕事と言ってる甘えん坊が五女の五月」

 

「わ、私はそんなに食いしん坊ではありません!」

 

と、まあその場にいるほぼ全員の女子を敵に回す紹介を済ませ、今度こそ部屋に行こうとしたのが、彼女達の睨み合いがまだ続いていた。

それとさり気なくいなくなってるの知ってるからな、零奈さん、叔父さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ、まさか有名人がハルカ君と友達だったなんてビックリです。だけど、あまりハルカ君と一緒にいると問題になりますよ。ストー―――千聖せ・ん・ぱ・い♪」

 

「ご忠告ありがとう。でも、私に掛かればそのくらい握りつぶせるから問題ないわ。腰巾ちゃ―――一花さん」

 

お互い作り笑顔で火花を散らし合う一花と千聖。

片や女優の卵。片や子役時代から名を馳せている女優。

同じ職種の人間同士で良い刺激が生まれるかと思いきや、今にも核弾頭ミサイルが発射されそうな雰囲気と化していた。

 

「へぇ、貴女がハル君のご飯作ってるんだー?」

 

「まあね。花嫁修行みたいな感じかな?」

 

「アタシの方が美味しい料理作れると思うけどね」

 

「は?」

 

「何よ?」

 

「ハル君!」「ハル!」

 

「はいはい。なんでしょう」

 

『食戟するから審査して!(絶対勝つ!)』

 

二乃とリサは料理上手のギャル同士だ。こちらも気が合うかと思いきや戦争勃発一歩手前である。

まだ料理漫画のように料理対決でケリが付くなら安心できるものだ。

ちなみに審査は(強制的に)俺と美味しいものが食べられると嗅ぎ付けた五月とモカがやった。勝った方には俺とのデート権だったらしい。

食戟の結果がどうなったかは想像にお任せである。

 

「あなた全然笑顔じゃないわね!」

 

「……だから何?」

 

「ハルカは笑顔の女の子が好きって言ってたわ!」

 

「は?」

 

「何かしら?」

 

性格が全くの正反対の三玖とこころ。

この場合、無自覚にこころがケンカを売ってるのもあるが、三玖が一方的に敵視している所為もあって二人はあまり仲が良くない。

性格が反対だから仲良くならないのかは永遠の謎である。

 

「貴女は遥さんとはどういった関係なんですか?」

 

「……幼馴染。それだけ」

 

「そうなんですね! まあ、私は生まれた時から遥さんとは一緒にいることが多かったので、パチモンの幼馴染よりも強い絆がありますけどね! パチモンの幼馴染よりも!」

 

「…………」

 

そこのデカリボンよ、何故二回言った。

あと、反骨赤メッシュ。今ので俺を睨むのはお門違いだ。実際、五つ子との付き合いの方が蘭達よりも長いのは事実だけども。

 

「言っておきますけど、遥はあげませ―――」

 

「五月先輩も星が好きなんですね!?」

 

「え、ええ。好きです。それよりも―――」

 

「ポピパの皆と一緒にキラキラドキドキ一緒に探しませんか!?」

 

「ああもう! 話を聞いてくださいー!」

 

三玖みたく五月が一方的に敵視しているだけで、辛うじて五月と香澄は他の奴らよりかは比較的良好?なのだと思いたい。

香澄よ、そのまま堅物の五月をキラキラドキドキに染めてしまえ。

 

 

 

こんな感じでどうにも従姉妹とガールズバンドの少女達の何名かは仲が悪かったり、馬が合わないらしい。

これから同じ旅館で泊まるのにこのままではいけないと考えた結果、俺は答えを見つけた。

俺の尊敬する人も言っていたではないか。サッカーはすべての人を繋ぐと。

だから―――。

 

 

 

 

 

「みんな、サッカーやろうぜ!」

 

 

 

 

 

『やらない!』

 

 

 

 

 

……そういうところは息が合わなくてもいいと思うんだけど。

若干拗ねた俺は一人でサッカーしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 


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