サッカーバカとガールズバンド(仮題)   作:コロ助なり~

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第11話 

花見の途中で日菜からこの中で誰が好きなのかと問われた。

 

「そんなの―――」

 

「皆大好きとかっていう答えはNGだからね」

 

こいつ、超能力者か……!?

 

言おうとしていたことを真っ先に封じられてしまった。

日菜が納得する別の答えを考えるのに困っていた最中、俺の左に座っていた友希那が口を開いた。

 

「幼馴染である私のことが好きじゃないはずがないわよね?」

 

その眼には確信してると言わんばかりに強い意志が宿っていた。

 

「そりゃもちろん。友希那のことは好き」

 

「ってことはアタシのことも好きってことで良いよね?」

 

今度は右に座っていたリサだ。

 

「そうだな。リサのことも好きだ。あ、カズのことも好きだから安心しろよ」

 

友希那やリサ同様にカズも大切な存在だ。

 

「この状況で俺の名前を出すな! 変な誤解が生まれるだろ!?」

 

変な誤解? よくわらないけど、日菜が言ったのはこの中で好きな“女の子”だったっけ。男のカズはその対象には含まれないから怒ったのかもしれないな。

 

「悪い悪い。で、日菜は今の答えで納得した?」

 

「全然納得しないよー!」

 

「あ、あれ? マジか……」

 

心なしか日菜以外にも数名程不満そうな顔つきになっていた。

 

「サクラ君が言ってるのは友達とか仲が良い人に言うlikeの方でしょ? アタシが聞いてるのはloveの方だよ!」

 

「日菜、桜木さんに迷惑を掛け過ぎよ。自重しなさい」

 

「お、お姉ちゃん……」

 

姉の紗夜にたしなめられた日菜は渋々黙った。

 

「でも、日菜の気持ちがわからないでもないわ。誰かの恋路が気になるのはよくあることだから」

 

「ん? つまり、紗夜も恋愛に興味があるわけ?」

 

紗夜の今の発言はそういう意味にもとらえられても不思議ではない。

 

「! い、いえっ、私はあくまで一般的な見解を言ったまでです! 私自身恋愛なんて全然興味ありません!」

 

「とか何とか言っちゃって~。ホントのとこどうなの~?」

 

過剰な反応が気になったリサがさらに問い詰める。

 

「しつこいですよ、今井さん!」

 

「あ、この前お姉ちゃん、アタシが貸した恋愛小説読んで顔真っ赤にしてたよ」

 

ここでまさかの日菜からのナイスパス。紗夜からすればピンチに陥ったに違いない。

 

堅物の紗夜が恋愛小説……なんか想像つかないな。

 

「日菜、余計なことを口にしないで! ってどうして皆して笑ってるんですか!?」

 

「だって、紗夜さんが恋愛小説呼んでるのが想像できないもの」

 

この短時間に面識の少ない千聖にまで堅物であることは知れ渡っていたようだ。

 

「ちなみにその小説はどんな内容なの?」

 

「最初は主人公とヒロインの仲が悪いんだけど、学校の行事とかいろんなイベントを通して二人の距離が縮まっていくっていう恋愛ものにありがちな内容だよ。あ、そう言えば主人公の男の人ってサッカーが上手いんだよねー」

 

何か意味ありげに俺を見つめてくる日菜。だが、その視線が何を意味するのかは俺にはさっぱりわからない。

 

『サッカー、ねぇ……』

 

誰もが怪しいといった感じに紗夜を見つめる。

 

「た、たまたまです」

 

「たまたまでもさ、紗夜が小説をきっかけにサッカー好きになってくれたら、俺としてはすっごく嬉しいな」

 

「……フン、やっぱりあなたのことは嫌いです」

 

良い感じにまとめたられたはずなのだが、紗夜の機嫌を損ねてしまったようだ。

ついでに左右から来た理不尽な痛みが脇腹に走った。声を上げることなく耐えた自分を褒めてやりたい。

ともあれ、ここで話題を変えるチャンスだ。

 

「イヴ、学校は大丈夫?」

 

「はい! ……友達はまだあまりいませんがこれから頑張ります! それと学校にはチサトさんやアヤさんがいますし、茶道部ではカノンさんも一緒です! シショーは()()に乗ったつもりで見守っててください!」

 

「そっか」

 

どうやらイヴの高校生活に心配はなさそうだ。日本語についてはかなり心配だが。

 

「ねぇねぇ、ハル兄。ずっと気になってたんだけどさ、どうしてイヴさんはハル兄のことを“シショー”って呼ぶの?」

 

「大した理由はないんだけどそれでも聞く?」

 

「聞きたい聞きたい!」

 

そんなに期待されてもホントに大したことじゃない。

 

「イヴは元々日本が好きで、特に武士道が好きなんだ」

 

その影響で茶道や剣道を始めたみたいだ。

 

「あー、外国人って日本が好きだっていう人多いよね」

 

「そこで問題。サッカーの日本代表がなんて言われてるか知ってる?」

 

「えっと……焼きたてジャパン!」

 

『…………』

 

ドヤ顔で場を凍り付かせたあこが慌てて訂正する。親友の燐子でさえ冷たい視線を向けるのだから当たり前か。

 

「わわっ、今の無し! サムライ・ブルー、だよね? ……ん? サムライ……え、そういうこと!?」

 

「そういうこと。大した理由じゃないだろ?」

 

俺自身、武士道の何たるかなんてわからないし、教えたつもりもない。

 

「ホントに大した理由じゃないじゃん!」

 

「確かに皆さんからすれば、大した理由ではないのかもしれません……。ですが、シショーは私にとって恩人でもあります!」

 

『恩人?』

 

「二人の間に何かあったから師匠と呼んでるってことっすか?」

 

「はい! あれは私が日本に初めて来たときのことです」

 

 

 

 

 

今から二年程前のことだ。その日は、ちょっと遠くの方での試合帰りのことだった。

試合会場の最寄駅内で困っているのか右往左往する少女がいた。

可愛らしい少女は銀髪でスタイルがいい。その上外国人。最近日本では外国人観光客が増えたとはいえ、かなり目立つ少女だ。嫌でも人の注目を集める。

だが、何人かは明らかに困っていることに気が付いてるのに、遠巻きに見るか、チラ見して通るだけ。悲しことに彼女を助けようとする人はいなかった。

そんなことを考えていたら、彼女と目が合った。

彼女は目を大きく見開くと同時に駆け寄って来た。

 

「―――――! ―――――? ―――――!」

 

彼女が使う言語は日本語ではなかった。多分英語でもない。

よくよく考えれば、日本語が使えるなら最初から困るようなこともないだろう。彼女のコミュニケーション能力に問題があるのなら話は変わってくるが。

 

あれ? どうしてこの子は俺に近寄って来たんだ? 同世代だと思ったから? 話しかけ易そうだった?

 

「ハルカ・サクラギ! サムライ!」

 

「!」

 

名前を呼ばれて理解した。この少女は俺が試合に出ているところを見たのだ。

外国にまで俺の名前が知られているとは思わなかったが、悪い気はしない。

しかし、今はそれどころじゃない。この少女を連れて、一刻も早くこの場を離れなければならない。

 

「桜木君がいる!」

 

「テレビで見るよりも可愛いかも」

 

「サインもらえっかな?」

 

初対面だが、そんなの構うもんかと多少強引に彼女の手を取り、押し寄せる人々から逃げるために駅を飛び出した。

 

 

 

 

 

「いきなり走り出してごめん」

 

落ち着ける場所に辿り着いて空いていたベンチに座り込む。伝わるかわからないが、両手を合わせながら謝った。

言葉がわからずとも俺の言いたいことが通じたのか、両手を左右に振っていたことから許してくれたようだ。

 

「ワ、ワタシ……コマッテ、マス。タスケテ」

 

片言の日本語で助けを求めてきた。

 

日本語は話せたのか。

 

You got it(任せて)

 

オッケーサインついでに万国共通(のはず)の英語を使って彼女の頼みを引き受けた。反応を見るに日本語よりかは通じるみたいだ。

それから彼女の名前や頼みを悪戦苦闘しながらなんとか理解することが出来た。

彼女はフィンランドから来た若宮イヴ。フィンランド人と日本人のハーフだそうだ。これから親が住む場所に向かう、とのことだ。あと、日本が好きだと言っていた。

そして、その肝心な目的地なのだが、俺の住んでる地域からそんなに遠くはなかった。

知らない地域だったら別の人に助けを求めていたところだが、俺一人でも問題なさそうだ。

彼女の手を引いて、再び駅内に向かった。

 

 

 

 

 

Is this correct for your parents address?(君の両親の住所はここで合ってる?)

 

「ハイ!」

 

イヴの持っていたメモの住所通りの場所にたどり着けたので一安心。

 

See you(じゃあね)

 

俺の役目はここまでだ。

手を振って別れを告げようとしたら、イヴが俺の手を振ってない方の腕を取って引っ張った。

 

「オンガエシ、シタイデス」

 

「うーん、それはいらない」

 

「? ナゼデスカ?」

 

「見返りを求めて助けたわけじゃないから。って伝わってないか」

 

眉を八の字にしていたので難しい日本語だったようだ。

 

「俺は君を助けた。次は君が誰かを助ける。それでどう?」

 

「ワ、ワカリマシタ!」

 

これは何とか伝わったみたいだ。

 

「じゃあ、今度こそお別れ」

 

「マタ、アエマスカ?」

 

「さあ? それはわからない。でも、不思議とイヴとはまた会える気がするんだよね。だから、またね」

 

手を振って別れを告げた。

そこまでがイヴとの出会いだ。

 

 

 

 

 

「ほほう、それはそれは。運命的な出会いとでも言いますか、良い話ですね」

 

話し終わると麻弥が一人納得したようにうんうん頷いていた。

 

「ちなみに、遥さんがイヴさんと次にお会いしたのはいつ頃なんですか?」

 

「一か月もしないで会えたよ」

 

その時は確かイヴが俺の試合を見に来てた。

 

「そこから交流が少しずつ増えてさ、学校の勉強とか日本のことを教えてたらいつの間にか師匠呼びされるようになってたってわけ」

 

「おかげでイヴさんが日本語を流ちょうに話せるようになったってことですね。……なんだか、ジブン他の方との出会いも気になってきました! 皆さんは桜木さんとどのようにして出会ったんですか?」

 

どうやらここからの花見は皆との出会った話が続きそうだ。

 

 

 

 

 

 

 




次回からは過去の話が多いかと思います。

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