サッカーバカとガールズバンド(仮題)   作:コロ助なり~

12 / 27
第10話

 

 

『花見?』

 

「そ。予定が空いてたらでいいんだけど、花見しない?」

 

とある日の放課後。部活の休みの日にRoseliaの練習に顔を出していた俺は、練習終了後に花見を提案した。

 

「すみません。折角のお誘いですが、私達は花見なんかしてる場合じゃ―――」

 

「わかった。その日の予定を開けておくわ。皆もいいわね?」

 

「おっけー♪」「はい!」「……はい……!」

 

友希那を始めとしてリサ、あこ、燐子が賛成してくれた。

 

「―――ないんです。…………。……あ、あの、皆さん? 今、私には花見をするように聞こえたのは聞き間違いですよね?」

 

「何を馬鹿なことを言ってるの? するに決まっているじゃない」

 

「で、ですよね…………は?」

 

おー、紗夜が間抜けな顔してる。普段の真面目な姿からは想像も出来ない表情だ。

 

「湊さん!? 私達は頂点を目指すんですよね!?」

 

「当たり前じゃない」

 

「だったら花見などしてる時間なんてないのでは!?」

 

「紗夜、あなたの言いたいことはわかる。でも、たまには息抜きぐらいしないと練習ばかりで息がつまるだけよ」

 

友希那の言い分は最もだ。ずっと同じことを繰り返して行くことも大事だが、時には息抜きも必要だ。

紗夜の場合、ギターばかりやってきたせいでそういったことをしてこなかったのだろう。

 

「仲間との絆を深める。それもバンドにおいて大事なことだと思うのだけれど?」

 

「そ、それは……」

 

「それに……ハルが誘ってくれたのよ? 行かないわけにはいかないじゃない」

 

「(桜木さんのこと大好き過ぎじゃないですか!? というかそれが主な理由ですよね!?)」

 

初めて会ったときの紗夜なら確実に否定していたところだが、今の紗夜はそうではなかった。

こういうところを見ると友希那と組んでから色々良い方向に変わったんだなと感じる。

 

「……わかりました。あくまで仲間との親睦を深めるためです。但し、学生らしい行動は忘れないでくださいね」

 

最終的には紗夜が折れて、Roselia全員が参加となった。

 

「あ、そうそう。俺以外にはパスパレも来る予定だから」

 

「ということは日菜も!? い、行きません! 私は絶対に行きませんから!」

 

子供のように喚く紗夜を無視して、パスパレで唯一連絡先を知っている日菜にRoseliaの参加を伝えておいたのだった。

 

 

 

 

 

花見当日、集合場所である桜木家に人が集まることになっている。

駅前でも良かったのだが、パスパレはアイドル。人だかりができるのを避けるためにも、皆が共通で知っている我が家になったのだ。

 

「ただいまー」

 

そんな花見の日に急遽練習試合が入ってしまった俺のせいで、時間が夕方からになった。

 

『おかえりー!』

 

リビングに顔を出せば、俺以外の全員が集まっていた。

Roselia、パスパレ、花音、カズ、俺の計13人。

 

「遅くなってごめん」

 

「シショー!」

 

遅れたことを謝罪すると銀髪の少女が俺目掛けて両手を広げて突っ込んできた。それをすんでのところで少女を止めた。

 

「イヴ……ハグしたいのはわかるけど、今の俺、汗臭いからあとでな」

 

「シショーの汗なら平気です!」

 

突っ込んできた銀髪の少女―――若宮イヴは問題ないと言わんばかりに再び両手を広げてくる。

 

「臭いだけじゃなくて汚いからダーメ。シャワー浴びてくるからもうちょっと待って」

 

『!』

 

シャワーを浴びると言った瞬間、何人かがすごい勢いでこちらに振り向いた。若干目が血走っているのは気のせいだと思いたい。

使ったユニフォームや来ていた練習着を洗濯機に押し込み、シャワーを浴びる。

今日は女の子が大勢だ。清潔さに気を使わないと後で何か言われそうなので、念入りに洗うことにした。

 

「お待たせ」

 

シャワーを浴び、着替えを済ませてリビングに入ると再び何人かが俺を凝視してきた。

 

「俺、何か変……?」

 

もしかしてまだ汗臭い?

 

そう思ったのだが彼女達は首を横に振った。

じゃあどうして俺の方を見るのか気になって聞いたが、彼女達は「何でもない」の一点張り。

 

「シショー! 今度こそハグしましょう!」

 

「いいよ。ほら、おいで」

 

「はい!」

 

先程と同じように突っ込んできた彼女を両手を広げて受け止める。

友希那が不機嫌そうにそっぽを向いた。

 

「! シショーから良い匂いがします!」

 

「そりゃあ、身体洗ってきたから」

 

抱き締められながら自分の体臭を嗅がれるのはなんだかこそばゆい。

 

「イヴちゃん、もう十分ハグしたでしょ? いい加減、遥君から離れなさい」

 

「はーい……」

 

「ハルもだ! いつまでもハグなんて羨ま―――けしからんぞ!」

 

千聖に注意されるまでイヴのハグは続いた。カズのはなんだか注意するというよりは私怨を感じた。

 

「それじゃあ、全員が揃ったことだし行きますか」

 

「あ、ちょい待ち。ハル、髪の毛ちゃんと乾かさないと風邪ひいちゃうぞ」

 

出かけることを促したカズを遮ってタオルを一枚とって来たリサが、俺をソファーに座らせる。そして、リサがソファーの背もたれと俺の間に入り込み、後ろから抱き締めるような体制で髪を拭いてくる。

 

「よしっ、これでもう大丈夫!」

 

「ん。サンキュ」

 

準備万端となって立ち上がったら、皆から視線が集まっていた。

 

「……お前らいつもそんな感じなのか?」

 

「そうだけど」

 

「同じ幼馴染なのにどうして俺にはそんなイベントが一切発生しないんだ!?」

 

「さあ?」

 

「何が違うというんだ!? 一万年と二千年前から愛し合ってたのか!? 運命の赤い糸で結ばれてんのか!? これだからラノベ主人公は!」

 

「ごめん、ちょっと何言ってるのかわからない」

 

前からそうなのだが、カズの言っていることは時々難しくてわからない。

皆にも上手く伝わってないらしく、適当に流して外に出る準備をしていた。

目的地に向けて出発してからもカズは周りの女子たちが引くほど自分の願望をぶちまけ続けた。

 

「カズは……その、女の子との出会いが欲しいんだっけか?」

 

「ああ、そうだよ! こちとら思春期真っ盛りの男子高校生なんでね!」

 

それを言ったら俺も同じ年頃の男子高校生なのだが、別に出会いが欲しいとは思わない。

 

「あ、俺もサッカーが上手い人には出会いたいかな」

 

あと友達。思ったよりも出会いって重要だな。……案外カズの言ってることも馬鹿にできないな。

 

お前(サッカーバカ)と一緒にすんなや!」

 

「えー? そうかぁ? ……ってか、ここにいる女の子達はどうなの? 可愛い女の子がたくさんカズの目の前にいるんだよ?」

 

友希那やリサ以外とはほぼ初対面だったためまだ打ち解けた様子はなさそうだが、カズの性格なら大丈夫なはずだ。

 

「そ、それは、その……」

 

答えづらそうに赤面したカズはそっぽを向いた。

 

「? どうした?」

 

「俺はお前と違って女子に慣れてねぇんだよ! 言わせんな恥ずかしい!」

 

昔のカズは女子とも仲良くしていた覚えがあるが、時間が経って変わってしまったらしい。異性との会話が恥ずかしいと感じることは思春期特有のものらしい。

 

出会いたい、けど恥ずかしい。思春期って難しいんだな。

 

「彩もカズみたいに出会いが欲しいとか思うの?」

 

俺達の前を歩いていたパステルピンクの髪の少女―――丸山彩に聞いてみた。

 

「えっ!? 私!? ……その、まあ、欲しいって思うこともあるけど、今はいらない……かな」

 

「どうして?」

 

「そ、それは……素敵な人にもう出会えたから。えへへ……」

 

何を想像したのかわからないが、頬を手に当ててにやけていた。

 

へぇ……てっきりアイドルだからそう言うのはダメみたいなこと言うのかと思ってた。

 

最近のアイドル事情に疎い、というかそもそもそういったことにあまり触れてこなかった俺には新鮮なことだ。

 

「皆、着いたわよ」

 

話し込んでいる内に千聖が目指していた目的地に到達した。

桜がそこまで多くはないが、一本一本が一般的なサイズよりも大きな木だ。

見たところ広場のような場所なのだが、人が見当たらない。お昼過ぎに花見をする俺達がたんに珍しいからなのかもしれないが、メンバーに芸能人が含まれるので騒ぎにならないためにも人がいないのは助かる。

何人かが持ってきたレジャーシートを広げ、輪の形になって座る。

 

「コホン……ほ、本日はお忙しい中、おあちゅま……お集まりいただきまして(略)。乾杯!」

 

『乾杯!』

 

カズの噛みまくりで長ったらしく畏まった乾杯の音頭から今年の花見が始まった。

初対面の人のための自己紹介を交えながら、食事を摂っていく。

 

「ねぇねぇ、サクラ君ー」

 

「はいはい、なんだね、日菜さんや」

 

俺をサクラ君と呼ぶ少女―――氷川日菜。氷川紗夜の双子の妹だ。

 

「サクラ君の好きなタイプってどんなの?」

 

「えっと……でんきタイプ?」

 

急にポケモンの話? 俺、ポケモンは知ってるだけでやったことないんだけど。しかもその内で知ってるポケモンはピカチュウくらいだと思う。

 

「もー、違う違う。全然違うよ。そうじゃなくてさー。えーっと、なんて言ったらいいんだろー? あ、わかったー!」

 

どうやら日菜は質問の仕方が思いついたらしく、再度口を開けた。

 

 

 

「―――サクラ君はここにいる女の子で誰が好き?」

 

 

 

 

 

 

 

 









▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。