サッカーバカとガールズバンド(仮題)   作:コロ助なり~

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第8話

 

 

「へぇー、女の子と仲良くなったんだー?」

 

「いや、リサが考えてる程には仲良く―――」

 

「なったんだよね?」

 

「アッハイ」

 

正座中の俺を冷たい眼で見下ろすのは友希那とリサだ。

ライブが終わった後、香澄と有咲に別れを告げる間もなく友希那と共に家に帰った。

リサは話をいつの間にか聞いていたのか、帰るなり玄関で正座させられた。

 

最近正座させられること多くないですかね? 今の女子高生の流行りって男を正座させることなの? 世の男性が可哀そうだからそんな流行は一刻も早くなくなるべきだと思う。

 

「えーっと、あのさ、有咲は俺のファンらしいんだ」

 

「ファン、ねぇ……」

 

リサは俺を疑うような眼をしていた。

 

「……今日はこの辺で勘弁してあげる」

 

お、マジか。理不尽な目に合わずに済む!

 

「だから、今度は私も行くね♪ 友希那、そん時はよろしくー♪」

 

「任せて頂戴」

 

急に笑顔になったリサの心情全く分からず首を傾げることしかできなかった。

 

 

 

 

 

香澄と有咲と出会ってから早数日。

部活の勧誘期間が過ぎ、一年生が十数名サッカー部に入部してきた。そうなると、二年生の誰かが雑用やルールを教えることになる。これは運動部共通の宿命のようなものなのだが―――

 

「桜木、お前は練習しろ」

 

キャプテン直々に真っ先に教える役候補から外された。

理由は俺がレギュラーであるために練習時間が削られるのを防ぐためだろう。俺としてはサッカーの時間がつぶれないので大変大助かりだ。

ケガしていた間に雑用を完璧と言っていいほどに覚えたことのだが、こればっかりは仕方がない。聞かれれば答えるスタンスにしよう。それ以前に俺が話しかけられるのかわからないのだけれど。

 

「わかりました。ところで……どうしてあんなにいた見学者が居なくなったんですか?」

 

昨日まではいたはずの人達の姿が全く見えない。

 

「生徒会長がお前のために色々してくれた。今度お礼でも言っておけ」

 

おお、生徒会長凄いな! 喋ったことほとんどないけどいい人に違いない!

 

「全員集合!」

 

キャプテンの号令で全員が集まり、本日の練習が始まった。

 

 

 

 

 

「ちょっと腹が減ったな」

 

新入生が入って知らず知らずのうちにやる気が出ていたのか、いつもより疲労を感じていた上、小腹が空いていた。よって部活帰りにどこかに寄り道をすることにした。

すると、まるでタイミングを見計らったかのように香ばしい匂いが俺の鼻腔を擽った。

 

「パンの匂い……ああ、そう言えばあのお店ここら辺だっけ」

 

もしかしたら他のお店の匂いかもしれないが、それでも慣れ親しんだお店のある方向に歩いて行った。

そして、俺が到着したのは『やまぶきベーカリー』というパン屋さんだ。

窓から店を覗くと閉店間近だったようで、花咲川女子学園の制服の上にエプロンをかけた少女が閉店する準備をしていた。

 

「沙綾、まだパン売ってる?」

 

「お、遥先輩じゃん! もうじきお店閉めるところだけどまだ大丈夫だよ」

 

「ありがと」

 

お礼を言ってパンを選び出す。

 

今日は……うん、どれも美味しいから普通に迷うな。

 

「来るの結構久しぶりだっけ?」

 

「あー、そうかも。前は一週間に一回くらいは来てたから」

 

彼女の名前は山吹沙綾(やまぶきさあや)

出会ったのは小学生の時だ。

今日みたいにサッカーの練習帰りにこのお店のパンの匂いに誘われてやって来たことがきっかけだった。

 

『お腹空いたー……』

 

窓越しに見るパンを見て、余計にお腹が鳴った。

このままでは家に帰ってからのご飯まで到底我慢できなさそうだ。

 

『じゃあ、これ食べる?』

 

空腹が限界に近かった俺に、店から出てきた沙綾がアンパンを差し出してきた。

 

『え、いいの? ……あ、でも、お金ないや。また今度来るよ』

 

今すぐにでも食いつきたいと思ったが、生憎買うためのお金を持ち合わせていなかった。

食べたい気持ちはあるがただで貰うわけにはいかず、断ってまた今度来ようとしたら沙綾が引き止めてきた。

 

『ま、待って! これ、売れ残りで捨てるつもりだからいいよ』

 

結局、空腹に理性は抗えずアンパンをいただいたのだった。

その時食べたアンパンの味は今でも忘れていないし、その日からこのお店に行くようになった。

だが、今にして思えば疑問に思うことがあった。あの時食べたアンパンは温かかった。まるで()()()()と言ってもいいくらいに。

 

「ねえ、沙綾。一つ聞いてもいい?」

 

「ん? 何?」

 

「あの時俺にくれたアンパンってホントに売れ残り?」

 

「…………さあ? 大分前のことだからもう憶えてないや」

 

ものすごーく気になる間があった。これは絶対に何か隠してる。まあ、桜木さんは空気が読める男なのでこれ以上は聞かないけどね。

 

「どれにするか決めた?」

 

「うん。ぜーんぶちょうだい」

 

「あんたはハリー・ポッターか!?」

 

ハリー・ポッターって面白いよね。

 

一時期サッカーや誰かと遊ぶよりも本を読むことに夢中になっていたこともあるぐらいだ。

 

「冗談だよ。でも、そうしたいくらいここのパンは美味しいから」

 

沙綾にパンを三つ差し出した。アンパン、カレーパン、メロンパンだ。

 

「そりゃどーも。作ってる側からしたら嬉しい言葉だね。はい、合計で400円」

 

「はい、ちょうどね。あ、そういや高校生になったんだっけ? 進学おめでとう」

 

お会計を済ませて軽く世間話を始めた。最近ここに来れてなかったからたまには聞いてみるのもありだろう。

 

「ありがと。校舎が変わり映えしないから若干退屈だけどね」

 

羽丘女子学園と同じで花咲川女子学園も中高一貫の学校だ。中等部から通う生徒ならそう思ってもなんら不思議ではないだろう。

 

「ああ、そうそう。花女と言えば、最近知り合った子がいるんだ」

 

香澄と有咲の二人だ。

ただ、あの二人と知り合ってから友希那が不機嫌になることが多い。おまけに話を聞いたリサもちょっと変だ。家に来たらやたらと引っ付いてくるし、一緒に寝ようとしてくる。

 

日頃から誰かを支えてばっかりだけどリサ本人は甘えたいってことなのかな? それなら幼馴染の俺が甘えさせないわけにいかない。

 

「ふーん、ナンパでもしたの?」

 

「難破? 船には乗ってないよ?」

 

「はぁ……何でもない。聞いた私がバカだった」

 

「? うおっ」

 

呆れる沙綾に首を傾げていたら、誰かが腰あたりに抱き着いてきた。

 

「久しぶり、兄ちゃん!」

 

「おお! 純! それに紗南も!」

 

振り返れば沙綾の弟の純がいた。そしてお店の奥の方には紗南がこちらの様子を窺っていた。彼らとも沙綾と同じでお店に来ている内に仲良くなった。二人とはたまに遊び相手になってる程度には仲が良い。

 

「二人共元気にしてたか? ちょっと身長伸びた?」

 

手招きをすると紗南がやって来た。

 

「すっげー元気だし身長も伸びたぜ! てか、そんなことよりももっと家に来てくれよ。姉ちゃんが兄ちゃんに中々会えなくて寂しそうにしてんだからさ」

 

それに同意するかのように紗南も首を縦に振っていた。

 

「ちょ、純!? あんた何言って……! ち、違うから! べつに遥先輩のことなんて何とも思ってないから!」

 

純の言ったことを慌てて否定する沙綾。今にも火を噴きだしそうなくらいに真っ赤な顔になっていた。見当違いのことを言われて激怒しているみたいだ。

 

「ようするに嫌われてるってこと?」

 

「そ、そんなわけない!」

 

「じゃあ、好き?」

 

「へっ!? す、すすす好きッ!? ……あ、あの、それは……いや、えっと……」

 

先程よりも更に顔を真っ赤にした沙綾は、何か言おうとしているがしどろもどろになって上手く言葉を発することが出来てなかった。

 

「すげー……流石兄ちゃん」

 

「? ありがと?」

 

何もしたつもりはないのだが褒められたらしいのでお礼を言っておいたところ、純は苦笑いしていた。

 

「そろそろ帰るね。また来るよ」

 

『バイバーイ!』

 

純と紗南は元気に見送ってくれたが、沙綾は未だに何かブツブツ呟いたままでこちらには見向きもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ、私! 遥先輩のことが―――」

 

「姉ちゃん、覚悟を決めたところで悪いけど、兄ちゃんならもう帰ったから」

 

「えッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 







有咲はあくまでファンです。……多分。


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