輝達が火星付近での謎の機動兵器との交戦から数日、マクロスでは新たな問題に直面していた。
クローディア「艦長、やはりいくらサーチしてもサラ基地の反応はありません」
グローバル「うぅむ・・・」
マクロスが地球に向けて航行を続けて五ヶ月、艦内に余りある余剰スペースを使い街を再建し、南アタリア島から一緒に飛ばされてきた街の物資や、艦内に造られた生産プラントを稼働させつつも、それも限界に達しようとしていた。
物資を補給する必要がある。その為の手段としてグローバル艦長は火星にある統合軍の基地施設、サラ基地に目指すように指示した。サラ基地は先の統合戦争中に戦況の激化に伴い放棄された基地であり人こそいないが物資はまだ残されているのではと考えたのだ。
しかしレーダーには肝心のサラ基地の反応は一向に現れなかった。
やがてマクロスの左舷プロメテウスに大型のレドームを付けたバルキリーが一機、着艦する。
未沙「艦長、火星周辺の偵察に出ていたVE-1が帰艦しました。・・・やはりサラ基地は見つからなかったそうです・・・」
そう報告する未沙の表情は暗い。
グローバル「そうか・・・。すまんな早瀬君、君に辛い思いをさせてしまった」
未沙「いえ・・・私も軍人の娘です。公私はわきまえておりますから・・・」
プロメテウス格納庫
輝はバルキリーをデッキブラシで擦っていた。
結局あの後すぐにブリッジに向かったのだが議題はすでに終了しており遅れてきた輝は未沙からキツいお叱りを受けた。一応フォッカーからは体面上の罰としてバルキリーの清掃を命じられる事でその場は収まり、今に至るという訳だ。ムスッとした顔で作業しているとフォッカーが様子を見にきた。
フォッカー「よう輝!」
輝「先輩・・・コレ、いつまでやればいいんですか?」
フォッカー「ん?ああ、まぁこんなモンでいいだろ。あくまで体面上の罰だしな。で?どうだった?」
フォッカーが輝の肩に腕を回しながら聞いてくる。
輝「どうって・・・?」
フォッカー「ミンメイちゃんに会ってきたんだろ?上官として部下の様子を気にかけるのも立派な職務だからな!」
輝「それ、先輩が単に知りたいだけじゃないですか?」
フォッカー「細かい事はいいんだよ!で?どうだった?キスくらいはしたのか?」
輝「キスなんてしてませんよ・・・。あ、でも・・・」
そう言うと輝はミンメイから貰った招待状を取り出す。
輝「バースデーパーティの招待状を貰ったんですよ、ミンメイから」
フォッカー「招待状?なぁんだ。お前もか」
輝「お前も・・・?」
フォッカーは輝が持ってるものと同じものを見せる。
フォッカー「悪いな、俺も招待されてるんだ。俺だけじゃないぞ、バルキリー隊の奴ら全員持ってる。当然柿崎やマックスもな」
輝「え・・・」
フォッカー「ま、そういうこった。残念だったな輝!彼女をモノにしたいならもっと強気で行った方がいいぞ?
男は時として自分から強引に行かないといけない時もある!」
輝「強引に・・・ですか?」
フォッカー「まあそうクヨクヨすんな!そこは一度勝つ為なら何度負けても恥じる事のねぇ男の戦場だからな!」
そう言うとフォッカーは行ってしまった。淡い高揚感もすっかり冷めてしまい一人残された輝は招待状を見つめ立ち尽くすのだった。
マクロス ブリッジ
結局、火星での補給もする事が出来ずマクロスはそのまま地球圏に向かい航行を続けていた。
グローバルは偵察に出たバルキリーの撮影した画像をジッと見ていた。
グローバル「本来ならここにサラ基地があるはずなのだが・・・」
クローディア「画像を解析してみましたがそれらしき施設は周辺にも発見されませんでした」
ヴァネッサ「基地が丸々1つ消えちゃうなんて・・・」
キム「そんな事あるんですか?」
未沙「もう一度調べて下さい!きっと砂嵐か何かで遮られて見えないだけで・・・」
クローディア「未沙、落ち着きなさい。あなたらしくないわ」
食い気味に艦長に進言する未沙に対しクローディアが冷静に止める。
クローディア「未沙、少し休みましょうか。ここのところ働き詰めですもの。これじゃあなたの方がまいってしまうわ」
未沙「私は平気よ・・・」
クローディア「またいつ戦いが始まるかわからないんだから休める時は休みなさい。よろしいですね?艦長?」
グローバル「ああ、構わんよ」
クローディア「そういう事、少し頭を冷やしなさいな」
未沙「・・・それでは失礼します」
そう言うと未沙は俯きながら出ていってしまった。
オペレーターの三人はその様子を不安気な表情で見ていた。
ヴァネッサ「あの、早瀬中尉・・・何かあったんですか?」
シャミー「ホント、なんかいつもの中尉じゃないみたいだし・・・」
クローディア「サラ基地にはね、早瀬中尉の思い人がいたのよ」
未沙の様子を気にした三人に対しクローディアがそう教える。
マクロスタウン
バルキリーの清掃も終わり輝は気晴らしに街に来ていた。とはいえ欲しい物もやりたい事もないのでただ街をブラブラ歩きまわっていた。
輝「ふう・・・」
歩き疲れた輝は近くのベンチに腰を掛ける。ちょうど自走式の自販機が目の前に来た為、飲み物を買う事にする。
輝「ん?」
自販機に硬貨を入れようとした輝は未沙の姿を見つける。
先程自分を注意した際の強気な姿ではなく思いつめた表情でベンチに座っている。
輝「・・・・・」
クローディアから休むように言われ気晴らしに街に出てはみたものの未沙の頭からは火星の事が離れられずにいた。
未沙「ライバー・・・」
考え込んでいると目の前に缶コーヒーが現れる。顔を上げると輝が缶コーヒーを差し出していた。
輝「・・・コーヒーは嫌い?・・・でありますか?」
慌てて言い直しながら尋ねる輝。
未沙「どうゆう風の吹きまわしかしら?」
輝「別に・・・なんか思いつめた顔をしてたからさ。・・・余計なお世話だったかな」
顔を背けながら答える輝。
未沙「・・・頂くわ。ありがとう」
コーヒーを受け取った未沙はフタを開けて一口飲んだ。
輝「・・・何かあったの?・・・あったんですか?」
未沙「今は任務中ではないし・・・敬語なしでもいいわ」
輝が無理に敬語で話そうとするのが可笑しいので未沙はそう伝える。
未沙「あなたに言ってもしょうがないし・・・」
輝「話せば楽になる事だってあるだろ?」
未沙は下を向いたまま静かに話し始めた。
未沙「私の家は代々軍人の家系なの。私も幼い頃は将来は軍に入る事になるのかと考えていたけれど・・・その時はあまり軍人という仕事を好きになれなかったの」
輝「じゃあどうして・・・」
未沙「ライバー少尉、統合軍の軍人で学生の頃から私に優しくしてくれた人だった。彼と一緒にいると不思議と軍人に対する抵抗感も薄れていって、いつしか彼と同じ立派な軍人になりたいと思う様になっていたわ」
輝「その人は・・・地球に?」
輝の問いに未沙は首を横に振る。
未沙「統合戦争の始まった頃、火星のサラ基地に・・・。
でも統合戦争の激化に伴いサラ基地は閉鎖され滞在していた人達は地球に帰還する筈だった・・・」
輝「だった・・・?それってどういう・・・」
未沙「帰還途中の船団がが反統合同盟軍の襲撃を受けて・・・全滅という知らせだったわ」
輝「そんな・・・」
未沙「もし火星を通るのであればサラ基地にある彼に繋がる物だけでも、と思ったんだけど・・・そううまくはいかないみたい」
話を終えた未沙が立ち上がる。
未沙「あなたの言う通り話したら少し楽になったみたい。さ、任務に戻らなくちゃ。少しは見直したわよ。・・・ありがとう」
未沙は輝に笑顔で感謝を述べて去っていった。
輝「・・・・・」
普段の生真面目な彼女からは想像もできない笑顔に暫く呆気にとられていた輝だったがハッと我に帰る。
輝「いやいや、可愛いなんて思ってない思ってない・・・」
自分に言い聞かせる様にブツブツ呟きながら軍の宿舎への帰路に着いた。
未沙がブリッジに戻ると何やらブリッジ内が騒々しい。
未沙「早瀬未沙中尉、只今戻りました。・・・何かあったんですか?艦長?」
グローバル「早瀬中尉か。あぁ・・・コレだ」
グローバルがモニターを指差す。モニターにはマクロスの広域レーダーの映像が映されていた。マクロスから少し離れた所に何かの反応を示す点が発光していた。
未沙「これは・・・」
クローディア「救難信号よ。しかも・・・火星のサラ基地からの帰還船団の物と一致したの」
未沙「ッ⁉︎」
ヴァネッサ「でも・・・サラ基地の帰還船団は統合戦争中に・・・」
キム「まさか・・・幽霊とか・・・?」
シャミー「へ、変な事言わないでください!」
未沙「艦長!今すぐ救援を!」
未沙はグローバルに詰め寄る。
グローバル「落ち着きたまえ早瀬君。敵の罠の可能性もあるのだ。不用意に艦を危険に晒す事は出来ん」
未沙「しかし・・・!」
クローディア「未沙、あなたの気持ちは良くわかるわ。でもね、それは艦長も同じなのよ?」
未沙「え・・・」
クローディア「サラ基地からの帰還船団が反統合同盟軍の襲撃を受けた時、救援に向かった統合軍を指揮していたのはグローバル艦長なのよ」
未沙「艦長が・・・」
クローディア「救援が間に合わず目の前で救えなかった艦長の気持ちも考えてあげなさいな」
未沙「・・・・・申し訳・・・ありませんでした・・・」
グローバルから離れた未沙は深々と頭を下げる。
グローバル「昔の事だ・・・。それにライバー少尉や他の乗員達を救えなかったのは事実だ。君には申し訳ない事をした・・・」
未沙「そんな事ありません!私は・・・」
グローバル「今の所はこちらに影響する事は無いが万が一という事もある、無視して進む訳にも行くまい・・・。早瀬君」
未沙「は、はい!」
グローバル「偵察機『キャッツアイ』で救難信号の発信源を調査してきて貰いたい」
未沙「艦長・・・」
グローバル「やってくれるな?」
未沙「・・・はい!」
グローバル「護衛のバルキリー隊も連れて行くのを忘れないようにな。クローディア君」
クローディア「はい艦長。現在待機しているバルキリー隊は・・・あら?」
未沙「どうしたの?」
クローディア「バーミリオン小隊。ふふ、あの坊やとはつくづく縁があるみたいね?」
未沙「もう!からかわないで!」
そう言って未沙は準備の為ブリッジを出た。
クローディア「・・・あの子、前ほど嫌な顔しなくなったわね?何かあったのかしら?」
同じ頃、マクロスから少し離れた宙域では一隻の小型船が数機の機動兵器に襲われていた。
機動兵器は丸い球状のポッドに脚が生えたような機体が数機、そして指揮官機と思わしきこれまた戦闘ポッドに脚と銃口を備えた手のようなものが生えた機体だ。
小型船の中では突然の襲撃に乗員達が混乱していた。
「何なのこの機体達は⁉︎こんな機体のデータティターンズにもジオンにも無いわよ⁉︎」
水色のロングヘアの女性が外の機体を見て叫ぶ。そこに乗員の一人が駆け寄る。
「ルー!この船はもうダメだ!お前だけでも逃げろ!」
ルー「でも!この機体はどうするのよ⁉︎」
「お前がこれに乗って脱出しろ!モビルスーツのコクピットの中の方がよっぽど安全だ!」
ルー「そんな・・・ダメよ!皆も!」
「頼む!お前だけでも生き残れ!生き残ってこの新型を・・・アーガマまで届けるんだ!」
ルー「そんな・・・きゃあっ⁉︎」
船内の至る所で爆発が起こる。もうこの区画も持たないだろう。
「行け!ルー・ルカ!」
ルー「う・・・ゴメン・・・皆ゴメン!」
やがて小型船が爆発を起こす。攻撃した戦闘ポッドが爆発に巻き込まれないよう後退をすると爆発の中から一筋の光が放たれポッドの1つを貫く。
小型船の爆発の中から白い人型の機体が飛び出す。
ルー「行くわよ・・・Zガンダム!絶対に生き残って、アーガマに・・・カミーユ・ビダンにこの機体を届ける!」
白い機体、Zガンダムの目が光り、戦闘ポッド達に向かってバーニアを吹かしながら飛び込んでいった・・・。