倭國の王、大和の皇   作:ナナナナナナシ

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第四話 道の先に繋がるものは。

 歩き続けて三日と少し。伊勢の街へと到達するのにそれだけの時間を要した。

 最近獣や妖の被害が増えていると聞いていたので、わざと山中などの険しい獣道を通り、出てくる妖獣どもをちぎっては投げちぎっては投げしていたら思っていたよりも時間がかかってしまった。穢れを濯ぐための清浄な水を探していたこともあって、一晩余計に野宿しなくてはならなかったのもそれに拍車をかける形となった。

 幸い、供はつけられなかったものの、父上から期限などは聞いていないので余裕を持って道をゆける。だが、今日も熊襲に襲われる人々がいる。あまり時間を駆けてはいられないというのもまた、事実であった。

 

 

 伊勢は、意外にも港街としてよく栄えていた。さすがに(みやこ)には遠く及ばないが、それでもそこには活気があった。人と物の動きが活発で、道行く人々にも笑顔が溢れている。よい街であると五感のすべてで感じとれる。

 伊勢の地になにがあるか、と都で問うても、おそらく誰も答えられないだろう。伊勢という地名も知られているか怪しいほどだ。都を立つ前はてっきり田舎街であると考えていたのだが、その予想は裏切られた。神様にもらった神託であるから何もない土地だとは思っていなかったが、こんなにも栄えた地があったとは知らなんだ。

 

 名物の海の幸に舌鼓を打ちながら人々と会話を交わしていく。しばらく獣のたぐいとしか交流してこなかったので、話の通じる相手との会話は久しぶりだった。食べ歩きもかねて、たくさんの情報を集めることができた。人と話すのは半分私の趣味でもあるのだが。

 この街で商いを営んでいる男曰く、ここいらがこんなにも栄えだしたのは、ここ数年のことらしい。やはり、この街は深い歴史を持っているわけではない。であるならば、それがなされた理由がある。

 その理由は、港を守るように背後にそびえる山の、麓にあった。

 

 

 

 

 港らしい騒々しさのある空気から一転、そこは清浄な氣で満ちていた。小さな森であったなら神木となれるほどの氣を、その森ではそこらの木々一本一本が持ち合わせていた。そしてその森に住む住人達もまた、野に下ればそこいらの主となれるような神獣たちばかり。

 

「なんて森だ・・・。」

 

 森自体をあまりにも大きな神気が包み込んでいる。あの時、タツの神様が発したものと同等、いやそれ以上の神気を常のこととして垂れ流している。しかし、ここの神気はあの時のような暴威に満ちたものではなく、すべての生命に対する慈愛で満ち満ちていた。そんな神気に覆われたこの森はあらゆる生命にとっての楽園だろう。

 万物を照らし、すべての生きとし生けるものに対し祝福を授ける偉大なる神様。それが、ここにいる。

 

 よく整備された道を進むと、遠巻きにこちらを神獣たちが観察している。歓迎はされていないまでも、追い払おうとしているようでもない。この先にいるであろう神様からの監視なのかもしれない。

 しばらく一本道をゆくとその先には、それ自体が神気を発する、一本の檜から削り出された鳥居があった。今回ばかりは覚悟を決めなくてはならない。一度礼をしてから鳥居をくぐる。

 

 とたんに濃密な神気が全身を覆った。まるで物理的な粘性をもったかのように体中にまとわりつく神気は、顎を伝った冷や汗すら落ちることを許さない。森に入った時点で凡百の神域を越えていたが、この中は別格だ。文字通り、格が違う。

 

 獣たちの水飲み場にもなっている小さな小川で軽く心身を清めると、境内を進んでいく。一歩神気の中心へ歩を進めるたび、身を覆う神気は強く、濃くなっていく。一歩一歩に意識を乗せ、格段に遅い歩調で歩みを進めた。

 

 

 数年ばかり前に新築されたと見える真新しい檜の香りを周囲に漂わせながら、その社は静かに佇んでいた。

 

 ここはまるで海の底だ。一刻も早く地に膝をつきたくなるが、その前に神前に在るための準備を整えねば。

 

 準備を整え、ようやく地に平伏し、祝詞を上げる。

 

「私はヤマトオグナと申すもの。神託を受けて、都より参った。高貴なる神よ、願わくば矮小なるこの身に、力をかしていただきたい。」

 

 

 ────間もなく目の前に莫大な神気を伴った存在が現れた。

 

 全身に汗が噴き出る。この森に入った時点で覚悟はしていたが、ここまでの神気、この身で受けたことなどいまだかつて一度もない。本体ではない分霊であることを踏まえたとしても、これほどとは。

 

  ────これが、一つの神話体系において頂点に立つ神(天照大御神)の発する神気。────

 

 こんなところで意識を飛ばすわけにはいかない。奥歯をかみ砕こうとも歯を食いしばり、意識を保たなければならない。

 

 だが、そんな私の耳にまず聞こえてきたのは人の声だった。

 

「あら?あらあらあら?お客さんだ。それも私と『私』、両方の血縁だ。今日は運命の動く日だとは思っていたけれど、こんなお客さんが来てくれるのなら『私』も教えてくださればよかったのに。」

 

 その後に同じ口から発せられたのは、神の声。

 

『「私」が見たければ見られるでしょうに。私とて「私」が見ることにいちいち文句をつけたりはしませんよ。それより、そこのあなた。』

 

 

「────っ。」

 

 どういうことだ。訳が分からない。

 一つの口から、人の言葉と神の言葉とが紡がれている。目の前にいるのは確かに人のはずなのに、同時に神様でもある。現人神だとか憑代だとかとは何かが違う、神様であり人という矛盾の塊。なにか明確に人の世の理に背いているような存在が、莫大な神気を纏いながら、目の前にいる。

 

『聞いているのでしょう、ヤマトオグナと名乗った人間よ。返事ぐらいしなさいな。』

 

「あらやだもしかしてこの子、私の甥とかいうやつなんじゃないかな。」

 

 混乱した頭に続けざまに一柱と一人の声が叩き込まれ、混乱を加速させる。

 

「は・・・はっ。」

 

 なんとか言葉を絞り出す。

 

『あなた、■■■の神託を受けて来たのでしょう。いえ、あそこでは■■■と呼ばれていたのでしたか。まあ、それは置いておいて。それで?あなたは私に何をしてほしいのです?』

 

「ちょっとちょっとー。『私』ってば展開が速すぎませんか?せっかくの甥との再会にもうちょっと情緒があってもいいと思うのですけれど。」

 

 相変わらず理解できないが、目の前の()が二人で喋っていると思えば、理解はできないが、話についていくことはできる。

 

 気を失いそうになる意識を必死に保ちつつ、奏上する。

 

「私は、この度熊襲を一人で平定することとなりました。生きて私の故郷へ帰るため、私には力が必要なのです。どうか、御身のお力をかしていただきたい。」

 

 私の言葉に、目の前にいる「人」の方は怒りを顕にしたようだった。

 

「あらあらまあまあ。確認するけど、あなたの父親ってばタラシヒコの奴よね?」

 

「はい。」

 

 タラシヒコとは父上の亦の名である。私が呼んだことはない。

 

「もう。あいつってば私と違って父さんのいいとこなーんにも受け継いでないんだから。『私』がここを住まいとするってお決めになられたとき、都に使いを出さなくて正解だったわ。」

 

 つまりは、目の前の人物は父上の姉妹である、ということか?

 

「ええ。あいつは私の兄さんで間違いはないわ。認めたくはないけどね。」

 

 平然と心を読み取られるが、それを気にしている余裕はない。

 

「あっ、そうだ。私のことおばちゃんって呼んじゃ駄目よ。うーん、姫様、なんてありきたりで呼びなれてるし、うーん。」

 

『「私」がいると話が進みませんね。少し黙っていてください。』

 

 話の途中で『神様』の方が割り込んでくる。

 

『これで静かになりました。おや、気を失いそうですね。ああ、なるほど。少し氣を散らしておきましょう。』

 

 そう神様がいうと、たちまちそれまで背に押しかかっていた重圧が消える。

 

「っはっ!はぁっ!はぁっ!」

 

 息をすることを忘れていた。思い出していたとしても、できなかっただろうが。

 

『それで、熊襲を一人で平定したい、と。ええ、ええ。知っていましたとも。見ていましたからね。そして力を貸してほしい、ですか。中々に不遜な願い。けれど力になってあげないこともない、と言いたいところですが。私にも七面倒くさいしがらみやら何やらがありますからね、そのまま力になってあげることもできないのです。』

 

 神様は一人で話をどんどんと続けていく。重圧から解放されたとはいっても、その話の勢いに割り込むことを許さない。

 

『ですが、直接力になれないというのなら、間接的に力になればいいだけのこと。そういうことで、後は「私」、頼みましたよ。』

 

 ひとしきり神様は話しきると、現れた時のような突然さで去っていった。一切口を挟ませることなく押し切られてしまった。

 あれは、あの神様自身の性質というより、わざと私と言葉を重ねないよう意識しているかのように感じた。

 いまはその理由は分からない。ともかく、なにかしら力になってはくれるようなのでそのまま顔を下げ続けた。

 

「もう、『私』ってば何をそんなに焦っていらっしゃったのかしら。まあ、いいわ。あ、ヤマトちゃん、もう『私』帰っちゃったし、顔をあげていいわよ。」

 

 言われ、ゆるゆると顔をあげる。あれほどの神威を放っていた神様だ。目の前の存在が神様か人かはっきりしないとはいえ、無礼が許されないことは間違いないだろう。

 

「もー、そんなにかしこまらなくってもいいのよ?改めて、自己紹介といきましょうか。私は倭姫命(ヤマトヒメのミコト)。あなたの伯母さんね。あっ、さっきもいいかけたけど、おばさん、なんて呼ばないでね。おねえちゃん、はあざとすぎるか・・・。まあ、いいわ。『私』には無理でも、私が力になったげる。『私』のこともあるし、加護をあげる、みたいな直接的なのは無理だけど。ついてきて。」

 

 相変わらず心を読んでくる御仁だ。

 ともかく、言い切ると社のなかに消えていった伯母上を追いかける。

 

「おばちゃんいうな!」

 

 はい。姉上。

 

 

 

「それで、おば・・・姉上。あなたはいったい何者なのですか?神降ろしとも違うなにかを感じましたが。」

 

 あの莫大な神威をまた解放仕掛けていたのであわてて言葉をひっこめる。やはり、このようなことは人の為しえることではない。

 

「ああ、『私』のこと?私は『私』に私自身を捧げたの。『私』を奉らせていただくと決めたとき、私は『私』にすべてを委ねたのよ。結果、私の体には私と『私』が同居されているってわけ。おかげで、あそこも気に入らないそっちも気に入らないとか仰られる『私』の我が儘に付き合えるほどあっちゃこっちゃ歩き回れるようになったし、老けもしなくなったわ。あとそれよりなにより、『私』を『私』と呼んで近しくあれる、というのがいままでの中で一番よかったことかな。いつかは私は『私』と完全に一緒になれるし、やだ私ってば大和で一番の幸せものなんじゃ」

 

 そんな生き方があるのか。生きたまま体を神に捧げ、いつかは魂すらも捧げるとは。いまの私には理解できないが、姉上は心底幸せそうに未来を語っていた。

 人でありながら纏うその神気。人と神が重なったような存在。私に混乱をもたらしていたそれらに得心がいった。

 

「ふふーん、そんなことより、私としてはヤマトちゃんの恋路とかが気になっちゃったりするのだけどー。ヤマトちゃんには好きな子とかはいるのかにゃー?」

 

 好きな人か。言うまでもない。

 

「うわわわ。ちょっと強すぎる思念におねえちゃんとしてはドン引きである。まあ、かわいいかわいい甥の恋路だし?文句はないけどね。」

 

 初めて会う伯母との会話は非常に楽しく、速く時はながれていった。

 

 

 

「さて、これだ。『私』から言われたもの、持ってきたよ。私のお古の服だ。」

 

 そういって姉上が持ってきたのは当然、彼女のお古であるからして、女性服であった。

 

「・・・どうしろと。」

 

「現状、ヤマトちゃんには何にもない。多少人よりは知恵や力があっても、いまのヤマトちゃんはどこまでいってもただの人だ。だからなんとか、これも不可能に近いけど、頭領を暗殺し、熊襲に混乱をもたらして、その後に地方豪族の力を借りて平定してもらう。豪族たちは自主的に判断して動いたことにして、落としどころとしようっていうのが、大体のヤマトちゃんの策でしょう?」

 

 それがなぜ女性服につながるのかは意味不明だが、大体の筋道は間違っていないのでうなずく。

 

「甘いねー。甘々。ヤマトちゃん、君人外の地ってのをなんにも分かってない。確かに、加護もあることだし熊襲の地を踏破することぐらいは今のヤマトちゃんにもできるだろう。でもね、断言できるけど、ヤマトちゃん、君は絶対に暗殺を成功させることなく死ぬだろう。」

 

「────。」

 

 わかっていた。だからこそ、一発逆転の希望にすがりここまで来たのだ。

 

「そう。それが正解。つまらない意地はって死んじゃってもしょうがないしねー。そして、これがそれを可能にする、答えだ。」

 

 女性服が、死なずに済む答え。ここに来てより訳の分からないことばかりだったが、一番訳の分からない事象にぶち当たってしまった。

 

「ヤマトちゃん、なんでかは知らないけど、『私』が直接君の力になることはできないっておっしゃっていたでしょ?だからね、これは文字通り間接的に君の力になるものだ。この服は、私が『私』の我が儘に付き合って諸国を巡ってたときに着ていたものなんだ。おっと、匂いを嗅いだって箪笥のいい匂いしかしないからね。ともかく、その服には、私が諸国をめぐる中であっちゃこっちゃのいろんな妖獣や、精霊、挙句の果てには神様までぶちのめした経験が詰まってる。いまちょちょいと、ただの経験を実際に動いた記録に改ざんしちゃうからちょっと待ってね。」

 

 服の経験?動いた記録に改ざん?どういうことだ。まるで意味が分からない言葉がぽんぽんと飛び出してくる。

 

「ああ、つまり、いまやっていることは、私が動いたから服が動いた、という経験を、服が動いたから私が動いたって記録に改ざんしているの。そうすると、あっというまに自動で動く呪いの服の完成ってわけ!」

 

 ・・・それは、どんな陣を刻めばそのような結果をもたらすことができるのだ。さすがに神様と同一となった存在は違う、ということか。しかし、その方法では姉さんの動きまでしか模倣できないのではないか?

 

「ちょっとちょっとー、ヤマトちゃん私のこと舐めてない?いっくら若くて美人で素敵な人?うーん、人は怪しいか。まあ、そんな私を弱いって思ってるね?いいよ、かかってきなさいな。神様の力ばっかりが私のすべてってわけじゃないんだから。」

 

 とはいうものの、今現在姉さんは私のために彼女のお古の服に摩訶不思議すぎて理解できない陣を刻んでいる最中だ。万全を期するためにもこんなところで手元を狂わせるわけにはいかない。

 

「ふーむ、ま、そういうことなら後にしよっか。別にブレやしないけどなあ。」

 

 不服そうにぶーぶー頬を膨らませながら、姉さんは作業を進めた。

 

 

「さて、でーきたっ!」

 

 姉さんが服を仕立て上げると、大きく伸びをした。ついでだが、大きな果実も揺れた。

 

「あれれー。やっぱ男の子ですなー。でもでもー、私はとうに神様に身を捧げているのです・・・っ!残念ながらヤマトちゃんの想いには応えられてあげられませんっ!」

 

 心底面倒くさい寸劇を始めた姉さんを放置して、彼女のお古だという服を手に取る。刻まれた陣は刺繍の柄の中に完全に埋没し、先ほどまで作業を眺めていた自分でさえ、その文様を読み取ることは叶わない。

 

「私はこれでも習える芸事は全部極めてますからな。お茶の子さいさいよ。さて、一回着てみなさいな。」

 

 ・・・本当に着なくてはならないのだろうか。一男児としては非常に複雑なものがあるのだが。

 期待に目を輝かせる姉上をしり目に、しぶしぶ服を持って部屋を移す。

 幸いというべきか不幸にもというべきか、もともと旅の中で着るように仕立て上げられているので、着付けはさほど難しくない。

 もののいくらもしないうちに着替え終わると、姉上の前に出る。

 

「はーっ!よかったー!のぞき見しとかなくて!この瞬間がたまらねぇーっ!よし、じゃあついでにおめかしもしちゃおう!それだけかわいいの着ておいて顔だけなにもしないなんてもったいなさすぎる!」

 

 な、なにをする!あねうえー!

 

 

「これは・・・すばらしいっ!」

 

 抵抗空しくきれいに飾り立てられてしまった私は、姉上のやりきった、というすがすがしい笑顔とは対照的に、沈んだ表情を浮かべずにはいられなかった。

 

「ふぅっ!じゃあ手合わせでもしよっか。」

 

 急に話題があっちへこっちへ動くのだから心が追い付かない。というか本当にやるのか。この格好で。

 

「さー、表に出た出た。はじめのうちは服が動かしてくる動きに慣れないだろうから、しばらくは軽くいくよ。」

 

 そういって始まった手合わせは、はじめのうちこそ宣言通り、じじいとの稽古よりも緩かったものの、久しぶりに体を動かしたことで気分が乗ってきたのか、だんだんと姉上が動きを上げてきて、私が慣れない服の動きにも対応せねばならないことも相まり、日が赤くなるころには一歩も動けなくなっていた。

 

「やー、久しぶりにこんなに体動かしたわー。おつかれさん、ヤマトちゃん。」

 

 精も根も尽き果てた私は、結局その日、姉上の下で一晩を過ごすことになった。

 

 

 

 

 満月の冷たい光が注ぐ晩、私は姉上の部屋を訪れていた。

 

「ん?どうしたー、ヤマトちゃん。私夜は調子でないんだけどー。」

 

 目をこすりながら姉上が顔をのぞかせる。

 

「それは申し訳ありません。一つ、聞きたいことがあって参りました。」

 

「なにかな?だいたいのところは分かるけど。」

 

 姉上の真正面に正座し向き合う。その顔をはっきりと見つめながら、私は積年の疑問を姉上にぶつけた。

 

「私の知識についてです。この頭にこびりついた記憶、これはなんなのでしょう。これさえなければ、と何度も考えました。もっとも、今ではそれによって巡り合った出会いもあるので、それほど嫌っているわけではないのですが。しかし、疑問が残るのです。なぜこのようなものが私に宿ったのか、と。姉上は、それについてご存知ないのでしょうか。あるいはその手掛かりについて。」

 

 私の質問を、目を瞑りながら聞いていた姉上は、ゆっくりとその双眸を見せると、昼の調子からは想像もつかないような真面目な声で言った。

 

「それは、私には答えられません。ヤマトオグナよ。それはあなたの魂の根幹にかかわること。『私』であればすぐにでも答えの出せる問いです。ですが、それをあなたは、あなた自身の手で、解き明かさなくてはなりません。あるいは、あなたが魂だけとなった後にしか見えぬ答えであるかもしれません。それでも、その答えをおいそれと他人が出すことはまかりなりません。それは、あなた自身が探し出す答えなのです。ヤマトオグナよ。」

 

 そういう、ことか。そういう問いなのだ。これは。ならば私は生涯をかけてこの問いに答えを探さなくてはなるまい。

 

「ありがとうございました、姉上。おやすみなさい。」

 

「じゃーねー。また明日。おやすみー。」

 

 戸を閉じる。また一つ、死ねない理由ができた。

 

 




ランキング32位、ありがとうございます。本当にうれしいです。今後も更新頑張らせていただきます。
などと書いていたらランキングが更新されて11位に!驚きです。目を剥きました。

なんとか日曜日中にあげることができました。
次回更新は来週末を予定しています。
ここ数日の短期更新を楽しみにしていらっしゃった皆様には申し訳ありません。
気長にお待ちいただければと思います。


余談:今話のタイトル「道の先に繋がるものは。」は道と未知という二つの意味を持たせていたり。

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