色々と言いたいことを大雑把にまとめてみた

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女神「若くして命を失った可哀想なあなたを異世界へ転生させてあげましょう」

「身体能力は伸びるだけ伸ばし、所持しているスマホを使えるようにします。アイテムを造る能力にスキルを奪う能力、魔力というよくわからないエネルギーを最大量保持できるように調整し、所持品を無限に収納できる鞄を授けましょう。時間を超える力は用意できませんが、死に瀕した時にチャンスを得られるコンティニューの権利を授けましょう。主要都市で必要とされる通貨のうち市場を傾けない程度の金貨を十数枚ほど、これは初期サービスです。さぁ、新たなる人生を始めなさい――」

 

「――そこまでしないと生きられない世界なのか!?」

 

 

 少年は思わずツッコミを入れた。

 昨今のなろう系アニメの需要をてんこ盛りにしただけ、という懸念も無くはないが、此処まで盛られると逆に嫌な予感の方が大きくなってくる。

 のほほんと世界を旅するような基地外精神は、『普通の少年』には中々備わっていないモノなのである。

 

 

「なんですか。転生させてくれる神様と出会えるだけでもありがたいと思うのが普通でしょうに、与えられる特典(ギフト)に文句を付けるとは度し難い。ネトゲの最強キャラをアバターに据えようなんて真似は出来ませんよ。そもそもあなたにはそんなもの無いじゃないですか」

「ええまあそもそもやり込むほどネトゲに嵌まってませんしね、ってそうじゃなくって……」

 

 

 何処かのウサギの蔓延る町の喫茶店に勤めて居そうな見た目のやや幼児体系な女神を見上げつつ、少年は考えた。

 此処で重大なことを確認しておかないと、絶対に後々めんどくさいことになる、と様々な素人小説を読み耽って思い知っていたからである。

 

 

「えーと、そもそも、俺ってマジで死んだんですか? 死因とかは?」

「トラックに轢かれて死にました。私たちのような神が手を下したことは特になく、あなたの前方不注意が及ばせた結果です。異世界にトラックは無いので同じ死に方はしないと前もって伝えておきましょう」

「そりゃあありがとうございます……」

 

 

 抑揚のない声音で女神(推測)は言う。

 そういえば、彼女の声音には疑問符も感嘆符も言い濁すような言葉回しも無い。

 クール系と言えば聴こえは善いが、これではまるで機械の様だ、と少年は思った。

 

 

「じゃあ、なんで俺を転生させようってことになったんでしょう。言っちゃなんですけど、俺って凡人も凡人のやる気も無い子供ですけど」

「17にもなって子供を名乗る時点で世の中ではカーストも低位置です。あなたは色々と基準値が低いので、やはり普通とは呼べません。その(ザマ)で凡夫などと自嘲するなど、恥を知りなさい」

「やめてくださいしんでしまいます」

「もう死んでいるでしょう」

 

 

 唐突なdisに少年の心は良い音を立てて折れた。

 抑揚のない女神の声は、容赦なく追撃を仕掛けていた。

 

 

「強いて挙げるならば自意識の高さです。あなたは自己評価を随分と過大に据えているので、死んで成仏も出来ないのでこの場所に留まっています。いわゆる死中の夢です」

「え、なんすかそれ」

「死ぬしかない意識が喪失される寸前で留められて夢を見ている状態です。世間一般では臨死体験と呼ばれる現象に遭遇しています」

 

 

 少年は酷いネタバレを垣間見た気がしたが、穿ってもロクなことにならないのだろうな、と呆けた口元をキュッと紡ぎ沈黙することにした。まるで聞き分けの無い子供がそれでも己を通そうとする(サマ)(よう)でもある。下剋上を待機しているかのようでもあった。

 ――が、

 

 

「世に蔓延るカミサマテンセイという現象はこういった幻想を拡大解釈した個人の夢でしかありません。死ぬしかない、袋小路に陥った意識が最後に見る心地よい夢、それが彼らの異世界転生です。要するに寸詰まりです」

「もうやめたげてよぉお!?」

 

 

 女神は容赦が無かった。

 思わず正座していた少年が悲鳴に似た(絶望)を、まるで世界に向けて懇願するかのようにかぶりを振りつつ上げるも、女神の言葉はまだ続く。

 

 

「そもそも世の中を神の手ひとつですべて采配できていると思う方が傲慢です。世界を隔てる壁というものはどのような層だとしても凌駕することは容易くなく、信仰を備える存在という者はまた神ではなく悪魔にしか成り得ません。そこに自身の確立を求めようという欲が備わる限り低俗な人格を添える存在にしか成り得ないために、自らの手を思う場所へ届かせようという存在には神性という名の主柱足り得ない、概念に及ばない個人に成り下がるしか道が無いためです。よって、あなたがた人間の人生はそれぞれの差配の結果でしかなく、そこの責任を神へ追及することがお門違いでしかないのです」

「なんか難しいことを説明されたけどとりあえず色んな奴らが大否定された気がする!?」

 

 

 昨今出揃ったアレとかソレとかコレとかが、女神の言葉でぶった切られた。

 しかし此処もまたチラシの裏なので、結局は冗句のひとつとして処理されてゆくのダロウ。安心安心。

 

 

「さて、いい加減に不安定な此処にあなたを留めておくだけの時間も限られてきました。言ってしまえばもっと早くに送るべきだったのですが、あなたの疑問に答えるだけの時間を費やしたのでもうよろしいでしょう。では」

 

「!? ちょ、まってー! まだ聞きたいことがぁ――」

 

 

 まるで暗い穴へ呑みこまれるかの如く、少年の声がボッシュートされる。

 彼の見ていたこころがぴょんぴょんするかのようなようじょのグラフィックは暗幕を下されたように遮断され、二度とその世界へ戻れないことを容赦なく伝える。

 こんな最期を垣間見るのならば、神様転生する主人公ではなくアニメを視聴できるニートになりたかった、という断末魔を残し、彼の意識は暗転した。

 

 

 

  ☆

 

 

 

 ――ゴッフーゴッフーヒョァアアアホァッホァァーッ!

 

 そんな感じの擬音が頭上ではためいている。

 少年は転生早々、ビルを木のように登れる類人猿系の怪獣と遭遇していた。

 身の丈は50メートル。死ぬしかない。

 

 

「ッ、いやいやいやいやいやいやいやいや死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!?」

 

 

 伸ばしてもらった身体能力で足元を蹴る。

 制御し切れてはいないが、反動で飛び退ったその場を巨猿の踏み付けが押し潰した。

 向こうからすれば足元の虫を嫌がった程度の感覚かもしれない。

 

 

「ちゅ、チュートリアルでぶつかるには強すぎませんかねぇ!?」

 

 

 例えるならば、GAN●Zで最初の死亡時に既に最終決戦に突入していたような場違い感。

 狙うならば体内から掻き乱すような戦い方だが、初心者にそれを選択させるというのはあまりにも酷だ。

 もっとも、地の文は飽く迄も例えを出したに過ぎない。

 転生少年は狼狽えつつも、自分が勝てる手段を検討する。

 

 

「なんかないかなんかないかなんかないか」

 

 

 濁声の青駄抜き(劇場版)のように取れる手段を探す。

 ひとまず特典として与えてもらった『スキルを奪う能力』とやらを使ってみる。

 

 

「ど、どうすればいい!? こうか、いや、こうか?」

 

 

 スキルテイカー! と叫びつつジョジョっぽい立ち姿を晒して意識的に巨猿をオミットする。

 オミットと言う単語の使い方が間違っている気がしないでもないが、まあなんや、そんな感じの意味合いだと思ってくれ!

 

 

「お、おお! 奪えた! えーと、……『木の実を採取するスキル』?」

『ホァーーー!』

 

 

 巨猿のスタンピングが再び襲う。

 焼け石に水だった。

 

 

「ほあーーーー!?」

 

 

 寸でのところで飛び退ってもういっかい。

 少年の転生人生は始まったばかりだ! とリトライに挑戦する。

 

 

「じゃ、じゃあこれだ! アイテム作成能力! 銃を造って狙い撃つぜ!」

 

 

 手元に輝きが収束し、きらきらとしたエフェクトが形になる。

 ――ぱーん、と暴発した。

 

 

「……いきなり銃は無理だな。たぶん、想像力の限界だよ、うん」

 

 

 足元で爆竹がはじけた感覚だったのか、一瞬目を見開いた巨猿は次の少年の行動を興味深そうに覗いていた。優しい。

 

 

「じゃ、じゃあ斬艦剣だ! とりあえずでかいの造ってぶった切るぜ!」

 

 

 きらきらとしたエフェクトが以下略。

 ――巨猿に新しい武器が与えられた。

 

 

「相手強くしてどうするんだ俺!?」

 

 

 とうとう自棄になって最大量まで保持できるようにと調整された魔力とやらに手を伸ばす少年。

 身体の中に感じる熱を手のひらへ貯める、かめ●め波のポーズで力を籠める。

 ――ぼーん、と身体が破裂したかのような熱気が全身から溢れ出た。

 

 

「き、キラークイーンか……!? いつのまにスタンド攻撃を……」

 

 

 貯め過ぎたのだろう、やはり暴発で身動きが取れなくなった少年は、言い得て妙な表現で的確に自身に起こった描写を説明していた。

 最後の手段、と懐からスマホを取り出す。

 確かに電波は届いているらしく、なにかないかと画面をタップする。

 

 ――電話帳登録件数、0。使えるアプリはパズ●ラくらいだ。

 

 今度は待ってくれなくて、とうとう踏み潰された。

 

 

 




――コンティニュー
 ニア もう一度はじめる
   あきらめる


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