ー想い歌ー   作:土斑猫

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 本作はライトノベル「半分の月がのぼる空」の二次創作作品です。
 オリジナルキャラが登場し、重要な役割を占めます。
 オリキャラに拒否感を感じる方は、お気をつけください。

 また、今作はボーカロイドの曲、「悪ノ召使」関連に関係した表現が多く出ます。
 一連の曲を知っていると、より分かりやすく読めると思います。

 興味があれば、聞いてみてくださいな。


ー想い歌ー・③

                   ―3―

 

 

 「……何で、自転車置き場(こっち)に来てんだよ?お前、校舎裏にって……」

 「女の感です」

 僕の問いに真顔でそう答えた蓮華は、だけどすぐに相好を崩してケタケタと笑う。

 「ウソウソ。そんなに驚いた顔しないでください。可愛いなあ、もう」

 そう言って、蓮華は僕との距離をまた一歩詰める。

 「分かってましたよ。あたしの方には来てくれないって」

 ニコニコと微笑みながら、何でもないかの様にそんな事を言う。

 「先輩にもうお相手がいる事は知ってましたし。むしろ来られたら、そっちの方が幻滅ものだったかも」

 笑いながら、蓮華は右手の人差し指を、教鞭でも振るかの様に宙でクルクル回す。

 「こっちに来ないなら、いつも通りの帰宅コースを辿ると考えるのは、易い事だと思いませんか?先輩」

 そしてまた、ケタケタと笑う。

 その人を食った様な態度に、僕はだんだん苛ついてきた。

 「そこまで分かってんなら、何でちょっかい出してくるんだよ!?オレには里香がいるんだ。お前の誘いになんか、乗らねえぞ!!」

 少し語気を荒めた僕の言葉を、だけど蓮華は余裕で受け流す。

 「大変でしたよぉ。クラスの皆が皆、先輩には秋庭先輩がいるから駄目だって言うんですから。でも……」

 そこで、蓮華は初めて僕から視線を外した。向けた視線の先には、僕の隣に立つ里香がいる。

 「そんなの、関係ないですし」

 語調が変わった。それまでキャラキャラと軽かった言葉に、剣呑とした響きがこもる。

 「人を好きになるのに、理屈をこねるなんて不粋ですよねぇ。そう思いませんか?秋庭先輩?」

 人の神経を逆撫でする様な、悪意のこもった口調。明らかな挑発であるそれに、だけど里香は答えない。ただ黙って、自分に向けられている視線を真正面から受け止める。

 「………」

 「………」

 しばしの間。張り詰めた空気に、こっちの息が詰まりそうになる。

 「……乗ってきませんね。本妻の余裕ってやつですか?」

 そう言って、先に目をそらしたのは蓮華の方だった。

 「まあいいです。今日の所はこれで終わりにします。でも……」

 瞬間、蓮華の右手が素早く動いて僕の襟を掴んだ。抵抗する間もなく、頭が強く引かれる。一瞬の後、頬に触れる柔らかい感触。

 「!!」

 それがなんなのかを理解する前に、蓮華は踊る様なステップで僕から離れていた。

 「先輩、あたしの方はこういう事ですから。それと……」

 鋭い眼差しが、再び里香に向けられる。

 「先輩は、あたしがもらいますから」

 その言葉に、明らかな敵意をこめてそう言うと、蓮華は踵を返して走っていってしまった。

 「……何なんだよ……一体……?」

 頬に残る感触に呆然としながら、走り去る後姿を見送るだけの僕。

 と、唐突に背中に走る悪寒。

 凄まじい殺気にゴクリと唾を呑み込んで振り返ると、里香が底冷えのするような眼差しで僕を睨んでいた。

 「裕一、今の、何……?」

 「い、いや、今のは、その……!!」

 冬の吹雪の様に冷たい視線に射抜かれて、僕はただただ竦み上がるばかりだった。

 

 

                                 続く

 


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