ー想い歌ー   作:土斑猫

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 本作はライトノベル「半分の月がのぼる空」の二次創作作品です。
 オリジナルキャラが登場し、重要な役割を占めます。
 オリキャラに拒否感を感じる方は、お気をつけください。

 また、今作はボーカロイドの曲、「悪ノ召使」関連に関係した表現が多く出ます。
 一連の曲を知っていると、より分かりやすく読めると思います。

 興味があれば、聞いてみてくださいな。


ー想い歌ー・⑳

                   ―20―

 

 

 その日、僕は相応の覚悟を決めていた。他にあろう筈もない。如月蓮華の事だ。

 里香に対して、あれだけの事をしたのだ。

 もう、許す事も見過ごす事も出来なかった。

 その姿を見た瞬間、力の限り怒鳴り飛ばしてやろうと思っていた。場合によっては、頬を張り飛ばしてやろうとすら思っていた。

 他人の目も、噂も気にしない。停学になったって、知るものか。

 あいつとのしがらみは、今日をもって終わらせる。

 絶対に。

 そう息巻いて、僕は学校に向かった。

 だけど――

 その日、如月蓮華は僕の前に姿を見せなかった。

 登校時も。

 昼休みの時も。

 あれだけ毎日付き纏ってきていたのがウソの様に、僕の目の前からその姿はパッタリと消えた。

 少々肩透かしを食らった気分でいたところに、風の噂が聞こえてきた。

 今日、如月蓮華は欠席していたらしい。

 ひょっとして、昨日の事がそれなりに効いたりしていたのだろうか。まぁ、それならそれで、せいせいする事は確かだ。久しぶりの開放感に、僕は少し気を抜いていた。

 

 

 「ねえ、吉崎さん」

 昼休み、あたしは吉崎さんに声をかけた。

 「え、何ですか?」

 何か物思いにふけっていたらしい彼女は、あたしの声に驚いた様に振り向いた。

 「どうしたの?何か、疲れてるみたいだけど?」

 「いえ、別に。何でもないですよ?」

 そう言いながら頭を振る彼女には、それ以上の詮索を拒む様な雰囲気があった。

 訊かれたくない事は、誰にでもあるものだ。

 あたしはそれ以上突っ込むのを止めて、自分の用をきり出した。

 「『悪ノ召使』って知ってる?」

 あたしの言葉に、吉崎さんが目を丸くする。

 「『悪ノ召使』って、あの『悪ノ召使』ですか?ボカロ曲の?」

 ひどく意外そうに、そう言われた。

 「知ってますけど、それがどうしたんですか?」

 「うん。ちょっと、どんな歌かなって思って」

 「先輩、ボカロに興味ありましたっけ?」

 「そういう訳じゃないけど……ちょっと……」

 「はぁ……?」

 吉崎さんは今一つ腑に落ちないといった顔をしながら、机の脇にかけてあった鞄を手にとる。

 ゴソゴソと中をまさぐって取り出したのは、小さなウォークマン。それにつないだイヤホンを、あたしに向かって差し出してきた。

 「聞いてみますか?」

 「持ってるの?」

 「入ってます」

 「好きなんだ」

 「特に、そういう訳じゃないですけど……」

 「じゃあ、どうして?」

 「流行ってますから」

 「そうなんだ」

 あまりピンとこない答えだったけど、それはお互い様と言った所だろう。

 とりあえずそう答えて、ヘッドフォンを受け取る。

 「『悪ノ娘』は知ってますか?」

 ウォークマンを操作しながら、吉崎さんが訊いて来た。

 「何?それ」

 「『悪ノ召使』の姉弟曲です。これとセットで、一つの物語になってるんです。そっちから聞いた方が、歌の内容が良く分かると思いますけど」

 「じゃあ、お願い」

 「はい」

 そう言って、吉崎さんがスイッチを入れる。

 一拍の間。

 そして――

 『オーッホッホッホ!!さあ、跪きなさい!!』

 突然そんな声が響いて、少しビックリした。

 人間とは違った、キーの高い声。これが、ボーカロイドとやらの声なのだろうか。

 先の台詞の後、音楽が鳴って歌が始まった。

 『―♪むかしむかしあるところに……♪―』

 最初は、「悪ノ娘」という曲。

 人間とは違った調子の声は最初聞き取り辛かったけど、その内慣れて気にならなくなった。

 目を閉じて、歌の内容に集中する。

 

 

 歌の舞台は、多分中世の欧州辺りをイメージしている。。

 主役はある国を治めていた、齢14歳の王女様。

 傲慢な性格の彼女は、己の欲望の趣くままに、様々な悪政を行う。

 自国の民には圧政を強い、刃向かうものは尽く粛清する。

 想いを寄せる男性の心が他の女性にあると知れば、嫉妬に狂って戦争を起こし、その女性の国を滅ぼしてしまう。

 人々がどんなに苦しみの声をあげても、彼女が言う言葉は一つだけ。

 「あら、おやつの時間だわ」

 けれど、そんな暴政も長くは続かない。

 やがて、耐えかねた国民が革命を起こす。

 長い戦で疲弊した兵士達は敗走し、家臣たちも逃げ出してしまう。

 広い城に、たった一人残される王女。

 彼女は民衆に捕えられ、投獄される。

 そして、“その時”がやって来る。

 教会の鐘が鳴る中、彼女は処刑される。

 その最期の言葉も、「あら、おやつの時間だわ」。

 その様に、後の人々はこう語る。

 彼女はまさに「悪ノ娘」と。

 

 

 ……よくある話だ。

 悪政者がその所業に相応しい哀れな末路をたどる、勧善懲悪の話。

 筋書きもお手本にそって作ったような内容で、別に聞く者を驚かせようと捻った所もない。

 歌としても物語としても、取り立ててどうと言うものではない。

 それが、正直な感想。

 あたしがそう思っていると、曲が切り替わった。

 ぜんまいを巻く様な音。

 先の「悪ノ娘」のメロディーを奏でる、オルゴールの音色。

 鳴り響く鐘の音。

 そして――

 「―♪君は王女 僕は召使……♪―」

 聞き覚えのある旋律と歌詞。

 「悪ノ召使」だ。

 あたしはもう一度、歌に意識を向けた。

 

 舞台は先の「悪ノ娘」と同じ、中世の欧州。

 今度の主役は、王女に仕えていた召使。

 彼は、王女の双子の弟だった。

 期待の中、祝福されて生まれた二人。

 けれど、周りの大人達の思惑で二人の未来は二つに裂かれる。

 一人は一国の王女。

 一人はその召使。

 その時から、二人の運命の歯車は狂い始める。

 悪逆非道悪の王国の中で、悪の娘と呼ばれて孤立していく王女。

 彼女を護るため、姉弟の彼は自らも悪に染まる事を覚悟し、罪を重ねていく。

 自身の良心も、淡い恋心すらも犠牲にして。

 やがて起こる、あの革命。

 それを報いと知りながら、彼はあえてそれに抗う道を選ぶ。

 全ての家臣が逃げ出し、二人きりになった王宮の中で、彼は王女に言う。

 「ほら、僕の服を貸してあげる」

 「これを着てすぐ、お逃げなさい」

 「大丈夫、僕らは双子だよ」

 「きっと、誰にも分からないさ」

 そして、彼は王女として捕えられ、処刑される。

 自分が全てをかけて護った彼女の幸せと、来世での再会を願いながら……。

 

 

 『♪……もしも、生まれ変われるならば その時はまた遊んでね……♪』

 そう言葉を結び、歌は終った。

 「ありがとう」

 お礼を言いながら、イヤホンを吉崎さんに返す。

 「どうでした?」

 「……召使、死んじゃうんだね」

 「そうですね。悲しい歌です」

 ウォークマンを鞄にしまいながら、吉崎さんがそう言う。

 でも……

 「そうかな……?」

 「……?」

 あたしの言葉に、吉崎さんが小首を傾げる。

 そんな彼女に、あたしは言った。

 「あたしは、幸せな歌だと思う。」

 「幸せ……ですか?」

 目を丸くする吉崎さんに、あたしは頷く。

 「これ……悲劇だと思うんですけど、どこが幸せなんですか?」

 納得いかないと言う風に尋ねられて、それでもあたしは頭を振った。

 確かに、これは悲劇だろう。

 十人が聞けば、十人がそう答えるに違いない。

 でも、あたしの耳の中には、“彼”の言葉が残っていた。

 『――例え世界の全てが 君の敵になろうとも 僕が君を守るから 君は何処かで笑っていて――』 

 そう。彼は遺したのだ。

 自分の姉弟に。

 最も愛した片割れに。

 笑う事が出来る未来を。

 “今”は無理だろう。

 それでも、いつかは必ず笑える日が来る。

 彼女を縛っていたのは、「悪ノ娘」という名の悪しき形骸。

 彼が己の命を代価に奪い去ったのは、その束縛。

 彼女を縛る鎖は、もう存在しない。

 あるのは、自由に羽ばたける未来だけ。

 後に残る者に、確かな“未来”を遺す事が出来る。

 こんなに、素晴らしい事があるだろうか。

 “あの娘”の言葉が、頭を過ぎる。

 (……アンタ“達”は、いつもそう……)

 あの夕闇の中で、薄い唇が紡いだ言葉。

 (今生きてる人の……これから生きてく人の……何もかもをかっさらっていってしまう……)

 耳元で囁かれた言葉。今でもはっきりと耳に残っている。

 (心も、夢も、希望も、未来までも奪い去って、それで自分だけ消えてしまう!!)

 彼女の言う事は間違いじゃない。

 あたしは、奪うだけ。

 裕一の夢を。

 未来を。

 彼は言ってくれた。

 あの日の暗い病室で。

 昨日の暗い廊下で。

 「わかってる」と。

 「全部わかってる」と。

 だけど。

 だけど。

 愛する者に、未来を遺した召使。

 彼の未来を、奪うだけのあたし。

 その事に、羨望の想いを抱く事は罪だろうか。

 「……幸せな、歌だよ……」

 どうにも腑に落ちないと言った顔をしている吉崎さんに、あたしはもう一度そう言った。

 

 

 昼食を食べ終えた後、あたしは机に頬杖をつきながら、ボンヤリとしていた。

 (わたしのお願い……聞いてくれる?)

 頭の中では、昨夜の如月蓮華の母親の言葉がリフレインしていた。

 彼女には「善処する」と言ったものの、実際どうしたものだろうか。

 絶対の条件として提示されたものではない。

 “それ”がどんなに困難な事か、一番知っているのは誰でもない。彼女自身だ。

 だけど、それを承知で彼女はこちらが求める“もの”を教えてくれた。

 そこには、自分の娘の暴走を止めたいという想いと、彼女を救いたいという想いが混在しているのだろう。

 求める“もの”を教えてもらった以上、それに応えるのが人の道義というものかもしれない。

 だけど、先にも言った通りそれは非常に困難極まる事だ。

 あたしには、それを成す自信はない。

 と言うか、正直ゴメンこうむりたい。

 しかし、向こうはこちらの望みに応えて、おそらくは思い出すのも辛いであろう心の傷を自ら抉り返したのだ。

 それをただ無理と拒絶するのも、正直気が引ける。

 じゃあ、どうするのか。

 そして思考は元に戻る。

 結局、昨夜からこの繰り返しだ。

 いい加減、ウンザリしてきた。

 けど、だからといって棚上げする事も出来ない。

 全く、自分はいつからこんなにお人好しになってしまったのだろう。

 ちょっと前までの自分だったら、クラスでの立ち位置とか、今の流行ものとかそんな事だけが世界の全てで、正直自分に関わってきさえしなければ、他人の事なんかどうでも良かった。

 それが、今はどうだ。

 こんな自分には関わりのない事に自ら首を突っ込んで、今みたいに面倒事に巻き込まれている。

 全く、どこで人生の分岐路を間違えたのだろう。

 そんな事を考えていたら、

 「ねえ、吉崎さん」

 急にそんな声が聞こえて、あたしを我に返させた。

 見れば、そこには件の分岐路であたしを惑わせた張本人―秋庭里香が立っていた。

 「どうしたの?何か、疲れてるみたいだけど?」

 一瞬、誰のせいかなどと言いたくなったけど、そもそもこっちが勝手にやってる事。恨み節を言う訳にもいかない。だから、「いえ、別に。何でもないですよ?」などと言って、適当にお茶を濁しておいた。こちらの心情を察したのか、先輩はそれ以上の詮索はせずに本題に入ってきた。

 「『悪ノ召使』って知ってる?」

 その言葉に、あたしは思わず目を丸くしてしまった。

 この(ひと)の口から、そんな単語が飛び出してくるとは思わなかった。

 「『悪ノ召使』って、あの『悪ノ召使』ですか?ボカロ曲の?」

 意外そうにそう言ったら、ひどく心外そうな顔をされた。

 「知ってますけど、それがどうしたんですか?」

 「うん。ちょっと、どんな歌かなって思って」

 「先輩、ボカロに興味ありましたっけ?」

 「そういう訳じゃないけど……ちょっと……」

 「はぁ……?」

 先輩にしては珍しく、どうも歯切れが悪い。

 あたしは今一つ腑に落ちないながらも、机の脇にかけてあった鞄を手にとる。

 件の曲なら、丁度ウォークマンの中に入っている。

 友達の中に何人かはまっている娘がいて、話を合わせるために聞いていたものだ。

 ウォークマンを取り出して、それにつないだイヤホンを先輩に向かって差し出す。

 「聞いてみますか?」

 と訊くと、

 「持ってるの?」

 と訊き返してきた。

 「入ってます」と応えると、

 「好きなんだ」と言われた。

 あくまで周りと話を合わせるために聞いているのであって、あたし自身はさほどはまっている訳ではない。そう言うと、「じゃあ、どうして?」と不思議な顔をされた。「流行ってますから」、と答えるとあまりピンとこないという顔をされた。

 綾子といい、この(ひと)といい、どうもこういう感性においては今だにすれ違いが多い。面倒な事だ。

 まぁ、向こうもそれ以上突っ込んではこなかったので、とりあえずイヤホンを渡した。

 一応、「『悪ノ娘』は知ってますか?」と訊いてみると、「何?それ」などと返してきた。

 この曲を知らなくて、なんで「悪ノ召使」を聞きたいなどと思いいたったのか。今一つ理屈が分からないが、とりあえず説明すると「じゃあ、お願い」との事。よく分からないまま、あたしはウォークマンのスイッチを押した。

 

 

 先輩は目を閉じ、一心に曲を聴いていた。

 それこそ、声をかけるのもはばかられるくらいの真剣さで。

 何か、あったのだろうか。この曲に、何か思う所でもあるのだろうか。

 そんな事すら思わせる様子だった。

 

 

 「ありがとう」 

 曲が終ったのか、先輩がそんな事を言いながらイヤホンを外して返してきた。

 「どうでした?」とあたしが訊くと、「召使、死んじゃうんだね」との言葉。

 「そうですね。悲しい歌です」

 ウォークマンを鞄にしまいながら、何気なくそう言うと、

 「そうかな……?」

 そんな言葉が返って来た。

 この曲を表現するのに、他に言葉があるのだろうか。

 怪訝に思っていると、先輩はこう言った。

 「あたしは、幸せな歌だと思う……」

 「幸せ……ですか?」

 思いがけない言葉に目を丸くするあたしに、先輩は頷く。

 「これ……悲劇だと思うんですけど、どこが幸せなんですか?」

 さすがに納得がいかないのでそう尋ねると、先輩は黙って頭を振り、その視線を窓の外へと向ける。 

 その顔を見て、あたしは「ああ、まただ」と思う。

 先輩は、時々こんな目をする。

 話をしている時。

 廊下を歩いている時。

 授業中のふとした瞬間。

 こんな目をして、外を見る。

 そんな時の先輩の目は、とても儚く、そして澄み通っている。

 その瞳が何を見ているのか、あたしには分からない。

 ひょっとしたら、あたし達には見えない何かを見ているのかもしれない。

 分かるのはただ、その時の先輩の瞳は、この上もなく綺麗だと言う事だけ。

 「……幸せな、歌だよ……」

 空を見ている先輩が、呟く様にそう言う。

 その声を聞いて、あたしは考えるのを止めた。

 

 

 「ありがとう。吉崎さん」

 そう言って、先輩が席を立つ。

 「あ、先輩!!そう言えば……」

 思わずその背に声をかけ、あたしは固まった。

 「何?吉崎さん」

 先輩が訊いて来る。

 あたしは最初、昨日如月蓮華の家で聞いた事を先輩に伝えるつもりだった。だけど、よくよく考えてみれば、あれは先輩に聞かせるべき話なのだろうか。

 先輩と、戎崎裕一。二人によく似た境遇だった、蓮華の姉と少年。

 その二人がたどってしまった、あまりにも救いのない結末。

 それを先輩に教えるのは、余りにも残酷な所業の様に思えた。

 先輩が、怪訝そうな顔で見つめてくる。

 どうしよう。

 教えるべきか。否か。

 しばしの逡巡。

 そして――

 「いえ……何でもないです……」

 あたしの答えに、先輩は不思議そうな顔をしながら立ち去って行った。

 

 

 ……耳の中で、あの曲が何度も繰り返される。

 それを奏でるボーカロイドの声は、いつしか“あの娘”の声に挿し代わり、頭の中で反響する。

 あの娘は何故、この曲を歌っていたのだろう。

 あんなにも綺麗に。

 あんなにも寂しげに。

 一体、どんな想いを込めて歌っていたのだろう。

 一体、どんな願いを込めて歌っていたのだろう。

 いくら考えても、答えは出ない。

 『♪……例え世界の全てが 君の敵になろうとも 僕が君を守るから 君は何処かで笑っていて……♪』

 ただ、あのフレーズだけが、いつまでも響いては消えていった。

 

 

 その時、教室には誰もいなかった。

 その日、五時間目の授業時間。

 科目は体育。

 生徒も、そして教師も、授業のために校庭へと出払っていた。

 くりかえそう。

 それは、五時間目の授業時間。

 当然、他の教室の生徒達も授業中。

 無人の教室は、ひっそりと静まり返っている。

 ――と、

 カララ……

 無機質な音が響き、教室の扉が開く。

 カツ カツ カツ

 誰もいない教室に、響く足音。

 それは、いくつもの机が並ぶ中、迷う事無くその中の一つに向かっていく。

 カツリ

 机の脇で止まる足音。

 その机の脇に下げられた鞄。

 それに、スゥと白い手が伸びる。

 手は鞄の中に潜り込むと、その中から何かをつかみ出す。

 それは、ピンク色をし、可愛いストラップのついた携帯電話。

 パクリ

 軽い音が響き、携帯が開けられる。

 カチ カチ カチ

 細い指が踊り、手早く携帯を操作していく。

 やがて、その画面に浮かぶのはメールの作成画面。

 カチ カチ カチ

 踊る指。入力されていく文章。

 そして――

 ピッ

 映し出される、メールの送信画面。

 しばしの間。

 パチリ

 先と同じ様に、軽い音を立てて閉じられる携帯。

 白い手が、携帯を再び鞄へと戻す。

 カツ カツ カツ

 響く足音。

 ピシャン

 閉じられる、教室の戸。

 そして無人の教室は、再び沈黙へと包まれた。

 

 

                                     続く


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