東方染色記 作:折れない黒鉛筆
今回は少し他の話と書き方を変えたので良かったらどちらの方がより良いか意見を教えていただけると助かります。もし今回の方が良さそうであれば全話また書き換えることになりますが。
ダラダラここで書き続けるのもアレなので、第十九話をどうぞ。
前回のあらすじ
香霖堂に行った
ようやく幻想郷の通貨を手に入れた
香霖堂店主の森近霖之助が半人半霊だった
幻想郷の空は今日も晴れ模様だ。雲一つない青空。そしてギンギンに光り輝く太陽。確か7月末ぐらいに紅霧異変が起こり、それから大体1週間ほど経ったという事は……大体今は夏真っ盛り、8月上旬といったところだろう。つまり何が言いたいかと言うと…
「はぁ……めちゃくちゃ暑い…」
幻想郷の空で誰にも聞こえないような声でそう呟く。暑いのも無理はない。何故なら今日俺が着ている服装は暗色系の色が中心。それに加え長袖長ズボンという服装なのだ。一応長袖の袖を捲り上げて擬似半袖みたいにはしているのだが、それでも暑い。あの時はまさかこの服装で夏真っ盛りを迎えるとは思える訳がないので、仕方なく耐えている、という訳だ。
因みに此処から帰れない理由が判明した次の日辺りに一度紫に頼み、外の世界から着替えを買ってきて貰ったのだが、その時は半袖という存在をすっかり忘れていたため、自分の着替えは長袖しかない。しかも暗色系のやつだ。どんだけ長袖好きなんだ俺。
話を戻そう。今現在俺は香霖堂を出て大体南西方面、場所で言うと人間の里に向かっている。目的は今のところ二つ。俺が慧音と妹紅から感じた違和感の正体を突き止めることと、慧音と妹紅に『自分の二つ目の能力』について詳しく話すという約束を果たすことだ。人間の里に行く理由としては妹紅は何処に居るかは分からないが慧音ならほぼ人間の里に居るだろうと予測したからだったりする。
さて、人間の里に着くまでに少し時間が余った為少しだけ考察をしてみる。まず『人間だけど人間じゃない』みたいな違和感ある雰囲気を感じたのは今のところ3人。慧音と妹紅、そして霖之助だ。次に霖之助に聞いてみたところ、彼は自身の種族が『半人半妖』であると明かした。もし『人間だけど人間じゃない』=『半人半妖』だと仮定するならあの二人は半人半妖であることが確定するのだが…
「まあ、そう上手く推測が当たらないのが現実だよな……」
考え事をしているうちに、人間の里の門が見えてきた。取り敢えず推測はここまでで一旦ストップしよう。そう考えて色々考えていた頭をリセット。そして門に続いている小道の脇に着地。此処からは歩きだ。一応人間の里に入るのに門を通らないのは流石にね?
人間の里にはよく来てたりするのでここの門番さんとは普通に顔見知りだ。門を通る際軽く会釈をするとしっかりと笑顔か会釈を返してくれる辺り良い人だと思う。顔は怖いけど。そんな事を考えていると門が目の前に来ていた。その横にはいつもの門番さんが。
「あ、どうも。少し用事が出来たので来ました。」
「うむ、通って良いぞ。」
俺が軽く会釈をすると門番さんも軽く会釈を返してくれ、普通に門をくぐる。先ずは人間の里に到着した訳だが…次にやる事はもう決まっている。
「うし、寺子屋行くか。」
そう自分に言い聞かせ、俺は寺子屋へと歩き出した。何とか道は分かるはずだ。多分。
─────
結局あの後道に迷ってしまい、色んな人に道を聞きながらどうにか寺子屋に辿り着くことができた。正直疲れたのは気の所為だろうか。さあ寺子屋に入ろうと手を戸にかけ、戸を開けようとするが、ある音が耳に入りその手を止める。
「さてと……どうしたものか」
そうなるのも無理は無いのかもしれない。恐らく今聞こえて来たのは子供の声。つまり高確率で授業中という訳だ。確か慧音の他にも教師は居ると前に聞いたが、流石に授業中に入るのは気が引ける。どうしようかと悩んでいると、
「お、康介じゃん。こんな所で何してるんだ?」
不意に後ろから声をかけられた。驚きながらも後ろを振り向くとそこには何かを背負った妹紅がいた。
「ああ妹紅か…ビビった…」
「今の私の行動の何処に驚く要素があったんだ?」
「警戒してない場所からの不意打ちには弱い。とだけ言っておく…因みに此処にいるのは寺子屋もとい慧音に用事があるから来たんだが…どうやら授業中っぽいんだよな」
何とか最低限の落ち着きを取り戻せたので此処にいる理由を話す。まだ心臓バクバク言ってるけど。
「奇遇だな。私も慧音に用があったんだ。この筍を届けに来るという用がな。まあ後幾つか慧音に頼まれた事はあるんだが…で、別に入っても良いとは思うけど?」
どうやら背中に背負っていたのは竹籠だったようだ。その中には筍がいくつか入っている。しかし、今寺子屋に入っても良いものなのか…?そう考えて寺子屋に入るのを躊躇っていると、妹紅がじれったそうに寺子屋の戸を掴んだ。
「まあ私は入るけどな。邪魔するぞー」
「あっ、ちょっと待てよ!」
そんな俺の声も届かず(多分届いてたとは思うけど妹紅が意図的に無視したと思う)、先に妹紅が入っていってしまった。仕方ない、もう俺も入ってしまうかとようやく決断し、少し遅れて寺子屋の戸を開ける。
「お邪魔しまーす」
「お、康介じゃないか。どうしたんだ?」
戸を開けるとそこには慧音と竹籠を背負った妹紅が。
「ちょっと慧音に用があってだな…」
「用事か?悪いが少し待ってて貰えないか?授業が終わって生徒たちが下校する時間になったその後でなら用事を聞くぞ。」
「ああ、別に構わないぞ。じゃあその辺で──」
待っておくから終わったら呼んでくれ。そう言おうとしたその時、妹紅が俺の言葉を遮るようにして喋り出した。
「そういえば康介、お前まだ慧音の授業一回も見てなかったよな?良かったら見てみたらどうだ?私も今からそうしようかと思っていたんだ」
「授業を見るのか…別に慧音が構わないならそれで良いけど…」
「ああ、構わないぞ。じゃあ私は授業に戻るから適当に見ておいてくれ。」
そう言い残すと慧音は数ある教室のうち一つの扉を開け、その中に入っていってしまった。まあ別に許可貰ったのなら此処にいるか。そう思ってふと妹紅を探すと、妹紅はもう既に竹籠をその辺に置き慧音が入っていった教室の中を廊下の窓から見ていた。
「行動が早いなお前は…」
そう一人で呟き、俺は妹紅の近くに行く。本来の目的は一旦保留だ。今は慧音の授業を見よう。まあ此処の関係者ではないから授業を見ようってのも変な話だが。
─────
慧音がしていた授業が終わり慧音から「あの部屋で待っておいてくれ」と言われ、俺と妹紅は寺子屋のとある一室に通された。慧音曰く「生徒達が帰宅時に危険な目に遭わないかしっかり見ておかないといけない」らしい。しかし俺自身は特に何もすることがなくただボーッとしている。このタイミングなら妹紅にあの事聞けるとは分かっているのだが、どうしてもあと一歩が出ない。此処に来る前はあんなに決意で固まっていたんだがなあ。結局その決意も意味を成さなかったと言うことか。
「なあ康介。少し聞きたいんだが、お前が言っていた『慧音への用事』って何だ?」
そう俺に聞いて来た妹紅。幸か不幸か、あの事を聞けるかもしれない状況になってしまった。仕方ない。こうなったらやるしかないだろう。
「そうだな、用事の内容としては二つ、だな。一つ目はこの前宴会で『俺の二つ目の能力について詳しく話す』っていう約束を果たしに来た。そして、二つ目なんだが…ここ最近過ごしていて少し聞きたい事が出来てな。慧音だけじゃなく…妹紅にも。本来なら慧音の方にだけ聞いて妹紅は会った時に聞こうかと思っていたんだが……手間が省けたって訳じゃないが偶々今日妹紅と会う事ができたからな。このタイミングで聞いておこう。」
「私に聞きたい事?一体何だそれは?」
慧音への用事の内容に突然自分の名前が出てきたからか、妹紅が聞き返して来る。俺は一呼吸おいて、質問を投げかけた。
「単刀直入に言う。藤原妹紅。お前の種族は何?」
若干ぶっきらぼうになってしまったが、俺の語彙力ではこんな言い方しか出来なかった。返答を待つために妹紅の方をじっと見る。
「人間ではないと言える証拠は何だ」
妹紅が圧のある声でそう言う。正直怖かったが、ここで引き下がる訳にも行かないし、それに今突っかかる点が今できた。別に揚げ足を取りたい訳ではないが相手の流れに飲まれないよう利用させてもらおう。
「おいおい、俺は『種族』を聞いているだけだぞ?別に『お前が人間ではない』だなんて一言も言ってないが?早まりすぎだぞ」
「……!」
「まあまずは俺の仮説を聞いてくれ。まず俺は宴会の席で妹紅と出会った。そこで感じた雰囲気が『人間だが人間ではない』っていうこれまた矛盾した雰囲気だった訳。ここまでは良い?」
「…ああ」
妹紅が俯きながらも小さくそう言う。こんな妹紅見たことなかったが今はそんな事どうでもいい。俺は自分の中で立てた仮説を話し続ける。
「次に、そんな雰囲気を感じたのは俺が妹紅と出会う前に一人、今日に一人いた。前者が慧音で、後者が霖之助。そして今日会ってそう感じた霖之助に思い切って聞いてみたよ。『種族は何?』みたいな事をさ。そしたら彼は『僕の種族は半人半妖だ』みたいな事を言ってくれた訳。」
「……?」
「今挙げた出来事等から推察するとだな、俺が感じた雰囲気を出してるやつらは大体『半人半妖』なんじゃないかと思うんだ。大体と付けたのは他にも人間に近いけど厳密には人間じゃない、みたいな種族がいるかもしれないからな。」
「……そうか。」
「一応勘違いされない内に言っとくが別に種族が違おうと俺のとる態度は変わらんし変える気ないからな。例えどんなに人間から嫌われる種族だったとしても、少なくとも俺はそれを受け入れるぞ。そもそも種族による差別とかあっちゃいけないと思うしな。」
これは外の世界では世間一般的に言われている事なのだが、結果的に見ると差別やいじめはまだ無くなっていない。それにあんな体験をしたからこそだが言葉の重みを持って言える言葉だと思う。
「……はあ。分かったよ。答え、言ってやるよ。但し、聞いて後悔するなよ?」
そう言ったのは妹紅だった。しかし声のトーンはまだ低いままだ。
「……後悔するくらいならあんな事言わないぞ。」
「それもそうか。さてと…慧音、そろそろ入ってきたらどうだ?」
「えっ…は?」
妹紅が余りにも予想外な事を言い、俺の頭等が混乱していると部屋の扉が開いた。
「やはり妹紅にはバレていたか。完全に入るタイミングを見失っていたから気づかれていて有難いが…」
そこに居たのは、言わずもがな慧音だ。色々確認したい事はあるが取り敢えず落ち着け俺。平静を取り戻せ。そしてあの時感じた違和感の正体を聞くんだ。
「話を戻すか。取り敢えずお前の予想だが……私に関してはハズレだ。」
そう妹紅が言い、俺は若干落胆しかける。…あれ?”私に関しては”?という事はつまり…
「そうだ。康介が恐らく思っている通り私、上白沢慧音は半人半妖だ。そういえばあの時お前に言ってなかったな。すまない。」
「やっぱりそうだったのか…という事は妹紅は何なんだ?」
「……蓬莱人って知ってるか?」
そんな俺の疑問に答えたのは他でもない、妹紅自身だった。そこに慧音が割って入る。
「妹紅、本当に良いのか?」
「ああ、構わないさ、慧音。あいつの言葉は本物だ。だから信頼してこの事を話すんだ。」
「……そうか。邪魔してすまない、続けてくれ。」
「…で、蓬莱人だっけか?一応”蓬莱”って言う単語だけなら聞いたことあるが蓬莱人に関しては全く知らないな。」
「そうか。なら単刀直入に言おう。私は”年をとれない”し”死ねない”んだ。」
「……えっ?」
妹紅の口から飛び出した言葉に耳を疑う。つまり、妹紅の言ったそれは、俺的に、分かりやすく言うとするならば──
「……不老不死、か」
「そうだ。私の能力は【老いることも死ぬこともない程度の能力】。分かりやすく言うとするならば今お前が言った通り不老不死だ。私のこの能力は蓬莱の薬っていう薬による作用的な物なんだが…」
ん…?妹紅の話を聞いていた俺だったが、どうも何かが引っかかった。なんか、今まで妹紅から聞いたことが線で繋がりそうな気がする。蓬莱…不死の薬…そして藤原…
「
「おい康介、良かったらその竹取物語って話、詳しく聞かせてくれないか?」
俺が独り言をブツブツ言っていると、食いついてきたのは妹紅だ。やっぱり竹取物語関係あるのか?まあ取り敢えず俺が知っている竹取物語を話すか。
「ああ、良いぞ。まあ少し長くなるから簡潔にパパッと行くけどな。」
─────
「……で、最後はかぐや姫が残していった不死の薬と手紙を日本一高い山のてっぺんで焼いたんだ。これで俺の知ってる竹取物語はおしまいだが…」
「……違うな。最後の部分だけ。」
一応俺の知っている竹取物語を話したのだが、それに異議を唱えたのは妹紅だ。俺は思わず首をかしげる。
「違うって…一応これが俺のいた世界での竹取物語だったが…?」
「先に結論から言ってしまうが、不死の薬はそこでは焼かれていないらしい。だからと言って別の場所でも焼いていないらしいがな。」
そう結論を述べたのは慧音だ。つまり俺が聞いてきた竹取物語と本来の竹取物語は違うというのか?しかし、どうしてそんな事が言えるのだろうか。そこまで考えたところで、妹紅が口を挟んだ。
「まあ一部端折りながら説明するが私はその当時、かぐや姫への仕返しとしてその不死の薬もとい蓬莱の薬を燃やしに行く奴らから強奪しようとしたんだ。しかしその時の私はまだ子供。一番高い山の頂上なんて登るにはまだ早すぎたんだ。そして道中で力尽きたんだが、幸か不幸かその燃やしに行く奴らのリーダーに助けられてしまったんだ。そしてその一行に私は付いて行った。そしていざ燃やすとなった時に、その山の噴火を抑える女神が出てきて蓬莱の薬を燃やす事を禁じられた。更にその女神は私とその一行のリーダー以外の兵士たちを皆殺しにした。そして別の山へ行くよう言われたからリーダーと共に下山してたんだ。その時に私はそのリーダーを殺した。そして蓬莱の薬を飲んでしまった…と言うわけだ。これが真の竹取物語だな。」
…確かにこんな残酷な話、竹取物語に書けるわけが無い。ただ、真実がどんなに辛かったとしても受け入れず、その出来事を無かったことにするのは少々違う気もするが。
「…成る程。それで妹紅はそうなったのか…」
「そうだな。まああの時やったこと…命の恩人を殺した事に関しては正直やらなかった方が良かったと思っている。自らの欲望のためだけに命の恩人を殺めたしな。到底許されない事だとは思う。」
「…そうか」
正直、もう殆ど妹紅のした罪をどうこう言える奴はいないと思う。この話自体がもうかなり前の話だ。だからもう時効で良いのでは?…とは何故か言えなかった。
「ところで、そう言えばもう一つ用事があるんじゃ無かったか?」
「あ、そうか。じゃあ俺から切り出しておいてこんな事言うのもアレだが事の話は一旦止めにして…二人共、宴会の席でした約束、覚えてるか?」
「ああ、二つ目の能力だったか?」
「一応ある程度なら判明したからな。という事で今から約束を果たそうと思うんだが…良いか?」
「ああ、頼む。」
慧音からの了承(?)を受け、俺は詳しく自身の二つ目の能力について説明を始めた。
少年説明中…
「……とまあ、大体こんな感じか?」
「成る程…ありがとう。そう言えばそろそろ夜になりそうだな…というかもう既になってるな。」
慧音が言ったことに耳を疑う。慌てて外を見ると、外は闇に包まれ、空には月が昇っていた。
「マジかよヤバい。急いで帰らないと…」
急いで帰る準備を始める。霊夢絶対キレてるぞこれ……
「そうだ康介。折角だし私が送ろうか?慧音は里の守護しないといけないしお前一人だと何かと危険かもしれないしな。」
「ありがとう妹紅。じゃあ頼んでも良いか?」
「ああ、分かった。じゃあ康介と共に私も失礼するよ。」
「またいつでも来てくれ。康介もな。」
「おう。…そうだ。慧音。あの時のことなんだが…いつから俺達の話聞いてたんだ?」
ふとあの話をどこから聞いていたか気になったので聞いてみる。しかし返ってきた答えは、
「ああ、確か妹紅が『私に聞きたい事?一体何だそれは?』って言った辺りからか?」
──正直聞かない方が良かったかもしれない答えだった。
次回予告
偶にはないのも良いかなあって()
いかがでしたでしょうか。
今回は段落前(?)に全角スペースを入れて書きました。一応見やすくするための配慮だったりしますが、もし余計な配慮であればすいません。
さて、いつも以上にふざけている次回予告ですが、割と本気で何も浮かんでいません。一応閑話的な話を投下しようかな、なんて考えてる訳ではありますがもしそうした場合章の管理がややこしくなるかもなのでもしかしたら話を進める可能性もあります。つまり次に投稿される話はどうなるか分かりません。ご了承下さい。
因みにですが、恐らくこの話が今年最後の投稿になると思われます。短い間でしたが今年もお世話になりました。そして、来年も私、折れない黒鉛筆と東方染色記をよろしくお願いします。
以上、うp主の折れない黒鉛筆でした。良いお年を。