あの後しばらくルチルと金銭の問題で少々もめて(過分なお金を押し付けられそうになったので櫛は「プレゼントだから!」で納得してもらった。妙にルチルが機嫌よさそうだった)宿に帰った私。時刻はすっかり夜になっていた。
いきなり出かけたお詫びにアルディラさん達にもお土産を買って帰ると、入学準備を済ませたコーラルが、私が作ったパッチワークの手提げ袋に収まっている学用品達を嬉しそうに見せてくれた。
内容は筆記用具や運動用の服など。見たところ冒険者学校専用だぜ! みたいな変わったものは見受けられないけど、そのひとつひとつがさり気なく可愛いデザインでコーラルの雰囲気に合っている。これはアルディラさんのセンスだろうな。お姉さんに学用品を選んでもらっている妹分の図を想像するとほっこりする。
そして嬉しそうなコーラルを見て、ふと以前約束した事柄を思い出した。
「そうだ、もしよかったら今日の夜から魔法を教えようか?」
「え! い、いいんですか。疲れてませんか?」
「俺は大丈夫だよ。コーラルは?」
「あ、あたしも大丈夫です! エルさんさえよければお願いします!」
ちょっと急だけど、セリッサとカルナックが来るのが明日になったらしいし。騒がしい人達が居ない間に基礎だけでも教えておこう。
なんか人が増えると色んな意味で機会を逃しそうなんだよね……。未だに魔道具ギルドに登録できない現状の二の舞にならないように気を付けよう。
「それなら邪魔しては悪いし、私とポプラくんは夕食でも食べに出てくるわ」
「え、あ、アルディラさんと二人っきりでスか!?」
私たちのやり取りを聞いていたアルディラさんが言うと、口数が少なかったポプラが急に元気になった。
「ええ。それとも私とじゃ嫌かしら?」
「そんなことあるわけ無いじゃないッスか! 喜んでお供します!」
ぱっと笑顔になったポプラを見て、少し安心する。アルディラさんを見ればウインクされたから、きっと私たちの勉強の邪魔をしないためだけではなくて、彼女なりにポプラのことを考えての行動なのだろうと思う。
ポプラお前、経験豊富なお姉さんにいろいろ心の内を打ち明けてこい。人と話す、相談するって一人で考えるよりも心の整理がし易いからな。
さて、ポプラはアルディラさんに任せるとして私の方も責任重大だ。
アルディラさんとポプラを見送ると、まず私の泊まっている方の部屋にコーラルを呼んだ。魔法を習うことに緊張しているのか、どこかコーラルの様子がそわそわと落ち着かない。うんうん、わかるわかるー。魔法とか使えるようになるって思ったらテンションあがるよねー! 楽しみだよねー! 私もはじめはそうだったー!
…………………私は絶対サクセリオみたいなクッソ鬼な教え方はしない…………! もっと優しく教える……!
「あ、そうだ。コーラル、レラスさんって呼び出せる?」
ふと、魔法の練習をするにあたって大事な存在を思い出す。
「レラスお姉ちゃんですか?」
「うん。どうせなら精霊の彼女に見てもらいながらの方が、俺としても安心して教えられるから。できる?」
「多分、出来ます。初めてだからちょっと心配だけど……」
頷いたコーラルは片手を前に突き出すと、念じるように目を瞑って集中しはじめた。すると彼女の手の甲に陽光のような光で花の紋様が浮かび上がり、魔力がそこを中心に柔らかい光を発して広がってゆく。
「お願いします、レラスお姉ちゃん来てください!」
コーラルが拙いながらも発した言葉は正しく精霊への呼びかけへと昇華したようだ。
一瞬小さな光の柱が部屋の中で輝いて、泡のように弾ける。するとその後には、ランプだけで照らされていた室内を昼間のように明るく浮かび上がらせる、光を纏った陽だまりの精霊のレラスさんがスカートの端をたなびかせながら浮いていた。
レラスさんは金のまつ毛に縁どられた瞼をゆっくり見開くと、嬉しそうに笑う。
『少しぶりね、コーラル。呼び出してくれて嬉しいわ』
「レラスお姉ちゃん! 来てくれてありがとう!」
『もちろんよ、あなたのためですもの。言ったでしょう? すぐに現れるって』
再開を喜ぶ二人に和みつつ、レラスさんに事情を説明した。
今からコーラルに魔法についてを教えるので、精霊と人間で違っている箇所が有ったら教えてほしいというが私のお願い。彼女は心よく了承してくれたので、これで私も安心して授業をすることが出来る。やっぱり専門家が近くにいてくれると安心感が違うからな。
「でも、助かりました。ランプの光だけだと目が悪くなりそうだから、こうしてレラスさんが居てくれるだけで部屋の中が明るくて文字とかも読み易くなります」
『お安い御用だわ。ああ、そうだ。もし外で過ごす夜があれば、その時も呼んで頂戴。後でコーラルに教えるけれど、私の魔法でささやかだけど安全地帯を作ることが出来ますから』
「え、そんなことも出来るの!?」
『ええ、そうよコーラル。さあ、お勉強頑張ってね』
「うん! あ、あたし頑張るよ!」
魔法を覚えたら出来る事の具体例を示されたからか、コーラルが俄然やる気を出したようだ。さっきまでもやる気はあったんだけど、やっぱり未知の事に挑戦するからか緊張してたんだよね。いい感じに肩から力が抜けたようでよかった。
さて、まずは魔法を形にする前に体内の魔力を感じとるところからか。
「まず最初に言っておきたいんだけど、精霊術とその他の術の最大の違いは、魔法まで至る道しるべが有るか無いかなんだ」
「道しるべ、ですか?」
「そう。たとえば」
私は刺繍に使う針と糸を取り出すと、すっと針の穴に糸を通して見せる。
「糸が魔力で、針の穴が魔法そのものを形作る第一の過程だとするね。こうしてすっと糸が通ればいいけれど、通らなければ魔力は魔法として形を作れない。つまり失敗」
「はい」
「魔法の難しさは針の穴が小さくなればなるほど難しくなる。簡単な術だと穴が大きいし、難しいと小さいから糸を通しにくい。ここまではいい?」
「は、はい。大丈夫です」
「よかった。で、精霊術の場合だと、穴に糸を通すのを助けてくれるのが精霊ってわけ」
『そうね。精霊は人間よりも魔法に近しい存在だから、人間の魔力が正しく魔法へ変換されるように手引きをするわ』
「うん。でも、その手助けが無いのが白霊術、黒霊術、蒼黎術。召喚術はちょっと専門外だから分からないけど、とりあえず今は考えなくていいかな。興味があったらそれは学校の先生に聞いてみて」
分からないところは素直に学校の先生にぶん投げた私の説明をメモにとりながら、コーラルは興味深そうに頷く。
そういえばコーラルってちゃんと字が書けるんだよね。馬鹿にするわけじゃ無いけど、ルーカスでも私が教会の福祉の一環でなんちゃって学校をするまで識字率が低かったから驚いた。きっとご両親が教えたんだろうな。
「そして針に糸を通して魔法を使う大本の準備が整ったら、その後に糸と針を使って世界に刺繍をするのが第二段階で"操作"。この段階でようやく魔法が形になるんだ。これも精霊術なら精霊が導いてくれるけど、そうでなければ自分で本を読んで、模様を覚えて、一針一針縫っていく作業が必要になる」
そこまで話しておいて、大事なことを省いていることに気が付いた。
「あ、そうだ! ごめん、大前提を言うのを忘れてた。精霊術と妖精術だけど、この二つに限っては術者が必要とする魔力は精霊や妖精を呼び出すところまでなんだ。あとは魔法の核となる、えーと……今のたとえ話で言うと糸だね。糸の魔力が必要なくらいかな。あとは全部精霊が提供してくれる。術者は呪文っていう手順を踏んで、なにをしたいかっていう指示をすればいい」
う~ん、こんな感じで分かるかな?
ざっくり刺繍に例えて言うと、精霊術はある程度のパターンの刺繍機能が付いたミシンで他の術は手縫いってところか。少なくとも私の認識はそんな感じ。
精霊術は自分で使ったことが無いから理屈でしか知らないけれど、そう考えると精霊術の人気も頷ける。途中の手間が省けるうえに、さらに自分の魔力は精霊を呼び出すだけに使って、魔法そのものは精霊が自分の魔力で現象を引き起こしてくれるんだから燃費いいよな。
しかもそこに残った自分の魔力を追加すれば術の威力が上がると言うんだから、まあ便利。高位の精霊との契約だと呼び出すだけでも多くの魔力が必要になるみたいだけど。
とりあえず、ここで一回コーラルが話に追い付けているか確認。
「質問とかは大丈夫?」
「はい! 大丈夫です」
「ほ、本当に大丈夫? 分かり辛くない?」
「え? は、はい! 大丈夫ですよ!」
「そっか、よかった。それなら、今度は実践してみようか」
「も、もうですか!?」
「うーん、理屈ばっかり先に覚えるより、体で覚えてから後で理解していく方が身につきやすいと思うんだ」
それこそ私の勉強方法はそれだった。サクセリオの教育方針がね……もう「体で覚えろ」一色だったからね。座学でも実戦でもとにかく実践あるのみ! って感じだった。それに育てられた私がこれ以上理詰めの講義とか無理無理。そういうのはアルディラさんが一緒の時にやりたい。
ルーカスでなんちゃって学校やった、生活密着型の知識をひたすら実践させるざっくり教師だったもん私。
……でも実践と言ったって、いきなりモンスターの前に放り出すような鬼畜な所業はしないけどな!!
「そう難しいことやるわけじゃ無いよ。まず自分の中にある魔力を感じ取ることから始めようか。コーラル、目を瞑ってくれる?」
「は、はい」
コーラルが目を瞑ると、私はその手をとって自身の魔力を全身に巡らせ始める。盗賊に付けられた呪いのせいでいつもより調子が悪いものの、ゆっくりやれば問題なく循環させる事が出来た。
「なんだか、温かい……?」
「そう、これが俺の魔力。次はコーラルの番だよ。俺の手に感じる温かさが、自分の体のどこにあるのか探してみて」
言うと、コーラルの眉間にぎゅっと皺が寄る。真剣に探しているようだけど、それではりきみ過ぎだ。
「もっと力を抜いて、ゆっくり呼吸しようか。俺に合わせて……吸って、吐いて、そう、ゆっくり」
うーん、なんか気分的にはヨガ教室してるみたいだな。あれも呼吸が大事だからって、そういえばホットヨガ教室行った時教えられたっけ。スポーツ選手も呼吸は大事だと言っていたし、魔法なんて精神的な集中が必要なものだと余計に必要な気がする。
「呼吸は大事だから、つねに意識するように心がけて。どんな状況下でも整えていれば、魔法は応えてくれるよ」
「はい……」
「今はどんな感じ?」
「えと、おへその下あたりに、温かいもやもやがあるような……」
「うん、呑み込みが早いね。それが魔力だよ。そして初めにその場所に魔力を感じたってことは、コーラルの霊核はそこにあるってこと」
「霊核?」
「魔力を作る魔法的機関の名前。人によって場所が違うらしいけど、基本的にコーラルみたいに丹田か、それか心臓部分にあるのが一般的かな」
魔力を感じられたようなので、コーラルの手を離して目を開けるように促す。目を開けたコーラルのライトブルーの瞳は、希望の光を宿して嬉しそうに輝いていた。
「す、すごいです! あたしにも、魔力ってあったんですね!」
『もともと生き物は多かれ少なかれ魔力を持っているけど、コーラルは精霊ですもの。暴走させないように無意識に抑えているようだけれど、人間にくらべたらずっと多くの魔力を持っているわ』
レラスさんが誇らしげに言うと、次いで私にも称賛の目を向けてくれた。
『でも、他人の魔力と同調させて知覚を促すなんてエルフリードは凄いのですね。とても器用な事をするわ』
「え、そうなんですか?」
『ええ! 教え方も問題ありません。これだけ早く知覚させたに関わらず、呼吸を整えてもらえたおかげでコーラルにはまったく負担をかけていないもの』
どうやら精霊のレラスさんにも及第点を貰えたようなので、内心ほっと息を吐く。よかった、変な事教えてたらどうしようかと思った。
それにしても自分の魔力を感じ取るだけで体に負担がかかる可能性があったのか……。改めて思うけど、無知って怖い。私の魔法の基盤ってサクセリオの教育だから、こりゃあ気を付けないととんでもない事やらかしそうだ。気を付けよう。
「じゃあ次は毎日できる簡単な魔法の練習法を教えよう!」
けど褒められるってやっぱり嬉しいよね!
気を付けようと思った矢先だというのに、調子に乗った私はぴっと人差し指をたてて胸を張る。そしていそいそと鞄から教材用にと揃えた品を取り出した。
取り出したのは毛糸と正方形の紙、それと急遽形作って綿を積めた布の鞠。
「さあコーラル! 筋トレと遊ぶのどっちからがいい?」
私とコーラルが魔法の練習を始めてから数時間後。
食事から帰って来たアルディラさんは部屋に散らばる紙を見て呆れたように言った。
「いったいどんな魔法の練習をしたの?」
遡って少し前。
筋トレと遊び。私はコーラルに二つの選択肢を示したわけだけど、もちろんどちらも魔法を使うための授業である。
魔力の制御にはある程度肉体を作ることも重要で、特に呪文の発音発声のために腹筋を鍛えることは結構大事だったりする。とはいえ私がサクセリオにされた無茶ぶりはいくらなんでもコーラルにとってオーバーキルなため参考にすらしないで不採用。
いやぁ、今思い出しても三歳児の私ったらよく耐えられたもんだわ。
まあ、かといって自分がやれたからといってあの過酷なトレーニングをいとけない村娘の少女に強いるほど私は鬼ではない。そのためいくつかの無理のない筋トレのメニューを考えた。
その次に私がコーラルに教えた魔法の練習方法は全部で三種類。
精霊として多くの魔力を有するらしいコーラルには一番必要だと思われる魔力の制御。それの練習用に、折り紙、あやとり、蹴鞠を採用してみた。これらは私も実践している訓練方法で、暇があれば手慰みにやっている。蹴鞠と折り紙はルーカスを出てからやっていないから、今はあやとりばかりだけど。
難易度的には蹴鞠、あやとり、折り紙の順番だ。
その一、蹴鞠で魔力を体の外に出してみよう! の巻。
体の表面に魔力を流し、その状態を保って鞠を蹴り続けるのがルール。鞠は直接体に触れさせてはならない。
これは魔法になる前段階の魔力を実体化させる練習で、これが出来る出来ないで実際に魔法を放った時のクオリティに差が出てくる。まず十回を最初の目標にして段々と回数を増やす予定だ。
その二、あやとりで集中力アップ! の巻。
これは細かい魔力操作の流れを掴むのが目的。紐は弱い繊維の物を選んであって魔力を注ぎ過ぎると千切れてしまうので、体中に魔力を循環、分散させて微細な力の流れを作ることで紐に注ぐ魔力量を調整する。更に紐で色んな形を作ることで、魔法を形にするためのイメージ力を磨くことも出来る。
その三、折り紙で魔力の遠隔操作を覚えよう!の巻。
こちらはあやとりよりも高度なイメージトレーニング。紙もまた魔力を注ぎ過ぎると千切れてしまうので、そうならないように注げるギリギリの範囲を見極めて目的の形へと折ってゆく。これが結構疲れる。
そして最終的な目標はその注いだ魔力を原動力に物体を動かすことで、身体から離れた後の自分の魔力を遠隔操作出来るようになること。これが出来ると例えば火の玉を放つ魔法があったとしたら、真っ直ぐに飛ばすだけじゃなくて飛ばした後軌道を変えたりできるから便利。
なんだか全体的に地味だけど、この訓練方法って孤児院で子供たちの相手をしながら出来たから一石二鳥だったんだよな。失敗するとブーイングとんでくるから上達もするってもんでね……。子供って平気で大人のガラスハートを抉っていくからね……。
さて、そうして練習方法を示したまではいいとする。けど素直に感心してくれるコーラルを見て、つい私は調子に乗った。
結果。
見本を見せると言って折り紙を動かした結果、それがこの折り紙があちらこちらにとっ散らかった部屋の惨状である。
あちゃー……改めて見回したら荷物やら寝床やらまんべんなく折り紙が散らばってる。調子に乗り過ぎた。
「それで、そのー……。ちょっと調子に乗りまして……」
散らばる折り紙作品の言い訳をもごもごしていると、アルディラさんが私の作った折鶴を拾う。
「凄い、これって一枚の紙で作ってあるの?」
「あ、はい」
「アルディラさんアルディラさん、凄いんですよ! エルさん何でも作っちゃうんです! あとあと、あやとりっていうのも教えてもらいました! あたし、紐一本であんな楽しいことが出来るなんて知りませんでした!」
さっきから興奮しきりのコーラルがどうしてもアルディラさんに伝えたいのか、床に散らばっていた折り紙をごっそり抱えてアルディラさんと後から部屋に入ってきたポプラに駆け寄っていった。ごめんお願いやめて!? 何か恥ずかしくなってきたから!
「お花に、箱とか、動物とか、お星さまとか、お洋服の形とか! どれもすっごくすっごく可愛いんですよ!」
「あら、本当。可愛いわね」
調子に乗っていろいろ作ってしまったけど、そう褒められると恥ずかしいけど嬉しい。
あやとりも折り紙も前世で従妹の子供に自慢したくて自慢したくてしかたがなくて覚えたという若干大人げない理由で習得したものだけど、でも忘れてないでよかった。人生何処で何が役立つかわからないもんだ。
「あとあと、この子たちが踊るところが本当に綺麗で!」
「踊る?」
アルディラさんが怪訝な表情を見せたので、あまり一般的じゃないのかな? と思いつつ私は落ちていたウサギの形の折り紙を拾って魔力を注ぐ。そしてそれを宙に放ると床に着陸したウサギはかさっと音を立てて立ち上がった。
操り人形を操作する人間のように指をそろそろと動かすと、ウサギがぴょこぴょこ動き出す。
「え!?」
「ちょ、お前どこまで器用なんだよ……!」
アルディラさんとポプラに予想以上に驚かれて私の方が驚いた。これの基本というか、人形を魔力で動かす方法とかはトマス神父に教わったものだからなぁ……。その神父様本人は指人形使ってお芝居したりして子供たちに大人気だったけど、ルーカスだとみんな「すごーい」とは言ってもこういう驚き方はしなかった。あんまりメジャーな使い方ではなくて、ルーカス限定のローカルゲームだったりして。
先ほどまで私はコーラルがあんまりにも喜ぶから、レラスさんにご協力をお願いしてこの魔法遊びを使って影絵を見せていた。そのため部屋の中心には光の明るさをわざわざ調整して間接照明クラスにしてくれたレラスさんがちょこんと立っている。
さっきまで複数の折り紙を動かして壁に影絵作ってきゃっきゃとやってたんだよね。いや、遊びじゃなく、ちゃんと魔法使えたらこんなことも出来るよって、憧れを持ってもらいたくてやったわけだけど。けして楽しくなってきちゃっただけじゃないけど! だからお願いポプラはそんなじと目で見てこないで。「お前ちゃんと教えたんだろうな?」って目で見てこないで。調子に乗ったことは認めるけどこれもちゃんと授業だから!
その後もう一度影絵大会を開くと、アルディラさんが「可愛い」「綺麗」と大絶賛してくれた。ポプラも口には出さないけど楽しんでくれたのか、壁に映る影と踊る折り紙を興味深そうに見ていた。その様子を見るにアルディラさんと話すことで多少胸のつっかえがとれたのか、出かける前よりすっきりした顔をしているので少し安心する。
ふむ、ならば私も元気を出させるためにもうちょっとはりってみるか。
「よし! じゃあ次は……」
こうして調子に乗り続けた私と、それにつきあった三人はつい結構な夜更かしをしてしまうことになる。
そしてそのまま寝落ちし、朝早くに荷物を持ってやってきたカルナックに呆れられるのだった。
さて、魔法のなんちゃって授業から翌日。
ちょうど月が移り替わり、今日からジュエの月になる。新年から数えて六番目の月にあたるジュエは元の世界でいう所の六月であり、初夏に入り始める時期だ。気候的にわりかし日本に近いフェルメシアでは、これから暑さが増してくることだろう。
早朝にカルナックが、お昼前にセリッサが私たちの泊まっている宿にやってきた。
そのままなあなあになっていたパーティー登録だけすませようと、宿で昼食をとってから冒険者ギルドに向かう。冒険者登録していなかったセリッサだけが新しくギルド証を作り、私たちは晴れて正式にパーティー登録をした。これでパーティーであげた成果はギルドから各ランクに合わせて均等に配布されるらしい。
ここでお得なのが、パーティー内に上位ランカーがいるとその補正で下位ランクがもらえる報酬もアップするところ。まあ上位ともなれば受けられる依頼のランクも上がるから、それのおかげでもあるんだけど。その場合下位ランクは雑用としてくっついていくことがほとんど。戦いは上級ランカーが引き受けてくれるし、上位の仕事を見ることで勉強にもなるからこの立場は結構美味しいらしい。登録するときちょっと周りから羨ましそうな視線で見られた。
一緒についてきたコーラルは正式に冒険者学校への申し込みを済ませ、早くも明後日から入学するそうだ。簡単な審査などはA級冒険者のアルディラさんとB級冒険者のポプラが保証人ということでパス出来たらしい。
「冒険者学校は寮があるんだっけ?」
「はい……。いつまでも皆さんのお金で宿にお世話になるわけにはいきませんし、そちらに行こうと思ってます」
コーラルはそう言うけど、その様子はどこか寂しそうだ。
「そう、でも休みの日はいつでも遊びに来ていいからね」
「いいんですか!?」
「もちろん! そっちの方が俺達だって嬉しいよ。学校の話とか聞いてみたいし」
「そうよコーラル。私たちもしばらくは王都を中心に活動するだろうから、遠慮なく訪ねていらっしゃい」
それを聞くとコーラルはほっとしたように頷いた。
「皆さん、仲がよろしいのね。わたくしとも是非是非仲良くしてくださいましね! なんといっても今日からパーティーなんですから!」
お、おう……。すかさず自分のアピールをしてくるセリッサはもう、流石としかいいようが無いわ……。その押しの強さが逆にちょっと羨ましい。こういう子って世渡り上手いんだよな。
「私も、これからよろしく頼む。仲良くしてくれると嬉しい」
カルナックはカルナックで爽やか王子スマイル。こっちはこっちで猫被るの上手いしな……最初まんまと騙されたわ。いや、元の性格も気がいいあんちゃんなんだけど。コーラルも微笑まれてちょっと顔を赤らめてる。
私としては元の性格の方が気安くしゃべれていいんだけど、彼の王子様ムーブを邪魔するのもなんだ。生暖かい目で見守っておこう。
ともあれ、こうしてコーラルは冒険者学校へ入学し、私たちは総勢五人のパーティーを組んだ。
ちなみにその後の初めてのダンジョン攻略は私はお休みだった。寂しい。
だってルチルの刺繍全く手を付けてなかったから……。
今度からもっと計画性をもって、ハプニングにも負けず予定を消化できるスケジュール管理力を身につけよう。