魔刺繍職人の花嫁修業(笑)   作:丸焼きどらごん

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20話 冒険者登録

 リララを助けてから数日、私は作品を作りながら孤児院に遊びに行ったりしてシュピネラで過ごしていた。

 

 急がなくてもいい、と言ってくれた商人たちに甘える形になってしまったけれど作品は確実に仕上げているし、リララを助けるだけ助けて孤児院を放置したくなかった私は偽善者だろうか。確実に十二年前の孤児院に関しての記憶が尾を引いている。

 まあ親切って結局は自己満足だしね、気にしなくてもいいか。自分がやりたいと思ったらやればいいんだし。

 

 遊びに、と言っても本当に遊ぶだけではない。何をしていたかというと、護身術や簡単な文字と計算を教えていた。

 少しでも出来る出来ないで将来が違ってくるだろうし、一回基礎となる教材を作っておけば後は自力で学べるだろう。

 

 孤児院の子供たちは基本的に自分たちの食い扶持を自分で稼がなければならないので、年齢問わず小さな仕事を請け負って朝から晩まで働いていて忙しい。そのため全員がそろう朝食と夕食の席にお邪魔しての勉強だから、私としてもそこまで時間を取られなかった。

 

 院長さんやアルディラさんに「教えるのが上手」だと言われて照れたのは記憶に新しい。

 教材にと作った木製の文字や数字のブロックなども好評でなにより。でも護身術用に作った等身大の人形は数日ですでにボロボロだから、出ていく前に新しいの作った方がいいかな。……どれだけ投げられたんだろう太郎(人形)。

 でもやんちゃでもいい、逞しく育て。

 あの子たちの将来は有望かもしれない。

 

 

 

 

 

 そして遂に納品する品物が全て完成すると、商人たちには涙ながらにお礼を言われ、アルディラさんには大絶賛された。少し恥ずかしかったけど、おかげでちょっと自信をつける事が出来た。これならきっと、この先の旅の資金に困ることはなさそうだ。お金に困ったら作品を売ればいいからなぁ……。すごく安心。お金、大事。

 

 ついでにあまった布と糸で孤児院の子供たちにもささやかなプレゼント。

 それは魔纏刺繍を施した日本の神社にあるようなお守り袋なんだけど、ちょっと念じると一瞬人に認識されにくくなる。つまり暴漢に襲われても逃げやすくなる効果だ。

 私の服やスカーフに施してあるものの下位互換のようなもので、短時間で役に立つ効果があるものを作ろうとした結果がこれ。下手に攻撃できるような効果を与えても、逆効果になりそうだしね。これがプレゼントとしては最適解なのではなかろうか。

 

 とりあえず、みんな元気に育てよ!

 

 

 

 

 

 

 

 さて、私は今冒険者ギルドシュピネラ支部に居る。もちろん、かつて六歳の私が断られた冒険者登録をするためである。

 

「手続きが完了いたしました。こちらがエルフリード様のギルド証になりますので、大切にお持ちください」

 

 差し出されたのは想像していたカードのような物ではなく、どちらかというのパスポートに近かった。薄い手のひらサイズでオフホワイトのそれには現代の魔法文字で細かく紋様が描きこまれており、魔法の品であることを伺わせる。

 中身を見てみると私の名前(よく考えないでエルフリードの方で登録しちゃったけど大丈夫かな)とギルドランクだけがシンプルに記載されており、あとは空白になっていた。説明によると通行証が必要な関所を通過する際にサインを貰ったり、依頼をこなした実績などが記入されていくらしい。

 

 

 ちなみに冒険者のランクはEから始まり上はSSまで存在する。ちょっと不思議なのが、この思いっきりアルファベットなランク制度。……まあ、今は特に気にしなくていいか。そういうものなんだと思っておこう。

 でもってEというのは未成年が紹介者によって冒険者になった場合のランクで、どんなに実績を積んでも「見習いランク」と言われるらしい。真逆に位置するSSランクは、ランクと言うよりも役職の名前と同義とされている。何故ならその称号を持つのは、はるか遠くの地、ティタン大陸タイトニアにあるという冒険者ギルド本部の総帥お一人だけらしいので。

 

 そういうわけで実質、冒険者のランクはD~Sまで。当然私は入りたての初心者なので、未成年のEランクから一つ上のDランクだ。

 

「うわぁー、なんだか感動かも。俺、冒険者って憧れだったんですよね」

「本格的に活動するとなったら、実力主義で厳しい世界だけどね」

 

 浮かれる私を微笑ましそうに見てくるアルディラ姐さん。

 思わず姐さんと呼びたくなってしまうこの彼女、今日初めて知ったのだけど、なんとA級ランカーらしい。滅多に居ないというA級にその若さで上り詰めていることから、アルディラさんの凄さが分かる。

 

 そしてそのアルディラさんが、意外な申し出をしてくれた。

 

「よかったら、私にエルくんを王都まで送らせてもらえないかしら」

 

 その申し出はこの町でマリオさんと別れる私にとって、願ったりなありがたいもの。だけど数少ないA級ということで忙しいんじゃないかと心配になる。ここ数日の縁だけでしてもらうには、なんだか申し訳ない。だって王都遠いし、シュピネラを拠点にしてるって言ってたから迷惑だと思うんだよね……。

 

 でもその心配を告げるとアルディラさんは首を横に振る。

 

「実際に作ってもらった作品を見て、改めて思ったわ。魔刺繍職人の貴方は国の宝よ。見過ごして万が一のことがあったらしのびないし、それに私個人としてもあなたを守りたいの。孤児院の子供たちにも頼まれたし、ね」

 

 ねっ、のところで飛ばされたウインクにあっさり私は落ちました。リアルウインクが似合う美人……! う、羨ましい。

 孤児院の子たちにはそろそろ町を出ると伝えた時ぎゃん泣きされたけど、まさかこんな形でお礼が帰って来るとは思っていなかった。

 

「えっと、じゃあお言葉に甘えて。ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします」

「こちらこそ、改めてよろしくね。実は私も久しぶりに王都へ行ってみたかったの」

(私に気を使わせないためのさりげないフォローまでしてくれるとか、出来た人すぎてもう……)

 

 

 こうして私はアルディラさんの優しさに感動しつつ、冒険者登録を済ませて初めてのパーティーを結成したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば皆さん、知ってます? "白い獣"の噂」

 

 出立前に最後となるマリオさん、ドナウさん達を交えた夕食の席で最年少の商人マルキオ青年がそんなことを言い出した。

 この彼らも私たちの出立に合わせて明日、旅立つそうだ。

 

「白い獣?」

「ああ、オラもちょっと聞いただぁよ。何でも街道に出て、旅人を襲っているらしい」

「魔物ですか?」

「いや、聞いた話によるとよぉ。おっかねえんだがたいそう綺麗な獣らしくてな? 死人も出とりゃあせんから、山の神が怒って人を懲らしめるために遣いをよこしたんじゃねーかって話だ」

「マリオさん、僕より詳しいですね」

 

 山の神の使いで白い獣とか、某宮崎作品を思い出すな。……デカいんだろうか。

 

「死人は出てないんなら被害は?」

「食料だとか、荷物だとよぉ」

「…………神の使いというよりは山賊みたいですね」

 

 私の言葉に一同頷く。

「まあ逆に考えりゃぁ、食料さえ渡せば被害はないだよ」

 

 その言葉に安心して、その話題はそこまでとなった。

 

 

 

 

 きっとこの時の会話はフラグだったんだろうな~と、後々私は思うことになる。

 

 

 

 

 

 

 


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