「そういえばアルディラさんって何で武器が斧なんですか?」
野営中に商人の一人が質問すると、他の者も興味を持ったようにアルディラさんを見た。かくいう私も同じで、あの細身で重量級武器を振り回す彼女に関心しながらも何故そのチョイスなのか気になっていた。
武器といえば私も十二年前の教訓「素手で武器持ち相手は無理ポ」を生かし、ずっと訓練していた武器がある。まあそれは今はどうでもいい。
みんなの視線を受けてたじろいだアルディラさんだけど、こほんと咳払いを一つ。
「好みよ」
嘘だ。
目が泳ぎまくっているアルディラさんを見て、全員が思ったはず。中でも若いマルキオさんがアルディラさんのことをもっと知りたいのか、しつこく食い下がった。
「ええ~? それだけじゃないでしょう? 教えてくださいよ、アルディラさん」
「それだけよ。別に隠す必要もないんだし、嘘なんて言ってないわ」
(いや、その言い方だと隠す必要があったら嘘言うってことで、返って分かり易くするようなもんじゃ……)
ふと、私の目がアルディラさんの胸に行く。
彼女は男物の大きい黒コートを羽織っているけれど、その下はぴったりとしたニットに似た素材のノースリーブのアンダーを着ている。先ほど調理する際コートを脱いでいたので、私は他の人よりアルディラさんのシルエットについて知っていた。
無くはない。
しかし彼女の胸はいわゆる小さいおっぱい、ちっぱい。微乳だった。
(…………まさかね)
浮かんだ予想を無い無い、と切り捨てる私。
まっさか胸筋を鍛えてバストアップとか狙ってるわけないよね~! そんな理由で武器選ぶなんて、アルディラさんみたいな上級者さんがやるはずないもん。
私が何故か閃いてしまった失礼な推測に申し訳なく思っていると、その話題から離れたいのかアルディラさんがこちらに話題をふってきた。
「武器といえば、エルフリードくんは鞭使いなのね。珍しいわ」
「あ、冒険者でも使う人って少ないんですか」
罪悪感から、とにかく斧の話題から離れたいであろう彼女の話に乗ることにした私。
ベルトに収まっている皮の鞭を引っ張り出すと、それを遠くに飛ばし拳程度の石を手元に引き寄せて見せた。
「おお! 器用なことをするもんだな」
ランク詐称冒険者の一人が言うと、他の視線も興味深げに集まる。話題の転換には成功したようだ。
私は現在鞭を主な武器として、副装備にナイフをいくつか太もものホルダーに帯剣している。といってもナイフの方は主に採取や動物の皮を剥いだりするのが目的なので、あまり攻撃に適した形ではないんだけど。
「冒険者はやっぱり魔物と戦うことが多いから、どうしても攻撃性を重視して刃物を選びがちね。魔法専門だと杖が主流だし、私が見たことのある鞭使いは召喚士だったかしら。召喚した魔物を使役するときに使っていたわ」
どうやら思っていた以上に鞭はマイナー武器らしい。ゲームのイメージだと複数に攻撃出来たり、巻きつけて移動手段にしたりと便利そうなイメージなんだけどな。今みたいに遠くのものも取れるし、敵を拘束することも可能だ。
でも私の場合魔物相手なら素手でどうにかなりそうだから、鞭は対人戦を想定してるんだよね。そこらへんの温度差があるのかもしれない。
私は十二年前の教訓をもとに、魔法や体術の訓練以外にも何か武器を使えるようになろうと考えた。やっぱり武器を持った相手に無手で立ち向かうには実力不足だしね……。
また殺してしまって、殺したことに罪悪感を覚えない自分を知るのも嫌だ。となると、威力があって殺傷能力が低い武器となる。
その結果鞭をチョイスしたんだけど、私はこれを選んだことに満足している。だって使いこなせば武器以外の使い方が出来て便利だし。さっき思い浮かべた使い方なら全部出来るようになったし。
「まあ、武器をどうやって選ぶかなんて人次第ですよね」
私はここでアルディラさんのためにうまく話を折りたたんだ。
今回は追及しなかったけど、いつか斧を選んだわけを聞けたらいいな。
Q:アルディラが斧を選んだわけは?
A:バストアップのためです