無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。
また、今回の話では
 ・伝説のオウガバトル
のネタが含まれます。あらかじめご了承ください。



第009話_秘薬とザノバ

---何かまずいことが起こる時、それは目出度いことが原因になることもある---

 

 

調査一日目、まずは3人で遺跡の内部構造を把握した。盗賊系のスキルを持たない俺たちは隠し通路や隠し部屋を見つけることはできなかったが、地下一階と地下二階にいくつもの壁画を発見した。そして壁画の下には龍語で何かが書かれていた。

 

調査二日目に入って、作業を分担することになった。アルビレオが壁画下の龍語をノートに写し取り、アンがそれに翻訳文をつける。俺がそれを纏めて整理する。アルビレオの作業とアンの作業がある程度の分量になるまで暇だったので俺は壁画を書き写した。この作業は三日目、四日目と続いた。

 

壁画に書いてあることの内容は概ね次のようなことだった。

・世界の歴史と人神(ジンシン)の居所について

・無の世界に行くために転移魔術の研究をしたことと、その際に開発した転移魔術について

・古代龍族が創りだした5つの秘宝について

 

アルビレオの興奮はすごかった。遺跡にあった転移魔術こそ古代龍言語魔術の一つであろうと騒いでいる。俺からしたら未来からきた日記に書いてある通りだった。それをここまで喜んでくれるとは、これまでどれだけの時間を費やして古代龍言語魔術を探していたのだろうか。日記の中の俺は50年近く探していた。そして絶望した。でも今回は希望が残った……のだろうか。さて、帰ろう。

 

「では、アルビレオさん帰りますよ」

 

俺はそういうと転移魔法陣を広げた。

 

「あっ、帰りは転移できるんですね」

 

さすがの彼も楽ができれば嬉しそうだ。設置した魔力結晶が既に切れてたら徒歩でリカリスまで行かなければいけないんだが……まぁいいか。おそらく大丈夫。最後にアンが魔法陣に乗ったところで魔法陣に魔力を通した。戻って来たのはリカリス近くの地下洞だ。俺は魔力結晶を回収した。そこからは、行きと同じように常設の魔法陣を経由して一人だけシャリーアに戻り、臨時魔法陣を設置。常設経由で戻った後、アルビレオとアンと3人で西門近くの魔法陣へと転移した。

 

「アルビレオさん、おつかれさまです」

 

「こちらこそご無理をきいて頂き、ありがとうございます。ルーデウスさん」

 

「我が主とのお約束、お忘れなきようお願いします」

 

「それについてはご心配なく」

 

最後に別れの挨拶をして、アルビレオとその場で別れた。俺はアンをザノバの工房に戻し、郊外の事務所に行き、オルステッドへの報告をした。

 

「壁画の写しはとったんだな?」

 

「はい、絵は私が書いたので現物とは似て非なるものですけど……」

 

「見せてみろ」

 

「どうぞ」

 

「ふん……」

 

オルステッドはしばらく無言で資料に目を通していた。

 

「よくやった」

 

任務が首尾よくいくとよくオルステッドはこう言う。今回の結果も満足の行くものだったのだろう。

 

「ありがとうございます」

 

俺はいつもの受け答えを返した。

 

「それで質問があるようだな」

 

やはり俺の顔にはそういうのが簡単に出てしまうらしい。

 

「はい、3つほど」

 

「言ってみろ」

 

「1つ、アルビレオの言う暗黒魔術や転生術とはいかなるものでしょうか?

2つ、この壁画に書いてある古代龍言語魔術から日記の俺は過去へのタイムスリップを実現させていますが今の俺にはその原理が良く分かりません。できればこの古代龍言語魔術の原理を教えてください。

3つ、アルビレオの言う魔法剣士の戦闘術は俺にとって有効なものでしょうか?」

 

「まず暗黒魔術というようなものはない。正確に言えば、ヤツの師であるラシュディが作った暗黒道という。暗黒道とは禁忌とされたり、失われ闇に葬られた魔術を集め、それを究める道と本人が言っていた」

 

オルステッドはラシュディに会ったことがあるようだ。頷いて理解を示しておく。

 

「アルビレオの転生術だが、あれは転生とは少々違う。あれは肉体への霊魂憑依術というのが妥当であろう」

 

でも結局のところ魂だけが他の肉体に乗り移る。

 

「そういう意味だと、俺も転生者ではなく霊魂憑依者なんですね」

 

「まぁそうだ」

 

「よくわかりました」

 

「次に壁画に書いてあった龍族の転移魔術だが、これは人族の言葉で表すなら時空転移の法という。この法は未来に行く方法だ。俺のようにな。原理は、通常の転移中に自分を自己召喚して特定の時代に転移する。ただし、本来は過去には飛ぶことができない。日記のお前はこの法を解し、自己召喚されている間に転移して、過去というより指定した起点となる物の場所に飛んだようだな」

 

「なるほど」

 

自己召喚。これも自分で研究してみよう。

 

「………。言っておくが、試さない方がいいだろう。日記の中のお前は魔術に精通し、その術理を実現できる力を手に入れていた。お前にも転移や召喚の実行時間は瞬く間だということは理解できるだろう。そのタイミングを見誤れば、想定外の時間に召喚されてしまうぞ。俺からみて今のお前にはその力が備わっているようには見えん。フィットア領の転移災害をこの地で再現したくなければ、やるのはやめておけ」

 

「肝に銘じます」

 

「最後に、アルビレオの戦闘術は確かにお前に合っている気がする。俺は闘気でお前のように悩んだことがない。お前の周りにいるやつも同じだ。しかしアルビレオはお前に合った道を示している気がする」

 

「社長が俺に合ってるかもしれないというなら、自分で判断するより自信が持てます。少しその方面で訓練したいと思います」

 

オルステッドが俺の質問に答え終えて黙ったので報告と質疑応答タイムは終わりということだろう。俺は挨拶をして社長室を出た。

 

一か月にわたる旅程が終わり、自宅へと帰った。今日からはしばらく家族サービスと研究、それに新しい訓練メニューが待っている。

 

 

--アン視点--

 

サブマスター・ルーデウスの依頼を受け、一か月の魔大陸への旅をして、無事帰ってきた。今、私はマスター・ザノバに帰還を報告し、その後に命じられた旅のレポートを書いている。場所は工房の2階の自室だ。魔大陸は敵が強すぎて戦闘力の調査はあまり進まなかったが魔力切れまでの間隔や登坂能力、物品の運搬性能、生体部品の劣化などがテーマだ。

 

これが終わったらサブマスターの所で書類整理、次に旅に出る前に着手していた「無詠唱魔術の修得方法」と「魔力量の増大訓練法」に関するレポートの続きを書く作業に戻る。これらはサブマスター・ルーデウスから原稿を頂いているので清書するだけだ。

 

レポートが書き終わる頃に、珍しく私の元にマスター・ザノバがやってきた。難しい顔をしている。もう少し待っていればこちらからレポートを提出しに行くというのに、何をしにきたのかと不思議に思っていると、私に客人が来ているというのだ。それもまた珍しいことだ。

 

客間に案内したというので客間に向かうと、そこには先日まで一緒に旅をしたアルビレオが座っていた。私のような疑似生命に会いにくるとは可笑しな話だ。アルビレオはこんな私にも丁寧に話をする。旅の間でもそうだった。下手をするとサブマスターよりも敬意を払っている時もある。私は人工生命であり、命令を受ける下僕である。

驚いたことにアルビレオは私への報酬を持ってきた。彼の言い分は龍神との約束、ルーデウスへの戦闘指導と薬の贈与をしたが、同行し、龍言語の解読をした私に礼をしていないというものだった。

私は迷った。サブマスター・ルーデウスは、アルビレオに私が同行することを伝えていなかったようだし、勝手に増えた分の礼が必要とは思えない。しかし一方で、相手が礼をしたいというのを無下に断ることが相手の気持ちを踏みにじり、結局嫌な思いをさせるようにも思える。私のこれまでの短い人生で迷うことは少なかったが、迷うこと努力すること、そして後悔しないように己で決断することはおそらく人族にとってのそれと等しく大事なのだろう。

私は後悔しないようにその礼を受け取った。別に積極的に欲しいわけじゃない。一応、中身が何かを尋ねると自分の秘術である転生法について記述した秘伝書だそうだ。そんな大切なものを私に与えても良いのか?と聞くと、

 

「疑似生命に効果は判らないから受け取り難かったら実験台にでもなった気持ちで使ってみて欲しい。もしかすると、君は人間に転生できるかもしれないよ」

 

と言われた。

実験台とは不穏当な言葉だが、アルビレオが照れ隠しのためにそのように言ったのだと判断し、無視した。疑似生命に照れる、出会った中ではこの者くらいしかしない反応だ。面白い。

さて、人族に転生する。そのこと自体を羨ましく思う事はない。パーツの換装を適切に行い、魔力の補給さえ滞らなければ一部の人間が渇望する無限の寿命を持っているのだから。そして目の前のアルビレオもほぼ無限の寿命を持っている。この秘伝を使って。そう、そういう意味ではやっぱり実験台なのかもしれない。私がこの魔術に成功して人に転生しても、失敗して人に転生せずにこの身体のままだとしても私は結局無限の寿命を持つことに変わりがないのだから。

私が中身に納得すると彼はぽつぽつと語りだした。懺悔のようなものだ。彼の師匠のラシュディは『魔道』というダンジョンに挑戦し、帰ってこなかったという。彼は師匠のラシュディが帰ってくると信じていたが、同行して力になることもできたと後悔しているのだ。彼は主を失った。いくら転生ができても過去へと行く道が無く、絶望したと。縋ったのは師匠の残した古代龍言語魔術の調査である。長らく最初の一つを見つけられなかったが、この旅で最初の一つを見つけ希望が見えたと。話している彼の表情は暗かったが、最後は笑顔だった。

懺悔のようなものだったが、もうその後悔はないのだろう。一通り話すと、彼は満足気に帰って行った。マスター・ザノバも研究が忙しいようで何をしにきたのかと私に問うたりはしなかった。そして私は自室のサイドボードの引き出しにその秘伝書をしまって、しばらく中身を見たりはしなかった。

 

 

--ルーデウス視点--

 

俺が旅からかえってきてザノバ邸にアンを送り返したとき、アンとザノバに頼んだことがある。それは、これから向かうオルステッドから聞く話と俺の考えについて少し長いのでまとめたい、アンに俺の自宅にきてもらってまとめておいた内容を自動書記して欲しいというものだ。ザノバは当然OKだった。アン自身は自分の報告書が書き終わったらと条件をしてきて……ザノバがその時少しイラついていたけど昔みたいに手を出したりはしなかった。まぁそれはアンが大事な人形だからだろうか。俺からみたら昔からザノバは変わらない、王子じゃなくなったくらいだ。あ、少し老けたところも変化だな。もう40過ぎたもんな。それで俺はアンに時空転移の法について清書してもらった。

内容は、

 ・召喚術式と転移術式を入れ替えて過去にタイムスリップする方法について

 ・さらにアルビレオの転生法は術式が不明だが、魂だけで行くことにより、過去へのタイムリープが実現できるかもしれないことについて

である。

 

--

 

アルビレオとの旅から3年が過ぎた。あれ以来、彼がくれた神経薬を使って闘気の鍛錬をしていたが効果がなかった。もうすぐオルステッドにもらった5年の猶予も終わる。本格的なフラグ回収作業に戻らなければならない。そうしたらこの鍛錬方法を行う時間もなくなるだろう。ちなみにもらった薬はまだ1.5本分余っている。鍛錬の最中、何度も俺はこの薬を嫁に使おうと考えた。昔エロ本で読んだ快感を何倍にもするみたいな話だ。

それを実行しようか。うーむ。もう俺も34歳、転生前の年齢に追いつく。無限に思えた性欲も減退を感じるようになったし、薬に頼る必要もない。俺は満たされている。

 

鍛錬を終えて、リビングの入り口前を通ると嫁たちとエリナリーゼ、ジュリやジンジャーもいる。何かの会議か?まぁ干渉しないでおこう、汗臭い俺が行っても嫌がられるだけだ。まずは風呂に入るぞ。

風呂からあがって身体を乾かし、着替えてリビングに行くとまだ真剣な話し合いは続いていた。おいおい、深刻そうなんだが、大丈夫なんだろうか。エリスが俺の気配を察して、俺に目を向けた。俺の表情は『どうしたの?』、『何かあった?』だった。エリスの表情は『助けてよ』だったが、俺も女だけの会議にずけずけ入っていくほど図太い神経をもっていない。

 

入り口で逡巡していると、ついにはエリスの隣にいたロキシーが振り返り、俺を呼んだ。

 

「ルディ、こちらへ」

 

「はい」

 

借りてきた猫、いや借りてきたルーデウスとなった俺はソファが埋まっていたのでテーブルのお誕生日席の位置に軍人の休めみたいな姿勢で直立し、次の指示を待った。(ロキシー)よ、なるべく判り易い指示を頼みます。祈るような気持ちだった。俺が何も言わないので、並み居る女たちは皆アイコンタクトをしていた。結局、当事者なのだろうジンジャーが話し始めた。

 

「あの、ザノバ様のことなんですけど……」

 

最後の声は萎んでいき何が言いたいか分からなかった。その困った表情は俺を不安にさせる。ザノバが?ザノバがどうかしたのだろうか?この前あったときは別に普通だったんだが。続きはジュリが言った。

 

「私にはマスターしかいません。小さい頃からそうでしたから。だからマスターの子供が、欲しいんです」

 

言い切った。一度ジュリをまじまじとみて、それが失礼だと思って今度はジンジャーの方を見た。

え?あなたも?まじ?

全てを理解した俺は、エリナリーゼに目を向けた。こういうとき適切な回答を出すのはこの人だからだ。

 

「実はもうわたしの作戦は実行しましたの。でも失敗してしまって」

 

歴戦の戦士が立案した作戦でも標的(ザノバ)は落ちなかったのか。そして、シルフィ、ロキシー、エリスの三人が並んでいる方に向き直った。

 

「いやぁ僕もおばぁちゃんの作戦で絶対いけると思ったんだけどなぁ」

 

「絶対、迫り方がぬるかったのよ。もっとガツンといけばあの男でもいけるでしょ」

 

「エリスのやり方はジンジャーやジュリでは実行不能です」

 

俺はとりあえず前提条件を確認した。

 

「二人のお気持ちはわかりましたけど、ザノバにちゃんと伝えたんですか? あいつの気持ちは?」

 

そんなこと言わせるのかという空気が一瞬膨れ上がったが、無視だ。話が進まないからな。

 

「はい、気持ちを伝えましたところ、その、余はもうバツイチだ結婚なぞできないと言われまして。それであのエリナリーゼさんの作戦でその後、身体で迫ってみたんですけど」

 

顔を真っ赤にしてジンジャーが俯いた。この人が恥ずかしそうにしてるところはレアだな。今度はジュリも真っ赤だ。まさか二人で同時に迫ったんだろうか。想像できない、じゃない、しちゃいけない。

 

「その後、身体で迫ったらしいのだけど、勃たなかったそうよ」

 

エリナリーゼが平板な声で言った。あーそれで。俺にも経験があるからね、そういうの。そうか、ザノバは自分の身体のこと二人には黙っていたのか。たしかにあいつの秘密は俺だから話してくれたって感じだったからな。さて、その秘密バラシても良いのだろうか。言う必要があるだろうか。あ……る、あるわ。

 

「別に、ザノバは不能ってわけじゃないですよ」

 

そういうと、ジュリもジンジャーもむしろがっかりした。まぁそうなるね。

 

「ただ、神子なので少し肌が鈍いんです。痛みとかそういうのに鈍いのです。自分がそうだから相手の気持ちもわからないんです」

 

一応、遠回しに言ってみたけどガッテンしてくれただろうか。

 

「じゃぁ……じゃぁ、どうすればいいんですか」

 

俺はドラ〇もんじゃないんですけどね。そういうときに問題を解決できる薬があるんです!そう、お値段はプライスレス! 残り在庫は1本と使いかけの半分です! どうですか! お買い上げいただけませんか!

 

「悩める仔羊たちよ。しばし待たれよ」

 

俺は大仰にそういうと、リビングを後にした。おれは3年前にアルビレオからもらい受けた瓶を2本持ってリビングへ取って返し、テーブルの上にそれをドンと置いた。

 

「それは?」

 

ジンジャーが問う。

 

「これは神経薬です。俺が闘気の訓練で悩んでいると言ったら、ある魔術師がダメ元でとくれたものです。ただ残念ながら俺は闘気を身に付けることができませんでした。それで余ってるんです」

 

エリナリーゼは俺がどうせエロいことにでも使ったのだと思ったに違いない。嫁たちを一瞥して全員が心当たりがないことを確認していた。信用ないな。

 

「コホン。それは通常100倍に薄めて使うものです。もし効果が薄いようなら少しずつ濃くしていってもいいですが、ザノバは刺激になれていません。まずは200倍くらいに薄めて使ってください。あー200倍に作ったものを全部のませてはいけません。コップ一杯飲ませて状況を見てください。それで効果が薄いようならそのまま2杯目を試してください。いいですか?急にやってはいけませんよ」

 

二人はコクコクと頷いた。まさか俺が希望の光になるなんて思わなかっただろう。俺だって20年来の友の力になってやりたい。あいつが研究室で肌がくっつくほど冷たい銅像に抱き着く姿みたことあるからな。

もう俺はこの会議に必要ないようだった。女たちはどうやって飲ませるかとか、飲ませた後また同じように迫るのかとか、効き目を確認するのにどうするかとか、そういう議論に花を咲かせていた。俺は肩の荷が下りた気がして、その場を去った。

 

--

 

その後もいろいろあったらしいが、俺は始まったフラグ回収の仕事が忙しくてあまり対応できなかったのでザノバ陥落作戦は嫁達が指揮を執り無事成功させたようだ。そして今日は、アスラ王国フィットア領内の隠し研究室に来ている。扉を開けて入ってきたのはクリフだった。

 

「久しぶりだな、元気か、ルーデウス」

 

「えぇ。そちらもおかわりないようですね。相変わらず眼帯を外すのは難しいんですか?クリフ先輩」

 

「ふん、いつかは外してやるさ。でもエリナリーゼの愛がこもってるからな」

 

「はは。そうですとも」

 

「しかし、あいつが人形以外に、しかも二人と同時とはね」

 

「あいつは昔から器量の大きいヤツでしたよ。しかも元王子ですからね」

 

「そうだな。ミリス教の俺からすれば複雑だが、素直に祝いたい」

 

「えぇ。式は挙げないみたいですが、今日は男三人で久しぶりに語り合いましょう!」

 

しばらく二人で話していると、扉が開いて主役のザノバが入ってきた。アンをつれて。アンは酒樽を運んできた。

 

「師匠、クリフ殿、お待たせして申し訳ない」

 

「構わないでくれ、今日の主役は君なんだからな!しかしナナホシも一緒なのか? 今日は男だけでワイワイやるって聞いていたんだが」

 

「あ、クリフ先輩。あれは昔、俺の屋敷で見た自動人形を再現したやつでナナホシ・アン。本人じゃないですよ」

 

「なんと、ザノバがずっと研究していたやつが完成していたのか!俺は全然知らなかったぞ」

 

「まぁ積もる話もあるでしょうが、まずは乾杯をしましょう!」

 

「そうだな。ルーデウス」

 

アンが各自にワイングラスを配り終えたので俺が音頭を取った。

 

「ザノバ、結婚おめでとう!」

 

「結婚おめでとう!」

 

「ありがとうございます!」

 

それから話は盛り上がって、飲んだり食ったりして三人とも酔いつぶれてしまった。この三人で飲むといつもこんな感じだな。でもこういうのもすごく幸せだ。泥々に酔った俺に誰かが話しかけた。

 

「サブマスター、今までの人生で後悔はありますか?」

 

こんな幸せな人生があってたまるかってんだ!

 

「んにゃ……後悔はあったが……にゃむにゃむ、俺の人生は本当に幸せだった。いや」

 

やっぱり悔いなどない。良い人生だった。最高の人生って言ってもイイゾ! 後半の部分をちゃんと口にできたかは怪しかった。俺はそのまま眠りに落ちた。

 




次回予告
空中城塞に住む転移と召喚の専門家であり、かなりの魔力量を保有している甲龍王ペルギウス。
彼であれば世界各地から自らの居城へ人を転移させる事が可能だ。
ただしペルギウスより魔力保有量の多い者を転移させるにはわずかな工夫が必要となる。
そして、その工夫には副作用がある。
本来、一瞬で終わるはずの転移に少しばかり時間がかかるという副作用が。

次回『自動人形の勘違い』
大した副作用ではない。
だが、使える。

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