無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。
また、今回の話では
 ・伝説のオウガバトル
 ・タクティクスオウガ
 ・ロマンシングSaGa2
 ・Five Star Stories
のネタが含まれます。あらかじめご了承ください。


第008話_新分野の開拓4_時空間魔術_人形術_魔法剣士

---旅が昔を思い出させる装置になりうる---

 

ある朝のことである。ドンドン、ドンドンドン。ルーデウス邸の門扉を叩く音が、屋敷を支配する。

 

「はぁい、どちらさまですか?」

 

アイシャは玄関を開けながらそのように返事をして、不用心にも相手の顔を確認せず、扉を開いた。この辺りは治安が良いし、そうでなくてもルーデウス邸を襲撃しようとするような命知らずはこの付近にはいないのだ。

 

そこには初めて見る自分とそう歳の変わらない少年が立っていた。20歳前後だろう。これくらいの青年で家にくるのは概ねノルンのファンだ。しかし、学生服でなく袖の長い民族的な出で立ちだった。さらになぜか肩に猫のような人形を乗せている。アイシャは可愛いモノが好きなのでこの青年に少しだけ好感を持った。

そこまで考えたところで青年は玄関を開けた時の質問に答えた。

 

「突然お伺いしてすみません。私はアルビレオと申す者です。こちらはルーデウスさんのお宅でしょうか?」

 

「そうですよ」

 

「えぇっと、ルーデウスさんはご在宅でしょうか?」

 

「今、兄は出かけています」

 

「そうですか……」

 

彼が少し残念そうにしたので、アイシャは気を利かせて呼び止めた。

 

「あの、どうして肩に人形を乗せているんですか? あ、ごめんなさい、失礼ですよね、こんなこと訊くの」

 

「いえ、失礼ではありません。むしろこんな風にしていた私が悪いのです」

 

そういうと人形が独りでに立ち上がって、アルビレオの肩から首に向かい、服の前裾部分を滑り台のように降りて彼の懐に入って行った。猫っぽいのに二足歩行だった。一旦懐に入ってからまた顔を出し、アイシャに手を振ってまた隠れた。

 

「生き物なんですか?」

 

「ちょっとした魔術です」

 

「へぇ! 私も初級魔術くらいできますけど、そんな魔術は初めてみました!」

 

「魔法大学では教えていませんからね」

 

アイシャのヨイショで彼の機嫌はだいぶ回復したようだ。

 

「ご用件と連絡先を教えて頂けたら、こちらからご連絡しますけどどうしますか?」

 

「そうですね……。いえ、またお伺いさせていただきます」

 

「今日はたぶん夕方には戻ると思います」

 

「なら、その時分にまたお伺いします。では」

 

 

--ルーデウス視点--

 

用事を済ませて昼前に帰ってくると、いつものようにアイシャがお出迎えしてくれた。あぁ今日はルード傭兵団にはいかないのかと思っていると、アルビレオという客人が来て、また夕方に訪問する予定であると伝えてきた。そして、そう俺に伝言すると傭兵団の仕事があるからと昼飯も食べずに出かけて行った。

もしかしたら、俺に伝言するために予定を変更して待っていてくれたのかもしれないな。俺は別に外に出る用事もなかったので、夕方まで研究室で魔術の研究をした。夕方近くなったころ、客人が来ても良いように1階のリビングで座って……。いつの間にかうたた寝をしていた。肩を叩かれて目をさますと、リーリャさんが言った。

 

「ルーデウス様、アルビレオという方が玄関に参っております。どうなされますか?」

 

目を一度ぱちくりとさせてから、俺は応えた。

 

「あぁ、玄関まですぐ行きます。リーリャさんどうもありがとうございます」

 

最後の感謝の言葉は、ちゃんとリーリャさんの顔を見て言った。玄関まで行くと、民族衣装っぽい服を着た青年が立っていた。見覚えはなかった。

 

「初めまして。貴方が龍神の右腕と呼ばれているルーデウス・グレイラットさんですか?」

 

「そうです。あなたはえぇっとアルビレオさん?」

 

「はい、私がアルビレオです」

 

「どのようなご用件でしょうか」

 

「龍神様をご紹介していただきたいのですが、ご無理でしょうか?」

 

俺は心の中で少し警戒した。龍神オルステッドに会いたい?そんなヤツがいるのだろうか。会ったら呪いで嫌いになるか相当ビビるというのに。つまり呪いについては知らずに来たのだ。

 

「直接会うのはたぶん無理です」

 

「そうですか。あのつかぬ事を訊きますが……。ルーデウスさんは龍族の方ですか?」

 

「いえ、ただの人族です。それが何か?」

 

「あの、私は古代龍言語魔術というのを探して旅をしているのです。それで龍神様にそのことをお訊きしようとおもいまして」

 

「では、私がその旨、オルステッド様に確認してきて差し上げましょう」

 

「良いんですか?何か、お代のようなものが必要であればおっしゃってください」

 

「構いません。オルステッド様は寛大なお方ですし、地位も名誉もお金にだって不自由されておりません。ただ今後、何かがあったときに協力して欲しいとお願いされるかもしれません。そのお願いだって無茶なことは要求されない方です」

 

「そうですか、であるならばお願いさせて頂きたいです」

 

「判りました。ご連絡先を教えていただければ、確認後に連絡員をそちらに向かわせますがどうされますか?」

 

「私は、八本足の白馬亭に泊っております。お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」

 

アルビレオはほとんど間を置かず、OKした。この青年は思慮深く見えたのだが、割と冒険心の強いタイプのようだ。無茶なお願いはしないと言われてもそれはどうせオルステッド、龍神の尺度でということになる。お願いが無茶でない程、借りがあれば断りにくくなるのも道理だ。それが自分の尺度では致命的な不都合になるかもしれないとは考えないのだろうか。考えなかったのだろうな。断らせようと思ってこういう言い方をしたというのに、失敗したな。

 

そういうと、アルビレオは帰って行った。古代龍言語魔術……初耳だ。俺も興味がある。

 

--

 

次の日、俺は郊外の事務所に来た。受付嬢のあの子に聞いて社長がいることは確認済み。社長室の扉をノックして待った。

扉の奥から「入れ」と声がしたので、扉を開けて「失礼します」と言ってから部屋に入る。そしてオルステッドの近くまで歩いていく。まずは挨拶だ。

 

「おはようございます。社長」

 

「うむ。何用だ。お前は俺が言った、ゆっくり休めという意味がわからんのか?」

 

「判っているつもりなのですが、やりたいことを進めるとオルステッド様に関係することが多いようで」

 

「ほぅ俺に関係することとは?」

 

「今回のことは私のやりたいこととは違う気がしますが……いえ、報告と相談です。実は昨日、アルビレオと名乗る青年が私のところにきまして『古代龍言語魔術』の存在や内容についてオルステッド様にお話しをお聞かせ願いたいと頼みに来ました」

 

「アルビレオか」

 

知っているのか!雷〇!

 

「彼の言う『古代龍言語魔術』なるものに私も少し興味が湧きました。真実を語るかどうかは別として、勝手ながら彼にはオルステッド様の知識を賜れるように約束してまいりました。都合が悪ければ嘘を混ぜて伝えたいと思います」

 

「真実を伝えても構わん。そうだな何から話すべきだろうか」

 

オルステッドは難しい顔をして押し黙った。やはり難しい話なのだろうか。

 

とりあえず、アルビレオを無視して自分の知的好奇心から満たしてしまおう。話が複雑なら俺が整理してからアルビレオに伝えれば良いんだ。そこで俺が一番聞きたかったことを訊いた。

 

「オルステッド様、『古代龍言語魔術』とは何ですか?」

 

「お前は狂龍王カオスの本を読んだそうだな」

 

「えぇ……読めませんでしたが、中は見ました」

 

質問とは違うところから始まる問答。会話のキャッチボールはもう少し続くと思ったが、一つの確認をされて応え、唐突に終わった。古代龍言語魔術とカオスに何の関係があるんだ? まったく合点がいかないので俺の頭にはクエスチョンマークが浮かんでいた。が、俺の顔に何か書いてあったのか、それとも最初からの予定通りのことなのか解説が始まった。

 

「カオスの研究ノートの文字は龍語だ。この時代よりずっと昔、六面世界がまだわかれていた頃のな。龍族が使っていた言語がお前ら、いやアルビレオのいうところの古代龍言語になる。古代とやらの定義が判らないから推測だがな。つまり、人族から見た時、六面世界時代に龍族が使っていた魔術を古代龍言語魔術と定義できる」

 

六面世界? 知らない単語が出てきたな。確か10万年以上前に世界は7つに分かれていて、それぞれ神が世界を支配していた。いやまて、その後、自分の未来の日記に書いてあったな。龍族の遺跡に書いてあった内容によれば六つの世界がサイコロの面のように存在して中に無の世界があり、無の世界の中心にヒトガミがいるという話だった。つまり、世界は7つあるが、面数は六だから六面世界か。

 

「それで現代にはない龍族の古代魔術があるのですか?」

 

「あるが、この世界では使えん。この世界は太古の盟約を使って他の世界の魔術を封じている」

 

太古の盟約は枠組みだったはずだが……他の世界の魔法を封じたのか。いや枠組みだったからこそ他の魔法を封じているのかもしれない。

 

俺は少し吟味してから言葉を発した。

 

「再度確認しますが、そのままを教えてもいいでしょうか? 彼は若く、このような話を理解できるとも思えないのですが」

 

「そのまま教えても良い。しかし、アルビレオが若いか。どのような風体であった?」

 

俺は困惑した。何周もしているオルステッドがアルビレオの容姿を把握していない。そんなことがあるんだろうか。いや、俺やナナホシは今回の周回で初めて出会った人物だ。アルビレオもそうなのだろうか。

 

「民族的な衣装にバンダナをしている金髪の少年でした。歳は20歳といったところでしょうか」

 

「ふむ、ならそいつはラドラムという男に転生したアルビレオだな」

 

「!」

 

自分とオルステッド以外に転生ができる人物がこの世にいるのか。かなり驚いたが、とにかくアルビレオは初登場ではない。ただし、アルビレオの転生候補は年代によっていくつかあるから容姿が確定しない。そういうことらしい。

 

「では彼は見た目通りの若さではなく、多少難しい説明をしても良い。ということですね」

 

「そうだ。ただし、ヤツが龍族の遺跡を調査するというなら魔大陸の山奥にある遺跡まで案内して、さっさと帰らせろ」

 

「なぜそこまで彼を厚遇するか訊いても?」

 

「ヤツはこの後の重要なイベントに関わってくるキーパーソンだ。殺されたり、放浪で場所を違えると困る」

 

なるほど。俺は得心が行った。それと日記に書いてあった龍族の遺跡にいくのか。日記には細かい位置が書いてなかったので、細かい位置についてはオルステッドに確認した。彼が知らなかったら絶望的だったんだが、リカリス南西の山の中腹にあるらしい。往復で二か月の行程となる。なるべく、説明だけで納得して欲しいところだ。

 

--

 

さらに次の日、つまりアルビレオが俺の自宅を訪問してから2日目の昼前、俺は結局自分でアルビレオに会うために八本足の白馬亭にやってきた。そしてなるべく秘密にしたいことだからと、彼の泊まっている部屋に入ってからオルステッドの語った話を聞かせた。

 

「なるほど判りました。さすが龍神様ですね。龍神様のお力がなければ私は一生、同じところで悩んでいたことでしょう。知識を与えてくださった龍神様と仲介をしてくださったルーデウス様に心よりの感謝を」

 

彼はジェスチャーも含めて感謝の意を示した。

 

「それで、アルビレオさんはこの後どうされるのですか? この世界で使用できない『古代龍言語魔術』の調査は終了されるのでしょうか?」

 

「いえ、この世界で使用できなくとも構わないのです。存在することが判った以上、名前と効果を研究して、私が培った暗黒魔術にて再現しようと思っております。それが我が師の悲願ゆえ」

 

暗黒魔術――例の転生術を含む独自魔術か。

 

「どのように調べるおつもりですか?」

 

「そうですね。龍族の遺跡があると聞いたことがありますから、それを探し出して調べようと思っています」

 

そんな。

 

「あぁ龍族の遺跡ですか、私も一つ知っています。ご案内しましょうか?」

 

「宜しいのですか?」

 

ダメ。

 

「はい」

 

心の中で俺は泣いた。ここから2か月の出張が決定したのだから。その後、彼に2か月くらいの旅程でAランクの魔獣が出る地域なのでしっかり準備して欲しいと伝えた。出発は相談の上、五日後になった。

 

--

 

五日後、俺はシャリーアの西側入り口(通称、西門)で彼と待ち合わせた。アルビレオは既に待ち合わせ場所に居た。彼は俺たちが二人連れできたので挨拶の後、こう訊いてきた。

 

「あの、その方は?」

 

「こいつはアンという名前の自動人形です。人ではありません」

 

「!龍神様の叡智は私の想像を超えておりますね」

 

「ははは、まぁこれは狂龍王カオス様の研究分野ですけどね。アン。ご挨拶を」

 

「初めまして、ナナホシ・アンです。龍語を読むことができるのでご同行します」

 

「!! なんと、言葉を理解し、自ら話すこともできるのですか。おっと、申し遅れました。私アルビレオと申します。こちらの我儘にお付き合い頂き恐縮です」

 

人形に自己紹介した上、恐縮している。この世界では普通かもしれんな。ということでスクロールを広げ、その上に乗ってから魔法陣を起動して、転移魔術で3人一度に転移した。

 

これまで常駐の転移魔法陣を知られたくない場合は、目隠しをしてもらっていたが人の口に戸は立てられない。アルビレオは利用価値があるらしいが、そこまで親しいわけでもなく目隠し程度では不安だった。そこで、転移魔法陣の利用に少し工夫をした。まず俺は今朝、あらかじめ事務所の魔法陣を使ってリカリス近くの転移魔法陣に飛び、そこから離れた場所に地下空間を作り、新たに使い捨てのスクロールの魔法陣(魔力結晶付き)を設置した。どちらにしても禁忌扱いの転移魔法陣を使うというところはバレてしまうだろうが、この工夫で常駐の魔法陣の場所を隠匿できる。

 

「ほぅ、転移の術ですか。これも龍神様の叡智ですか? しかし、魔大陸とは」

 

アルビレオは辺りを見回してその風景から判断したようだ。

 

「まぁそのようなものです。魔大陸には以前も来たことありそうですね」

 

実際は甲龍王だがまぁいいだろう。また、オルステッドの言う通りアルビレオは見た目通りの年齢ではないようだ。風景を見ただけでここが魔大陸だと理解している。

 

「いえ、初めて参りましたが、人族の住む所は概ね行ったことがありますので。このような風景は魔大陸に違いないとおもった次第です」

 

「そうですか、ではいきましょう」

 

そこから約二週間かけて遺跡のある山々の手前の平原へと辿りついた。オルステッドの指定した位置だと遺跡は二つ山を越えた位置にある。が、とりあえず山に入る前に千里眼で位置を確認した。やはり、平原から見えるところに遺跡はなかった。そのまま千里眼で山を見ると、岩でごつごつした山が一番手前とその左に右手の山々にはいくつか木か(トレント)の群生地があった。木といっても青々しいものは無く、皆、枯れ木のような木だった。ここは魔大陸だ。枯れ木が本当に枯れてるとは思わない。

 

山に入って一日目、いきなり迷子になりかけたがアルビレオに地図を見せたところ行先を修正してくれた。彼は旅慣れている。しかも恐ろしく強い。七大列強クラスと言わないがギレーヌよりは強い。遺跡のある山に入ると、魔力濃度も高くA級の魔物、

 ・キラーマンティス(巨大なカマキリ)

 ・ゼラチナス・マター(ゼリーのおばけ)

 ・トウテツ(体は牛で、曲がった角をもつ野獣)

 ・火食い鳥(体長6メートルくらいの大きな鳥)

を一日に20匹前後相手しなければいけなかった。正直今の俺一人では踏破できそうになかった。ましてやアンを連れては到底不可能に近い。アルビレオがお荷物なら行く途中で断念して納得させても良いとは考えていた。とりあえず、前衛は俺、中衛をアルビレオ、後衛にアンという布陣にした。当然俺は、魔道鎧二式改を身に着けてだ。ところが、最初の1戦を切り抜けたときに、アルビレオが質問してきた。

 

「闘気は纏わないのですか?」

 

俺には剣士の素質がなく闘気が纏えないと言うと、

 

「ああ、なるほど」

 

としたり顔で返事が返ってきた。その後、

 

「私は水聖剣士ですので前衛をしますよ」

 

と追加で申し出てくれた。魔法剣士なのかと聞くと、

 

付与魔術師(エンチャンター)と名乗っています」

 

と言われた。

 

「まぁ付与魔術師(エンチャンター)は別に剣技が使えなくても良いのですが」

 

とも言っていた。そこで2戦目からは前衛をアルビレオ、中衛が俺で後衛はアンとなった。アルビレオは強い。防御の水神技によって相手の技を問題なく受け流し、俺の魔術が届く隙を作っていく。そこに俺が魔術を当てていく。流れ作業のように屠れるので、なんだかこの3人の旅が昔の魔大陸に飛ばされた始めの頃にルイジェルドとやったパクスコヨーテ戦のように感じられた。非常に懐かしい気持ちだ。その日の夜に、付与魔術師(エンチャンター)とはなんなのか尋ねると、「精霊召喚で人形に生命を<付与>して使役する人形術と高位の解毒魔術を使った状態<付与>が得意」なので二つの付与(エンチャント)から付与魔術師(エンチャンター)と師匠が命名してくれたという。信奉する師匠が決めたので自分でも名乗るようになったとのことだ。ただ、昔のように安心安全ルイジェルドさんがいるわけではない。火の番はアンにまかせ、警戒はアルビレオと俺で交代しながら行った。

 

山に入って二日目、魔物の巣に出くわした。迂回しようとアルビレオに提案したが

 

「大丈夫だから最短距離で行きましょう」

 

と言われた。俺はいつでも逃げれるようにしつつ、彼の言葉に従った。魔物の巣に近づいたアルビレオは土魔術で巨大な人形をつくり、それに精霊召喚で疑似生命を付与した。これが彼の人形術か。俺も神獣召喚が使えるが対抗しているように映ったら嫌なので差し控えた。彼はこの人形をタロスと呼んでいた。彼は2体のタロスを両翼に一体ずつならべて魔物の巣に踏み入った。あとの戦い方は昨日と同じだ。タロスは動きは中級剣士、つまりはアンと同程度だったがとにかく固かった。耐久力がある。しかも魔物の毒などの状態異常もすべて無視する。その後も順調だった。

 

召喚魔術を使い、剣士としても大成し、山に入るまでに見た暗黒魔術もそれなりの攻撃力だった。まさに俺が幼少期・少年期に目指していた魔法剣士を体現していたので、はっきり言って驚いた。そのことをその日の夕飯の時に言うと、俺が目指している魔法剣士は弟弟子のサラディンに近いと教えてくれた。その弟弟子は多彩な攻撃魔術と光の太刀、そして体術を組み合わせた魔法剣士らしい。しかも、攻撃センスがあり、相手の不意を突いたり、避けられない攻撃に誘導したりするので厄介だそうだ。このアルビレオをして厄介と言わしめるサラディンも列強に近い強さなのだろう。アルビレオは魔法剣士というカテゴリに反応してサラディンが近いといっているようだが、俺が憧れていたのはアルビレオが近い。つまり昔の俺は付与魔術師(エンチャンター)プラス剣士を目指していたということになろう。

 

3日目で最初の山の登頂に成功した。山の頂上からさらに奥に連なる山々を千里眼で見る。やはり遺跡らしいものは見えない。地図通り、もう一つ越えたところで遺跡が見えるようだ。

 

4日目はアンの魔力切れが起きたので魔力の補充をするために早めに野営した。一つ目の山を越えたことで安心感が出てきたのか、野営の間にアルビレオと話す内容もくだけたものになった。日が落ちると焚火の前で、アルビレオが話しかけてきた。

 

「お若いのにルーデウスさんは中々の強さですね」

 

と褒められた。

 

「お若いってアルビレオさんの方がお若いでしょう?」

 

と返すと、アルビレオは複雑な気持ちで少しためらってから、

 

「実は私は暗黒魔術で転生を繰り返しているので見た目よりずっと歳をとっていますよ」

 

と打ち明けてくれた。俺はそれをオルステッド経由で知っていたわけだが、一応驚いて見せた。少し演技が臭かったかもしれない。俺も実は転生者で見た目よりずっと歳をとっている、とは言えなかった。彼はなぜそんな大事な秘密を打ち明けてくれたのだろうか。そこまで俺って信用できるのか? その後は、暗黒魔術についていくつか話を聞いた。ほとんどの内容は信奉する師匠ラシュディについての武勇伝だ。師匠の話をするときのアルビレオはとても楽しそうだった。先日は彼をルイジェルドのように思ったが、彼の中では師匠がルイジェルドのような存在なのかもしれない。

 

5日目以降も旅の内容ほ特段代わり映えはしなかった。言うとすれば、二つ目の山の裏側にダンジョンがあったことだった。こんなところに入れるヤツはいないと思うのでオルステッドに報告しておこう。何かゲットしてきてくれるかもしれない。

 

あとは、普段と少しだけ違うことがあったか。そうそう前衛のアルビレオを越えて火食い鳥が飛んできて接近戦をしたときの夜だった。アルビレオが戦術の心得を少し教えてくれた。

 

「ルーデウスさん、少しいいでしょうか」

 

「ええ」

 

「今日は前衛の私が抜かれて、火食い鳥と接近戦になっていましたよね」

 

アルビレオからは不満のようなものが見て取れる。

 

「はい、でも危なげなく対処できたと思うのですけど」

 

「ふむ、私から見るとかなり危ない戦い方に見えました。これまでのお話だと貴方は魔法剣士になりたくて、剣術も習ったということでしたが」

 

これまで俺は対接近戦においては何人かに完成の域に来ている。よく考えていてすばらしいと褒められてきたし、エリスやオルステッドとの模擬戦で培った戦術は魔物と戦うときも有効に機能しているように思っていた。だからアルビレオの辛口の評価はショックというより新鮮だった。

 

「そのとおりです」

 

「うん。驚きましたが、ルーデウスさんは魔術が無詠唱で使えるようなので、ほとんど剣技と変わりません。ですが、それらの技に頼ってはいけません。戦いにおいて一番大切なことは相手の『攻撃ポイントを見切る』ことです。そして自分の『攻撃ポイントを見切らせない』ことも同じく大切です。判りますか?」

 

「なんとなくは分かりますが、攻撃ポイントというのは攻撃に移る動作の初動のことでしょうか?」

 

「私が言う攻撃ポイントとは、打ち込みタイミング・間合い・攻撃方向と定義できます。それらを見切らせないようにするためには足さばきが重要です。逆に相手の攻撃ポイントを見切るためには相手の足さばきを見抜いてください」

 

そうだとして火食い鳥の足さばき ―― 空が飛べる魔物なんだが無理じゃないか?

 

「ルーデウスさんがおっしゃっているのは打ち込みタイミングに近いですね。それができるようになったら、今度は相手の足さばきを崩すのが目標になるでしょう。どうですか?」

 

「剣神流の基礎でフェイントや打ち合いの稽古をしましたが、それでは足りないということでしょうか」

 

「魔法剣士の戦術では相手との間合いが異なることのが多いです。剣神流でも光の太刀ができるレベルになると基礎を越えた戦術が必要になってきます。そういう意味では剣を投げてくる北神流の戦術が近くなりますね」

 

「なるほど。私は魔術重視の魔法剣士なのに戦術が剣士に近くて良くないということですね。そこで重要になるのが足さばきであると」

 

「ルーデウスさんは普段からかなりハイレベルな剣士と稽古されているようですね。相手の動きを見て反応する部分はかなりできています。散眼もあり、相手の見なければいけない部分と全体の両方を見る力を持っています。しかし、想定されているのは剣士の型に近いので、その型を越えた咄嗟の判断が少し遅いように見えます。おそらくですが、剣の師匠には考えすぎるなと言われたことがありませんか?」

 

ずっと昔にギレーヌに剣術をならっていたとき、言われたことがある。あそこで俺は自分の剣術がエリスには到底追いつけないと感じ始めたような気がする。

 

「言われたことがあります」

 

「私も言われたことがあるので分かりますが、それは仕方がないことです。魔術師の戦闘方法は多岐にわたります。それらは剣術の型からはかなり離れていますからね。型を練習しながら派生した手管を訓練しようとしても魔術だったら、というように考えてしまい、話が合わないのです。そのように考えすぎると今度は魔術による実際の戦闘で上手く動けなくなります。もし訓練するのならば型を考慮せず、ほとんど我流で自分にあったパターンを作ると良いでしょう」

 

なるほど。魔法剣士の先輩から言われるとなんか説得力があるな。

 

「あまり答えのようなものを言っても身に付きませんから。今言ったことを戦闘時に試してください。もし合わなければいままで通りでも私は構いませんけどね」

 

ありがたい教えを伝授してくれたアルビレオ。

彼の話を咀嚼している間に、彼自身は腰のベルトにつけた道具袋をまさぐった。

 

「それとこの薬を差し上げましょう」

 

「これは?」

 

「神経薬です。神経が鋭敏化するので、もしかしたら闘気を纏う訓練をするときに有効になるかもしれません。そうですね1滴を100倍に薄めて飲んでください。濃いと刺激が強すぎて発狂する可能性がありますから気を付けて服用してください」

 

「ありがとうございます。でもどうしてそのようなことを私に?」

 

「龍神様には借りを作ると言いましたが、ルーデウスさんには何も返せないなぁと考えておりましたので報酬のようなものです」

 

「そうですか。ではありがたく受け取らせてもらいます」

 

神経薬は2本もらった。山に入って10日目の夕刻に遺跡へと到着した。全体の旅程でいえば3週間を超えた。そして、遺跡の中も魔物で一杯かとおもったが、遺跡の敷地には結界があるようで魔物は一切いなかった。これで調査している間はかなり休める。

 

「遺跡の調査は疲れをとって明日から始めましょう」

 

とアルビレオが言った。




次回予告
本来、絡み合うはずのない糸。
知るはずのない情報。
後悔し、苦悩する人の想い。
まるで忘れ去られたタイムカプセル。

次回『秘薬とザノバ』
既に彼女はキーパーソンだった。

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