無職転生if ―強くてNew Game― 作:green-tea
・王竜山脈西側の森林地帯の設定
は原作では語られていない部分のため拙作のオリジナルとなります。
また、今回の話では
・伝説のオウガバトル
・GS美神 極楽大作戦
のネタが含まれます。あらかじめご了承ください。
---家族にかけるのは毛布だけにしよう---
--アイシャ視点--
ダイニングテーブルの上で冷たくなったルーデウス分の夕食を母さんが悲しい顔で下げに来た。
「ねぇお母さん、お兄ちゃん『ちょっと行ってくる』って言ってたんだよね」
「えぇ・・・ルーデウス様は昔からどこかに行くときは行先を告げて皆に心配を掛けぬ方でしたのに」
私は台所で食器を洗っていた。その横に戻ってきた母の顔を見て、そう確認した。母は自分が悪いことでもしたように申し訳なさそうな顔をしていた。気弱になる母を見て、余計なことを言ってしまったと気が付いたが手遅れだ。
「大丈夫、父さんは強い」
なぜか台所に来たララが私の声を代弁した。なぜか、もちろん母を心配してだ。そう彼は強い。心配はいらない。
「そうですね、ルーデウス様なら大丈夫ですね」
「でも、無断外泊はよくない、母様たちも心配してる」
「帰ってきたら、お諫めしましょう」
「それが良い」
シルフィさんもロキシーさんもエリスさんも夕食時にはおくびにも出さなかったが、心配しているだろう。今は2階のシルフィさんの部屋で奥さま同士の会議中だ。
そんな中で玄関に人の気配がして、私は一目散に玄関口に走った。
「何? お兄ちゃん?」
私は応対に出たが、予想とは違っていた。
--ルーデウス視点--
昨日の夕方から休みなく走った。時間との勝負だったがオルステッドの提案で一旦、シャリーアに戻る。後ろ髪は惹かれたが自宅には帰らずにペルギウスに連絡し、ケイオスブレイカーを経由して、密林地帯の中にある隠れ転移魔法陣へ。そこから村まで南下する順路だ。今日中には村までたどり着く。ツメタシルクがどれだけ足の速い者でも二日でワイバーンからあの村まではこれまい。その時点からはこっちのペースにできる。
俺は密林地帯で迷子にならないように土魔法で足場をつくり森を見渡した。鬱蒼としたジャングルでガイドもいない。迷子になったら帰りがさらに遅くなってしまう。迷うわけにはいかない。
そこに油断はなかったと思うのだが、何度目かの遠見で森の一部に大きな砂ぼこりを見つける。音が聞こえるわけではないが、鳥たちが逃げるように羽ばたいていく。このタイミング、この状況、悪霊の集合体との戦闘の可能性が高い。悪霊は別にしてもツメタシルクはどんな身体性能を持っているのか、あまりにも早すぎる。見せてもらおう、オルステッドからして弱くはないと言わせる強さ、今回のイベントの分岐点を。
戦闘と思われる場所との間に目的の村があった。村人に事情を説明すると村長が出てきた。村長はほとんど黒といってもいい良く焼けた肌をした小柄な老婆であった。老婆は長いキセルに香草を詰めて吸いながら、俺を足先から頭まで見て言った。
「何の用だい」
村人たちは人間語だったのに、彼女の言葉は闘神語だった。
「実はこの森の近くで悪霊が大量に発生して、知り合いが苦戦しているのです」
少しさび付いた闘神語で俺も会話した。
「ほぅ、でも何も助けることはできないよ」
「そんな、石の笛があるでしょう?」
「へぇ……笛の事を誰に聞いたかしらないが村を出てったモンかね。残念だったね。あの笛に悪霊を払う力なんて無い、しかも使える者は限られる。どうにもできやしないよ」
「いえ、私の知り合いはその笛を使うことができるでしょう。クレとは申しません。お借りできませんか?」
俺には何の根拠もなかったが、言い切った。
「ふん、壊しなさんなよ。……あんたもついてくるんだよ!ったく、この老いぼれにモノを取りに行かせようって腹かい」
老婆は村に一軒だけある高床式倉庫のような建物へと向かっていった。
「失礼しました!」
なるべく機嫌を損ねないように、足早に追従する。気の荒いおばぁさんだな。老婆の住処に入ると一つだけある道具箱の中から笛を取り出し、貸すだけだと念を押された。
突然きた異邦人に物を貸す、なぜ俺を信じる気になったんだろうか。判然としなかったが、今考えても答えはでないだろう。
俺はすぐさま取って返し、村の入り口まできていた。
間に合った!ただ彼女の力も分岐内容もまるでわからない。助けるべきか……迷おうとした俺に幻聴が聞こえた「死んだんだぞ……!」わかってますよルイジェルドさん。あの森で、あのとき最大の利益を出そうとしてそして俺は失敗している。繰り返すこともあるだろうが、今回は大丈夫だ。懐から魔法陣を取り出すと、迷いなく最も有効な術を解き放った。
「来たれ!神獣テンプルナイツ!」
--ツメタシルク視点--
『コノチカラ、オマエニモマケハシマイ』
ようやく辿り着いたのに追いつかれましたか……、これでは村に被害が。今朝の朝まであの霊団の移動速度は私の想定範囲内でした。が、ジャングルに入った頃から本来ゴーストにならずに消えゆくはずの動物霊を無尽蔵に手下にし始めて、今では私を越える速度をもって、ついには追いつかれてしまいました。まずいです。目算を誤りました。あぁ仕方ない、キングの霊には気の毒だけどまとめて祓いましょう。
『シネ』
今や霊団は統一した意思を持っています。私の予想ではキングがその意思の本流になるはずでしたのに、非常に邪悪な者の意思を感じます。キングはその精神に勝てなかったのでしょう……可哀想な方。おっと、前より攻撃も鋭くなってきていますね。
「ここは生者の住まう場所なり。生きとし生ける者は生き、死せる者には安らかなる死を。神の天秤においてその処断を受け入れよ『エクソシスム・マグナ』!」
中級神撃魔術はゴーストの表面で防がれています。効果はいま一つ。すぐに後ろにステップして距離をかせぎます。
『ワレハサイキョウナリ・・・』
無視無視。詠唱時間を無駄にはできません。
「神の御手は、何者も救済せず、何者にも応えず、ただ安らかに見守りおわす。神の御前では、誰も彼もが正しくあれと願い請う。理を曲げるなかれ。死人よ、いかに曇った眼でも見えよう。ここは神の御前である。自らがなすべきことをし、あるべきところへと帰ることが許される。悩むことなし、すべては神の思し召し也。『ウィル』!」
『ォォォオン・・・オオオコノヨウナコトガオコルトハ・・・・コノチカラアルビレオヲモコエテイル・・・』
聖級神撃魔術が直撃したにも関わらずゴーストは三分の一が削れただけでした。まずいですね。もう魔力量が。
『ヨルベナキ、クモンニタエテ、チノソコノ、』
え?ゴーストが高位死霊魔術!?自分でゾンビやゴーストを召喚して吸収するつもりですか。万事窮すと思った矢先でした。
「来たれ!神獣テンプルナイツ!」
突然後ろから声がしました。最近、聞いたことのある声が。
--ルーデウス視点--
「テンプルナイツよ、悪霊を討ち祓え!」
初めて見る高位神撃魔術でもあの悪霊は滅ぼせなかったようだ。しかも雰囲気がかわった。先ほどまでより知性を感じるようになり、大きさは小さくなっても明らかにまずい感触がある。俺の召喚術がどこまで通じるかはわからないが、最後はツメタシルクの笛でイベントが終了してくれることを願うしかない。
「ツメタシルクさん、笛なら用意できてますよ!」
「えっ?あなたなんで?笛のこともどうして……」
「いいですから!笛を取りに来たんでしょう?」
俺は無理矢理ツメタシルクの手をとって石笛を握らせた。悪霊はテンプルナイツの剣の範囲から逃れようと上空にあがったが、剣を槍に変化させて投げ槍の要領で投げたためそれを食らいどんどんと小さくなっていく。そして……
「シューーーーーーーーー!プスーーーーーーーーーー!フューーーーーーーー!」
ツメタシルクが石の笛を吹くが音はでなかった。この様は、アルマンフィを呼ぶときのラッパと似ている。彼女は一生懸命に石笛を吹いているが音は出ていない……しかし変化があった。
『ヤメロ・・・ヤメロオオオオオオ!イシキガトオク・・・・』
苦しんでいる。いや苦しんでいた。
『ミコヨ・・・我、王竜王国第32代国王レオナルド・キングドラゴン也』
声が変わり、ゴースト自身が名乗りをあげた。ツメタシルクも石笛から口を外し、応える。俺はその裏で召喚を解いた。
「お迎えにあがりましたわ。悲しき御霊よ。共に死者たちの迷宮でしばしのご休息を」
『それがよかろう、ステルヴィオのことは少し気掛かりではあるが、このような事が起こるのは本意ではない。しかし、少し待たれよ。そこの魔術師よ。お前はアルビレオの手の者か?』
ステルヴィオは今の王様、しかしアルビレオという名前は初耳だった。話し相手がツメタシルクから俺に向いたが、即答した。
「アルビレオ? そのような者は存じませんし、違います」
『そうであろうな。きゃつの手の者であれば石笛を届けはすまいからな』
納得してくれたようだ。
「御霊よ。迷宮まではこの壺でお眠りください」
そういってツメタシルクが壺を開けると、レオナルド・キングドラゴンの魂は壺の中へ消えた。
「それで、私も説明して欲しいのですけど?」
ツメタシルクの目はロキシーのようにジト目になっていた。魔族のジト目に俺は慣れている。俺はこれまでの経緯をなるべく伝わるように説明し、彼女は俺の話に納得していたが胡散臭そうなモノを見る目は直らなかった。完全に納得してもらわなくても良いだろう。俺の任務は彼女の手助けをして彼女が何をしようとしていたかを探ることなのだから。俺は村の入り口で彼女と別れた。彼女はこれから石の笛を村長に返して、それから死者たちの迷宮に帰るだろう。
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俺はどうにかシャリーアに帰ってきた。報告のために郊外の事務所に向かう。昨日から一睡もしていない。ヘトヘトだ。それでも気力で事務所に辿り着くと、受付の子が社長はもう戻られてますよと一声かけてくれた。
お礼を言いつつ社長室に行き、いつもより回らない頭であまり整理できていなかったかもしれないが、事の顛末を報告して家に帰った。
無断外泊、家族に謝らなければならない。そう思いながら、家の敷地に入る。庭には誰もおらず、玄関にも廊下にもリビングにも人の気配はなかった……探して謝らなければ……しかし、眠さに勝てずそのままソファに倒れ込み眠りに落ちた。
食卓の匂いがして目が覚めた。変な態勢で寝ていたせいか今朝までの無理が祟ったのかもしくは両方か、俺の身体は悲鳴をあげている。誰かが掛けてくれたのか風邪をひかないように毛布が掛かっていたが、それを払いのけて起き上がった。匂いにつられて、空腹には勝てず、ダイニングに行くと家族が集まっていた。
「父さん起きた?」
「うん、おはよう」
ルーシィに確認されて、挨拶する。
「もう夜だよ」
「もう夜か」
ジークにも応える。
「ちょうどご飯だから一緒に食べようよ、もうお仕事ないよね?」
「そうだな。父さんお腹ペコペコなんだ」
アルスの問いかけにも答える。
ララとゼニスはいつも通りだが、リーリャさん、アイシャ、それに3人の嫁も無言を貫いている。大丈夫、俺が何をすべきなのかちゃんと判っているぞ。だから、自分の席の前まできて言った。
「無断で二日も家を空けて心配させて申し訳ありませんでした!」
そして頭を下げる。
顔を上げるとエリスが言った。
「一昨日、夜遅くだったけど、北神三世が家に伝言に来たわ。急な仕事でルーデウスは帰れないって」
「事情は分かっていますよ、ルディ」
とロキシー。
「ご飯が冷めないうちに食べよ、ね」
最後にシルフィがそう言った。なんだ……皆知っていたのか、体中の力がスゥっと抜けるような気がした。それでも倒れずに席に着き食事になった。エリスと競うくらい食べた。リーリャとアイシャは笑顔になっていた。
最後にちゃんと連絡の使いを出しておいてくれたオルステッドに感謝した。
--オルステッド視点--
ルーデウスの報告はいつもより要領を得ないものだったが、いつもがよく整理されていると思えば気にもならなかった。結局のところ、ツメタシルクはレオナルド・キングドラゴンの御霊を『可哀想な霊』として回収するために迷宮の外に出たということだ。そこに疑問を挟む余地はないが、問題は国王の魂がなぜゴースト化したかということだ。
たしかに俺はヒトガミの使徒となったレオナルド・キングドラゴンを暗殺し、遺体をそのままにした。が、仮にも王竜王国の国王だ、しかるべき葬儀が行われたはずだ。それを捻じ曲げた者がいたと見て良いだろう。一番気になるのは、『アルビレオ』という人物だ。俺の知っている人物と同一だとすると面倒事が増える気がする。
俺は誰もいない社長室で大きなため息をつきながら、今回の事件について資料をまとめる作業にかかった。
メモ:死霊魔術は学べなかったが、気になったらツメタシルクに会いに行こう
次回予告
私は付与魔術師アルビレオ。
訳あって今、王竜王国に滞在しております。
そこで弟弟子のサラディンとばったり会いまして。
彼は兄弟子たる私を疑っているらしく、世間話を交わしても会話が噛み合わない。
頭の固い男ではなかったはずですが。
次回『その裏で_アルビレオとサラディン』
思い込みだけで疑いをかけるのは礼儀を欠く態度だというのをお忘れなく。