無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。


第039話_ノミニケーション

---強さには限界がない。だが心には---

 

ミリシオンでの滞在を終えた俺は予定を変更してさらに北上することにした。寄り道が長引けばエリスの誕生日に間に合わなくなる。だからスパルナよりも速度の速い神獣ガルーダを呼び出して昼夜を問わず15日間も飛び続けた。そうしてリカリス南西の山地に降り立つと、周辺のAランクの魔物をガルーダとフェンリルを使って掃討し、魔術で地下洞を掘り転移魔法陣を設置する。この辺りは魔力濃度も高いので他に地下室も作れるだろう。今は時間がないので地下室作りは後にして目的だけに集中しなければ。気持ちを切り替えて、そこからさらに休まずにガルーダでミグルド族の集落の近くまで行き、首からはミグルド族のお守りを見えるように下げてから徒歩で近づいた。

入り口に辿り着き、見張りをしている男の顔がはっきり見えるようになるとその男がロインではないことが判った。久しぶりに魔神語を使ってみる。

 

「こんにちは」

 

「……何者だ」

 

遅れて男が俺よりも片言(かたこと)の魔神語で返事を返した。念話が主では仕方ないことだ。

 

「ロキシー・ミグルディアの弟子でルーデウス・グレイラットと申します」

 

「何の用だ」

 

「彼女のご両親に彼女が無事であることの報告をするために。ついでに商売に来ました」

 

「しばし、そこで待て」

 

言われた通り待っていると村長とロインとロカリーが連れ立ってやって来るのが見える。俺の前に立ったのは村長で、その後ろにロインとロカリーが並んだ。

 

「長老様、お初にお目にかかります。私は魔術師で商人のルーデウス・グレイラットと言う者です」

 

「これはご丁寧にどうも。流暢な魔神語を使いなさる。私はこの村の村長でロックスです」

 

「おい、あんたロキシーの弟子という話だがロキシーは無事なのか?今どこにいる?まさか……」

 

青い顔のロインはまだロックスとの会話の途中だというのに割り込んでしまう。まぁ娘のことが心配ということだろう。

 

「コホン。それよりもあなたのお名前は?」

 

「俺はロキシーの父親でロインだ。こっちにいるのはロキシーの母親でロカリー」

 

ロインの紹介を受けてロカリーがペコリと頭を下げる。

 

「これは師匠のご両親でしたか。私はロキシーの弟子のルーデウス・グレイラットです。お見知りおきを」

 

話を遮られたであろうロックスも黙って事の推移を見守っている。なら商売の話の前にロキシーの無事を伝えよう。

 

「それでロキシーは無事なのか?」

 

「少なくとも3年前に中央大陸のアスラ王国にいました。その後は直接会っていないのですが、手紙で南部のシーローン王国の軍事顧問として魔術を教えていると書かれていましたし、おそらく今も元気にやっていると思いますよ」

 

「そ、そうか。良かった、なぁ?」

 

「ええ」

 

ロインがロカリーの肩を引き寄せ、2人で目に涙を浮かべて喜んでいる。話が一段落したところでロックスの方に向き直った。

 

「商売の話をさせていただいても?」

 

「ふむ。ロキシーの無事をわざわざ伝えにきてくれた者を無下にはできないのぅ。続きは中でお聞きしましょう」

 

髭をしごきながらロックスはそう言うと、村の中に招き入れてくれた。そのまま村長についていき村長宅を訪ねる。ロインとロカリーの2人とは入り口で別れた。

村長が座るのを待って、俺も床の上に胡坐をかく。

 

「さて、このような貧しい村で何の商売ができますかな」

 

「実はミグルド族の村には秘伝の香辛料があるとか、それを少し買い付けたいのです。ですが不躾なお願いであることも重々承知。そこでお土産も持ってまいりました。是非お受け取りください」

 

そういって俺は果物の砂糖漬けが入った箱をずずぃっとロックスの前に押し出した。

 

「これは食べ物ですかな?」

 

「ええ、中央大陸でとれる果物の砂糖漬けです。ミグルド族の方は甘い物が好きだと師匠から聞き及んでおりますので持ってまいりました」

 

言い終わるか早いかロックスがそれを1つ口に運んだ。

 

「これは……美味しいですな」

 

何か反応が薄い。ロキシーなら一瞬で食べきる勢いで喜ぶのだが。まさかだがミグルド族が甘い物好きというのはロキシーの嘘だったのだろうか。まて、ララもリリも好きだった。いや、村長はロキシーの話を否定していない。本当だと信じたい。

 

「それで香辛料なのですが、いかほどご用意できますか?」

 

「そうさのう」

 

そういうとロックスは部屋の奥から香辛料の入った小袋を2つ持ってくる。

 

「すまんが今用意できるのはこの2つじゃな」

 

「中身を拝見させていただいてもよろしいですか」

 

「どうぞどうぞ」

 

俺は渡された袋の中身を確認した。既に細かく挽かれたもので殻ははずされている。

 

「良い品のようですね。大王陸亀(グレートトータス)を煮込んだ鍋にはこれをどれくらい入れるのでしたか?」

 

「鍋の大きさにもよるが…3摘まみといったところじゃな」

 

「では1袋につき緑鉱銭1枚、合わせて2枚でいかがでしょう?」

 

緑鉱銭1枚はアスラ王国では大銅貨1枚だ。アスラで売れなくても俺が肉料理に使ってみると考えれば安い買い物だろう。だが、この極貧の村でなら破格の値段だと思う。

 

「1袋につき緑鉱銭2枚でならお売りしよう」

 

と村長は言った。欲深とは俺は思わなかった。この極貧の村で皆で共同生活をしているのだ。村のためを思った行為だろうし、俺にとっては大した違いじゃない。

 

「判りました。突然来てご無理を申し上げている身なれば、1袋につき緑鉱銭2枚、合わせて4枚でお譲りいただければと思います」

 

「契約成立ですな」

 

取引を終えた俺は村長の家を出ると、そこにロインが待っていた。

 

「商売の話は終わったようだな」

 

「ええ。わざわざ待っていてくださったのですか?」

 

「良かったら私の家にこないか。ロキシーの話を聞きたい」

 

「判りました」

 

そのままロインの家へと移動した。どちらにせよロキシーの実家に行くつもりだったためこの流れは俺にとっては好都合だ。

そうしてロキシーの実家に到着すると、俺は思い出せる限りのロキシーの話をロインとロカリーに聞かせた。

話を終えた俺は「何かご伝言があれば」と尋ねる。

 

「20年に一度くらいは実家に顔を出すようにお伝え願えませんか?」

 

「ロカリー、無理を言っちゃいけないよ。中央大陸から片道何年もかかるらしいと聞く」

 

「時が来ましたら、なるべく早くお連れするとお約束します」

 

「なら、これを持って行ってくれ」

 

彼は前世でもこれをくれた。非常に出来の良い薄い緑の刀身を持ったカトラスだ。俺は差し出されたそれをありがたく受け取った。

本当は買い取る予定だったが、くれるというなら貰ってしまおう。

 

--

 

ロキシーのところに寄り道したために予定より少し遅れたが、エリスの誕生日の2週間前に到着したときに話を進める。

戻って来てから2日は体調を崩して休み、それから俺は不安を残しつつも立ち直った。エリスの誕生日まで残り10日強。俺はヒルダとの約束を果たすべく朝の朝食が終わって自習の時間に入ろうとしているエリスに声をかけた。

 

「エリス、ダンスの練習は上手くいってる?」

 

「な、何よ。ダンスくらい踊れるわ」

 

「へぇ」

 

俺は返事をするときのエリスの目が泳いだのを見逃さなかったので、あからさまに信じていない表情をつくり、相槌を打つ。

 

「……もうっ、ステップはなんとか踏めるのよ。上手くはないけども」

 

「凄いじゃないか」

 

「な、なにが凄いのよ。苦手だって判ってるからあれこれ考えたんだけど、どうしてもね」

 

ステップを自力で踏めると言っても程度があるから素直に感心するのも危ういが、もし言葉のままだとすれば凄いことだ。話を聞いてから俺はダンスの授業を見ることにした。

礼儀作法の先生をしているエドナに断りをいれて授業に同席すると、エドナの手拍子と掛け声に合わせてパートナー無しのエリスは辛うじてステップを踏む。

 

「早すぎます」

「遅すぎます」

「ズレています」

 

エドナが言うのはそれだけだ。言われたことに即座に対応して修正しようとするのだが、場当たり的に対処するため結果バラバラになっているように見える。エドナの言葉が足りないため、どこがどのようにかはエリスが自分で考える。でも自分で踊りながらでは分析するのが難しいだろう。

出来はと言うと、俺から見たらまぁ惜しい。まったく踊れなかった前世に比べたら後1歩。1人でここまでくるとはエリスの思考力は出会った頃とは見違えるように進歩している。ワガママリズムを自力で抑えたところを見て、俺は感動を覚えた。だがこれでパーティに出ても大恥をかいてしまうのは変わらないだろう。

結局、俺は前世と同じ方法 ―剣神流のフェイントの訓練方法― で対応した。

 

そして前世と同じく最初のダンスパートナーは俺が担い、エリスの誕生日パーティは上手くいった。

少し違ったところと言えば、エリスの礼儀作法が素晴らしかったので前評判で色々聞いていた貴族達はサウロスや両親に「お嬢様は以前と変わられましたね」とか、「初めてお会いしましたが、お噂とは随分違う印象を受けました」なんて言葉が飛び交っていた。サウロス達も取り入ろうとする中級貴族や下級貴族の世辞なんて相手にしないが、それが本気の評価だと判ると相当気を良くしていた。

俺の記憶では前世でもエリスに大きな失敗はなかった。だが貴族視点で見ればぎりぎり及第点だったという事だろう。それが現世では満足いくレベルの評価を得たということだ。どんどん綺麗になるエリスは今後、社交界で生きていくかもしれないな。

 

そして前世と同じ流れで2次会が始まった。今回も俺、エリス、ギレーヌの3人だ。乾杯をして、2人が食事をするのをぼんやりと眺める。

 

「ルディは食べないの?」

 

「うん。パーティ中に先に少し食べたから」

 

「そう」

 

「まてルディ。なぜ嘘をつく」

 

ギレーヌ、見ていたのか。そういえば前世でも唾を垂らしながら警備していたんだったな。今の今まで忘れていた。

 

「え?」

 

「すみません。まだ調子が良くなくて食欲がないのです」

 

「大丈夫なの?」

 

「お願いだよエリス。今日は君の誕生日なんだから俺の心配なんてしないでくれ。

……そうだ!俺もプレゼントを用意してきたから受け取ってくれよ」

 

そう言って俺は誤魔化すように80cmくらいの木箱を差し出した。

 

「開けても良い?」

 

「どうぞ」

 

「うわぁ!ちょっと短めだけどしっかりしていて良いわね!」

 

彼女は開けた箱から剣を取り出して持つと、剣の感想を言いながら目を細めている。

 

「ギレーヌが持っている剣と恐らく同じ製作者のものなんだ。探してくるのに苦労したから大事に使ってね」

 

「わかったわ!ルディ、ありがとう!」

 

剣を箱に戻したエリスが喜びの余り抱きしめてくる。柔らかい。でも抱き返すことができない。

 

「喜んでくれて嬉しいよ」

 

ギレーヌはエリスの箱の中の剣をじっと見ながら酒を飲んでいたが、余計なことは何も言わなかった。ただ、めでたい日だとかなんとか理由を付けられて酒に付き合わされた。その後、ギレーヌからも魔除けの指輪を貰ったエリスは上機嫌で眠りについた。俺のベッドで。

俺が1人で2次会の片付けをしている間もギレーヌは黙って部屋に居座り、酒の残りを飲んでいたが、その視線は何かを言いたげであった。

俺が片付けを終え、それを待っていたかのようにギレーヌが立ち上がる。

 

「ルディ、少し廊下へ」

 

ギレーヌと共に俺は黙って廊下へと出た。

 

「何でしょう?」

 

「あの剣だが」

 

「ああ、無銘なのでカジャクトから作った魔剣ではありませんよ」

 

「知っていたんだな」

 

「平宗のことですか?」

 

「そうだ」

 

「これでも魔法剣士の端くれですから」

 

「そうか。それと体調のほうだが」

 

「精神的なものです」

 

「相談してくれないのか」

 

「ギレーヌを巻き込みたくありません」

 

「そうか信用してくれないのか」

 

「そんな言い方……」

 

「パウロには相談できているのか?」

 

「父も巻き込めません」

 

ギレーヌの深く溜息をつく音が耳に響いた。

 

「最近のお前はエリスといると辛そうにみえる」

 

「そんなわけありません」

 

「目を背けながら言われてもな」

 

この前は水神から必要以上に堂々とするなと言われたのだが。

 

「ギレーヌ。子供だからと心配してくれるのでしたら、僕はあなたに模擬戦で勝った格上です。余計な口出しは無用です」

 

「前はそうだったが、今やお前が子供でなくても心配するレベルだ。お前が獣族の理屈を口にするのがその証拠だぞ」

 

「……それでも理由を話すことはできません」

 

「おまえこのままだと死ぬぞ」

 

「死ぬことはありませんよ。身体は元気です」

 

「身体は元気でもお前は死ぬ」

 

「意味が分かりません」

 

「どうしたらいい」

 

彼女の目は迷いなく本気だった。

 

「ありがとう。ギレーヌ。本気で心配してくれるのですね……。でもどうしようもないのです」

 

「お前だけで無理でも誰かが救ってくれるかもしれないぞ」

 

時間のせいか酒のせいか頭が回らなくなってきた。どうしたら納得してくれる。俺が黙ってあれこれ考えていると

 

「嘘をつこうとしているならもういい」

 

まだ嘘を言っていないのに。話を切り上げたギレーヌは酒瓶を持って自室へと帰って行った。酔いのせいで余計なことを話してしまった。なぜ解毒魔術を使っておかなかったのか。ただ少しだけ話せてよかったと思っている自分もいる。限界がきて思考はそこまでになった。部屋に戻るとベッドに先客がいたので机に突っ伏して寝た。その日は魔力を使い切らずに寝てしまった。

 

--

 

ギレーヌに気付かれ始めている。俺の心が耐えられそうにないこともある。俺はもうサウロス邸に居ることができないと判断した。

長い間、占拠していた客間を綺麗に掃除して荷物は全部ルード商店ロア本店経由でブエナ地下室へ持って行く。

手早く済ませると、サウロスとフィリップそれにヒルダに会いに行き、「災厄の予兆が来たら帰ってきます」と告げた。エリスとギレーヌは今日もまた冒険者活動で朝食後から居なかった。きっとギレーヌが気を利かせてエリスを遠ざけてくれたんだろう。しばらく会うつもりがなかったので、エリスとギレーヌ宛にそれぞれ手紙を書いてアルフォンスに渡しておく。次に会うときには心の整理がついていますように。そう願いながら振り返らずに屋敷を出た。

 

--

 

さて、俺は家に帰ることもできたがもう少し心が落ち着いてからにしようと思った。妹達に会いたいという気持ちもあるが、両親たちやシルフィに会ってどんな顔すれば良いのだろうか。たまに帰ってくるだけの息子ならいなくても一緒なんじゃないか。

そんなことはない、いやないと思いたい。シルフィは寂しいといってくれるかもしれないが、その彼女を裏切っていることを知ったらその気持ちも失せるだろう。それが怖かった。

親孝行を沢山しようと思っていたのに、その息子が苦しんでいたら余計なお世話になるんだろう。パウロなら「お前はまず自分のことをなんとかしろ」って言う気がする。当初の予定は瓦解しつつある。これまでが上手く行き過ぎていた。切り替えよう。

そんな気持ちからルード商店アルス南支店に暮らし始めた。タルハンド捜索依頼を出してからもう半年以上が経つ。今までも週1回、アルスの冒険者ギルドに状況を確認しに行っていたんだ。アルスを活動拠点にしたって何もおかしいことはない。そんな俺に吉報が入ったのは住み始めて1か月が経過した頃だった。

 

「お主か儂を呼んだのは」

 

「こんにちは、そして初めまして。タルハンドさん」

 

「おまえのような子供が大金はたいてまで儂に何の用じゃ」

 

「僕の名前はルーデウス・グレイラット」

 

「あぁ依頼主の名前だから知っておる」

 

「父の名はパウロ・グレイラット。母の名はゼニス・グレイラットです」

 

「なんじゃと!?」

 

「お気持ちは分かりますが、2人とも元気ですのでそのうち田舎から連れてきますよ。それで、早速ですが鍛冶工房の工房長をお願いしたいのです」

 

「儂は炭鉱族じゃが、冒険者であって鍛冶屋じゃないわい」

 

「まぁまぁそう言わずに、これを見てください。ルード鋼というものです」

 

「見たことも聞いたこともない石じゃのぅ。触ってもいいかの?」

 

「ご興味があるならどうぞ」

 

「ふむ」

 

タルハンドがルード鋼をしげしげとみている横で状況を説明する。

 

「アルスで一番の鍛冶屋でも加工ができず、王国騎士団にいる雷鳴のバムという方も加工しようと研究中です。ただ恐らく彼には加工はできません」

 

「雷鳴のバム、あやつでも無理だというのか」

 

「ええ、ですが魔術師のあなたならそれができます。それに長年の冒険者で武器や防具の目も肥えているでしょう?鍛造の腕は沢山つくれば良いものができるようになると思っています」

 

「そういうことか。良いだろう鍛冶場はどこじゃ」

 

俺はタルハンドとともに王宮の軍務省に行き、鍛冶場を1つ使わせて欲しいと頼んだ。すると、空いている鍛冶場を暫く貸してくれることになった。タルハンドがルード鋼を加工できれば専用の鍛冶場を与えられるそうだ。

 

タルハンドとともに間借りすることになった鍛冶場に行く。俺は鍛冶場を確認した。設備は整っているが何の変哲もない普通の鍛冶場だ。これでは作業に支障が出る。

 

「ここの設備では作れませんね」

 

「世界一の王室が用意する鍛冶場だが、それでもか」

 

「ええ、ここの炉や設備ではルード鋼の加工に必要な熱量で壊れてしまいます」

 

「どうする」

 

「炉の設計図を引けますか?難しければ見様見真似で僕が作ります」

 

「儂が剣を打つことを前提にした専用の炉を造ってくれるということか」

 

「まぁそうなりますね」

 

「良いじゃろう」

 

タルハンドが設計図を引く間に焼き入れ用の器や鍛造するための金床(かなどこ)、それにハンマーの金物部分をルード鋼から削り出し自作する。それが終わるとレンガ造りに着手。まず既存の炉の中に台をつくる。次に泥をレンガの形にしたものを置いていく。泥は土魔術で作ったものだ。それを火魔術で熱し、焼き入れる。やり方が悪いのかいくつかは失敗したが、出来の良さそうなのだけを選んだ。レンガ造りはタルハンドの作業の完了まで続けた。

 

「器用なことをやっておるな、無詠唱なのか?」

 

「ええ。そちらも出来たみたいですね」

 

そこから設計図を見てタルハンドと内容を議論し、既存の炉を壊してから設計図に合わせて新しくレンガを組んだ。隙間に泥を注入してから乾燥させてくっ付けて行く。結局、火入れして炉が正常に動くか確認するまで10日かかった。

そしてブエナ地下室から持ってきたルード鋼を搬入する。俺の目論見通り、タルハンドはルード鋼を加工できた。あとはタルハンドの武器製作能力が高くなっていけば王室に納品するレベルになるだろう。

タルハンドに工房を任せつつ、軍務省に行き、補給部第三課課長のケルーマンに会う。そして彼に予定通りにルード鋼が加工できたと報告すると、1本完成したら見本で持ってきて欲しいと言われた。水神レイダに使わせて使い勝手を確認するらしい。妥当な話だ。また、借り受けた工房ではルード鋼の加工に耐えられなかったので勝手に改造したと伝えると、ならそのまま専用の鍛冶場として使うように命じられた。

報告を終わらせた俺はタルハンドと報酬の交渉、武器造りに必要な素材の協議、製造工程に関する秘密保持契約の締結を行った。また剣の仕様については、長さを王国騎士団の標準的な武装に合わせること、強度、重量バランスについては騎士団側の意向に合わせること、柄と鞘については王国騎士団からもらい受けることを条件とした。

それから工房の人員について、タルハンドはある程度一端(いっぱし)の刀剣が出来るまでは1人で作業をすると請け負った。俺は了解するとともに、もし追加の人員がいるときは新たに秘密保持契約が必要なので知らせて欲しいとお願いした。

 

--

 

それからしばらくしてルード剣の1本が完成すると、俺とタルハンドは鍛冶場で祝杯を上げた。やはり炭鉱族と言えば酒だろう。俺はミルボッツ領から入手したワインをタルハンドに振る舞い、俺も勧められて酒を飲む。

 

「小さいのにイける口じゃのぉ」

 

「あんまり飲んだらだめなんですよう?子供は脳細胞が壊れてはいけないんです……。好きな女が2人いたらどうすればいいんですか」

 

俺は酔った勢いで聞いてみた。こういうことならタルハンドに相談しても問題ないだろう。

 

「儂は男しか好かん」

 

「そういえば父の話でもそんな人だとは聞いてました」

 

作業台に突っ伏して俺は受け応えする。

 

「真面目に答えるならばじゃ。お前がミリス教徒ならどちらかを選ぶ必要がある。違うなら2人とよく相談することじゃな」

 

「そんなことどうやって切り出せば……良いんですか」

 

「なるべく早くが良いと思うがの。肉体関係を結んだ後で説明しても相手は納得せんだろうからな」

 

「そうでしょうか。そういう関係になる前なら諦めがついてどちらかが身を引くのではないですか?」

 

「なぜじゃ?まぁ男と女の理屈も違うみたいじゃからのぅ。

ふぅむ。そういうのに詳しいというとエリナリーゼかのぅ」

 

あれ……通じなかった。まぁいいか。エリナリーゼさんか、今どこにいるんだろうか。

そこからは完全に意識がない。タルハンドは良い飲みっぷりなだけでなく飲ませ方も上手い。8歳の子供を酔いつぶすとはなんという不良中年だ。

 

ようやくルード剣による資金調達が始まった。思えば5歳のときにルード鋼を行商人に渡してから3年弱が経過している。ここまでの道のりの長さに見合う成果が出ることを願って俺は次の商売の計画に移った。

 

 




次回予告
出店計画はいよいよ北方へ。
金策のために訪れた魔法大学で待つ
予想を超えた人物との出会いは
果たして何を意味するか。

次回『魔術予想と影の犬』
零れ落ちた歴史の1ページ。


ルーデウスほぼ8歳時

持ち物:
 ・日記帳
 ・着替え3着
 ・それなりに上等な服
 ・パウロからもらった剣
 ・ゼニスからもらった地図
 ・ミグルド族のお守り
 ・魔力結晶×7
 ・魔力付与品(マジックアイテム)
  短剣(未鑑定)
 ・神獣の石板
  スパルナ
  フェンリル
  バルバトス
  ガルーダ  (New)
  ダイコク
  エビス
  フクロクジュ
  ジュロウジン
 ・ルード鋼100個 (放置していたので地下室へ移動)
 ・商い行為許可証inフィットア領×3
 ・商い行為許可証inアスラ王領
 ・アルマンフィ人形:Ver.立ち姿
 ・ラトレイア家人形
 ・ミグルド族秘伝の香辛料×2袋 (New)
 ・ハリスコのカトラス (エリスの10歳の誕生日祝い)

ブエナ地下室
 ・復興資金:44661枚 (+16260)

★副題はゲーム『ガンダム外伝1 戦慄のブルー』の戦績表示画面のナレーションからインスパイアされています。

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