無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。

尚、今後は完全に新規の時間軸のためオリジナルイベントが多発します。
ご了承ください。


第2章_2週目_幼年期編
第011話_もしかして死後の世界!


---地獄だろうと天国だろうと暇なときを有効に使う---

 

いつか見た夢だと死ぬ前にヒトガミに会うはずだったんだが……ここは無の世界っぽくもない。俺がなんとなく覚えている夢は結構な割合で現実の予兆となっていた。まぁ最後の最後に外れることだってあろう。むしろ俺らしいかな。

それはそれとして身体が動かない……これはもしや俺はもう目も開けないし、身体も動かせないんだけどまだ生きてるのかもしれない。それとも死んだのかもしれない。もし生きていたとしてもしばらくしたら死ぬだろう。そのときは苦しいだろうか。できれば、眠るように死なせて欲しい。意識が薄れてきた……眠い……

 

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……また意識が戻ってくる。事態は判然としなかった。俺は死んだのか、それともまだ死んでいないのか。無駄に身体を鍛えたからこういうとき頑丈なのかもしれないとしたらまだ死んでいないということになる。実は死んでいて、こうだとしたらこれが一生続くのだろうか。

この世界は完全な無音ではない。遥か遠くの方で音が聞こえる。太鼓の中から音を聞くような、水風船を耳につけて音をきくような、そんな感じだ。水風船、そういえば祭りのときに弟が落として泣いたから俺のをあげたことがあったな。あの時のあいつはあんなに可愛らしかったのに、俺が引きこもってる間に随分と嫌な進化をしていた。

もう死んだのか、それとも死ぬ直前なんだ、もっと楽しかった思い出を思い出そう。そうそう小学生の頃にいったお祭り楽しかったな。まだあの頃は外に出ることに忌避感がなくて、姉貴も中学生で弟と俺の面倒みてくれてさ。あの時に食べた焼きそばの味がうまかったことは覚えてるんだけど、どんな味だったか思い出せない。異世界にきてから、たこ焼きのためにソースを再現したし、うどんだって作った。なら作れたはずだったな。なぜ作らなかったのか。いやもう最後に焼きそば食べたの何年前になるんだ?ざっと100年前か、そりゃ思い出せんわ。むしろ爺さんになってから何食べてたかも思い出せん。こういう時って小さい時に食べた物を思い出すんだな。運動会のときに母親が弁当にいれてくれた甘い卵焼きとかさ。ゼニスが作ってくれた豆のスープとかさ。あぁ俺は人生2周したからこういうときに思い出す母の味って2パターンあるんだな。意識が薄れてきた……ようやくか。

 

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おいおい、鍛えすぎたか?鍛えすぎたんだろう。この身体は3歳のときから剣術の訓練を始めたからな。俺はまだ死んでいないらしい。この前まではもう死んだ後だという可能性もあると感じていたが、自分の身体から僅かに魔力を感じるんだ。死体にも魔力は宿るらしいんだが、まぁそこは良いだろう。これはまだきっと生きてるってことだろう。ただし、身体から感じる魔力がやけに少ない。死ぬ直前って魔力量が減るのかな。どういう理屈なんだろう。

理屈はまぁいい。俺はもう死ぬ。しかしこの感じ、ブエナ村で初めて水弾だしたときより頼りない。己のコスモを感じることもできず、身体も一切動かせない。シ〇カに五感を奪われたイ〇キ兄さんもこんな感じなのだろうか。これなら闘気の訓練ができるんじゃないだろうか。いやいや身体も動かせんのにそんな訓練やる意味がないだろ。また……眠さに抗えない。

 

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まだ生きてる。オルステッドに殺されかけて足が震えていた時、俺はまだ生きてるって喜んだものだが。なんか違うな。まだ死ねてない。そっちのがしっくりくる。

この温水の中にいるような浮遊感が原因なんだろうか、何等かの延命措置をされてる可能性がある。風呂で眠るような危うさと心地よさが同居している。また眠く……

 

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もう何十回眠っただろうか。何百回眠っただろうか。いつまでたっても俺は死ねない。この闇の中でやることが無い。ただ、居心地の良さを感じていた。完全に無音でもない暗闇の世界。水の中に居るせいで鼻は利かない。ずっと何も食べていないせいで味覚がどうなったかはよくわからない。身体の表面触覚は僅かだが残っている。

 

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もうヤケになって闘気の練習を始めた。極稀に、遠くで何かが擦れる音がする。そういうときは決まってクジラの鳴き声みたいな音もする。まぁいい。身体の中の魔力を感じよう。この希薄な魔力を。

死ぬまでの暇つぶしで不思議なことが判る。俺の魔力が巡っている範囲がとんでもなく狭い。これまででの感覚で言えば、頭と首、それくらいだ。もう他の部位は俺の身体ですらないのか。

 

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ここは生き地獄だ。先に死んだ父さんや母さんリーリャさん、エリス、友人たち、ギース、死後の世界で会えたら良かったのにな。たった一人で、ずっと生き続けるのかもしれない。俺は人生の中で独りぼっちを感じたことがある。引きこもり時代、家から放り出された町の中、エリスに置いて行かれた時、これが4回目か。

そうか、俺は二回も人生を経験して死んだから、誰もいない二回死んだ人用の地獄にいるのか。それはありえる。またどこかの次元で誰かが人生を二回経験すれば俺の所にきてくれるかもしれない。でも、それはきっと俺の知らない人だ。仲良くなれるだろうか。ずっと待っていたら俺のところにロキシーやシルフィだけでも来ないかな。独りは寂しいんだ。でも彼女たちも先に逝った父さん、母さんに会いたいだろう。俺の意見だけをもって、彼女たちをがっかりさせたくない。でもそういう意味でいえば、パウロやゼニスは俺のことを待ち続けるかもしれない。死んでまで親不孝とは俺も業が深い。

 

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最近、俺は錬気ができるようになってきた。もしかして俺もここにきて闘気を纏えるようになるのか?いや……いくらなんでも遅すぎるだろ。まぁ問題もある。できるのは頭と首がある辺りくらいだ。手足の辺りの感覚は完全になく、上手く行かない。頭と首を闘気で守るのは無駄じゃぁない。だが剣士の動きができないってのは俺がやりたかったこととは少し違うな。まぁいいか、どうせ暇つぶしだ。

 

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この無限地獄が狭く感じるようになってきた。遠くで聞こえていた音もなんとなく近くなっている気がする。オフタイマーをつけ忘れてTVが砂嵐になったみたいだ。そういえば砂嵐ってデジタル化してからなくなったんだっけ。

砂嵐の話は良いとして、もしかしてこの世界がだんだん小さくなっているんじゃないだろうか。嫌な考えがよぎる。もしこの世界が俺の身体より小さくなろうとしたら……俺は眠るように死にたいのに、そんな残虐な方法は止めてくれ。

余りの恐ろしさに俺は動かない身体を身じろぎさせた。するといままで動かなかった足が少し動いて世界の境界にぶつかった。ぶつかった後、外側からも何かを擦るような音がきこえる。そしてクジラの鳴き声のようなものも。

 

僥倖!これは僥倖!

足が動くぞ!

 

少し冷静になるとおかしいことに気づいた。頭と首くらいの範囲に俺の足がある。どうなってんだ。つまり、そうつまり胴体がすごく小さい。足は動かせるようだが、世界は次第に小さくなっている。その内に狭すぎて動かせなくなる気がする。

しかしこの事態を俺はどうしようもできなかった。結局俺は、何の対処も出来ず、ひたすら錬気と纏気の訓練をし続けた。

 

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起きている時間も眠っている時間も本当にわずかな時間だ。一日の内に一回寝るという感じではないのでもう千数百回、意識の覚醒と昏睡を繰り返していたと思う。もうこの世界にも慣れたなと考えてきたとき、事態は急変した。

 

この小さな世界で俺の頭が何か両脇から万力で嵌められたように動かなくなったのだ。ここにきて俺はようやく悟った。俺はもう死んでいてここが死後の世界だってことに、無限地獄で試されても俺は精神崩壊せず、閻魔様がついに痺れを切らしたんだと。そう、これからは痛みで俺を懺悔させようとしてくるはずだ。世界が小さくなったのもその前兆だった。頭が動かなくなってから、定期的に世界が収縮するのだ。ぎゅうぎゅうと押し出されて頭が世界の外側の方へとめり込んでいく。しかし、世界が元の大きさに戻ろうとすると俺はまた元の鞘へと帰っていく。泣きそうだった。こんな苦しみがあるのか。

またきた。ギリギリギリ……だんだん間隔が短くなる。そして頭だけでなく身体も外の世界に出て行く。地獄の世界の外は狭いトンネルに繋がっていた。でも俺の身体より小さい。そのトンネルすらも収縮して俺を押し出していく。苦しい……これがずっと続くなら俺は間違いなく発狂できる。よかったな閻魔様、あんたの思惑通りだ。

 

新しい地獄に来て30分か1時間か……もう発狂寸前だった。諦めた。俺はここにきて諦めた。前の人生ではシルフィやロキシーやエリスや子供たちがいたから頑張れた。でもここにはもう居ないんだ。頑張れない。耐えられない。

 

助けて、おかぁちゃん……

あああああああああああああ……

 

あ?急に痛みが引いた。世界は広くなり、瞼は未だに開かないが世界に光を感じる。もしかしたら天国?

泣いた。

声が出た。もうダメだと思ってたから、心が折れる瞬間だったから、助かった助かった助かった。神は俺をまだ見離していなかった。そう思ってる間にも何かにべたべた触られてそして何かに包まれた。

もう寝よう。またどうせ俺は目覚める。ようやく天国へ辿り着いた俺はここで機械の体を手に入れてネジになったって文句は言わない。

 

地獄は腹が減らなかったが、天国に来ると腹が減った。これは泣くことで解決した。ただ大きく泣かなくてもよかった。すこしグズれば樹液のようなものを吸う場所に連れていかれた。万力地獄に行く少し前から身体が自由に動く感覚がある。ただ長い間、同じ態勢だったせいか腹筋や首回りの筋肉が退化し起き上がることも寝がえりを打つこともできない。筋肉は天国でも必要なようである。

筋肉の退化の一番の影響は、排泄がままならないということだ。食事をするようになったので便意があるんだが、トイレに行く力を持っていないのだ。だからどうするわけにも行かず垂れ流しになった。垂れ流すと不快感がますのでまた泣く必要があった。

 

しばらくはそんなことを繰り返すのに神経を使ったが、二、三日で慣れた。ここは天国なんだ。さっさと適応した方が勝ちだ。そう思うとまた手持無沙汰になり、闘気の訓練をする羽目になった。既に纏気ができるようになっている。俺は筋肉が戻ったら天国の剣士になるぞ。

 

 




ね、念願の闘気を手に入れたぞ!

そう、よかったね。

次回予告
万力地獄から押し出され、訪れる光の世界。
死んだはずの両親、家政婦、幼い自分、消えたはずの村。
案内人不在の中、計画されるブラックオプス。

次回『隠密作戦』
私の、私による、私だけの自力救済作戦が今、幕を開ける。

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