俺の彼女は幼馴染で婚約者 作:トッポの人
放課後のアリーナ。銃の断続的な轟音と共に何とも気の抜けた声が聞こえてくる。発生源は俺の双子の兄の冬夜からだった。
「んー……」
部活があるからと箒と別れたのでこっちに誘ってみたが、さっきから何か考えているらしくずっとあんな調子だ。でも左右のハンドガンから音が止むことはない。
ブローディアに搭載されてるハンドガンはリロードの必要がないって話だ。二丁のハンドガンのマガジンは量子格納領域と直接繋がっているらしく、撃った先からどんどんリロードされていく。だから量子格納領域にある弾が切れるまでは延々と撃っていられるらしい。
三つ巴の戦いが終わったあとで千冬姉からそう教えてもらったけど、何それずるくね? と思ったもんだ。
それとその時にハンドガンのことを百万発入りのコスモガンとか言ってて、分からなかったらやたら寂しそうにそうかって呟いてたな。
「おーい、冬夜ー」
「んー? んー……」
ダメだ。完全に心ここにあらずって感じだ。呼び掛けても微妙な反応が返ってくるだけでこっちを見向きもしない。
箒と再会してから一週間、ベッタリだったからちょっとの間とはいえ離れて寂しいと思ってるのかも。今も箒の前では見せないような気の抜けた顔をしている。
「一夏さん、どうされたんですか?」
「いや、冬夜がさ」
「ああ……」
今日仲良くなったばっかりだけど、一緒に冬夜と戦ったこともあるからか直ぐに打ち解けられた。
物凄く理詰めで分かりにくいけど、ISについて真剣に教えてくれるし大助かりだ。
「それにしても幾らわたくしの援護があったとはいえ、よく冬夜さんに勝てたと思いますわ」
俺達と戦う前にあれだけ自信があったセシリアがそういうのも無理もなかった。
俺達の視線の先、冬夜は地面に向かって両手の銃を乱射している。最初に地面に撃ち込んだ弾丸目掛けて撃ちまくっている。すると跳ね返った弾丸が空中に投げた空き缶を掠めて、ずっとお手玉のようになっていた。
かれこれ一時間はやっているが、その間ずっと空き缶は空中で弾かれてあっちへふらふら、こっちへふらふら。一度も地面に触れていない。
「ああ、もうやりたくねぇな」
俺が戦った時はとある事情により片手しかハンドガンを持ってなかったけど、本当ならあれが両手から放たれてくるんだもんな。しかも地面だけじゃなく、アリーナのシールドや壁すらも利用して。嫌にもなる。
「あら、正直ですこと」
「セシリアだって嫌だろ?」
「正面にいるのに背後から攻撃されるなんて不可解な現象を起こされたら嫌にもなりますわ」
被害者は語る。二人とも正面にいるのに背後から攻撃を受けたと。勿論、直ぐに振り返っても誰もいない。
はい、犯人は目の前で銃撃ってるやつです。聞いたら正直に白状しました。跳ね返った弾に弾を当てて、無理矢理軌道を変えたらしいです。
……いや、どういうことだよ。なんだよそれ。そんなの聞いたこともねぇよ。
「冬夜さんがISに慣れてなくて本当に助かりましたわ……」
そんな冬夜の敗因は俺達を敵に回したこともそうだけど、何より冬夜がISを動かすのに慣れていないのが一番の理由だったと思う。
思うように動けなかったみたいで、その隙を二人で突いた感じだ。ISを動かすのに関しては俺の方が上手かったらしい。
「千冬姉も凄いけど、冬夜も大概だな。はぁ、全く嫌になるな……」
「……そうですか? わたくしは一夏さんも充分恐ろしいと思いましてよ?」
「ははっ、お世辞でもありがとな」
代表候補生にそう言ってもらえたなら気休めになるかな。
「……ん、よしっ!」
考えが纏まったらしく、その掛け声と共に冬夜は右手のハンドガンを空き缶へ向けて直接撃った。
その一射で手元に引き寄せると、空き缶を持って冬夜はこちらへ歩み寄ってくる。
「一夏、近い内に部屋に行ってもいいかな?」
「へ? ああ、いいんじゃないか? 千冬姉も拒みはしないだろ」
ずっと考えてたと思ったらそれかよ。身構えて損した。でも何で今日じゃないんだろ? 別に来るなら今日でも……。何か嫌な予感がする。
「今日じゃなくていいのですか?」
「うん、さすがにいきなりはどうかなって思うから」
代わりに質問したセシリアのおかげで嫌な予感が徐々に強くなっていく。
昔からこいつは結構突拍子もないことをしてきた。多分一番の被害者は箒なんだろうけど、俺も負けてはいないと思ってる。
「……ちなみに用件はなんだ?」
「ん? 箒とお付き合いしてるよって報告をしようと思って」
「それお前だけじゃないよな?」
「勿論、箒も一緒だよ?」
「お前っ、それは俺だけじゃなくて千冬姉に聞け!」
「うん、そうだね。あとで聞いてみよう」
こいつ、のほほんととんでもないこと考えてやがった……!
いや、冬夜が箒と付き合ってるなんて、最早千冬姉どころか学園中に知れ渡ってるけど、多分それだけじゃない。
これはちゃんとこっちも用意しないとダメだな……。何にせよ、今日の夜に千冬姉に相談しよう。
「姉さん、ちょっといい?」
「何だ、ここではダメな話か」
「プライベートなことだからね」
「ほう……? まぁいい、ならついでに一服付き合え」
お誘いの練習も終えて、帰る前に姉さんのいる職員室に寄って件の話をするべく外へ連れ出した。
ちなみに一服とは言ったけど姉さんはタバコを吸わない。休もうという意味合いだ。
自販機の前に着くと小銭を入れて、ボタンを押さずにそのまま俺に譲るように手を広げた。
「織斑兄、何が飲みたい? 好きなものを選べ」
「え、大丈夫だよ。それくらい俺も買えるって」
「馬鹿者。こういう時は素直に受け取っておくものだ。謙遜も度が過ぎれば歳上に恥をかかせるだけなんだぞ」
うぅん、そんなものなのか。大変失礼なことをしてしまった。
「すみません。ありがたく頂きます」
「ん、それでいい」
俺がジュースを選んで礼を言うと、姉さんは満足そうに頷いて自身も缶コーヒーを買った。
買ったものを片手に校庭のベンチへ。乱暴にベンチに座る姉さんの横に俺も座る。缶コーヒーを開けると一口。
「ふぅ、本当ならビールが飲みたいところなんだがな。ああ、今日のつまみは何を作らせようか」
まだ日が沈む前なのに、もう夜の話を楽しそうにしている姉さんに苦笑いしてしまう。相変わらずのダメっぷりが垣間見えてしまう一言だった。
でもこれまで俺達を支えてきてくれた大黒柱なんだからそれでもいいかなと思えてしまう。
「それで? 話ってなんだ?」
「ああ、えっとね……」
「箒と付き合ってることか? そんなの今更だぞ。むしろ遅いくらいだ。はっはっはっ」
多分ここに通ってる生徒達には見せないような、普段の厳しい表情を崩して姉さんは豪快に笑う。そしてまた一口コーヒーを飲んだ。
ありゃりゃ。やっぱり知られてたか。まぁ隠すつもりもなかったんだけどね。
「そんな今更なんだけど、改めて箒と一緒に報告しようかと思って」
「ンゴフ!?」
「うわっ!?」
変な声と一緒に姉さんの口からコーヒーが吹き出した。あれ? 知ってたんじゃないの?
「ゴホッ、ガフッ!!」
「ね、姉さん、どうしたの?」
「はー……はー……お前……箒と一緒にどう報告するつもりだ……?」
何度かむせると荒い息をつきながらも落ち着いたようで涙目で睨んでくる。一夏もそうだったけど、何か凄く警戒されてるなぁ。
「え、結婚を前提にお付き合いしてますって言うつもりだけど」
「お、お前は! ちゃんと全部説明する癖をつけろといつも言っているだろう!?」
「ご、ごめんなさい」
「全く……! こののんびりした雰囲気といい、誰に似たんだ……!」
いや、本当に誰に似たんだろう? 考えたこともなかった。姉さんはそんな感じじゃないしね。一夏は……俺と姉さんを足して二で割ったような感じだし。
「来るのはいいが、来週の土日にしろ。いいな?」
「ん? 今週じゃなくて?」
「こっちにも家の準備や私の心の準備があるんだ!」
「は、はい」
姉さんの部屋で済ませる予定が自然と俺達の家でやることになった。さすがにここで部屋でやろうよと言うほど馬鹿じゃない。
その後もああしろ、こうしろとありがたい助言を受けて部屋に着いたのは日が暮れた頃。
事前に箒から先に部屋に帰っててくれと言われてしょんぼり一人で帰ると部屋から凄く良い匂いが。近くに住んでる人達も香る良い匂いに鼻を忙しなくしていた。
「――――♪ あっ」
匂いに釣られて部屋の扉を開けるとそこには鼻歌混じりに料理を作っていた俺のお嫁さん。
振り向いて俺が帰って来たことに気付くとパタパタと走ってくる。
「おかえり、冬夜」
「ただいま。急にどうしたの?」
一応言っておくと、俺は今日の夕飯は箒が作るなんて聞いていない。いつも通り、二人で食堂に行こうと思っていたから当然の疑問だ。
「ふふん、こう見えて私も女だ。料理の一つや二つ出来て当然だろう」
「おー。でも箒が女の子だっていうのは誰よりも俺が良く知ってるよ?」
「う、うるさいっ! そんな誤解されるようなことをさらっと言うな!」
両手を腰に当てて得意気に胸を張る箒に拍手するけど、聞き捨てならないことが聞こえたので直ぐに進言。直ぐに顔真っ赤にされて却下された。何か今日は怒られてばっかりな気がする。
「……誤解って何?」
「あ、いや……な、何でもない……」
「???」
それよりも誤解って何のことか気になって問い掛けても、モゴモゴと答えてくれない。
うぅん、何のことか良く分からないけど……。
「箒」
「な、何だ。さっきのについてなら答えないぞ」
「俺は箒と一緒なら誤解されてもいいよ」
「と、冬夜……」
そう言うとこっちへ更に近寄ろうとする。俺もそれを受け入れようと腕を伸ばしたところで異変に気が付いた。
「箒、吹き零れてる!」
「え……? うわぁ!?」
二人して慌てて火の元へ駆け寄り、鎮火。大事には至らずにすんだようだ。
「ひ、火を扱ってる時は気を付けないとね」
「そ、そうだな……はぁ」
はぁー……ドキドキした。しかも嫌なドキドキだった。箒も同じようで、軽く溜め息を吐くと顔を見合わせる。
「「ぷっ」」
お互いがっくりしたような顔が面白くて吹き出してしまった。でも今度はさっきのこともあるから直ぐに切り替える。同じへまは二度もしない。
「俺も何か手伝おうか? 一応定食屋でバイトしてたから、ある程度なら手伝えるよ」
「それならもう少しで出来るから皿の準備だけしてくれ」
「りょーかい」
俺が食器棚から皿を取り出して、出された皿から順に箒が盛り付けていく。
たったそれだけの初めての共同作業はとても楽しいものだった。箒が作った和食料理も非常に良い出来だ。食べ過ぎで太らないように気を付けないと。
「そういえば何で突然料理作ったの?」
「そ、そうすれば二人きりで過ごせるし……朝も、その……ゆっくり出来るだろう?」
このあと無茶苦茶抱っこした。