俺の彼女は幼馴染で婚約者   作:トッポの人

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第5話

 三つ巴の戦いの後、箒と帰りながら今日の試合についてずっとお説教されている。でも怒っている間も繋いだ手を離そうとしない辺りに愛されているなぁと実感していた。

 

「因果応報だ。ちゃんと最後まで正々堂々と戦えば良かったものを。背後から不意打ちなんてするからだぞ」

「そうだねぇ……」

 

 試合の結果はまず最初の脱落者が俺で、その次が一夏。つまり、勝者はオルコットさんだった。

 最初一夏と連携してオルコットさんを追い詰めてたんだけど、近接戦に持ち込んだ辺りで二人纏めて倒そうとビームを撃ったら一夏に感付かれちゃったんだよね。

 まさかオルコットさんを庇ってこっちのビームを切り払ってくるなんて思わなかったなぁ。度胸と男気はあるって分かってたけど、まさかあそこまでのを見せてくるとは……一夏恐るべし。

 

「第一、焦りすぎだ。いつものようにゆっくり、のほほんとしていれば良かっただろう」

「うん、でも早く箒のところに戻りたくて……」

「だ、だからそういう不意打ちはやめろと言っているんだ!」

「えー」

 

 正直な気持ちを伝えれば真っ赤になって咎められる。おまけにぷいっと顔を背けられてしまった。寂しい。

 確かに焦らなければ一夏と共闘したままオルコットさんは倒せたんだよね。結構良い感じだったし。そうしたら少なくとも最下位ではなかったはず。

 

「と、冬夜」

「ん? 何?」

 

 試合のことについて一人考えていると、制服の袖を引っ張られて意識を箒へと向ける。繋いだ手はそのままに、空いているもう片方の手で引っ張っていた。

 まだ赤みが取れない顔で上目遣いにこちらを伺ってくる様はかなり来るものがある。

 

「その、もっとそっちに行ってもいいか? ダメ……か?」

 

 そんな状態でこんな可愛らしいお願いをされて断れるはずがない。というか――――

 

「俺が箒のお願いを断ると思う?」

「そう、だな。ああ、そうだった……!」

 

 そう言うと嬉しそうに頬を緩ませながらこちらへ一歩ずつゆっくり近寄っていき、最終的には俺の腕を組むようにして寄り添って歩いていた。

 

「ふふっ」

 

 お願いを聞けばイチャイチャも出来るし、お嫁さんのこんなに幸せそうな笑顔が見れるんだから断るはずがないよ。釣られてこっちも幸せな気持ちにしてくれるから余計にね。

 

「あ、鍵開けてくれる?」

「少し待ってくれ」

 

 部屋の前に到着すると、腕を組んだままの状態でゴソゴソと制服のポケットを探し始める。意地でも離れたくないみたいだ。

 ちなみに俺の鍵は試合前に箒に預けてて、返して貰うのをすっかり忘れていた。

 

「ただいまー」

「おかえり冬夜」

「箒もおかえり」

「ああ、ただいま」

 

 扉を開けた先には誰もいなかったけど、ただいまと言えば横から誰よりも大切な人がおかえりと言ってくれる。そんな当たり前が俺達にはとても幸せだった。

 だからもっとそれを感じるためにも先程の反省点を生かそう。お詫びも兼ねて、ね。

 

「箒」

「ん? 何だ?」

「抱っこするよ」

「え、ちょっと……きゃあ!?」

 

 返事は待たない。扉を閉めるなり、無理矢理足を抱えてお姫様抱っこ。その体勢で部屋の中へ歩みを進める。

 

「ふ、不意打ちするなと言っただろう!?」

「うん。だから今回はちゃんと前もって言ったよ?」

「まだ私の心の準備が出来てない!」

 

 顔を真っ赤にして抗議してくる箒。うぅん、難しいなぁ。でも今度からはそこも考えてみよう。

 

「そ、それにしても何で急にこんなことを……?」

「今日はいっぱい心配させちゃったからそのお詫び」

「だからって……」

 

 試合前に今日はいっぱい抱き締めて、頭もたくさん撫でるって決めてたからね。お姫様抱っこが抱き締めるに入るかどうかは微妙なところだけど。

 

「女の子ってお姫様抱っこ好きだと思ってたんだけど違うの?」

 

 中々煮え切らない態度に思わず訊ねてしまう。お姫様抱っこって憧れとかそういうのあると思ってやったんだけど、違うのかな?

 

「……他の女のことは知らんっ」

 

 女の子と言ったところで上機嫌だったのが、一気に不機嫌へと急降下。また顔を背けてしまった。

 まぁそんなこと言いながらも、降りようとしないからそこまで不機嫌ではないと思うんだけど。

 

「ごめんごめん、俺は――――」

「で、でも……」

「ん?」

 

 変に誤解されているのは嫌なので俺は箒一筋なんだよと伝えようとしたら、まだ顔を背けたままの箒に遮られた。

 

「他の女のことは知らないが冬夜にしてもらうのは……私はす、好きだぞ……」

 

 どんな顔をしているかは分からないけど、耳も真っ赤にしているところから恥ずかしいのを我慢して言ってくれたのは分かる。それだけ俺に伝えたかったんだ。嬉しくもなる。

 

「――――そっか。ありがとう」

「う、うむ」

「俺も言いたいことあるからこっち向いてくれる?」

「わ、分かった……何だ?」

 

 漸く振り向いてくれた愛しい人の顔はやっぱり赤い。こういう時に良くある、夕暮れのせいにするのは無理なくらいだ。

 

「さっきはああ言ったけど、他の女の子が何を好きかなんて知らなくていい。俺は大好きな箒のことだけを知りたい。これから先もずっと」

「――――」

 

 また不意打ちしたって怒られるかな? でもそれでも、どうしても伝えたかった。

 箒は俺が箒のこと好きだって分かってくれてるし、俺も箒から好かれてるって分かってる。でも、だからって好きだとか愛してるを言わなくていい理由にはならない。ましてや付き合いたてだしね。

 

「……冬夜!」

「おっと」

 

 唖然としてたのも束の間、感極まった様子で首に腕を回して抱き着いてきた。突然のことでちょっと驚いたし、暫くは何も言わずこのままだったけど嬉しく思ってくれてるならいいかな。

 

 

 

――――――

 

 

 部屋に備え付けられている浴室で汗を流していると、ふと先程のことを思い出してた。冬夜が私のことだけを知りたいと言ってくれたことを。大好きだと言ってくれたことを。

 

「ふふっ……い、いかん」

 

 ダメだな、さっきからずっと頬が緩みっぱなしだ。鏡を見て、何とか表情を引き締めるも直ぐに頬が緩んでだらしないものへと変わる。

 それにしても冬夜は凄いと感心してしまう。私が顔を背けて何とか好きだと言えたのに対して、彼はいつものように笑顔で大好きだと面と向かって言ってくるのだ。

 

「私は愛されているな……」

 

 そう呟いたのは別に疑っている訳ではない。朝起きた時、昼食後、帰ってきてから、寝る前に、手を繋いで、抱き締めて、キスしてくれるのだ。疑う余地なんてないほど冬夜は私を愛してくれる。

 ただ毎日のように改めて愛されているなと思っているだけ。さっきもそうだった。

 

『大好きな箒のことだけを知りたい。これから先もずっと』

 

 そう言われて嬉しすぎて思わず抱き着いてしまった。普段の私なら恥ずかしがってしまうところだが、今回は恥ずかしさよりも嬉しさが勝ったのだ。

 好きだとか愛してるなんて昔からの使い古された言葉だと思っていた。そんな言葉で舞い上がるほど軽い女ではないとも。

 でも冬夜が口にするだけで何とも素敵な言葉になるのだ。そう感じるのは私だけかもしれないが……いや、違う。

 

「冬夜もそう感じてくれていたな……」

 

 私が冬夜を想って好きだと口にするだけで、いつもよりニコニコと笑って彼は喜んでくれる。私でもちゃんと素敵な言葉に出来ているらしい。それが何より嬉しかった。

 

「あ、おかえり」

「ただいま」

 

 浴室から出るといつも使っているベッドの上に座ってテレビを見ている彼がいた。

 隣に座ろうとするとぽんぽんと足と足の間を叩いて、そこに座るように促してくる。

 

「す、座るぞ」

「どうぞどうぞー」

 

 促されるまま座ればお腹に腕を回されて、後ろから抱き締められるようになる。私も彼に甘えて寄り掛かれば完成。

 恋人らしい体勢で私も彼も好きなのだが、私には一つだけ不満があった。後ろから抱き締められているので彼の顔が見えないのだ。抱き締められているが少し寂しい。

 

「冬夜」

「はいはい」

 

 私が名前を呼ぶと抱き締めていた腕を解いて、私の手に重ねてくれる。指と指を絡ませあえば先程まであった寂しさも多少は和らぐ。

 

「そういえばさっきも言ったけど、今日はいっぱい心配掛けたからお詫びに何でも言うこと聞くよ」

「あまり普段と変わらない気もする……」

「まぁまぁ」

 

 冬夜は基本的に私のお願いを断らない。勿論、変なお願いはダメだが。

 どうしたものかと考えていれば、何処で覚えてきたのか左手を手にとって甲に軽くキスするとこんなことを言ってきた。

 

「何なりとお申し付けください、お姫様」

「ふふっ、あまり似合ってないぞ」

「あはは。やっぱり?」

 

 やたらカッコつけた感じで言ってくるものだから笑ってしまった。冬夜自身もそう思っていたらしく、同じく笑っている。

 やはり人間慣れないことはするものではない。だが、 せっかく言ってくれたんだ。私もそれに乗ろう。

 

「ではたくさん愛してくれるか? 私の王子様」

 

 ……い、言っておいてアレだがこれは恥ずかしいな。顔が見られないのが幸いだった。冬夜も良く言おうと思ったものだと感心してしまう。

 と、考えているとまた左手の甲にキスされる。どういうことかと聞く前に冬夜が教えてくれた。

 

「お任せください、俺のお姫様」

「い、いや、今のは冗談で……」

「本当か嘘くらい分かるよ。箒限定でね」

「う、うぅ……!」

 

 恥ずかしくて顔から火が出そうだ。あんな風に言えば冗談のようになるかと思ったから言えたのに物の見事に見透かされていた。

 

「じゃあこっちに座って」

「わ、分かった」

 

 冬夜に言われてベッドの上で向き合うことに。緊張して正座する私に彼はゆっくり近付き、いつものように胸の辺りで手を繋ぐ。指と指を絡ませる恋人繋ぎだ。

 

「キスするよ?」

「う、うむ……」

 

 キスしやすいように少し上を向き、目を瞑ってひたすら待つが一向に来ない。不思議に思って目を開けると彼がじっと見ていた。

 

「ど、どうしたんだ?」

「心の準備はいいのかなって」

 

 どうやら帰ってきた時にした話をしているらしい。私が言ったから待っているんだろうが、これでは生殺しだ。ここまで来て、我慢なんて出来るはずがない。

 

「冬夜……焦らさないでくれ……」

「ご、ごめんね? じゃあ……」

「「ん……」」

 

 瞳を潤ませて切なそうな声で懇願すると珍しく焦ったように謝ってキスが始まった。

 目を瞑って、ほんの少し慣れた啄むようなキスを繰り返す。何度も、何度も。

 

「冬夜、冬夜……」

「箒……」

 

 繰り返す内に茹でるように頭の中が熱くなっていき、目の前にいる彼のことしか考えられなくなっていく。私の愛しくて愛しくて、かけがえのない大切な人。

 

 気付けばテレビなんてそっちのけだった。


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