俺の彼女は幼馴染で婚約者   作:トッポの人

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第4話

 何やかんやとありまして一週間後。

 俺と一夏に加えて、特別に箒もアリーナの控え室で待機していた。俺と一夏、そしてオルコットさんとこれから行われる三人のバトルロワイヤルのために。

 最後に勝ったのがクラス代表と非常に分かりやすいルールだった。ここまで来ればもうやることもない。あとはただその時を待つだけなんだけど……。

 

「…………」

 

 箒がベンチに座る俺と一夏の目の前を右へ左へ行ったり来たり。眉間に皺が寄り、これでもかと不機嫌さをアピール。

 三日くらい前からずっと落ち着きなかったけど、ここに来てピークになったようだ。前までは抱き締めて髪撫でれば落ち着いてたけど、もう厳しいかも。

 

「……おい、どうにかした方がいいんじゃないか?」

「そうだね」

 

 耳打ちしてくる一夏の言う通りだ。

 箒曰く、俺達はもう夫婦なのだから一人で不安を抱え込むのはやめて欲しい。

 まぁ箒曰くと言ったけど、俺もそうだと思ってるからちゃんと支え合わないとね。

 

「そんなにイライラしてどうしたの?」

「当たり前だ! 試合がもう直ぐ始まるのに、来るはずの専用機がまだ来てないではないか!」

 

 立ち上がって箒の道を塞ぐようにして訊いてみると返ってきたのは怒声。

 確かに、一週間以内に来るはずだった専用機はまだ来ていない。このままではそもそも勝負もくそもないけど、もし来なかった時の事も考えて姉さんはちゃんと対策をしていた。

 

「大丈夫だよ。間に合わなかったら打鉄借りる話になってるし」

 

 打鉄とは学園で所有している訓練機のこと。バランスが良いとされていて、追加装備による拡張性が高いISだ。

 

「相手は代表候補生の専用機持ちなのだぞ!? せめてISくらいは同等ので――――!」

 

 代表候補生はここに入学するずっと前からISの訓練を受けていて、その稼働時間は少なくとも300時間は越えているとのこと。

 更に乗ってるのが最新鋭の機体ともなれば鬼に金棒だ。とてもじゃないが、訓練機の打鉄で勝つ見込みなんてない。

 

「……ちゃんと私の話を聞いているのか?」

「うん。ちゃんと聞いてるし、ちゃんと分かってるよ」

 

 突然そんなこと言ってきたのは話を聞いて俺がニコニコ笑い出したからだと思う。自分のことだけど明らかに不審者だよね。

 でもそれで少し毒気を抜かれたのか、箒は声を荒げるのをやめてじとっとした目を向けてくる。箒みたいな美人がじとっとした目で見てくるのは何とも言えないものがあるなぁ。

 

「ほう、なら何が分かったのか言ってみろ」

 

 続けて口にしたのはとても意地悪な質問だった。分かっていたけど、まだ完全に怒りは収まってないみたいだ。

 

「ん? 箒が良いお嫁さんだなーってこと」

「んなっ!?」

「箒となら今すぐ結婚しても大丈夫そうだね」

「っ……! っ……!!」

 

 何か言いたそうに口をパクパクさせて徐々に顔を赤くしていき、真っ赤になった瞬間、漸く声が出た。

 

「い、今の話で何でそうなる!?」

「だって凄く心配してくれてるから。違う?」

「そ、それは……そう、なんだが……」

 

 何でそうなるも何も、さっきからそういうことしか言ってないからね。それはそうなるよ。

 ごにょごにょと最後の方は声を小さくしながらも肯定してくれた箒に笑顔でこう返した。

 

「箒がお嫁さんで良かった。ありがとう」

「うっ、く、ぅぅぅ……! も、もういい……もういいから……」

「おお、怒り心頭だった箒が撃沈したぞ」

 

 今にも湯気が出そうなほど真っ赤になった顔を手で覆って、呻き声のようなものをあげながら白旗を上げる。

 今まで気まずいから黙って見ていた一夏も話し出した。とりあえずこれで大丈夫そうだね。

 

「き、来ましたよー! 二人の専用機が来ましたよー! ……って、篠ノ之さんはどうしたんですか?」

「大丈夫なのでそっとしておいてください」

「そ、そうですか……? と、とにかく付いてきてください!」

「「はいっ」」

 

 一件落着といったところで、山田先生が遂に俺達の専用機が来たことを告げる。

 時間もないから早く早くと来た道を戻る山田先生の後を追うことに。

 

「ほら、箒も行こう」

「…………うん」

 

 そっと手を差し出すとまだ赤みは取れてないけれど、蚊の鳴くような声で俺の手を取って横並びに箒と歩いていく。

 暫く歩いていると不意に繋がれた手を軽く引かれた。何だろうと顔を向ければ少しむすっとした箒が。

 

「今後ああいうことは二人きりの時だけだ。いいな?」

「んー……分かった。ちなみにダメなのはやっぱり皆の前だと恥ずかしいから?」

「そ、それもあるが……」

 

 自分でもちょっと恥ずかしいなとは思っていた。まぁ箒のためなら幾らでも言えるけど。しかし、どうやらそれだけではないらしい。

 もじもじと恥ずかしそうにしてからそっと耳元でこう囁いた。

 

「その……キス、したくなってしまう……」

「わ、分かりまシタ」

「う、うむ。分かればいい……」

 

 そんなこと言われれば声も裏返る。思わぬカウンターで俺まで赤くなってしまった。箒は俺に弱いかもしれないけど、俺も箒にとことん弱かった。

 

 

 

――――――

 

 

「よし、来たな。さっさと初期化と最適化を済ませるぞ」

「「はいっ!」」

「紫が織斑兄、白い方が織斑弟だ」

 

 ISスーツに着替えてから格納庫に向かえば、白いISと紫のISが俺達を待っていた。

 言われた通り、紫のISの前へ。これが俺の専用機なのかとまじまじと見てしまう。横にいる一夏のISと比べると兄弟機なのか、デザインが良く似ている。装甲が追加されているせいで一回りは大きい右腕を除いて。

 

「白い方は白式、紫はブローディアだ。世話になる相手の名前だ、良く覚えておけ」

「よろしくな、白式」

「よろしく、ブローディア」

 

 姉さんに紹介されると、二人ともほぼ同時に自身のISに触れて名前を呟いてから乗り込んだ。

 それにしてもブローディアってたしか花の名前だったかな? 何で日本の花じゃないんだろ? 聞くだけ野暮かな。

 

「良く聞け、まず白式は近接特化……というよりはそれだけしか出来ない欠陥機だ。しかもFCSすらない」

「え」

「ブローディアはその逆、射撃武装しかない。まぁいざとなれば大型ハンドガンがかなり頑丈らしいからそれで殴れ」

「は、はぁ」

 

 いきなり明かされる衝撃の事実。俺はまだましみたいだけど、一夏の方はかなり悲惨な状況だ。改善する余地があることを願うだけだね。

 

 念のために確認した武装欄は大型ハンドガンが二丁しかない。

 えっ、嘘。これしかないの? まずい、状況的に俺も一夏とどっこいどっこいな気がしてきたよ……。

 

「冬夜……大丈夫か?」

「ん。大丈夫だよ」

「そう、か」

 

 初期化が終わり、最適化も始まって残り5分と表記された頃。あと少しで試合が始まるというところで、不安そうに瞳を揺らす箒が近くにやってくる。

 そしてISの装甲越しに俺に触れると、不安を吐き出すように話し出した。

 

「冬夜、無事に帰ってきてくれ……」

「大丈夫。分かってるよ」

「も、もしちゃんと無事に帰ってきたら……その……」

「ん?」

 

 急に声が小さくなったことに首を傾げていると聞こえるか否かの、小さくか細い声でこう言った。恥ずかしそうに目を逸らして、この上なく俺のやる気を出させる魔法の言葉を。

 

「ご、ご褒美あげるからな」

「――――」

「冬夜?」

 

 俺だけ時が止まったかのように硬直し、漸く動けるようになった時。

 

「超頑張ってくる」

「え。い、いや、そんなに頑張らなくていいと思うんだが」

「無理。頑張る」

「あ、あれ?」

 

 慌てた様子で宥めてくるがもう遅い。俺の決意は固かった。だってご褒美貰えるって言われてるこの状況で頑張らない方がおかしいだろ!?

 

「一夏、冬夜、準備は出来たな?」

「ああ、大丈夫。いつでも行けるよ、千冬姉」

「俺もね」

「よし、なら行ってこい。相手はずっと待ってるぞ」

 

 俺達を名前で呼んでるし、一夏がいつもの呼び方をしても怒らない。どうやら姉さんも心配してくれていて、そこまで気が回らないみたいだ。

 俺も一夏もそれを察してプライベートで話すようにすれば、いよいよその時がやってくる。

 

「ハッチ開きました! 発進、どうぞ!」

「織斑一夏、白式出ます!」

 

 山田先生の言葉に従い、まずはハッチから近かった一夏が飛び出した。続けて俺も行くとしよう。と、その前に。

 

「箒、行ってきます!」

「……ああ、いってらっしゃい。気を付けるんだぞ」

「ああ!」

 

 愛しの嫁さんにいってらっしゃいと言うと、不安を押し殺して無理矢理微笑んでくれた。

 酷いことをさせてると思う。本当にどうしようもない。だから帰ってきたらいっぱい抱き締めよう。その際、頭撫で撫でも追加で。それぐらいしなきゃ割りに合わない。

 

「織斑冬夜、ブローディア行きます!」

 

 ウィングスラスターを目一杯に吹かせれば、広大な空とたくさんの観客、そして一夏とオルコットさん二人の対戦相手が待ち構えていた。

 

「あら、二人ともちゃんと来ましたのね。てっきり逃げたものかと」

 

 話すのは入学初日以来だけど、オルコットさんは相変わらずのようだ。まぁ突然変わってたらちょっと怖いけど。

 そしてそんなことを言われれば一夏もムッとする。今すぐにでも噛み付きそうな雰囲気を漂わせていた。

 

「逃げる理由なんて一つもないから逃げなかっただけだ」

「ま、そういうこと。それと、悪いけど直ぐに終わらせるよ」

 

 あまり長いこと箒に心配かけさせるわけにはいかないからね。

 一夏は何処かで見たことある刀を。俺は右手に黒、左手に白の大型ハンドガンを呼び出して構える。

 オルコットさんは既にライフルを呼び出していたので、全員の戦闘準備良しとなり、三人の中央に空間ウィンドウでカウントダウンが始まった。

 

 さぁて、いっちょ行きますか。

 

 




多分戦闘シーンはカットするかと思います……。需要ないと思うんで……。


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