異世界ウェスタン ~Man With Gray Eyes~   作:せるじお

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第11話 キル・アンド・プレイ

 

 

 投げ捨てたハウダー・ピストルを拾い上げながら、私は一同の先頭に立って走り出す。

 弾の切れたコルト・ネービーをホルスターに戻し、別のネイビーを引っこ抜いて立ちふさがるヤツへと引き金を弾く。

 

「道を開けろ、クソッタレ!」

 

 斃したかどうかなど確かめない。とにかく撃って道を開いて私たちは走る。

 二丁のコルトの弾倉を空っぽに変えながら、私たちは神殿からやや離れた場所にポツンと建っていた廃民家へと逃げ込む。恐らくは門番だの夜警だのの詰め所だったのだろう。半ば朽ちて崩れた壁以外は何もない。正真正銘のただの廃墟だった。

 ここに立てこもった私たちは、ひとまずアラマが必死に担いで来たレミントン・ローリングブロックで二匹ほど蝗人を仕留め、私が撃ち漏らした一匹を色男が弩で射抜いていた。

 一斉攻撃をかけんとしていた虫男共は一度に三匹を斃されてその動きを再度止める。

 再びの睨み合い。静かに地に伏せて身を隠し、こちらの集中が切れるのを恐らくは連中は待っている。

 

「……夜までは待てんぞコリャ」

 

 私は注ぐ日差しの暑さに閉口しながら、弾切れのハウダー・ピストルに再装填する。

 紙薬包(ペーパーカートリッジ)をコートの裏ポケットから取り出し、その端の結び目を噛みちぎる。

 適量の火薬を銃口から直に注ぎ込み、出し切った所で空の紙薬包を丸めて、続けて銃身の奥へと槊杖(かるか)で押し込んだ。散弾の詰まった小さな小さな麻袋を取り出し、やはり槊杖で銃身奥へと押し込む。もう一回同じ一連の作業をこなせば、ハーフコックした二つの撃鉄の下の火門のそれぞれに、小さな鈍い金色の薬莢を被せた。これで準備は整った。

 外をうかがうイーディスと色男はこちらに見向きもしないが、アラマだけは興味津々といった調子で再装填の様子を眺めていた。まるで生まれて初めて芝居を見た時の私のような、キラキラと好奇に煌く瞳で、顔に締まりのない笑みを浮かべながら、実に嬉しそうな様子だった。

 そんなアラマに私は特に言葉もかけず、ハウダー・ピストルを手に再度壁の隙間から向こうを覗きながら、警戒を続ける二人に問いかけた。

 

「なんかここを切り抜ける良い案があるか?」

 

 イーディスは少し思案しながら、首を横に振った。

 

『寄れば斬り捨てるのは容易いが、斬り込み突っ切るとなると背中が危うい。街まで保つとは思えないな』

 

 色男も同じ様子で言う。

 

『生憎だが、私の得物は守るには良くとも攻めるには向かない。次の矢を番える間に袋叩きだ』

 

 私はこの答えに唇を歪め、ううんと唸った。

 それぞれの腕前は疑うべくもないが、しかし数え切れない大多数の敵と立ち向かうのは、少数の敵を相手に切った張ったするのとは全く勝手が違うのだ。一匹二匹斃している間に背中に回られれば、どうにもしようがない。

 ましてや相手は人ではなく化物だ。硬い鱗に覆われて頑丈で、確実に仕留めるには拳銃では何発も要する。

 イーディスはともかく、私はあの虫野郎共相手に素手で挑むのは御免こうむる。色男も同じだろう。

 残弾と再装填のことを考えながら、賢く立ち回らねば生きてここを脱することは不可能だった。

 

『……わたくしに考えがあります!』

 

 ここで独り蚊帳の外だったアラマが右手を挙げて言った。

 全員の視線が彼女に一度集中し、蝗人共を見張るために私も含めて外へと向き直る。

 しかし言葉に出さずとも、皆一様にアラマの次の言葉を促している。

 彼女が喜色を浮かべたのを背中に感じながら、アラマの言葉に耳を傾けた。

 

『ここは元々ゴーズたちが住処にしていたと伺いました。今は姿が見えませんが、また戻ってくる可能性は十分にありますね?』

 

 色男にアラマが問えば、色男は振り向かずに頷いた。

 

『ゴーズ達にここに来て貰えば、不敗の太陽、ミスラの御業でこの窮地を脱しえると思います。実はゴーズたちをおびき寄せるための道具を持ってきておりました。なにかの役に立つかと思いまして!』

 

 私は彼女が例の牛頭のお化けの骸を使って、色々と呪術を為している様を何度も見ていた。

 イーディスと色男が私のほうを見て問うのに、私は首肯した。

 彼女の呪(まじな)いには何度も助けられてきた。彼女の、その手の腕前は確かだし、私も請け合える。

 

「それで、その肝心の道具はどこにあんだ?」

『それがその……遺跡の外に留め置いたムームーの鞍の中にありましてですね』

 

 成る程、それが今まで言い出さなかった訳か。

 ムームーというのは例のリャマもどきのことだろうが、さぁ、まずはそこまでどうやって切り抜けたものか――。

 

『なんだ、ムームーの鞍の中のなにがしかを取って戻れば良いだけか』

 

 しかしいかにして廃王宮の入り口まで辿り着いたものかと思案する私をよそに、イーディスはと言えばそんなことかと鼻で笑って立ち上がった。

 マントの下から彼女が引き抜いたのは、愛用している異国のカタナ――ではなく、右側に差していたもう一方の剣だった。

 言われてみれば、私は彼女が腰の右側に差した剣を抜くのを見るのは初めてのことだった。

 イーディスが左手で抜き放ったのは、S字型の鍔(ヒルト)が備わった、シンプルで細身の直剣だ。

 薄い菱形の剣身は先に行くと細くなっていて、切っ先は鋭く尖っている。そしてよくよく見れば鎬の部分に、何やら文字が刻まれ、そこには鍍金が施されていた。

 

「どうするつもりだ?」

 

 私が問えばイーディスは緑の隻眼を私に向けながら、例の獣めいた笑みを返した。

 

『その程度の距離であるならば、私にも策がないわけじゃない。まぁ、見ているが良い。目当てのものは何だ?』

『えと……水筒です。革で作った、口が獣の角を削ったもので』

『水筒だな。まぁ心得た。』

 

 剣に刻まれた私には読み解けぬ未知なる文字の連なりを、イーディスは軽くひとなですると、顔の前に剣をかざして、何やら呪文を唱え始めた。

 

『シトラエル、マランタ、タマオル、ファラウル、シトラミ……そしてアキナケス、汝ら剣の神々よ』

 

 歌うようにイーディスは呪を紡ぐ。独特のリズムをもったそれは、まるでマリアッチのギターの調べだ。

 

『交わす剣は刃鳴散らし、尖る切っ先林成す。鞘走る音高鳴れば、敵の心胆寒からし、獅子然と告ぐ勝ち戦。矢並つくろう敵の陣、真っ向刃斬り開き、獅子吼え告げる勝ち戦』

 

 イーディスの声は熱を帯び、表情は恍惚としている。

 そして心なしか、彼女の体を赤い靄が包み始めたように見えて、私は我が目を擦った。幻ではなかった。

 

『森々の剣、密々の戟、柳花水を斬る、草葉征矢をなす。なが勝ち誇る剣力は、アキナケスが賜物ぞ。咆えよ鳴神いかずちの、玉散る刃抜き連れて、仇なす敵を打ちひしげ!』

 

 彼女が叫べば、イーディスの隻眼は真っ赤に染まった。

 獣のように吼えれば、右のカタナも合わせて抜き放ち、二刀をぶら下げて廃屋の外へと繰り出す。

 

『剣神照覧! 揮刀如神急急如律令!』

 

 何事かと思わず砂地から顔をだす蝗人共へとイーディスは叫ぶと、目にも留まらぬ速さで駆け出した!

 文字通りの、翔ぶが如く! 赤い旋風が走れば、硬い甲羅に身を包んだはずの虫男達はバターよろしく切り裂かれ、真っ二つになって砂の上に崩れおちる。カタナの斬撃を逃れた者にもすかさず、直剣の刺突が走り弾丸のように喉笛を串刺しにする。

 ガンマンならではの灰色の瞳だからこそ捉えられるが、アラマなどはイーディスのあまりの素早さに目を回している。

 色男が、何事が起きているか解らぬ私たちに講釈を垂れた。

 

『彼女の信ずる神は剣の神アキナケス。その加護を得ることで限られた間ながら、彼女は人を超えた力を振るうことが出来る。無論、代償もあるが……』

 

 私は色男の話は半分程度聞いていた。

 というのもイーディスが切り開いた一筋の道、折り重なった蝗人共の連なりのほうに注意が向いていたからだ。

 虫どもの注意は、今やイーディスに集中している。こちらを見つめているのは一匹もいない。

 私はアラマの方へとハウダー・ピストルを投げると、彼女は慌ててそれを受け取った。

 私が二丁のコルトを引き抜けば、色男が顔をひきつらせながら聞いてきた。

 

『なんのつもりだ』

「知れたことだろ。イーディスに続くぞ」

『手筈と違うぞ! ここで待てば良い!』

 

 雇われ者らしく保身第一に叫ぶ色男に対し、私は笑いながら言った。

 

「敵は混乱して、注意はイーディスに向いている。抜け出す好機は今だ!」

 

 言うだけ言って振り返ることもなく私が駆け出せば、アラマは当たり前のようにレミントンを背負って続くので、色男も合わせて走り出す他はなかった。

 運悪く私たちに気づいた蝗人に銃弾を叩き込みながら、物凄い勢いで駆け回る赤い影を追いかける。

 夥しい虫男どもの死骸は折り重なって線を描き、その上をまだ暖かい骸に脚をとられぬようにしながら私たちは走る。

 緑の血の海になり汚された廃王宮を駆け抜ければ、ようやく私たちはイーディスに追いついた。

 弾切れになった二丁のコルトをしまいながら、歩み寄り現状を確認する。

 幸いなことにサンダラー始め、私達の『脚』はみな無事だった。どうやら連中は馬には興味がないらしい。

 アラマのムームーに既にたどり着いていたイーディスは、私たちに姿に驚きつつも何も言わなかった。

 真っ赤な隻眼を私のほうへと向けると、件の革袋を投げ渡す。

 

「アラマ」

 

 私が革袋をアラマへと投げ渡せば、彼女は言わずともレミントンを私へと放り投げる。

 空中でライフルと水筒が交差すれば、互いの手の中にスポンと収まった。

 

「恐ろしい手並みだな」

『御前の機転もなかなか』

『行き当たりばったりなだけではないか。しくじったら目も当てられん』

 

 私が今だ赤い靄を帯びたイーディスを褒めれば、彼女も犬歯を剥き出しにして褒め返す。

 色男が背後からなにやら言っているが、聞こえないふりをする。確かに、行き当たりばったりななのは事実だけど。

 

『所で、そろそろ倒れるから後は頼む』

 

 イーディスが唐突に言い放った意味を、問い返す間もなく、彼女は砂の上に頭から倒れ込んだ。

 慌てて駆け寄れば、口の端から、耳から、鼻から、そして目尻から血を流し、イーディスは別の意味では赤く染まっていた。首元に指を当てて、とりあえず脈があるのだけは確かめる。

 アラマすら驚愕で言葉を失うなか、事情通の色男だけが冷静に状況を説明する。

 

『これが代償だ。向こう半日は彼女は目もさまさんぞ』

 

 簡潔で解りやすい説明に実に心痛み入る。

 私はイーディスを担いで彼女の馬の鞍の上に無理やり乗っけると、今しがた駆け抜けてきた廃王宮のほうに目をやった。

 連中の金切り声が、徐々に高まっていくのが解る。蹴散らされた連中が再集合をかけて、一挙に突撃するつもりだ。いったい何が目的か知らないが、私らをここから帰すつもりが無いことだけは明らかだ。

 

『それで、どうする? さっきと違って身を隠すものもないが』

 

 皮肉っぽく色男が言うのを聞きながらも、私はただひとつのコンバージョン・コルトに弾丸を再装填していた。

 金属薬莢弾の利点は、再装填が容易い点だ。逆に不利なのは弾丸の自作に手間がかかる点だが、今の場合は利点のほうが勝る。

 既に四丁のコルトを撃ち切っている。今再装填を済ませて、これで三丁。一八発。

 私はアラマからハウダーピストルを受け取りつつ、サンダラーへと跨りながら言った。

 

「アラマはアラマの考えた策をこなしてくれ。色男はアラマとイーディスの護衛だ」

『お前はどうする?』

 

 私は鞍にレミントンを差し込みながら答えた。

 

「時間をかせぐ」

 

 私はサンダラーを促し、無礼を承知で乗馬のまま廃王宮へと乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 廃王宮内部はあちこちの壁が崩れて通り抜けできるようになっている。

 元々の豪奢な造りのおかげで、道幅も広い。十分に馬も乗り回せる。

 私は手綱を口に咥えると、コルト二丁を引き抜いた。

 サンダラーは賢いヤツだ。自分で判断し、動くことができる。ならば私の仕事はただひとつ。

 

(おいでなすった!)

 

 柱の陰から飛び出した一匹に一発御見舞すると同時に、サンダラーは駆け出した。

 大事なのはとにかく動き回って止まらないこと。しとめずとも命中させること。そしてアラマ達から敵を引き剥がすことだ。

 あちこちから聞こえる金切り声の雄叫び。廃王宮の残った壁に反響して鳴り響き、相手の数すら伺えない。

 しかしそれは相手も同じこと。私が独りで戦っていると解るのは、ご対面した野郎だけだ。

 左手に新手、すかさず一発叩き込み、次に右手に一発。

 背後に気配を感じると同時に撃鉄を起こし、振り向きざまにさらに一発、二発!

 右手を前に向け、首だけ正面に戻してさらに一発。

 迫りくる鴨居をなんとか避けて、サンダラーにさらに速く走れと促す。

 連中の金切り声の頻度が上がっている。どうやらあの単なる叫びにしか聞こえない声で、連中は連絡を取り合っているらしい。好都合。さぁ寄って来い。もっと寄って来い。

 連携でもしているのか、正面を塞ぐように新たに二匹。左右のコルトを同時に撃ち放って蹴散らす。

 倒れた二匹を更にサンダラーが踏み潰し、私たちは前進する。

 左右のコルトの残弾はともに二発ずつ。腰元のコルトも合わせれば残弾は10。

 

(アラマ、急げ!)

 

 胸中でそう念じながら、 私たちは走る。

 そして突き当たったのは出口のない個室だった。舌打ちすると同時に気づいたのは大きく開いた大窓。

 外を覗けば若干高さがあるが、ここ以外にもう道はない。

 

「ハイヤァーッ!」

 

 手綱を吹き飛ばしながら私が叫べば、サンダラーは躊躇いなく走り出す。

 部屋の中に乱入してくる蝗人をよそに、私たちは大窓から宙へと飛び出し、砂地に見事着地した。

 地面が柔くて幸いだった。岩場だったら、サンダラーの脚が危なかったかもしれない。

 そんなことを思いながら私は半身で振り返り、大窓から飛び出そうとする二匹に立て続けに引き金を弾いた。

 これで左のコルトは打ち止めだ。ホルスターへと戻し、私は最後のコルトを引き抜いた。残弾は8発。

 やや廃王宮から遠ざかれば、次々と湧き出るように飛び出してくる蝗人蝗人蝗人!

 右のコルトを二発ぶっ放して、二匹こけさせるが、そいつらを跳び越えて尚も蝗人は出現する。

 右のコルトをホルスターに戻し、ハウダー・ピストルを鞍から抜こうとしたその時、正面門の上に登ったアラマの姿が私の視界の端を過ぎった。

 声は聞こえずとも、何か私へと叫んでいるのは解る。そして私の背後を指差しているのを。

 迫る蝗人の群れを承知で振り返れば、まだ遠くともハッキリと識別できる巨体が三匹分。ゴーズだ。ゴーズどもがもどってきたのだ。

 正面に向き直って手近な一匹にコルトをぶっ放しながら、アラマのほうへと視線を戻す。

 彼女は叫びながら飛び跳ねながら、何かジェスチャーをしていた。

 ライフルを撃つモノマネをした後に、ゴーズを指差す。なるほど、私が次成すべきはそれか。

 

「もうひとふんばりだ!」

 

 私はサンダラーに拍車をかけて、最大速度のギャロップで駆けさせた。

 既にコイツも疲労困憊だが、ここで踏ん張らねば二人揃って棺桶入りだ。

 迫る蝗人を置き去りに、私はコルトをホルスターに戻してレミントンを引っこ抜いた。

 全力疾走の騎上の射撃。並のガンマンには能わぬそれも、私ならばやってのける。

 レミントンを構えれば、手近な――と言っても遥かな距離があった上でのことだが――ゴーズの頭に狙いを定め、引き金を弾く。

 肩を伝わる衝撃を、鐙を強く踏んで押さえ込みながら、私は素早く次弾を装填する。

 ブリーチロックを開けば真鍮の薬莢が飛び出し、空いた穴に素早く次弾を装填、銃尾を閉じて撃鉄を起こす。

 二匹目の心臓めがけさらに一発。ビンゴ! ど真ん中に見事的中。

 ここで三発目を装填する前に、左手でハウダー・ピストルに抜いて、振り返らずに背後に二連射。

 小癪にも追いつてきた蝗人の群れを足止めし、弾切れのハウダー・ピストルを鞍へと戻す。

 三発目を装填し、レミントンを構える。

 小賢しことに三匹目はコチラの飛び道具を警戒し、細かく左右にステップしながら迫ってくる。

 狭まる間合い、大きくなる巨体。足場は砂地で悪く、駆ける馬に鞍も揺れて銃口はぶれる。

 背後からうるさい金切り声が鳴り響くも、私は意識を集中させて耳を閉ざす。

 静寂が辺りを包み、私とライフル、そして標的だけが世界の全てとなる。

 私とライフルの境さえ曖昧になっていく。銃は手の一部となり、照星と照門が私と視線を一直線になる。

 私は引き金を弾いた。50口径弾はうなり立てて進み、牛頭の怪物の胸板を突き刺し、心臓をえぐる。

 私がライフルを鞍に戻せば、体力も限界のサンダラーが歩みを緩める。

 コルトを改めて引き抜き、左手を撃鉄の添えて、蝗人の方へと向き直る。

 相変わらず愚直に私を追う連中めがけて、私はひとつなぎの銃撃を御見舞した。

 ファニングショット。一発も標的を外すこともなく、正面の六匹がもんどりうって倒れる。

 しかしそれを跳び越え敵軍は迫り、対するコチラは残弾なし。

 アラマよ間に合えと小さく呟けば、唐突に蝗人の進撃はピタリと止んだ。

 連中は私の背後を見ていた。私も振り返って動きが止まった。

 三匹のゴーズの骸が次々と崩れて、赤い血と肉と骨の奔流と化して絡み合う。

 思わず正面に向き直れば、正門の上で一心不乱に何やら祈りを捧げるアラマの姿が見えた。

 私が再度振り返った時には、そこには一匹の怪物が召喚されていた。

 怪物は、私の横をすり抜けて、蝗人どもへと襲いかかった。

 

 

 

 

 


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