修羅の願うは英雄譚   作:鎌鼬

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模擬戦前

 

 

「もうやだ、早く寝たい……」

 

「うちと?うちとベッドインするの?」

 

「違えよこの合法ロリータァ!!」

 

 

寧音に保健室に連れ込まれてそのまま喰われそうになったが発想を逆転、喰われるのが嫌なのならこちらから攻めれば良いのでは無いかと考えてそれを実行。本番に突入する前に寧音を動かなくさせる事で難を逃れる事に成功した。

 

 

その結果、寧音は現在有袋類よろしく俺の服の中に入って顔をだけを出している状態になっている。本音を言えばすぐにでも追い出したいのだが、今の寧音は全裸なのだ。もしもこのまま出してしまえば俺はロリコンという風評被害を受けてしまう事になるのでこうして服の中に入れておくしか出来ないのだ。

 

 

「その……なんだ、出来る限り私の方で手綱を握るようにするから、元気出せ」

 

「そうしてくれ本当に……」

 

「うっへへへ……良い体してるじゃないの」

 

「うわぁ……うわぁ……」

 

「もうどうコメントして良いのか分からないよ……」

 

 

右隣に座る理事長が肩を叩いて慰めてくれ、左隣に座る綾辻は寧音のキャラが信じられないのか顔を覆い隠している。火乃香はいつもは俺の膝の上が定位置なのだが、寧音が服の中に入っている関係で綾辻の膝の上に座っている。

 

 

俺たちがいるのは第四訓練場で、ここで数分後には一輝とヴァーミリオンの模擬戦が行われている事になっている。Aランクのヴァーミリオンが戦うと聞いてか訓練場には在学生たちが集まってヴァーミリオンがどんな風に勝つのかの予想を話し合っていた。

 

 

やはりというべきか、その予想の中には一輝の勝利を信じるものは一つもなかった。

 

 

「どいつもこいつもランク主義ばっかりだな。カタログスペックで優劣を決めて何が楽しいんだか」

 

「そういう不知火は黒鉄のボウヤにご執着みたいね?何、ホモ?ホモなの?衆道は許さない……!!」

 

「勝手に勘違いして勝手に盛ってるんじゃねぇよ!!止めろ!!舐めるな!!甘噛みすんな!!歯型を着けるな!!キスマークも駄目だ!!」

 

「今更なんだが、よく誰も騒がないな。こんなのでも一応はKOKの選手で知名度はある方なんだぞ?」

 

「あ〜この光景見られると俺の社会的地位が確殺されるんで幻影で誤魔化してあります」

 

「幻影って、能力使ってるの!?それにしては魔力は感じないんだけど」

 

「そこら辺は魔力制御で隠せるからな。蜃気楼の要領で熱を使って空気の密度を調節して、ついでに炎を使った瞬間催眠で無意識にここに来ないようにしてある」

 

「芸が細かいな」

 

「極めようと思ったら細かい芸も必然的に身につくもんですよ」

 

 

細かい芸というのは軽視されがちだが侮れない。例え一つ一つは無意味かもしれない物でも、積み重なれば必殺になり得るから。王馬はそんなものは小手先の技と完全に切り捨てているが、そこら辺は人それぞれだ。

 

 

「っと、そろそろ時間か」

 

 

理事長が時計を確認するのと同時にヴァーミリオンが入場し、観客たちが騒ぎ出す。その大半が物珍しさから。中にはヴァーミリオンの事を天才だからと()()()()()()()()()のように見ている者もいる。

 

 

全くもって馬鹿らしい。

 

 

天才とは褒め言葉なはずだ。一体いつから天才は諦めるための言葉になったのだろうか。伐刀者ランクが高いから敵わない?カタログスペックで負けているからなんだというのだ。スペックが負けているから勝てない道理は無いはずなのに、どうして誰も彼もすぐに諦めるのだろうか。

 

 

去年俺が破軍に入学した時にはその風潮が広まっていて、一部の例外を除いて誰もが伐刀者ランクだけで全てを判断していた。

 

 

だから喝を入れる為に、俺は全学年に喧嘩を売った。

 

 

伐刀者ランクで、カタログスペックで負けているからなんだというのだ。腐らないで、下を向かないで、諦めないで欲しいと思っての行動だったが、どうやら無駄に終わってしまっていたらしい。

 

 

その事に少しだけ悲しくなってくる。

 

 

「どうした?落ち込んでるのか?」

 

「あぁ、少しだけ。ここの生徒の質の悪さが治らなかった事にな」

 

「耳が痛い話だな。去年の学園の方針が根付いているからだろう。一年……いや、最低でも半年以内に叩き直してやるから期待していてくれ」

 

「うちが慰めてやるよ……ベッドの上でな!!」

 

「ハッ、誰が昼間っから盛るかよ」

 

「……気になっていたのだが新城と寧音はどんな関係なのだ?寧音が一方的に新城の事を好いているのは分かるのだが」

 

 

寧音から俺たちの関係を詳しく聞いていないのだろう。今まで表舞台に立つ事がなかった俺とKOKの選手である寧音との関係は全く無いように見える。一応腐れ縁だと伝えてあるが、それだけではこの関係には納得出来ない理事長の気持ちはよく分かる。

 

 

「一言で言えば、強姦の被害者と加害者」

 

「……え?」

 

「襲っちゃいました」

 

「……待て、待て待て待て。え?新城がではなくて寧音が新城の事を?」

 

「11の時だっけか?」

 

「そうそう、確かその頃だった」

 

 

11の時にオヤジに連れられて南郷のジイさんのところに行った時に、偶々いた寧音に目を付けられて模擬戦をする事になり、俺が勝ったのだ。それが彼女の琴線に触れたのかその日の夜に寝床に押入られてそのまま卒業。その時に精通している事を初めて知った。

 

 

「いやぁ、あの時は凄かったぜ?うちが腰砕けになっても不知火ってばビンビンでさ」

 

「襲われて怖かったけど、悲しい事に気持ち良かったんだよなぁ……」

 

「……お、黒鉄が来たな。そろそろ模擬戦を始めるとするか」

 

「あ、逃げたです」

 

 

人の過去を聞いておきながらそれが地雷だと分かると理事長は全力で逃げ出してリングに向かって行った。逃げるのは構わないがこの空気を何とかしてから逃げて欲しかった。寧音はその時の事を思い出してるのかトリップして大人しくなっているのだが、綾辻は顔を真っ赤にしながらどうして良いのか分からずに百面相をしている。

 

 

「どうした?そんなに慌てて。笑えよ、これは笑い話なんだからさ……!!」

 

「笑えないよ!?」

 

 

どうやら綾辻はこの話では笑えないらしい。オヤジと南郷のジイさんはこの事を知った時には過呼吸になる程に笑っていたので鉄板ネタだと思っていたのだが、どうやら違っていたようだ。

 

 

「それでは、これより模擬戦を始める!!」

 

 

「来てくれーーー〝陰鉄(いんてつ)〟」

 

「傅きなさいーーー〝妃竜の罪剣(レーヴァテイン)〟!!」

 

 

顕現する一輝とヴァーミリオンの〝固有霊装(デバイス)〟。カタログスペックではヴァーミリオンが勝っている出来レース、それが観客たちの考えている事だろう。もしかしたらヴァーミリオンですらそう思っていて、一輝の事を完膚なきまでに叩き潰そうと思っているかもしれない。

 

 

しかし、俺はそう考えていない。ヴァーミリオンが才能だけの人間では無いことなど初見で分かっていた。理事長室で彼女の剣を受け止めた時、その太刀筋から十分な研鑽が見て取れたから。

 

 

だが、ヴァーミリオンの努力は所詮は才能ありきの努力でしか無い。

 

一輝のように、何も持たなかったから死に物狂いで努力した()()を欠片も感じない。

 

 

「ではーーー試合開始(LET's GO AHEAD)!!」

 

 

理事長の宣言と共に、落第騎士と天才騎士の戦いが始まった。

 

 

 






ロリ夜叉がハッチャケ過ぎてて超書きやすい。やべぇ、こいつはユウキチとシノノン以来の逸材だ……!!

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