修羅の願うは英雄譚   作:鎌鼬

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悲報、友人が変態になっていた

 

 

「……良し、これで必要な書類に記載はすべて終わったな」

 

「やっとですか……あ〜疲れた〜」

 

 

暁学園の定例会から三日後、破軍学園の入学式が近くなった頃になって俺はようやく破軍学園に向かう事が出来た。理事長室で理事長と向かい合っているがさっきまで書類に記載をしていたので精神的に疲れている。一年の停学に留年に伴う書類がここまで多いとは思わなかった。

 

 

「もきゅもきゅ」

 

「お前見てると本当に義務教育前に戻りたいって思うよ、本当に」

 

「そういえばその子の学校はどうしているんだ?」

 

「通信教育ですよ。ネットって本当に便利ですね」

 

 

火乃香の実年齢は不明だが、書類上では8歳という事になっている。流石に山奥の実家から学校のある場所まで通わせるのは厳しいのでは無いかとオヤジと話し合って通信教育をする事にしたのだ。俺の時は普通に通っていたが。

 

 

「それなら心配無いな……あぁ、寧音に新城の事を話したらえらく興奮していたが知り合いなのか?」

 

「ガキの頃に知り合って腐れ縁って奴ですよ。にしても興奮してるのか……理事長、今から問題起こすんでもう一度停学か退学にしてくれません?」

 

「待て、何がお前をそこまで追い詰めるんだ」

 

「若干の苦手意識があるだけですよ……」

 

 

寧音との再会を考えると溜息を吐いてしまう。別に彼女の事が嫌いという訳では無い、ただ苦手なだけなのだ。

 

 

過去にあった事を思い出して軽く鬱になっていると、扉がノックされた。理事長がそれに入室を許可すると、生徒でも教師でも無い人間ーーー警備員が入って来た。

 

 

「失礼します。先程、寮で痴漢を行なった生徒を捕まえました」

 

「おっと、これは理事長の責任問題になるんじゃないですか?」

 

「何故そんなに目を輝かせてるんだお前は」

 

「他人の不幸は蜜の味」

 

「最低だなお前!?……で、その痴漢を行なった生徒と被害者の名前は?」

 

 

被害にあった者に関しては気の毒だと思うが俺には関係の無い話だ。話半分にでも聞いていようと緩くなったコーヒーを飲もうとしてーーー

 

 

「はい、痴漢を行なったのは黒鉄一輝(くろがねいっき)。被害にあったのはステラ・ヴァーミリオンです」

 

 

ーーー友人の名前が出て来て驚きでコーヒーを吹き出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーつまり、ヴァーミリオンの下着を見てしまったから自分も脱ぐ事で相殺しようとしていた訳だな?」

 

「〝悲報、友人が女子の下着姿を見て自分も脱ぎ出す〟っと」

 

「ーーー待って!!それをされると僕の社会的地位が死滅するから!!」

 

 

理事長から渡された携帯機能付きの生徒手帳にインストールしたSNSアプリで友人ーーー黒鉄一輝の奇行を拡散しようとしたら土下座で懇願された。仕方がないので土下座をしている一輝の背中の上に火乃香を座らせ、その光景を撮影する。

 

 

「一輝、露出趣味の変態野郎と幼女に乗られて興奮する変態野郎とどっちが良い?」

 

「どちらにしても僕の社会的地位が死ぬ……!!」

 

「お前たち、本当に友人なのか?」

 

「友人ですよ?破軍に来る前からの関係ですけど」

 

 

拡散することは止めて、どちらともパスワード付きのロックをかけて保存しながら理事長の質問に答える。

 

 

一輝とは彼の下の妹と一緒にガキの頃、姉ちゃんが生きていた頃からの友人だ。少なくとも俺の感性では、この破軍で最も()()()()()()だと認めている。

 

 

「で、理事長。この変態野郎どうしますか?」

 

「下手をすれば国際問題になりかねないが……まぁこの変態野郎に責任を取らせれば問題無いだろう」

 

「あの、混乱していたんで変態野郎は止めて貰えないですか?ステラさんには申し訳ない事をしたと反省しているんで……」

 

「言葉だけで反省しているって言われてもなぁ?」

 

「なんだ、黒鉄はヴァーミリオンの事を知っているのか?」

 

 

ステラ・ヴァーミリオン、その名前は恐らく現在の日本において知らない人間の方が少ない名前だ。ヨーロッパの小国のヴァーミリオン皇国第二皇女。その上で〝伐刀者(ブレイザー)〟としての素質も高く、伐刀者ランクも最上位のAランク。それも所詮はカタログスペックなので実戦で強いのかどうかは別問題になって来るが、今は弱くても成長すれば将来確実に強くなる事が約束されている。

 

 

「学園からの嫌がらせがあったとは言え、留年したお前とは大違いだな、〝落第騎士(ワーストワン)〟」

 

「あははは……そうですね」

 

 

落第騎士(ワーストワン)〟という二つ名はどこからどう見ても侮蔑の意味しか込められていない。しかしそれで呼ばれても一輝は困ったように笑うだけで否定をしなかったーーー何故なら、それは事実だから。一輝の魔力量は平均の十分の一しかない。魔力量が全てではないとはいえ、一輝のそれはあまりにも少な過ぎる。唯一身体能力だけは俺が認めるほどに優れているが、逆に言えばそれだけしか無い。故に一輝の伐刀者ランクはステラ・ヴァーミリオンとは真逆の最低ランクであるFランクとされている。

 

 

まぁ、だからと言って弱いのかと聞かれれば首を横に振るしか無いのだが。

 

 

「そう言えば不知火はどうしてここに?停学中だったはずだけど」

 

「理事長が変わった事で停学が解かれてまた一年からやり直す事になったんだよ。そんな事よりも今はヴァーミリオンのお姫様の方を気にしろよ。下手をしたら外交問題だぞ?」

 

「ーーー失礼します」

 

 

話題を逸らしたかったのだろうが本題から目を背けることは許さない。ヴァーミリオンの話題に戻したところで扉が開き、1人の少女が入って来た。

 

 

まず目を引いたのは燃えるような紅蓮の髪と破軍学園の制服の上からでも分かるほどに大きな胸。ヴァーミリオンの胸と自分の胸を見比べて絶望している火乃香の姿に少しだけ癒されながら、気配を消して事の経緯を見守る事にする。今回は俺は完全な部外者だ。一輝がどうやってこの問題を解決するのか、大人しく見させてもらうとしよう。

 

 

「……ごめん」

 

一輝の口から出たのは素直な謝罪だった。全て自分が悪かったと非を認め、男としてケジメをつけるとヴァーミリオンの好きにしてくれと言っている。

 

 

「ふ〜ん、潔いわね。これがサムライの心意気なのかしら?」

 

「口下手なだけだって」

 

「そうなの……ならーーー」

 

 

表面上では敵意を見せておらず、好意的な表情を浮かべている。一輝はそれを見て、もしかしたら許してもらえるかもしれないと思っているがそれは間違いだ。俺には彼女の目に怒りの炎が燃え盛っているのが見える。

 

 

「ーーーハラキリで許してあげるわ」

 

「待って待って待って待って!!え、何、僕死なないといけないの!?」

 

「当然よ。姫であるアタシにあんな粗相して、本当だったら死刑のところを特別にハラキリで許すのよ?日本男子にとってハラキリは名誉なんでしょ?」

 

「知ってるか?ヴァーミリオン。ハラキリをする時には介錯人という首を切り落とす者がいるのだがな……あれは別に必要無いぞ?」

 

「いやいや!!介錯人は必要ですよ!!それにたかだか下着姿を見たくらいで死ぬだなんてーーー」

 

「た、たかだかですって!?嫁入り前の姫の肌を汚しておいて許さないわ!!覚悟しなさいこの変態野郎!!」

 

 

目の前で繰り広げられる光景を見て声を出さずに腹を抱えながら笑っていると、室内の気温が高くなる。その原因はヴァーミリオンが〝固有霊装(デバイス)〟を顕現させたから。

 

 

「傅きなさいーーー〝妃竜の罪剣(レーヴァティン)〟!!」

 

 

彼女の髪と同じ紅蓮の炎を纏った大剣。それから彼女の異能は炎だと判断し、近親感を覚えるのだがこんなところで〝固有霊装(デバイス)〟を振り回されれば確実に被害が出る事になる。面倒だと思いながらソファーから立ち上がり、一輝とヴァーミリオンの間に立って入り、

 

 

ヴァーミリオンの大剣と一輝が防御のために顕現させた黒い鋼の日本刀の〝固有霊装(デバイス)〟、その二つを()()()()()()()()()

 

 

「なーーー」

 

「そこまでにしておけ。このメンツじゃ怪我はしないだろうが、部屋が壊れるからな」

 

「私の能力で直すことは出来るぞ?」

 

「直せるからって壊していいわけじゃ無いでしょう?ほら、さっさと〝固有霊装(デバイス)〟しまえ。あぁ、一輝はしまわなくて良いぞ?そのまま腹切るんだから」

 

「だから切らないって言ってるじゃないか……ッ!!」

 

 

俺の言葉に一輝は素直に、ヴァーミリオンは渋々と言った様子で〝固有霊装(デバイス)〟をしまう。理事長は一悶着ある事に期待していたのか少し残念そうな顔をしている。

 

 

「アンタ、何者?」

 

「何者って……どこにでもいるただのイケメンだけど?」

 

「惚けないで!!アタシの伐刀絶技(ノウブルアーツ)妃竜の息吹(ドラゴンブレス)〟の温度は摂氏3000度よ!!それを素手で掴んで平然としていられるわけがないじゃない!!」

 

「3000度ねぇ、()()()()()()()()()

 

 

自然属性の〝伐刀者(ブレイザー)〟は往々にして自分と同じ属性の耐性を持っている。俺とヴァーミリオンは奇しくも同じ炎の属性、それで俺が平然としているのは、俺がそれを上回る耐性を得ているから。

 

 

その回答が気に入らないのか睨んでくるヴァーミリオンを無視しながらソファーに座り直す。俺が一旦割って入った事で2人の頭は良い具合に冷えているだろう。

 

 

「そら、さっさと続きをやってくれよ」

 

「っと、そうだ!!今回の事はそっちが僕の部屋で着替えていた事が原因だから!!」

 

「え、何言ってるのよ?アタシはちゃんと理事長先生から貰った鍵であの部屋に入ったわよ?」

 

「え!?」

 

 

雲行きが怪しくなってきた。そもそもよく考えれば一輝が部屋の鍵をしないまま外出するとは思えない。鍵のかけられた一輝の部屋に入るためには、その部屋の鍵を使わなければならない。鍵を持っているのは寮長と、その部屋の住人の3人だけ……つまり、ヴァーミリオンは一輝の部屋の正式な住人だと言う事。

 

 

「く、くくく……!!」

 

「り、理事長先生?」

 

「ふふ、あぁすまない。面白い事になっていたのでつい放ってしまった。ヴァーミリオンは間違っていないし、黒鉄も間違っていない。つまり、2人はルームメイトなのだよ」

 

「「ーーーえ、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」

 

 

理事長がとんでもない事を口にしているが、顔は笑ったままだ。それは今の発言が冗談では無くて本当だと言う事。年頃の男女を同じ部屋に押し込めるとか正気かと疑うが、そうなると一つ疑問が浮かんでくる。

 

 

「理事長、もしかして俺の部屋も?」

 

「あぁ、相手は女子だ。お前の場合は特別でな、部屋割りの理由だが実力の近いもの同士で同じ部屋にする事で互いを意識させて切磋琢磨させ合うのが目的だ。しかし新城の場合は去年やらかした事と()()()()()()()()()()()のでな、許可を出してくれそうな生徒にお前の事情を説明して交渉したのさ」

 

「マジか……一応聞いておきますけど相手は寧音だって事はありませんよね?もしも寧音なら俺卒業までホテル暮らししますから」

 

「そこまでなのか……安心しろ、相手は生徒だと言っている」

 

 

寧音が相部屋の相手でないと分かれば安心出来る。相手に関しては俺がルームメイトになると前以て告げられた上で了承しているのだから心配しなくても良いだろう。それでも火乃香連れなのに了承してくれた礼の一つでもしなくてはいけないが。

 

 

俺は納得出来たのだが一輝とヴァーミリオンは納得出来ていないようで理事長に詰め寄っている。確かにマトモな感性の持ち主ならば同じ年頃の異性とルームメイトなんて遠慮したいだろう。猛烈に反対するヴァーミリオンに対して理事長が退学しても構わないと言えば譲歩したようだが、それでも一輝に対して話しかけない、目を開けない、息をしないなどと無茶苦茶な要求をしている。

 

 

そんな2人に理事長はとある提案を持ちかけた。

 

 

「話がつきそうに無いな。ならこうしろーーーこれから2人で模擬戦をして、勝った方が部屋のルールを決めるんだ」

 

 

それはFランクとAランクという、カタログスペック上では敵うはずのない模擬戦を強要していた。

 

 

 






とりあえず模擬戦前まで。

どうしよう……ロリ夜叉先生がこのままだととんでもないキャラになってしまう……

ま、そのままGOするけどネ!!


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