修羅の願うは英雄譚   作:鎌鼬

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癒しの日

 

正面、そして下方の左右から迫る木刀を両手に持った木刀で防ぎ、右足で踏みつけることで無力化する。正面から来た木刀は受けに回った木刀の表面を滑りながら俺に迫り、下方から迫って来り踏みつけられた木刀は使えないと投げ捨てられ、下から上に向かって突き上げられた。

 

 

「まぁ、悪く無いとだけ言っておこうか」

 

 

滑りながら迫る木刀は強引なかち上げにより弾き飛ばし、突き上げられた木刀は片手の木刀を放して切っ先を掴んで奪い取る。これにより相手2人の手からは武器が無くなった。再び両手で持った木刀の切っ先を相手の喉元に突きつければ、ここから逆転しようと思案するものの手がないと悟って素直に2人とも両手を挙げて降参の意を示した。

 

 

「あーもう!!なんであそこであんなことが出来るのかなぁ!?普通だったらあれは反応しきれないで斬られる場面なのに!!」

 

「同感です。せっかく下を意識させる為に下から攻めて、不意を突こうと上に攻撃したのにあっさり防ぎやがってです」

 

「悪くは無かったって言ってるだろ?並みの相手ならあれで決まるかもしれない。だけど俺みたいに()()()()()()()を相手するのには悪くないだけじゃ駄目なんだよ。最善手を出し続ける、もしくは相手の思考を乱す為にわざと悪手を出すとか……まぁ、そこら辺は血反吐を撒き散らすくらいに頑張れば自然と身につくさ」

 

「さらりと血反吐を撒き散らすという言葉が出て来たことに不安が隠しきれないんだけど」

 

「ししょーはこういう人間だから諦めやがれです」

 

 

休憩も兼ねた反省会に移行すると、疲れたのか綾辻と火乃香は芝生の上に大の字になって寝転がった。一見してみれば無防備に寝ているように見えるのだが周囲への警戒は怠っていない。

 

 

試しに2人に向かって木刀を投げれば、即座に飛び上がって躱してみせた。

 

 

「うん、火乃香は兎も角綾辻もちゃんと警戒出来てるようで感心感心」

 

「 不意打ちする時は一言声かけてくれない?」

 

「それじゃあ不意打ちにならないだろうが」

 

「私はもう慣れたです」

 

 

綾辻はまだ俺が破軍に復帰してからなのだが、火乃香はそれよりも前から漣としてのあれこれを教えているのでこの程度の事ならば反射による自動的な行動では無くて反応による能動的な行動で避けることが出来る。反射で動く事が悪い事だとは言わないが、そればかりに甘えてしまえば反応での動きが鈍くなってしまう。だから出来る限り反応して動けと言い含めている。

 

 

漣として育てられている火乃香は反応し、綾辻の方も剣術による下地があるからなのか反応して身体が動いていた。こればかりは積み重ねでしか出来ない事なので綾辻本人と綾辻の親父さんには感謝したい。

 

 

「あ、不知火」

 

「ん?おぉ、一輝じゃないか」

 

 

声を掛けられたので振り返ればそこには一輝とヴァーミリオン、珠雫と有栖院がいた。

 

 

暁学園では裏切り者として知られていて、さらに〝解放軍(リベリオン)〟の暗殺者として俺に警戒されている有栖院だが、こいつの目的は〝七星剣武祭〟に出場しそうな選手に取り入る事なので現時点ではあくまで普通の学生を装っている……いや、〝眼〟で観察した限りでは()()()()()()()と言っても良かった。珠雫から一輝への恋愛相談をされて適当に対応すれば良いのに酷く親身になって応じているように見えた。これがわざとやっているのであれば暗殺者として超一流の天才なのだが、俺の目には演技しているように見えなかったのだ。

 

 

恐らく有栖院も気がつかない内にこいつは珠雫に絆されているのかもしれない。そうであるのならば歓迎すべき事態だ。当初に考えていた予想通りに物事が進むのであれば、有栖院は暁学園が事を起こす時には一輝たちの親友的なポジションに立っている事になる。それは珠雫にとっても同様で、もしかしたらそれよりも深い間柄になっているのかもしれない。そんな状況で有栖院が完全に裏切れば、珠雫が悲しむ事になる。

 

 

初めて俺が美しいと感じた人なのだから、出来れば傷付く事は少ない方が良いに決まっている。

 

 

「こんなところで何してるのよ?」

 

「鍛錬に付き合ってくれって頼まれたからそれに付き合ってるだけだ。東堂と戦ってから暇で暇で」

 

「あの試合を観て、誰もが不知火さんの危険性に気が付いたんですよ。やりましたね」

 

「流石にあの試合を観た後だとお相手するのは御免被りたいわね」

 

 

〝雷切〟ーーー東堂刀華との試合の結果は俺の勝利で終わった。確かに東堂は強かったのだが、それは所詮は学生やアマチュアレベルを超えた程度でしかない。生粋のプロや殺し合いを日常茶飯事としているようなイカれた奴らと比較すれは一歩どころか十歩は足りない。それでもあのまま長い時間をかければ俺たちの域にまで至るだろう。あとは俺や一輝のように狂気と呼べるレベルの一念を抱けば在学中に至れる可能性はある。

 

 

しかし、そんな狂気は彼女は持たない。

 

何故なら、彼女の強さの根源は優しさだから。

 

俺たちのように堕ちなくても良い修羅道に堕ちる必要は無いのだ。

 

 

まぁ、俺の勝利で終わった東堂との試合だが……一言で言えばやり過ぎてしまったのだ。

 

 

学園序列第1位である東堂は名実共に学園最強の剣士だった。それを最終的には無傷で、二つ名にもなった伐刀絶技(ノウブルアーツ)〝雷切〟を正面から、さらに防御目的で教師たちが張っていた障壁ごと斬り伏せてしまった。そのせいで今日は第七試合だと言うのに初戦以外は全て相手の棄権による不戦勝になってしまっている。

 

 

勝てないと悟って自ら負けを認めるのは賢い選択肢なので咎めるような事はしない。しかし、勝てない相手に挑む事は経験になるのだ。これがひと昔前ならば死を覚悟しなければ出来ないような事だったが、今の時代では再生槽(カプセル)なんて便利な物があるお陰で大抵の傷は容易く治せる。現に東堂も、一輝と戦った静矢も再生槽(カプセル)のお陰で翌日には立ち上がれる程に回復して元気に選抜戦に参加している。

 

 

その気になれば再生槽(カプセル)でも回復出来ないような怪我を負わせる事は出来るが、流石に学生相手にそこまではしない。

 

 

「ふーん……でも、アタシがシラヌイと当たったら棄権なんてしないから覚悟しておきなさいよ」

 

「ならその時が来るのを楽しみにさせてもらうさ……おい、そろそろ立てるか?」

 

「あ〜後5秒……良し!!」

 

 

宣言通りに5秒だけ休んだ綾辻は大の字から起き上がって木刀を構える。火乃香はすでに立ち上がっていて木刀を持って戦闘態勢に入っている。いつもならばこのまま模擬戦を始まるところなのだが、

 

 

「やる気満々のところ悪いが今日はここまでだからな」

 

「えぇ……」

 

「人のやる気を返しやがれです」

 

「文句言われてもだな、今は選抜戦の最中で綾辻の試合が控えてるんだ。オーバーワークはさせれない。それに一輝なんていう観察眼がおかしい奴が居るんだ。こいつの目の前で模擬戦なんてやってみろよ、全部吸収されてガンメタ張られるぞ」

 

「……出来ないと言えないのが悲しいわね」

 

「流石お兄様です!!」

 

「アッハッハ」

 

 

一輝の目は全てを見通すと言っても過言では無い。まだそんなに名の知られていない今ならば一輝は気に掛けていないかもしれないが、今日俺が鍛錬に付き合っていると分かった事で警戒するだろう。警戒して一輝が試合を観れば、一輝は綾辻がまだ至っていない〝綾辻一刀流〟の奥義にまで辿り着くのは目に見えている。

 

 

無駄な努力かもしれないが、出来る事ならば一輝に知られないようにしておきたかった。

 

 

「あ、そうだ。綾辻、今度の休みは空いてるか?」

 

「今度の休み?特に予定は無かったけど……何かするの?いつも通りに一日中模擬戦じゃないの?」

 

「いやな、俺の知り合いからプールの招待券を貰ったんで休憩を兼ねて行こうと思ってな?」

 

 

知り合いと言うのは月影さんの事だ。あの人の立場の都合で様々な贈り物が送られるのだが、これまた立場の都合でそのほとんどが無駄に終わってしまうと言う悲しい悪循環が起きてしまっている。なので月影さんが消費しきれないものが俺に回って来るのだ。今までこうした物は火乃香と一緒に行くか換金していたのだが、綾辻の休憩にちょうど良かったので誘う事にしたのだ。

 

 

「嫌ならそれで良いけど……どうする?」

 

「プール……行く!!行くよ!!」

 

「力のこもった返事をありがとう。それじゃ、俺はナナを迎えに行くからここで解散ね」

 

 

綾辻に断られずに力強い返事を貰えた事に気分を良くしながら、俺は食堂に置いてきたナナを迎えに行く事にした。

 

 

そして食堂に辿り着いた時、食堂にある食料の殆どを食べ尽くしていたナナの姿を見て膝から崩れ落ちる事になる。

 

 





絢瀬ちゃん改造計画、順調に進行中。修羅ヌイに育てられた絢瀬ちゃんを見て、綾辻パッパもニッコリする事間違い無し。

水着回が近づいてるんだけどさ……誰かファッションセンス皆無の作者にアイデアをください……!!マジで思いつかないの!!

あ、ついでに感想とか評価もくれるとありがたいな(媚び売り

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