リアルの方が少し立て込んでて投稿が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
不知火の〝風月〟により頭部と泣き別れた刀華の胴体は本来であるのならそのまま崩れ落ちるだけだった。しかしどういうカラクリなのか、命令するはずの脳と繋がっていないというのに刀華の胴体は彼女の代名詞でもある
視界を焼き尽くす様な閃光と耳朶を砕く様な轟音と共に放たれた一閃は音速を超えた雷速。斬首によりこれで終わったと油断した不知火にこれを躱せる余裕は無い。全身を強引に動かす事によりその場から一歩離れ、致命傷になるはずだった一閃を辛うじて重傷に抑える事に成功した。
『マジかよ……とーかちゃんよ、その発想は些かクレイジーだぜ』
『ちょ!?西京先生!!何が一体どうなってるんですか!?東堂先輩死んだんじゃないんですか!?』
『見てその通りだよ。
寧音の言葉を肯定する様に宙を舞っていた刀華の頭部が雷となって崩れ、本来の位置に集まって再び頭部の形となる。斬首という一撃必殺を受けながら、まだ終わっていなかった。
「ふぅ……頭は初めてやってみましたけど案外出来るものなんですね」
「案ずるより産むが易しってな。それにしても……呵々ッ!!まさかそれが出来るとは思わなかったぞ!!」
「折角新城君と戦うために編み出した〝
刀華のやった事は以前に不知火がヴォルドと戦った時に行った自身の肉体を魔力に変換する自殺行為と全く同じだ。魔力操作に問題があるのか全身をとは出来なかったが、身体の一部くらいならばそうする事が出来るし、腕や足を欠損してもそれの応用で魔力で肉体を再構築してその欠損を補う事が出来る様になった。
〝建御雷神〟で突貫しても反応され、カウンターを見舞う事は分かっていた。だからわざとそのカウンターを受けて〝雷王変成〟で肉体を再構築し、勝ったと油断している不知火を〝雷切〟で倒すつもりだったのだ。
しかし、その目論見は果たせなかった。不知火は胴体に深々と〝雷切〟で着けられた傷口から夥しい鮮血を垂れ流しているがそれはこの戦いにおいて何の意味もなさないと断言出来る。
何故なら、不知火は新城でありながら漣だから。勝てないという前提条件が存在していない戦いに立てば、漣が得る結果は勝利以外に有り得ない。腕が無くなっていようが、致命傷一歩手前の重傷を負っていようが、戦うのならば最後には勝つ。それを刀華は本能的に察していた。
「でも、
「
刀華の確信を持った問いかけに対して不知火は即答しながら実演してみせる。胴体に刻み込まれた傷口が燃えて、消えた時には傷一つ残っていない。左腕の傷口から炎が噴き出して、手の形を作ったらそのまま肉になり元通りの左腕が出来上がった。
「本当に出鱈目ですね」
「自覚しているのだから勘弁してほしいね」
まえにも吐いた軽口を言い放つものの刀華の心中は荒れていた。不知火が自分と同じ様に身体を魔力に変えることで殺害による勝利は無くなったからだ。魔力が無くなるまで攻撃するという手段はあるが、不知火がそれが出来るまで一方的に攻撃されるとは思えないので現実的では無い。
どうすれば勝てるのか、勝利への道を模索している刀華の〝
そして避ける為の一歩目を踏み込もうとした足が削られる様に
「ーーーッ!?」
避けようとしたのに間に合わなかった様に足が無くなった事に動揺しながら〝雷王変成〟で消し飛ばされた足を再構築する。〝疾風迅雷〟で肉体の性能を限界まで引き上げ、〝
〝
しかし、もしも〝疾風迅雷〟を使用している刀華と同じレベル、もしくはそれ以上の肉体性能を持つ人間と対峙した場合はどうだろうか?
〝
ならばと苦し紛れに放たれるのは〝雷鷗〟。三日月を模した雷の斬撃が不知火に迫りーーー迎撃で放たれた〝花鳥〟により、拮抗も許されずに無残に打ち砕かれる。〝雷鷗〟を打ち破った〝花鳥〟はその勢いを欠片も衰えさせずに刀華の左腕を食い破る。
〝雷王変成〟で無くなった左腕を再生させながら、刀華は歯を食い縛って不知火のクロスレンジへと飛び込んだ。〝建御雷神〟の様な超加速では無くて滑り込む様な移動はただの踏み込みでは無い。〝闘神〟南郷寅次郎が考案した古武術の呼吸法と歩法の合わせ技である〝抜き足〟。人間の脳が意図的に認識を放棄する事で脳の処理を軽くする働きを利用してその認識が放棄されている無意識の領域に自分の存在を滑り込ませる体術は、成功すれば相手は使用者の存在が見えているのに認識出来なくなる。
今の不知火は刀華の存在を見えているが認識出来ていないはずーーーだというのに、不知火の眼球は惑わされる事なく刀華だけに焦点を当てていた。無意識の領域にいるはずの刀華の姿を、見逃していなかった。
無意識の領域に自身の存在を滑り込ませる〝抜き足〟であるが、
それにそもそもだ、不知火は寧音と何度か手合わせをしており、その中で彼女は不知火に対して〝抜き足〟を使用している。不知火の事を深く理解している寧音は〝抜き足〟を使用する都度に若干の改良を加え、同じに見えるが僅かに違う〝抜き足〟として使用していた。刀華よりも長く寅次郎に師事していて、それ相応に〝抜き足〟の練度が高くなっている寧音の〝抜き足〟を何度も見ている不知火からしてみれば、刀華の〝抜き足〟は拙い技でしかなく見破れない道理は無い。
〝
不知火が刀華に望んでいる事は壁を越える事。現在でも
だから、彼は自分自身が刀華の越えるべき壁になる事を決意した。
足掻け足掻け、俺を越えようと奮起しろよ。進化しろ覚醒しろ。1秒後には今の自分よりも強くなれ。俺はそれを望んでいる。
不知火は前の一輝と静矢の試合で彼らが行なっていた覚醒を意図的に引き起こそうとしていた。それは2人がやったのが天然と言うのなら、不知火が狙っているのは養殖もの。意図的、無意識という違いはあれど、
不知火から放たれる剣戟を瀬戸際で受け、躱しながら刀華は彼の狙いに気が付いていた。そしてーーーその狙いに通りに刀華は覚醒をしているのだ。だというのに彼我の戦力差は縮まるどころか更なる広がりを見せていく。瀬戸際で受けられていたはずの剣戟を受けきれず、紙一重で躱せていたはずの剣戟が肢体を斬り刻む。
その仕掛けはーーー要するに、不知火がはしゃぎ過ぎているだけだ。
元々、2人の間には言葉に出来ないほどの開きがある。不知火はそれを理解していたので本気にならないという制約の上に自身の力をセーブする事により、その力の差を極力埋めていたのだ。それが試合の始めで刀華が不知火と互角に戦えているように見えた仕組みだった。
しかし、刀華は去年と比べて自分の想像を越える程に強くなってしまった。それは不知火からしてみれば望みに望んで焦がれたもの。そんなものを見せつけられれば気分が高揚するに決まっている。その結果、刀華の覚醒に呼応するような形で不知火が己に課していた枷が外れていくという悪循環が発生してしまったのだ。
つまり、始めから刀華には勝機など存在していないのだ。
「それでも、そうだとしても……私はーーーッ!!」
聡明な刀華はその事を理解している。その上で諦めていない。
自分の事を応援してくれる仲間たちがいる。
自分の勝利を信じている孤児院の子供たちがいる。
自分の才能を開花させて育ててくれた師匠がいる。
そんな彼らの気持ちに応えるために、勝つのだと叫びながら刀華は再び覚醒を果たすーーーこの一振りが、最後の一振りになっても良い覚悟を決めながら。
それは刀華が必殺と決めていた〝建御雷神〟と〝雷切〟の複合技。超加速の中で剣を振るう事が出来なかったので〝建御雷神〟は単なる刺突として使うしか無かったのだが、ここにきて彼女はその欠点を克服した。
〝建御雷神〟の超高速の中で放つ〝雷切〟。全力を超えた全霊で放たれた最後の〝雷切〟は光速に迫る。見てからの行動など不可能、そもそも視認することすら出来ない一閃を不知火の両眼はしかと捉えた。
不知火ならばこの〝雷切〟を防ぐ事も躱す事も出来る。しかし、彼はそのどちらも選ばずに敢えて迎撃するという選択肢を選んだ。
それは不知火の矜持ーーー全霊の一撃には逃げないというただの我儘。
未来予知じみた先読みにより、刀華が全霊の一撃を放つことは分かっていたので、ここに来て初めて
そして放たれた全霊の〝雷切〟。それに対して不知火はこの試合で初めて〝鬼灯〟の塚を両手で握りーーー
ーーー全力の振り下ろしで刀華を〝
閃理眼→読まれても反応されるよりも先に動けば問題無い。
疾風迅雷→スペックが刀華よりも上で、最大限まで引き出せていたら問題無い。
雷鷗→威力で勝てれば問題無い。
抜き足→無意識を意識出来れば問題無いし、刀華よりも上手い抜き足を何度も見ているので反応出来る。
建御雷神・雷切→全力で迎え撃てば問題無い。
雷王変成→デバイスを壊して意識をブラックアウトさせれば問題無い。
これが修羅ヌイがやらかした事の一覧。頭がおかしいってレベルじゃねぇ!!天下無双に狂ってやがる!!
あ、でも肉体を魔力に変えたところで精神自体はそのままなのだから、幻想形態で斬れば肉体の状態を無視して精神に直接ダメージを与えられると思うんだけど……どう思う?
これで原作一巻相当が終わりで次から二巻相当に入れるぞ!!