修羅の願うは英雄譚   作:鎌鼬

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選抜戦・10

 

名乗りをあげた不知火の身体が僅かに動いた瞬間、刀華の身体に紫電が走りその場から残像を残しながら全力で飛び退いた。

 

 

貫き通す(新城流〝花鳥〟)

 

 

そしてその一瞬後に残っていた残像が離れていた不知火の刺突により弾け飛んだ。被害はそれだけに収まらずにリングさえも剣圧の余波で削り取り、そのまま射線上にあった観客席に向かうーーーと、思われたが、観客席の保護の為に張られていた障壁にヒビを入れるだけで済む。

 

 

不知火がセーブをしているからこの程度で済んだのであって、もし彼が抑えずに本気で放っていたら障壁を易々と貫通して観客席を削り取り、多くの命を奪っていた。その事に気がついた生徒たちは恐怖を感じたり、我先にと訓練場から逃げ出し始める。

 

 

「なんか技が変わってませんか!?そんな技でしたっけ!?」

 

 

実を言うと刀華は不知火の事を知っていた。破軍学園に来るよりも前、南郷寅次郎に師事していた頃に寅次郎の知人だと言う大人に連れられて気だるそうにしていた不知火の姿を見たことがあるのだ。その時の事が妙に記憶に残っていたので刀華は不知火の事を一方的にだが知っていたのだ。

 

 

その時にその大人と寅次郎が試合をするのを見ていて、不知火がしたあの構えから放たれる技の事を知っていたのだ。しかし刀華の記憶にある〝花鳥〟は言うなれば精密射撃。僅かな隙間をピンポイントで貫く様な技であり、間違っても今さっきの様な砲撃の様な技では無かったのだ。

 

 

相手の身体に流れる微細な伝達信号を読み取る伐刀絶技(ノウブルアーツ)閃理眼(リバースサイト)〟で不知火の行動を先読みし、自身の筋肉に電気を流す事によりその性能を限界まで引き上げる伐刀絶技(ノウブルアーツ)〝疾風迅雷〟により何とか回避する事は出来たが、記憶とあまりにも懸け離れている技に思わず声を荒げてしまう。

 

 

「どうして〝花鳥〟の事を知っていたかは分からんが言っただろ?免許皆伝だと。免許皆伝って事はつまり、()()()()()()()()()()って事なんだよ。それにこれは俺の新城流の剣技だ。俺の使いやすい様にして何が悪い?」

 

 

剣術とは、遥か古より伝えられている先人が磨き上げた技術である。成る程、その研鑽認めよう。素晴らしいと拍手喝采しよう。

 

 

しかし、だからと言って何故そのまま修めなければならない?

 

 

例えば先代が柔の剣の使い手で、その後継者は剛の剣の使い手だったとしよう。後継者が全ての才能を投げ捨てれば、先代が伝えた剣を修める事が出来るかもしれないーーーそれは、何と無駄なことか。

 

 

天より、そして産んでくれた親より与えられた才能を投げ捨ててまでその剣を修める価値はあるのか?そうしてまでしてその剣を修めたとして、剛の剣を極めるよりも強くなれるのか?それならば自分の使いやすい様にアレンジするべきだ。

 

 

先人が磨き上げて残した全てを理解して納得しつつ、己の才能に合わせた形へと進化させる。そうした方が良いに決まっている。実際に不知火はそうやって新城流を己にあった剣へとアレンジした。その事を知った新城空は頭を抱えて崩れ落ちたが、自分の伝えたかった事を全て押さえてその剣を作り上げている上に自分よりも強くなっているからと最終的には苦笑いしながら不知火に免許皆伝を言い渡した。

 

 

「なんて出鱈目な……!!」

 

「言ってくれるなよ、自覚はしている」

 

 

そう言って苦笑しながらも〝花鳥〟を放つ手は止まらない。刺突という攻撃は剣を引き、前に突き出す二つの動作で完結している。不知火が〝鬼灯〟を引き、そして前に突き出せば砲撃の様な飛ぶ刺突〝花鳥〟が放たれるのだ。

 

 

〝花鳥〟の威力もさることながら、一番恐ろしいのはこの技が()()()()()だということだろう。刀華の記憶に残っている〝花鳥〟も飛ぶ刺突で、魔力に頼らずに剣術のみで放たれていた。飛ぶ斬撃といえば絵空事の様なものに思えるのだが、〝伐刀者(ブレイザー)〟であれば擬似的な再現は出来る。ステラは能力で炎を纏った斬撃を放てるし、刀華もその気になれば雷撃の斬撃を飛ばす事が出来る。

 

 

しかし、不知火の新城流はそんな絵空事を実現させていた。元より新城流とは()()()()()()()()()()()()()()()である。どれだけの技量と膂力があれば出来るのかは分からないが、理論上は()()()()()()()()()()()()使()()()という馬鹿げたものだ。刀華が出鱈目だと罵倒し、不知火がそれを認めて苦笑しても仕方がないだろう。

 

 

余波だけでもリングを削るような暴力的な刺突を〝疾風迅雷〟で強化された肉体で躱しながら刀華はチャンスを伺う。瞬発力に限っていえば〝疾風迅雷〟よりも〝建御雷神〟の方が圧倒的に速いのだが、〝建御雷神〟は直線的な動きしか出来ないという弱点がある。仮に無理矢理方向転換しようとしたら〝建御雷神〟の超加速によって生じるGにより、最悪刀華の身体は五体バラバラになってしまうだろう。故に直線的な動きしか出来ない〝建御雷神〟では無く、速さで劣ってでも自由の効く〝疾風迅雷〟で逃げていた。

 

 

刀華の中での不知火の評価は規格外だった。〝伐刀者(ブレイザー)〟としてのランクは当てにならず、唯一強さの指針となるのは彼女の記憶の中にある不知火と刀華の師匠である寅次郎とが立ち会っている光景、そして寅次郎が見抜いて刀華に伝えた不知火の強さだった。

 

 

寅次郎は不知火の強さは適応能力の高さと行動の先読みにあると言っていた。適応能力の高さにより大体の攻撃は一度見ただけで対処できる様になり、行動の先読みは的確過ぎて()()()()()()()()()。その二つが組み合わさることにより初見の攻撃だろうとどんな攻撃が来るかを予想して対処出来ると。事実、その二つによって刀華が初撃必殺のつもりで放った〝建御雷神〟の一撃は左腕だけで防がれてしまった。また〝建御雷神〟を使えば、次はカウンターをしてきてもおかしくない。

 

 

それでも、不知火に有効打を与えられる物が〝建御雷神〟、もしくは自身の二つ名にもなっている伐刀絶技(ノウブルアーツ)〝雷切〟のどちらかしかない。しかし〝建御雷神〟は恐らく見切られていて、〝雷切〟ですら()()()()()()()()だろう。無策で飛び込めば、その先に待ち受けているのは無様な敗北。

 

 

だとしても、飛び込まなければ勝利を掴めない。

 

 

〝花鳥〟の刺突が僅かに緩んだ一瞬の間に気合を入れ直し、〝鳴神〟を振るい三日月状の雷を飛ばす伐刀絶技(ノウブルアーツ)〝雷鴎〟を放つ。初見の技であるがこの様な中距離用の技もあるだろうと考えていたので特に驚きもせずに不知火は〝雷鴎〟を〝花鳥〟で消しとばす。それはつまり、不知火の注意が一瞬でも刀華から〝雷鴎〟に移ったという事。その隙を逃さずに刀華は〝鳴神〟を鞘に納めながら〝建御雷神〟で不知火の懐に飛び込んだ。

 

 

露と消えろ(新城流〝風月〟)

 

 

しかし、不知火は刀華が予想していた通りに刀華の〝建御雷神〟に完璧に反応してみせた。一か八かの勝負に敗れた代償として音もなく、残像すら残さぬ一閃にて刀華の首は宙を舞う。あまりにも速過ぎたからなのか切り口からは一滴たりとも血が溢れていない。

 

 

観客席から悲鳴があがる。それはそうだ。いくら実像形態で試合が行われるからと言っても彼らはまだ学生で殺し殺されの世界に足を踏み込んでいるわけでは無い。そういう事態にはならないだろうと楽観視していた。

 

 

不知火から言わせれば温いのだが、この結果で試合の危険性を学んでくれるだろうと希望を持ちながら首と胴体が泣き別れている刀華に失望した目を向ける。あれ程までに自分を焚き付けてくれた人間が、こんなにあっさりと死んでしまったからだ。

 

 

斬首された事により宙を舞う刀華の頭ーーーその口は、弧を描いていた。

 

 

「〝雷切〟」

 

 

 





ただ教えられた事を忠実にやるよりも、教えられた事を最適化して自分の物にした方が強いのは当たり前なんだよ!!要するに原作の綾辻ちゃん状態。

おや、生徒会長の様子が……?


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