修羅の願うは英雄譚   作:鎌鼬

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ネロ祭の花びら集めてに集中していたな……1日遅れで投稿。


月影獏牙

 

 

『ーーー泣かないで、不知火』

 

 

夢を見ている。母さんの最後を観た時の様な現象ではなく、俺の記憶の中にある過去の出来事。

 

 

痩せこけて布団に横になっている姉ちゃん、それを傍らに座って見ているだけの俺。オヤジはこの場にはいない。

 

 

『私はここで終わりだけど、(わたしたち)はまだ終わりじゃないから。貴方のやりたい様に生きて、(わたしたち)の事を世の中に教えてあげなさい』

 

 

それは死に逝く者が生きる者へと遺す最後の言葉。俺は姉ちゃんの言葉を聞いて頷くことしか出来なかった。姉ちゃんの最後の言葉を聞き流すものかと、忘れるものかと魂に一言一句を刻み込む。

 

 

『だからーーー貴方が死んだ時、どんな風に生きたのか教えてね?それを楽しみにしているわ』

 

 

苦しいだろうに、呻きたいだろうに、姉ちゃんはそんな素振りを一切見せる事なく静かに笑う。

 

 

お休みなさい(さようなら)、不知火』

 

お休みなさい(さようなら)、姉ちゃん』

 

 

そして姉ちゃんは目を閉じて眠る様にして息を引き取った。僅か10年という短い生涯を終えた。

 

 

そして俺の手にあるのは黒塗りの日本刀。柄から鞘まで艶で光ることもせずに真っ黒で、どこか不吉な気配を感じさせるそれは、姉ちゃんが遺してくれた物だった。

 

 

姉ちゃんの遺した日本刀を握り、俺は静かに泣く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーししょー、ししょー。起きやがれです、そろそろ到着するぞです」

 

「……あぁ、もうそんな時間?」

 

 

火乃香に揺さぶられる事で夢から目覚めて現実に意識を戻す。夢で泣いていたから現実でも泣いていたんじゃないかと思い、目を擦るが欠片も濡れていなかった。過去の出来事とはいえ、姉ちゃんの死を夢で見て涙も流さないのかと自分の事を鼻で笑う。泣いている俺を姉ちゃんが見たら説教でもされそうなのだが、それでも肉親の死を夢見たのだから涙の1つでも流したかったのが本音だ。

 

 

肘掛に肘を乗せ、頬付きを突きながら窓の外に広がる景色を見下ろす。今、俺と火乃香はヘリコプターに乗せられて移動している。最初の予定では車で迎えに来ることになっていたのだが、交通事故が起こったらしく渋滞で迎えに行けないので代わりにヘリコプターを用意したらしい。普通ならば予定をズラすと思うのだが、ヘリコプターを用意してまで俺たちを呼び出したいとはそれだけ重要な要件なのか、それとも特に用事も無しで俺たちに会いたいのか……あの人の事だからどちらもあり得るので考えるのを止めることにする。

 

 

「そろそろ着地します」

 

「分かりました」

 

 

パイロットからの報告を受け、着地に備える。多少は揺れることを覚悟していたのだが、パイロットの腕が余程良かったのか殆ど揺れを感じる事なくヘリコプターは着地に成功していた。火乃香と共にヘリコプターから降り、案内も無しに建物の中に勝手に入っていく。ここに来るのは初めてでは無く、オヤジの友人が勤めているからという理由で何度も来ている。それに案内は無いが、警備がされていないというわけでは無い。

 

 

カーペットの敷かれた廊下を歩いていると、彼方此方から視線と気配をおぼろげに感じる。しかし、視界には誰も姿が見えない。正確な人数は分からないが少なくとも十数人の人間が、いざとなったら俺たちの首を刎ねられる様に潜んでいる。流石は一流の〝伐刀者(ブレイザー)〟だと感心するしか無い。普通の〝伐刀者(ブレイザー)〟よりも育てられている火乃香でも同時に彼らに襲われれば良くて半数を殺って相討ちになるのが精々だろう。俺でも手傷くらいは負うかもしれない。

 

 

そんな感想を抱きながら、華美な装飾が施されていないものの一目で高級品だと分かる調度品の飾られた廊下を歩いて目的地にまで辿り着く。一応ノックをして扉を開けると、まず感じたのは不自然な寒さだった。今の時期は春先なので肌寒い日もあるかもしれないが今日の天気は快晴で暖かい気温だった。

 

 

何かあったのかと思いながら部屋の中に入るとーーーそこには寒い部屋の中心にコタツを出して、そこにドテラを着ながら御節を突いている2人の男性がいた。

 

 

「ーーーやぁ、よく来たね」

 

「ーーー待ち侘びたぞ、不知火」

 

 

部屋に入った俺に気が付いて片手を挙げたのはドテラを着た中年の男性ーーー日本の内閣総理大臣の月影獏牙(つきかげばくが)。挙げた片手でそのままコタツの上に乗っているお猪口を持って中身の酒を飲んでいる。

 

 

そして俺の顔を見て吐き捨てる様に言ったのはドテラを着た顔に付けた×印が特徴的な男性ーーー黒鉄王馬(くろがねおうま)。彼は一瞥しただけで御節の黒豆に視線を戻し、他の料理には目もくれずにそれだけを突いている。

 

 

「どういう状況なのか説明して。流石に分からないから」

 

「今年の正月は執務で正月らしい正月を過ごせなかったからね、時間の空いた今のうちに正月を満喫しているのさ……はぁ、寝正月が恋しいなぁ……そんな事したら混乱するから出来ないけど」

 

「俺は誘われたから同席しているだけだ」

 

「黒豆にどハマりしてドテラを着てる時点でだけだって通じないと思うんだけど……」

 

「成る程、どっちも暇人って事です」

 

 

火乃香の邪気を含まない物言いに月影さんだけがダメージを受けてコタツに突っ伏し、王馬は知らぬ存ぜぬの態度のまま黒豆を突いている。

 

 

「グフッ……そ、そんなところに立ってないで不知火君と火乃香君もコタツに入ったらどうだい?お雑煮も用意してあるよ?」

 

「マジか、お雑煮はよ」

 

「私はお汁粉を所望するです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言えば月影さん、俺たちをここに呼んだのってなんで?」

 

 

お雑煮と御節を堪能し、コタツに入ってダラけているとここに月影さんに呼び出されて来たことを思い出した。正月を満喫したいからと俺たちを呼んだ可能性もあるのだが、そうなると王馬がこの場にいることがおかしくなる。

 

 

「あぁそうだったね……不知火君、君は私の能力について知っているよね?」

 

「過去視が基本だけど時折未来視できる時もある……って、未来を見たのか?」

 

「その通りだ」

 

 

月影さんの能力は過去視で過去に起きた出来事を見る事が出来るのだが、時折過去ではなくて未来を見る事があるらしい。今回は過去視ではなくて未来視で何かあったから俺たちを呼び出したのだろう。

 

 

「ーーー近いうちに、〝解放軍(リベリオン)〟の首領が死ぬ未来を見た」

 

「あり得んな」

 

 

月影さんの言葉を即座に否定する。〝解放軍(リベリオン)〟を絶対に殺すと誓って情報を集めている俺からしてみれば月影さんの言葉は鼻で笑ってしまうほどにありえない事なのだから。

 

 

解放軍(リベリオン)〟のトップは〝暴君〟と呼ばれている存在だが、実在しているかどうかすら怪しいあやふやな存在だ。しかしそれでも組織を纏め上げているので実在し、そしてあやふやな存在でも纏め上げられる程のカリスマを有し、さらに組織の頂点に立てるほどの実力者であると分かる。そんな〝暴君〟が死ぬ。老衰や寿命でなら分かるが、月影さんの言い方だと殺されてというニュアンスが感じられた。

 

 

「不知火君の言いたいことは分かるが、問題はそこではなくて〝暴君〟が死んだ後の話しだ。〝暴君〟の死により霧散した〝解放軍(リベリオン)〟の残党の大半を〝同盟〟が引き込んで、〝同盟〟と〝連盟〟による戦争が勃発する未来を見たんだ」

 

「成る程、残党を引き込まなかったせいで戦力差が開いて〝連盟〟が蹂躙されると」

 

「話がよくわかんねぇです。月影おじさんは何が言いたいんです?」

 

 

流石に難し過ぎたのか火乃香は月影さんの話を聞いてつまらなそうにしている。同世代とは比べものにならないくらいに強い彼女とはいえ見た目通りの年頃なのでこう言った話を面白いとは感じないらしい。

 

 

「もう少し考えようか……でも、確かに話が回りくどいな。月影さん、そう言った事情は後からでいいから何を企んでるのか、俺たちに何をして欲しいのかさっさと言ってくれよ」

 

「確かにそうだ。一介の学生である俺に政治などの小難しい話をされても理解出来んからな」

 

「待て、それはちょっと問題があるぞ」

 

 

王馬の知能指数がもしかしたら火乃香並みかもしれないという事実に俺は軽く戦慄するが、月影さんはそれを見て苦笑しているだけだった。

 

 

そしてドテラを脱ぎ捨ててコタツから足を出し、正座をして俺と王馬に向き合う。さっきまでの親しみを感じさせる顔でなく、国を護るためにどんな事でもしてやるという気概を感じさせる国のトップとしての顔になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー来るべき戦争に備えるために、〝連盟〟から脱退を目指している。そのために力を貸して欲しい」

 

「オッケー」

 

「アイサー」

 

「了解した」

 

 

どんな手段でそれを成し遂げようとしているのか一切聞かずに、だけどその目的に一切の偽りはないと感じたから、俺は月影さんの頼みを即座に了承した。

 

 

 






原作主人公を出すよりも早くに月影総理と王馬おにーさまを登場させるという暴挙。

細かいところがガバガバな可能性があるので、それを見つけたら感想で優しく罵倒して下さい。作者はそれを見てブヒブヒ言いながら訂正しますから。

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