修羅の願うは英雄譚   作:鎌鼬

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選抜戦・8

 

 

「にしても良いものを見せてもらったな」

 

 

瞼を閉じて脳裏にて反芻するのは一輝と静矢の試合。理外に頭から突っ込んでいる様な連中からしてみれば、学生の試合なんて子供のするチャンバラの様にしか思えないのだが、それ故の熱量を見せてもらえた。

 

 

何が何でも自分の願いを貫こうとする一輝。

 

その願いを気持ち悪いと否定して、負けられないと叫ぶ静矢。

 

俺から言わせて貰えば、そのどちらも間違っていない。

 

 

一輝の願いは確かに眩しいものなのだが、その輝きに目を眩ませる事なく見ることが出来れば静矢の様に気持ち悪いと否定したくなるような物に成り下がってしまう。それに関しては俺からは思うところはあっても何も言わない。何を思い、それをどうするかなんて当事者たちだけの特権だから。俺は精々娯楽半分愉悦半分で高みから眺めさせてもらおう。

 

 

だが、もしも、一輝がその願いを抱いたままに俺の前に立ったのなら、その時は一輝の行いを賞賛しながら相手をするとしよう。

 

 

『一年、新城不知火君ーーー』

 

「もう出番か」

 

 

進行のアナウンスが聞こえてきたのでその場から立ち上がり、控え室を後にする。火乃香はナナの面倒を見ながら綾辻と一緒に応援していると言っていた。師匠として、兄として、情けない姿を見せない様にしなければならない。

 

 

それに今の俺はとても気分が良かった。あんな魂を剥き出しにして行われる戦いを見せられたのだから滾らない訳がない。相手によってだが、全力で戦うこともやぶさかでは無い。

 

 

「精々、この昂りを萎えさせない相手だと嬉しいものだ」

 

 

ハンガーに掛けておいた赤いコートを羽織り、内ポケットからタバコを取り出して一服しながらこれから戦う相手に僅かな期待を抱いて訓練場に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーーー長らく行われた選抜戦、いよいよ本日最後の試合となります!!』

 

 

訓練場の観客席は下手をすれば一輝と静矢の試合の時よりも多くの人間が集まっていた。彼らの時は何人かは勝敗を予想しただけで見学には来ようとしていなかったのだが、このカードだけは目で見なければならないと押し寄せているのだ。

 

 

それは、静矢との激戦を制し、〝一刀修羅〟の反動でボロボロになっている一輝でも変わらない。

 

 

「ちょっとイッキ、本当に大丈夫なの?」

 

「あたしもステラちゃんと同意見だわ。今すぐにでも保健室に行った方がいいと思うのだけど……」

 

 

そんな状態の一輝の事を気にかけているのはステラと、珠雫のルームメイトの有栖院凪。2人の意見は極まともなもので、〝一刀修羅〟の反動によりボロボロになっている一輝は本来なら寝込んでいてもおかしく無い程の重傷なのだ。静矢との試合で負った怪我自体は再生しているが、魔力と体力は尽き掛けていて意識を保っているのがやっとの有様。何も知らない2人からしてみれば勝敗が分かりきっている試合をそこまでして見る価値はあるのかと疑問に思ってもしょうがない。

 

 

故に、知っている一輝と珠雫は首を横に振って2人の言葉を否定した。

 

 

「違うわアリス。この試合は必ず目にしなくちゃいけないのよ」

 

「そうだよ。ステラ、君も〝七星剣武祭〟で優勝を目指すのなら、何があってもこの試合だけは見逃したらいけない。もしかしたらこの先、彼が戦うのを目に出来る機会が無いかもしれないから」

 

「彼?〝雷切〟の東堂先輩じゃなくて?」

 

「確かに東堂先輩も凄い。だけど見たいのは不知火の方なんだ」

 

 

初めは2人が警戒しているのは出場選手の片方である生徒会長の東堂刀華(とうどうとうか)の方だとアリスは考えていた。

 

 

破軍学園序列第1位。昨年の〝七星剣武祭〟で準優勝の功績者。名実共に破軍学園の最強として知られていて、その上少し調べればあの〝英雄〟と呼ばれた黒鉄龍馬の終生のライバルにして現役の老騎士、〝闘神〟の南郷寅次郎に師事している事まで分かる。

 

 

間違いなく破軍学園での代表選手としての最有力候補。そんな彼女の事を警戒するのは分かるのだが、一輝と珠雫の警戒しているのは無銘のもう1人の方だ。

 

 

新城不知火。公式戦での記録はゼロ、去年に傷害事件を起こして無期限の停学処分を受けて学園から姿を消していたが、新理事長となった黒乃により停学を解かれて学園に戻って来た生徒。調べて分かるのはその程度で、一度だけ遠くから見たのだがステラの様な強者特有の雰囲気を纏っていないのでアリスには2人がそこまで不知火の事を警戒する理由が分からなかった。

 

 

しかし、詳しくは知らないものの不知火の事を知っていたステラはその名前が出ると納得した。

 

 

「成る程、アイツが出てくるのね?」

 

「あらステラちゃん、彼の事を知っているの?」

 

「直接戦ったことは無いけど……アタシの〝妃竜の息吹(ドラゴンブレス)〟を纏った〝妃竜の罪剣(レーヴァテイン)〟の一撃を片手で止められて、その上で温いって言われたわ」

 

「……え?確か〝妃竜の息吹(ドラゴンブレス)〟は摂氏3000度あるんじゃなかったかしら?」

 

 

ステラの攻撃力のランクがトップの評価であるAだということはアリスも知っている。摂氏3000度の炎を纏った大剣の一撃を片手で止めたというのは信じられない話なのだが、ステラの顔を見る限りは嘘を言っているようには見えない。

 

 

アリスは知られていないが為に不透明な不知火を自分の目的の邪魔になると考えて警戒する事を決めた。

 

自分がもう見限られていることに気付かずに。

 

 

『それでは、選手の入場です!!』

 

『ウッヒョー!!待ってました!!この瞬間の為にこんなクッソつまんねえ事やってんだよ……!!』

 

『西京先生、ここに西京先生対策に用意されたメモがありましてですね?』

 

『ん?何が書いてあるの?』

 

『えっと……〝仕事くらいちゃんとやれ。せめて巫山戯た発言だけは止めろ。出来なかったら出禁だ〟って書いてありますね』

 

『ーーーさぁ、真面目に仕事をしようか!!』

 

『超高速手のひら返しですね!?』

 

 

アナウンスで実況と努める放送部の月夜見(つくよみ)と寧音が軽いコントの様な掛け合いをしていたが観客たちは大して気にも留めずにリングへ集中していた。

 

 

左右に向かい合う通路からリングの上に上がって来たのは赤いコートを破軍の制服の上に羽織った不知火。そして栗色の長い髪を靡かせる鋭い眼光の少女、東堂刀華。

 

 

「……久しぶりですね。私の事を覚えていますか?」

 

「覚えているとも。去年の腐りきっていた破軍の中で数少ない真人間の1人だ。しっかりと頭の中に刻み込んである」

 

「良かった。ここで覚えていないだなんて言われたらショックで泣いちゃうところでした」

 

「キャラじゃないなぁ」

 

 

リングの上で、解説の声を無視して不知火と刀華は親しげに話し合っていた。言葉こそ穏やかなものなのだが、刀華の鋭い眼光は欠片も翳らず、それを受けながら不知火は涼しい顔をしている。

 

 

「だったら覚えていますよね?去年の事も」

 

「当然覚えているとも。倒れているお前を見下しながらリベンジはいつでも受けて立つって約束をした……まぁ、停学喰らったせいで有耶無耶になったけどな」

 

 

去年の傷害事件、その時に狙ってはいなかったが当時の生徒会メンバーであった刀華もまた不知火と戦っていた。

 

 

その結果はーーー惨敗。擦り傷一つすら付けることができずに、不知火に負けた。

 

 

その時に地に伏せて、砕けた〝固有霊装(デバイス)〟を握りながらも戦意を衰えさせていなかった刀華に不知火はリベンジはいつでも受けて立つと約束をしたのだ。もっとも、その後直ぐに無期限の停学処分を受けた事で不知火は学園から姿を消してしまったので果たされることは無かったが。

 

 

「これはリベンジか?」

 

「えぇ。私が前に進む為に、あの時から私がどのくらい強くなったのかを知る為に、私は貴方に挑みます」

 

「ーーー」

 

 

瞬間に刀華から放たれたのは純粋な闘気。一輝と同じ様な鋭さを持ちながら、それでいて荒々しさも備えているそれを浴びて不知火は身震いする。

 

 

無論、怖気付いた訳ではないーーー喜んでいるから。

 

 

絶対的な敗北を味わっていながらも、折れる事なく己を磨き続けて再び自分の前に立っている。その素晴らしさに感動すら覚える。

 

 

「あぁ、良いぞ。喜んで受けて立つとも。それと今の俺は気分が良いんだ。本気は出さんが、加減は無しでやらせてもらおう」

 

 

ある意味傲慢とも捉えられる様な発言だが、間違ってはいない。不知火が本気で戦った場合、最悪()()()()()()()()()()()()()()()()()。黒乃と寧音がいるのでその最悪の事態にはならないだろうが、万が一に備えて本気を出さない事にしている。

 

 

故に加減はしないと言った。本気で戦わない事を決めている不知火からすれば、それは限られた上での全力で戦うという意思表示なのだから。

 

 

それに大して何も反論する事なく刀華は〝固有霊装(デバイス)〟である〝鳴神〟を顕現させ、鞘に納めた状態で構える。不知火もそれに応じる様に〝鬼灯〟を顕現させ、右手で持って()()()

 

 

審判役の教員はそれを見て、自分が出る幕は無いと考えてリングから降りた。これは選抜戦でありながら、選抜戦では無い。試合の始まりも、終わりも、この2人だけが決められる事だと理解したから。無論、万が一に備えていつでも止められるようにしているが、基本的には試合の終わりまでは手出しはしない事にした。

 

 

職務放棄のように捉えられても仕方ないが、誰も文句を言わない。彼らもまた、その事を漠然と理解しているから。

 

 

緊張感が高まり、まるで水の中に引きずり込まれたかのような息苦しさを感じる。その原因は刀華の闘気。それを不知火は一番間近で浴びながらも顔色一つ変えない。

 

 

そして誰かが立てた僅かな物音。それが試合開始の合図となりーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー〝建御雷神(タケミカヅチ)〟」

 

 

ーーー刀華が神速の一撃を不知火に叩き込んだ。

 

 

 






進撃の修羅ヌイ。なんでだろうか?主人公な筈なのにラスボス臭がハンパないんだけど……

当然のように生徒会長も魔改造。修羅ヌイにボコされた事が原因で原作よりも強化されていて、大会レコードもベスト4から準優勝に繰り上げ。


日刊ランキングで8位まで上がったと思ったら一瞬で消えて無くなった。あれは夢だったのか……


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