修羅の願うは英雄譚   作:鎌鼬

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選抜戦・7

 

 

ぶつかり合う鋼と鋼。

 

漆黒の日本刀が高速で振るわれ、それを霞が如く輝く二本の小太刀が受け止める。

 

 

現在の静矢は一輝を前にして劣勢だった。それも無理はない。何とか魔力の放出により一輝の剣戟を受け止める事には成功しているものの、一輝の身体能力は〝一刀修羅〟で数十倍にも引き上げられている。

 

 

一太刀一太刀を受け止める度に肉体は悲鳴をあげ、骨子はギチギチと軋みをあげる。肉体的なスペックを上回られて技術は元より一輝の方が優っている。この現状は静矢が反撃など一切考える事なく防御に回っているから出来上がっているのだ。一瞬でも反撃をしようなどと考えた瞬間に、一輝に斬り伏せられる未来が待っている。

 

 

勝機があるとするなら、それは耐える事だけだ。

 

 

一輝の〝一刀修羅〟は本人の技量の相まって破格の伐刀絶技(ノウブルアーツ)。しかし、その効力は1分しか続かない。そしてその1分が終わってしまえば、全力を出し尽くした反動として一輝はマトモに動かなくなってしまう。1分間限りにおいて最強に至るとはいえ、その1分間で倒さなければ待っているのは敗北だ。そこまで耐える事が出来れば、静矢は勝てる。

 

 

それを静矢は理解して実行しているーーーだからといって、達成出来るかは分からない。

 

 

静矢の体感時間ではもう十数分経った様な気がする。防いだ剣戟の数は数百になり、小太刀を持つ手は痺れて感覚が無くなりつつある。しかし、現実で経った時間は僅かに20秒。あと40秒も一輝の攻勢は続く。

 

 

全身に走る痛みを噛み殺しながら、静矢はそれでも耐えていた。本音を言えばもう止めたい。この手に持つ小太刀を投げ捨てて大の字に転がり、泣き叫ぶ様に降参と口にしたかった。

 

 

だが、それをしなかった。しようとする度に脳裏に浮かんでくるのは両親と出雲の顔。それらが思い浮かぶ度に身体の底から訳のわからない力が湧いてきて、そこからまた歯を食いしばって耐えられる様になる。

 

 

それこそ、誰かのために戦うという事に他ならない。黒鉄の本家から圧力をかけられ、負けたらどうなるのか分からない彼らを守ろうとする為に、静矢は限界を超えて力を振るう。

 

 

そう、ここにきて静矢は一輝と同じ様に覚醒を果たしていた。積み上げた努力と生まれ持っていた素質、そして才能……一輝に負けるという窮地に追い込まれた事で条件が満たされた。だからこそ、一輝の異常性が身に染みてわかる。

 

 

追い詰められた事は理解しよう、今も自分がそうしているのだから。しかし意志力の爆発とはなんだ?冗談にも程がある。そもそも……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

自分の様な身近な人の為というのは良くある理由だ。物語でも当然のように取り上げられている、在り来たりで王道的な理由。悪役はそんな事でなんて叫んで覚醒した主役を罵倒しているが、覚醒する理由なんてその程度でいいのだ。

 

 

だが黒鉄一輝はどうなのだろうか?一体どんな理由で、一体誰の為に覚醒しているというのか。一輝の目的を不知火から聞かされている静矢だが、聞かされているからこそ分からない。

 

 

顔も知らない見ず知らずの誰かの為に?

 

自分が焦がれた黒鉄龍馬(えいゆう)の様になりたくて?

 

それはなんてーーー()()()()()()()()

 

 

顔も知らない誰かの為に自分の命を削りながら戦うというだけでもアウトなのに、それに加えて一輝が目指しているのは黒鉄龍馬(えいゆう)の様な存在。どうして見ず知らずの誰かの為に命を懸けられる?どうして雲の上の様な存在になれると思っている?一輝の思考は常人では考えられない狂人の発想に他ならない。

 

 

「最悪だ……ッ!!天下無双にイかれてやがる!!」

 

「ーーー知ってるよ。正気なんかじゃこんな事をしようだなんて思わない」

 

 

そして一輝はその歪みを自覚している。自分の生き方が、そして自分の考えが如何に大多数の人間からしてみれば歪なのかを理解している。去年までは自己評価が低過ぎたのでその歪みを理解していなかったが、不知火に諭された事により己がどれだけ外れているのかを自覚した。

 

 

だって、そうでもしなければいけなかったから。

 

そうしなければ、自分の焦がれた黒鉄龍馬(あのひと)の様になれないと悟ったから。

 

 

正気でいては辿り着けぬのならば、狂気に堕ちるしかない。元より自分の歩む道は血塗られた修羅道だと理解している。

 

 

だけど、それでも、諦めなくても良いと()()()伝えたかったのだ。

 

 

ならばこそ、この場での勝ちは譲らない。静矢の方にも事情があるのは理解していて、その上で勝ちを掴みにいく。

 

 

「常人じゃなくて良い、狂人で良い。そうしなければ征け無い道ならば、そうするだけのこと。だからこそ言わせてもらおうーーー〝勝つ〟のは、僕だ!!」

 

 

再び起こされる意志力の爆発、一度の戦闘で再度行われる覚醒。跳ね上がる攻撃の回転率。守りに優れている小太刀が追いつかなくなり、徐々に防御を通り抜けて静矢の身体を傷つけて行く。受け止める度に筋肉繊維がプチプチと音を立てて千切れ、骨が耐久値を超えてヒビが入り出す。

 

 

それは一輝も同じ事。〝一刀修羅〟とは言ってしまえば自爆技なのだから。魔力のリミッターと同時に身体のリミッターも解除した事により身体能力も跳ね上がるが、身体のリミッターとは肉体が壊れない為に付けられている。限界を超えた出力を出せばどんな装置でも自壊するのは当然の事。一輝の身体もまた、静矢と同じ様に筋肉が千切れ、骨が砕けーーーそれらの激痛を()()()()()()()()()()()()()()()()()()寿()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

そして、ついにその時は訪れた。

 

 

「ーーーぁ」

 

 

静矢が左手に持っていた小太刀が根本から砕け散った。〝固有霊装(デバイス)〟の強度は高く、並大抵の事で壊れる様な代物では無い。しかし、物質としてある以上は壊れるのだ。

 

 

そしてこの事態は偶然では無くて必然。〝一刀修羅〟を使用し、静矢が〝朧月〟を弓から小太刀に変形させた瞬間より、一輝は初手から小太刀の一点を狙い続けていた。それにより小太刀は耐久値を超え、砕け散った。

 

 

固有霊装(デバイス)〟が破壊された事で発生した反動(フィードバック)による痛みを感じながら、砕け散った小太刀の残骸の向こうで〝陰鉄〟を振り上げる一輝の姿が見える。

 

 

この瞬間に、静矢の勝機は完全に消失した。守りに徹するという手段もあったが、それは小太刀が二本あることが前提。一本だけ残っているが、それだけでは一輝の剣戟を防ぎ切ることは敵わない。早ければ一合、遅くとも十合に届くかどうかのところで斬り捨てられる。

 

 

静矢は己の敗北を確信した。その敗北からはどう足掻いたところで逃げられない。しかし、だからといって足掻きを諦める理由にはならない。

 

 

残された小太刀を真っ直ぐに突き出す。狙うは目の前に立つ一輝の心臓。如何に異常な再生能力を持っていようとも、重要な臓器を潰されれば生存は難しいはず。そして必殺の一撃を決める為に踏み込んできた一輝にとって、この一撃は回避不可能なカウンターとなる。

 

 

一輝の〝陰鉄〟が、黒い軌跡を描きながら振り下ろされる。

 

静矢の〝朧月〟が、名の通りの朧げな光を残しながら直線に放たれる。

 

 

それが、この試合の最後の一撃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の一撃が放たれ、1人が崩れ落ちる。左の胸から小太刀を生やしながらも最後まで立っていたのはーーー黒鉄一輝だった。

 

 

最後の心臓狙いの静矢の刺突は直前になって一輝が僅かに身体をズラした事により、心臓では無く肺を貫いた。肺も重要な臓器であるのだが、心臓程ではない。そう考えて一輝は心臓を守る為に肺を犠牲にしたのだ。

 

 

初めの数秒は観客たちは困惑していたが、一輝が高々と拳を突き上げて勝利を誇った事により、勝者は誰であるかを理解して訓練場が揺れる程に歓声をあげた。

 

 






流石の静ヤンでも一刀修羅モードの一輝と真っ向勝負をしたら負ける。って事で、一輝VS静ヤンは一輝の勝利。

次は影が薄くなっていた修羅ヌイの出番だぞ!!鳴いて喜べよ!!

あと、感想にて意見があったので前回の狩人の森(エリア・インビジブル)破りについて少しだけ変更します。


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