主役である一輝と静矢が現れた瞬間、騒めきが支配していた訓練場を歓声が包み込んだ。
静矢への声援、そして罵倒。それは静矢の実力を知っているものからの賞賛と、静矢の戦い方が気にくわないからと投げられられる負け惜しみ。
一輝への罵倒、そして声援。それは一輝の事をランクだけで判断する人間の心無い声と、一輝の実力を理解しているものからの応援。
〝
「逃げずに来るとはね……ボクとしては逃げてくれた方が楽で良かったんだけど」
「僕も〝七星剣武祭〟の出場を……ううん、その先を目指しているんだから、逃げるだなんてしないよ」
選手説明のアナウンスの声も聞こえない程に2人は目の前の敵に集中していた。前もって相手の事は互いに知っていたが、実際に対峙してみて油断出来る相手では無いと再確認したのだ。
一輝の熱量を伴った剣の様に鋭い気迫が静矢の首に向けられる。
静矢の冷気を伴った矢の様に鋭い気迫が一輝の心臓に向けられる。
試合開始の合図はまだ掛けられていないというのに、目をそらせばそのまま仕掛けてきそうな相手の様子を見せられれば目をそらすなんて事は出来ない。全神経を眼前の敵に向けながら、試合の審判を務める教員が指示するよりも先に2人は〝
一輝の〝陰鉄〟の刃は震えていた。今まで待ち続けていたチャンスがようやく訪れたのだ。魂を具現化した装備である〝
対する静矢の〝
高まる緊張感。それまで行われた戦いとは違う戦いになると感じ取ったのか、観客席から投げかけられる声は段々と小さくなり、やがては大勢の人間がいるというのに息遣いさえ聞こえそうな程の静寂に包まれる。
そしてその緊張が限界まで高まった瞬間ーーー
教員の声が響き渡り、試合が開始された。
それと同時に2人は行動を開始する。一輝は全力で静矢に向かって突貫し、静矢はそれとは反対に一輝から距離を取ろうと後退する。
この試合の鍵となるのは静矢の
発動させてしまえば広範囲への攻撃手段を持たない一輝には打つ手が無くなってしまうーーーならば、
そして〝
〝朧月〟に魔力で構成された矢を番い、ロクに狙いも定めずに大まかな当たりを付けて放つ。早撃ちは一射だけに留まらない。番い、放つまでの動作は瞬きの間。苦し紛れに放たれたとは思えない一射は的確に一輝の心臓に目掛けて放たれーーー不意も打てていないその一射は〝陰鉄〟によって弾かれる。
後ろに飛び退きながらという不安定な状態で、静矢は狙いも定めずに極自然に一輝の急所を、行動をする為に必要な足を狙う。その動作を当たり前の様に行えるのは静矢が天才だから。才能という助走を持ってして、他者よりも優れた結果を出す。他者が鍛錬を積まねば出来ない様な事を、静矢は平然と出来るからという理由でやってのける。
静矢からの容赦ない攻撃を一輝は全て払いのけながら静矢へと近づいていく。〝
そして静矢が逃げて一輝がそれを追う。今のところの2人の速度は同じ。しかしリングという限られた範囲に閉じ込められている以上、有利なのは一輝の方で、いずれ静矢の逃げ場が無くなって追いつかれる未来が待っている。
その事に静矢が気が付かない訳がない。故に、追い詰められるよりも先にアクションを起こす。
「
一輝では無くて上空に向けて放った矢は天井に刺さる事なく上空で止まり、そのまま爆発して雨の如くリングへと降り注ぐ。
〝
矢の雨が止んだ時にはその影響でリングは砕けてまともな足場は存在せずに、砂埃が舞い上がっていた。視界が悪くなっているのでその場からは動かずに不意打ちへの警戒をしーーーそしてここに来て、一輝は静矢の手の上で踊っていた事に気付く。
「使われちゃったか……」
『そうだよ。全く、自爆覚悟で〝
砂埃が治って視界が回復した時にはリングの上にいるのは一輝ただ1人だけで、静矢の姿はそこには無かった。しかし、静矢の涙まじりの声だけは距離も方向も分からぬままに聞こえて来る。
〝
攻略しているのならば突貫なんてせずに〝
だから、静矢は自分も巻き添えを食らう覚悟で〝
嫌いな痛みと引き換えに、一輝に対する絶対的な優位を得ることが出来たから。
『攻略法が見つかっていないのなら、降参する事をオススメするけど……黒鉄君の事だからしないんだろうね』
「勿論」
静矢の姿を、現在の位置を理解していないというのに一輝は〝陰鉄〟を構えて戦う意思を見せている。
間違いなく苦境なのだろう。勝機が欠片として存在しない絶体絶命、敗北の瀬戸際ーーーしかし、まだ負けていない。自分の憧れた、目指している
だから、自分も諦めない。敗北を認めず、欠片として存在しない勝機を掴むために全神経を集中させる。
『そうーーーなら、精々頑張ってくれ』
その瞬間から静矢の意識が桐原静矢から〝狩人〟へと切り替わった。
一輝VS静ヤン戦、4話目にしてようやく開幕。
勝負の鍵になるのはやっぱり〝狩人の森〟。一流以上のアサシンでやっと出来そうな事を、能力だからといって簡単に使用できるのはやっぱりチートだと思う。
使わせなければ良いんだけど、そうするって事攻略法が見つかってないって自白している様なもので、静ヤンはそれに気が付いたから自爆しながら使ったって。