修羅の願うは英雄譚   作:鎌鼬

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選抜戦・2

 

 

本日4度目となる選抜戦が行われる訓練場では数多くの生徒が集まっていた。その中心にあるのは第4試合を戦う2人の〝伐刀者(ブレイザー)〟。

 

 

方や、去年の〝七星剣武祭〟に出場し、優勝候補の1人を打ち破った前年度学年主席の桐原静矢。

 

かたや、最低ランクのFでありながらAランクのヴァーミリオンを倒したと噂されている留年生の黒鉄一輝。

 

どちらとも、俺の友人である。

 

 

何かしらの意図があるのでは無いかと思う程に良くできた組み合わせだと思う。観客たちは予想されている通りに静矢が一輝を倒すのか、それとも噂が本当で一輝が静矢を倒すのか、それが知りたくて集まっているはずだ。

 

 

「……凄い人が集まってるのにボクらの周りだけガラガラだね?」

 

「人混みが嫌いなもんでな、一輝とヴァーミリオンの試合の時みたいに炎でちょろっと細工させてもらったんだ……ほら、あーん」

 

「あーん」

 

「ししょー、次は私にくれやがれです」

 

 

一輝とヴァーミリオンの試合の時の様に炎による瞬間催眠により、席を確保した俺たちは持ち込んでいた菓子を摘みながら試合の始まりを待っていた。綾辻は昨日の内に一回戦目を終えていて、当然の様に勝利している。綾辻の実力なら一輝やヴァーミリオン、後は〝雷切〟辺りが出てこない限りは問題無く勝てる。相性による不利もあるが、それでも勝てるだけの実力はある。もしも負ける様なら鍛錬のレベルを五段階くらい吹っ飛ばしてやらなければならない。

 

 

「なんかゾワっとしたんだけど……!?」

 

「あ、多分それは俺のせいだわ」

 

「どうせロクでも無い事を考えたんじゃ無いですか?」

 

「うー?」

 

「なんでも無いよ。あぁ、口の周りを食べカスだらけにして……」

 

 

持って来ていたポケットティッシュでナナの口元を拭う。言語能力が死んでいて、まともに喋ることが出来ないナナであるが、だからと言って頭が悪いわけでは無い。暇を見て一般常識を教えているのだが、頭が空っぽだからなのかスルスルと入っていく。

 

 

少なくとも、初日であった様な全裸で風呂に突撃してくるような事は無くなった。

 

寧音にナナの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

 

 

「そういえば新城君はどっちが勝つと思う?僕は期待を込めて黒鉄君」

 

「私は桐原って奴の方です。公表されてる伐刀絶技(ノウブルアーツ)を見る限りじゃあ、こいつの能力は()()()()()()()()です」

 

「あー……う?」

 

「ナナは気にしなくて良いよ……俺はどっちが勝ってもおかしく無いと思うな」

 

 

一輝と静矢、どちらとも俺の友人であるので期待はしているのだが、だからと言って評価を誤らない。

 

 

一輝は武芸百般……刀剣類に限らずに弓術や格闘術などの武術を身に付けられるものは全てを身につけている。それは自分の弱さを自覚しているから。自覚してなお、夢を目指して強さを求めた結果、一輝の技術は間違いなく同年代でもトップクラスのレベルまで昇華されている。

 

 

対する静矢の方は対人戦特化。伐刀絶技(ノウブルアーツ)は人間であるのならどんな存在であろうと有効な能力。火乃香が対人戦最強クラスだと言ったのには違いなく、それは〝狩人〟という二つ名と()()()()()()()()()()()()()()()という結果が証拠になる。

 

 

その上で、俺はどちらが勝ってもおかしく無いと考えている。

 

 

一輝が静矢の伐刀絶技(ノウブルアーツ)の攻略法を見つけられなければ静矢の勝ち。逆に一輝が静矢の伐刀絶技(ノウブルアーツ)を攻略出来れば一輝の勝ちになると睨んでる。

 

 

「願わくば、どちらも全力を出し切って欲しいな」

 

 

全力を出し切って、それでもなお力を出して欲しい。この2人ならばそれが出来ると信じているから、俺は観客席から入場して来た2人のことを見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーふぅ……」

 

 

喉の渇きに気がついたので行なっていた瞑想を中断し、持参していたペットボトルに口をつける。壁に掛けられている時計を確認すれば時刻は13時25分。予定通りならば時期にアナウンスで入場を促されるだろう。

 

 

「緊張、してるのかな……?」

 

 

確認の為に改めて口に出してみればトクンと、心臓が高鳴るのを感じた。それに今気がついたのだが、手が僅かに震えている。緊張した事なんて数えるほどしかなく、しかもそのどれもが勝負事に絡んでいなかった。初めて迎える公式戦を前にして、どこか気持ちが浮き足立っているのが感じられる。

 

 

相手は去年の学年主席の桐原君。実力は去年の〝七星剣武祭〟に出場して優勝候補の1人を倒していることから明らか。それに、ショッピングモールで起きた〝解放軍(リベリオン)〟によるテロの時に幸運にも彼の腕を見ることが出来た。

 

 

主犯格の〝伐刀者(ブレイザー)〟を倒して油断していたのが悪かったのか、人質の中に仲間を流れ込ませるという手段に引っかかってしまい、僕らは手を出せなくなってしまった。

 

 

それを解決したのが桐原君だった。彼は弓型の〝固有霊装(デバイス)〟で矢を放つ事で人質を取っていた男と主犯格の〝伐刀者(ブレイザー)〟を鎮圧した。

 

 

それも、たった二発だけで。しかも的確に頭部を貫いてだ。

 

 

弓術に触ったことがあるから桐原君の弓の腕が一朝一夕で身につくものでは無いと分かった。ステラは桐原君のこれまでの試合を見て、戦い方が気に入らなかったのか彼のことを臆病者(チキン)だと言っていたが、僕はそう思わなかった。

 

 

桐原君は勝てる試合しか選ばずに、少しでも負ける可能性がある試合は全て棄権している。それは、彼が出る試合は彼が勝てると確信している。そこまで相手の実力と、自分の実力を把握出来ている人間が臆病者であるはずが無い。

 

 

負けるかもしれない。でも、だからと言ってこの戦いから逃げるわけにもいかない。理事長から持ちかけられた取引もあるが、それ以上に控え室に来る前にステラに言われたのだ。

 

 

負けるな、勝ってと。

 

 

 

彼女に握られた手の上に手を重ねてあの時のぬくもりを思い出す。珠雫と不知火君以外に僕の事を認めてくれた。そんな彼女に勝ってと言われたのだから勝つ以外にはあり得ない。

 

 

『一年、黒鉄一輝君。二年、桐原静矢君。試合の時間になりましたので入場してください』

 

「ーーーよし」

 

 

入場を促すアナウンスが聞こえたので座っていた椅子から立ち上がり、控え室を後にする。緊張はまだ続いているものの幾分かは治ってくれて、今は武者震いくらいのものになっていた。手の震えも止まっている。

 

 

「〝勝つ〟のは、僕だ」

 

 

理事長との取引などすでに頭の中から消え去っている。今の僕の心中にあるのはステラの言葉を叶える事と、桐原君に挑んで勝利を掴む事のみ。

 

 

黒鉄龍馬(あの人)のような英雄になるための第一歩を踏み出した。

 

 

 






修羅ヌイに関わってるのに魔改造されるわけ無いだろうが!!という理由により当然のことだがこの小説の静ヤンは魔改造SI☆ZU☆YA☆Nである。原作の静ヤンは能力に頼りっきりな上に慢心してたから、そこら辺直すだけで相当強くなれる気がする。それがそこら辺直した魔改造SI☆ZU☆YA☆Nの誕生経緯。


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